2013/4/13 時間帯別銭湯利用の目的の違いについての局地的観察

銭湯を訪れる目的は、訪問客を観察している限り、大きく分けて五つあると思う。


1:身体の汚れを落とす

2:リラックスして疲れを取る

3:美容目的

4:比較的廉価でよそ行きにする必要もなく、気軽に楽しめる娯楽

5:友達との交流


上記リストは上から順番に、生きるうえでの必要性は下がって行き、もはや5に至っては「ここじゃなくてもいいんじゃねーの?」と小首を傾げたくなる感がある。だが、実際に浴槽に浸かりながら、または洗い場で身体をゴシゴシしたりしなかったりしながら、ずーっとお喋りを楽しんでいる人もいるので、目的としては厳然として存在している。と思う。


様々な目的を抱えた様々な人が、銭湯を訪れる訳だが、最近私の中で一つの仮説が立ち上がった。


入浴客の銭湯訪問時間帯が、抱える目的ごとに微妙に異なるという点である。


例えば、私が一番訪れる頻度が高いのは23:00以降の深夜だが、この時間帯、女湯はなべて殺伐としている。一人客がほぼ100%、みな顔が疲れていて、明らかに娯楽目的ではない。出来るならすぐ寝たいけど、しょうがないから来ている感がある。知り合いと会話を交わす人もいるが、大抵は挨拶程度か、喋っても「最近腰が痛いのよ」とか「うちの姑がまた寝込んじゃって」とか、プリミティブな話題が多い。


深夜に銭湯に行く人の目的は、明らかに1:身体の汚れを落とす、に寄っている。


家に風呂がないのだろうか?今の時代に風呂なしの部屋に住む女性がこんなに多いとは思えないので、お風呂は家にあるけど、狭くて入った気がしないという人たちなのかもしれない(含む私)。


変わって、こないだの土曜日は、嵐で暇だったので、夜6時くらいに行ってみた。御飯時だから空いているかもしれないなぁ、と予想をして行ったところ、案の定お客さんの数は少なく、浴槽はガラガラ。そのわりに洗い場にはちらほら私物があるので、あれ?と思って振り返り、度肝を抜かれた。


併設されているサウナの中が、朝の通勤電車並みの混雑ぶりだった。見てはいけないものを見てしまったような気がして、中の乗客と視線が合わないようにそーっと向き直り、小さくなって身体を洗い始めた。何故ならぎゅうぎゅうになったサウナ客が全員、暗殺実行直前のゴルゴ13のように、ハードボイルドな顔をしていたからだ。目が合ったら確実に、瞬時に音もなく殺られる。


普通だったらみんなご飯を食べる時間だから銭湯が空くことを知ったうえで、あえて訪れる人々は、上記のカテゴライズだと3、それもものすごく銭湯方面に意識高い系の人々。彼女たちの特徴は、サウナ後に水風呂に入る時の水しぶきが派手。そして潜水する人が多い。のどかな銭湯が一気に、殺るか殺られるかのヤクザ闘争のど真ん中みたいになっている。なめたらあかんのである。


さて、土曜の夕ご飯どきに銭湯を訪れヒットマン並みの殺気をまとった本気と書いてマジのサウナ客に怯えた翌日、日曜日の午後はどんなお客さんがいるのだろうと思いたち、太極拳のお稽古後の15時過ぎに行ってみた。


私の予想では、銭湯通って早何十年という銭湯のヌシ的なおばあちゃんを想像していたのだが、果たして女湯はキッズ•ワンダーランドと化していた。


ちびっ子たちが縦横無尽に走り回る中、お母さんたちが「危ないから走るのやめなさい!」と全く効力のない怒鳴り声で子供を牽制しながら自分の身体を洗い、合間にご近所仲間と交流を深め、隣のお姑さんの背中も流してあげるというマルチタスクぶり。


世の中のお母さんってほんとに大変だなあ。自分ひとりの面倒もちゃんとみられない私は、心から尊敬の念を抱きつつ、湯船に身体を沈めたのであった。


概して殺伐とした時間帯にしか銭湯を利用していなかったので、利用客によってこんなにも空気が変わるものなんだな、と目から鱗が大量に落下した。


宝くじが当たったら、銭湯を開きたい。スーパー銭湯じゃなくて、街に密着した小さいお風呂屋さん。そして通う子供の成長ぶりを見守り、季節の移ろいを感じながらゆっくりとおばあちゃんになりたい。


今通ってる銭湯の番台に座ってるおかみさん的な人は、いつも閉店間際に慌ただしく女湯に入りにくるが、いつ見てもお肌がすべすべで真っ白でとてもきれい。あんな風になれたらいいなあ。


今夜も銭湯に行こう。あ、宝くじも買おう。

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