2012/2/4 水風呂とセブンスヘブン

米を咀嚼し続けると味が変わる瞬間があると言ったのは、お笑い芸人の麒麟の、貧乏生活を本にしてベストセラーになった田村。彼はそれを、「味の向こう側」と呼んだ。


私は今日、「水風呂の向こう側」を体験した。


我慢して水風呂に入っていると、あれ?何かぬるくなって来たかも。と思い始める。その直後に、脳髄が急に重くなり、身体がうまく動かせなくなる。最後にじわじわと口の中(正確には歯と頬の内側の間)がひんやりしてくる。身体の他の部位は全部あつあつなのに、何故ピンポイントに口の中だけひんやりしてくるのかはわからない。粘膜だから?鼻の奥とかまぶたの裏とかもひんやりしているんだろうか。


恐るべし、水風呂の向こう側。そんな私だが、まだまだ潜水はできない。ガチガチ言いながら小さくなっている私の横で、サウナから出てきて両肩から北斗の拳のラオウみたいな湯気をゆらゆらさせている、おばちゃんとおばあちゃんのちょうど中間地点に位置する生物が、「はぷっ」という音を立てて水に潜り、暫くしてから「ぼはっ」と音を立ててザバー、と水面から顔を出す。


「はぷっ」って何だよ、「ぼはっ」って意味わかんねーよ、と思うけど、この生き物は私より格上。水風呂の向こう側を制覇した生き物なのだ。戦ったら負ける。本能的にそれが分かっているから視線を落とし、威嚇されないようにする。


どれだけ強くなれば到達できるのだろう。水風呂のセブンス・ヘブンに。


なんてことを考えながら、反射浴を繰り返してじっくりあったまってきました。

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