ロード・オブ・ザ・銭湯 第2章

銭湯好きへの道、第二切り離し段階は、その後、何回か引越しを重ねて池袋のはずれに部屋を借りたときのこと。それまでに住んだ場所でも、ごくたまに近くの銭湯に行っていたのですが、それも一年に数えるほど、思いついた時に行く頻度に落ち着いていました。


池袋のその部屋は、広くて駅近、日当たりは最高だったものの、築40年という物件でした。窓のゴムパッキンが経年劣化して隙間ができ、冬は冷気が忍び込み、畳はあるポイントを避けないとビックリするくらいのギシギシ音が響き渡り、窓には網戸もなく、備え付けのエアコンは古過ぎるために乾電池を入れ替えても液晶が表示されずに運転切り替えが判別できず、スイッチを入れてしばらくしてから「ああ、冷風が出てくるってことは、おそらく冷房モードになってるんだな」と認識できるレベル。もちろん水道管も古くなっており、浴室のシャワーの水圧は栗原類並みにテンションが低く、フックにかけてお湯を出してもまったく勢いが出ずにただ垂直落下するだけのため、シャワーではなく「ジョワー」と呼んでいました。


そんな部屋を半ば無理やり「味がある希少なビンテージ物件」と前向きに愛でてはいたのですが、真夏のある日突然お湯が出なくなったのは、今考えれば当然の結果かもしれません。


炎天下のもと散々汗だくになって帰宅したらお湯が出なくなっており、給湯器はうんともすんとも言いません。管理人さんに相談しようにももう夜更け。


困ったなー。そんな時は、銭湯があるじゃないか!テンションうなぎのぼりで近所の銭湯を即検索し、その部屋に引っ越して初めての銭湯を堪能したのでした。


翌日、いつも親切な管理人さんに相談したのですが、使用年数から考えて修理ではなく取り替えになるだろうとのこと。いずれにしても、復旧まで数日間はかかるとのことでした。こちらが恐縮するくらい申し訳ないと繰り返した管理人さんは、ご夫婦で私の借りている部屋と同じ建物に住み込みでいらしたため、「何だったらうちにお風呂入りに来る?」とまで申し出てくれたのですが、いかんせん生活時間帯がまったく異なるので、私がお風呂に入りたい深夜近くにはお二人とも熟睡されているため、丁重に辞退し、復旧するまで毎日銭湯通いをすることにしたのでした。


せっかくなのでいろんな銭湯に行ってみようと探索したところ、意外にも近所には徒歩10分圏内だけでも当時4軒銭湯があり(その内1軒は程なく廃業して駐車場になってしまいましたが)、余すところなく銭湯のある生活を楽しむことができました。


調子に乗ったわたくしは、その後最寄りの銭湯をホームベースに隙さえあれば様々な銭湯に通う銭湯ファンへと育っていきました。

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