銭湯の発展とこれから Part2

聖徳太子の時代から、日本ならではの独自の発展を遂げてきた銭湯ですが、昭和の高度経済成長期から21世紀までの間にも、それぞれの時代に応じた進化と発展があって、今を生きる私たちが入る銭湯へとその形を変えてきました。


今日に存在している銭湯はいくつかに分類できるのではないか?と考え、類型化を試みました。尚、ここで言う銭湯に、スーパー銭湯は含まれません。あくまで厚生労働省の分類に準じて、「一般公衆浴場」に分類されるものを銭湯と考えます(ちなみにスーパー銭湯は「その他の公衆浴場」です)。


■機能充実タイプ

サウナ、バイブラ風呂(泡が出る)、電気風呂、薬湯など、お風呂のバリエーションに力を入れている銭湯。


これらのバリエーションの広がりは、私の予想では昭和の御世に内風呂が台頭してきて以降、日本人の間で銭湯の存在価値が下がり始めたタイミングで流行り始めたと推察しています。大掛かりな設備投資による差別化は、普通のご家庭のお風呂では簡単に再現できるものではないですものね。


関係ないけれど、私は未だに電気風呂に入ったことがありません。こわくて入れないんです。「電気と水が一緒になってるなんておっかない」とかたくなに洗濯機を使わず、洗濯物を全部手洗いしていた祖母を笑っていた私が、ここに来て「水」と「電気」のワンツーアタックに苦しめられるとは…。多分、空の上から祖母は、全裸で電気風呂の前で逡巡する私を指差して笑っていることでしょう。いつか電気風呂にも入れるようになったら、銭湯通を名乗れるかしら、と思いつつ、電気風呂で「あーーー」と艶かしい声をあげているおばちゃんの横で、「なんか悔しい…」と思いつつ、普通の浴槽につかっております。


■コミュニティ重視タイプ

銭湯にいらっしゃるお客さん同士のふれあいを重視した経営戦略の銭湯です。具体的には、併設の宴会場がある、ポイントカードなどの常連さんへの施策がある、といった感じでしょうか。


先日、東京都大田区にある、天然黒湯温泉が楽しめる銭湯、蒲田温泉さんに行ったときのこと。二階が宴会場になっており、カーペット敷きの床に座布団を敷いて食べたり飲んだりできるほか、舞台があってそこでカラオケを歌えるようになっていて、おそらくご近所にお住いの人生の大先輩たちが熱唱していらっしゃいました。


我々も全員オーバー40のわりといい年齢だったのですが、その空間ではぶっちぎりで最年少。完全に青二才と小娘扱いでした。歌いきったおじいちゃんが我々に「こんな唱歌なんて、君ら若いもんは知らんだろ、はっはっは」と軽口を叩きながら席に戻られたりして、一瞬「挑戦状を叩きつけられている…?」と何か歌った方がいいのだろうかという気にもなったのですが、どう考えてもいろんな意味で勝てそうにないのでやめました。


よく見ると、ご高齢のグループの中でもカップルらしき良い雰囲気のおふたりもちらほら見受けられ、実に良い表情をしていらっしゃいます。高齢化社会に対抗する秘策は銭湯のカラオケ宴会場かもなあ、と思いながら帰りました。


高齢者に向けてだけでなく、地域の人が集まる場所として機能すべく努力を重ねている銭湯もあります。東京都世田谷区にある、そしがや温泉21さんは、「ふろまち銭湯ライブラリー」と称して、銭湯に図書館を併設されました。利用者が、他のお客さんにも読んでほしいと思う自分のとっておきの一冊を持ち寄って作られた図書館です。あなたの好きな本が、名前も知らない誰かに読まれて、だけどその人とは銭湯という場所でつながっているって、素敵ですよね。このライブラリーには絵本も置かれ、お風呂に入りに来た子供のお客さんにも好評のようです。


■第2のおばあちゃんちタイプ

私が最も愛する形態の銭湯がこのタイプです。


THE昭和!!!と絶叫したくなる、二重破風の屋根と、その奥にそびえる高い煙突。風にゆれる暖簾をくぐって中に入ると黒光りする高い番台。ああ、一度で良いから番台にのぼってみたい。あの全てを見渡せるコックピットの中に何が隠されているのか、興味津々です。脱衣場には脱衣かご、そして時々おかま式のドライヤー。さらにまれに、お庭が拝めたりもします。


一歩浴場に入ると、あたたかい空気に包まれた高い天井と、その奥の壁にはペンキ絵。そしてその下に、なみなみとたたえられたお湯。


1日の汚れを落として清潔な体で熱いお湯につかり、ほかほかになったところであがり、脱衣場に戻り、時々変な音がする首振り扇風機の後を追って火照る身体をなだめ、服を着た後に待っているフィニッシュは、コーヒー牛乳。


サイコー!!


時間が止まったおばあちゃんちにタイムスリップしてきたような、ゆるーくてのんびりできる、ノーストレスの極上時間を味わえます。できればこのまま畳に寝転がってそのまま寝たい。この世にこれ以上のしあわせがあるだろうか?いや、ない(きっぱり)。


こんな銭湯が、経営者の高齢化や建物の老朽化に伴い、ひとつ、またひとつと建て替えたり廃業していっているのも、悲しいけれど事実です。なくなりつつある運命なのはしかたないけれど、それでもその前に一回でも多く、この「第2のおばあちゃんち」を経験しておきたい。そう思って、今日も私は銭湯に通うのです。


■21世紀型銭湯タイプ

昭和に建てられた銭湯の老朽化が進み、しかし、幸運にも後継者が現れて銭湯が続けられる場合、新しい経営者によって建て替えする銭湯も、最近よく見ます。


目新しいところでいうと、東京都練馬区にある久松湯さんは、2014年5月にリニューアルオープンされた比較的新しい銭湯。見た目は「美術館?」と見紛うばかりのモダンなデザイン。中に入ると、白と黒を基調としたやはりおしゃれな内装ですが、さらにここのすごいところはお風呂につかりながら壁に映し出されるプロジェクションマッピングが楽しめるのです。すごーい。


先述の東京都大田区の蒲田温泉さんは、歴史は古く見た目も良い感じに昭和ですが、なかなかどうして、Tポイントカードに対応しています。端末の操作に手間取ってはいたけれど。まさに21世紀の銭湯!時代遅れなんて言わせない。


また、こどもの日の菖蒲湯や、冬至の柚子湯は有名ですが、今年の2月、バレンタインデーにかけて、いろいろな銭湯で「チョコレート風呂」なるものが催されました。


このように、様々な銭湯がそれぞれに知恵と工夫を凝らして、銭湯にやってくるお客さんを楽しませようと頑張っています。清潔な公衆浴場というのはもちろん一番大切な要素だし、当たり前のことですが、「それだけではない何か」をもプラスして、来てくれる人に喜んでもらおうと頑張っていらっしゃいます。


銭湯日記の一番最初にも申し上げたように、銭湯に行ったからといって人生が劇的に変わるなんてことはありません。でも、大きいお風呂のたっぷりのお湯の中で手足を伸ばして1日の疲れを取ったら、嫌な気分になるっていう人はあまりいないんじゃないでしょうか。


ご近所に銭湯があるあなたはラッキーです。「近所に銭湯なんてないよ」っていう人は、お散歩がてら、今週末にでもどこか気になる銭湯に脚をのばしてみませんか?


銭湯は、今日もあなたをお待ちしています。

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山口イツカの銭湯日記 山口イツカ @ymgcysy

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