銭湯の発展とこれから Part1

銭湯は何をするところか?ひとことで言えばお風呂に入るところです。と、ひとことで言っても、その形態は様々であり、幅広い機能と特徴のある銭湯が日本には存在しています。サウナがあり、ジャグジーがあり、電気風呂があり、ペンキ絵で入浴客の目を楽しませ、薬湯で健康増進ができ、湯上りは冷たいコーヒー牛乳(大人はビールかもしれませんが)で乾いた喉を潤せる。


これは日本人の「常に工夫してより良いものを求める」国民性に由来するのではないかなあと銭湯に入りながら、最近ぼんやり考えています。日本人が、もし「風呂に入れればそれで良い!お湯が大量にあればオールオッケー!以上!」という質実剛健な国民性だったとしたら、ここまで日本の銭湯はバリエーション豊かにならなかったのではないでしょうか。そう考えると、いま、21世紀に私が銭湯を訪ねて気持ちの良いひとときを過ごし、ワンコインでお釣りがくる楽しみを享受できるのは、先人たちの飽くなき銭湯を愛する熱意と心意気があったからこそなのだなあと、感謝せずにはいられません。


日常生活を営むに必須だった身体を清潔にする場所から始まった銭湯ですが、いまや風呂なし物件を探す方が難しい日本で、銭湯の立ち位置は完全に生活必需品から、お客さんを楽しませる場所にシフトしているように思えます。「身体を清潔にする」行為そのものが娯楽になり得るという点がなんとも日本人らしいなあと思いつつ、一体そのスタートはどこだったのでしょう。東京都浴場組合のホームページを見たら、銭湯の歴史が載っていました。


銭湯の起源は仏教と言われています。身体の汚れを落とすことが仏に仕える者の務めという教えがあったそうで、聖徳太子の時代から、寺院には湯屋・浴堂が設置され、「施浴」と呼ばれていました。奈良のお寺の中には今もその建物が残っているところがあるそうです。


鎌倉時代には裕福な家に風呂が作られ、親しい人や親戚を集めて風呂を振る舞い、その後に宴席や茶席を設けるといったもてなしが流行ったとか。このもてなし自体を「風呂」と呼び、お風呂の起源はここにあるようです。


江戸時代、江戸に初めて銭湯ができたのはいつかは定かではないようですが、徳川家康が江戸入りした翌年に、伊勢与市という人が銭瓶橋(現在の江戸橋)に銭湯施設を建てたというのが最も古い記録だそうです。江戸城を建てるのにあたって恐らくたくさんの人夫が江戸を闊歩し、彼らの仕事の疲れと汚れを落とすのに銭湯が大活躍したのだろうなあと想像します。


当初は今のような形式ではなく、出入り口を狭くして中に上記を閉じ込める蒸し風呂形式だったそうです。浴槽にお湯を入れてその中に人が入る今の銭湯の形になったのも江戸時代のうちですが、最初は男女混浴で、風紀上の理由から幕府はたびたび禁止令を出しますが、長年の習慣からなかなか男女別になることはなかったとか。一階が銭湯、二階がサロンとなって入浴後のお茶などを湯女がサービスする形式が大流行したのも江戸時代。結局今の男湯と女湯が厳密に分かれる形式が定着したのは明治23年、子供であっても7歳以上は混浴禁止という法令が出されて以降なのだそうです。


それまで浴槽から直接湯を汲んで身体を洗っていたようですが、大正時代以降、板張りだった洗い場がタイルになり、カランが設けられ、衛生面でも向上していきました。


大正元年に、現在の千代田区猿楽町にあったキカイ湯さんが、「子供に喜んでお風呂に入って欲しい」という思いから、洋画家の川越広四郎氏に壁に大きな絵を描くことを依頼し、その洋画家の出身が静岡だったため、ふるさとの富士山を描いたことがペンキ絵の発祥なのだそうです。


日本で最も高い山である富士山が背後に描かれたお風呂のお湯は、霊峰から湧き出す霊水をイメージさせ、お客さんからの評判も良かったため、富士山のペンキ絵は大人気となり、あちこちで銭湯の壁に描かれるようになりました。


日本で内風呂が普及し始めたのは昭和30〜40年代の高度成長期の頃のため、電気風呂や気泡風呂など、現在の銭湯に見る様々な趣向が発達し始めたのもこの頃だと考えて良さそうです。

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