第34話 今日の体育の授業は異能力系ドッジボールです

 異世界アースプラネットから、現実世界地球に帰還したオレ。

 ごく普通の高校生活を送り始めたオレは、超美少女転校生と出会う。何故か、オレの女アレルギーが発生しない不思議な超美少女に、オレは恋の予感を抱いていたが……。


 先生は、「悪かったな、女子生徒と勘違いして」と、おそろしいセリフを放った。

 超美少女(?) も、「ボク男の子なのに、よく女の子と勘違いされるんです」 と、何やら不穏なセリフを……。


『男の子なのに、男の子なのに、男の娘なの……に……』


 オレの頭の中で、男の娘というここ数年流行した不穏な単語がリフレインする。誤解のないように説明するが、女アレルギーといってもオレ自身は別に同性に興味があるわけではない。恋愛対象は、あくまでも異性の女性だ。


 女の子に対して年頃らしくスケベな気持ちを抱いているのだ……ただ、過剰に意識すると極度のアレルギーを引き起こすというだけで。



「男の娘だとっ⁈ こんなに可愛いのに……おとこ……の……こ……」

「おいっ結崎っ大丈夫かっ、しっかりしろっ」

「結崎くん……ごめんね、もしかしてボクのこと女の子だと思っていたの……そうだよね、ボク女にしか見られたことないし……それに……」


 遠のく意識の中で、担任の先生が本気で焦っている姿と、涙目の真野山君の姿がぼやけて見えた。こんなに可愛い子滅多にいないし、勘違いしても仕方ないだろう……。

 けど、なんだろう……このやるせない気持ちは……。

 オレは超美少女に見える男の娘という貴重な存在にお目にかかった衝撃で、急性男の娘アレルギーになり気絶した。



 * * *



 そして、お約束の展開で意識が戻ると、保健室のベッドで目を覚ますのであった。


 保健室特有の消毒液の匂いがする……キシキシと音が鳴る硬いベッドの上で目を覚ました。

 看病してくれていたのは、どうやら保健室の先生ではなく、例の超美少女に見える男の娘転校生『真野山葵まのやまあおい君』だった。

 澄んだ瞳を潤ませて、白魚の様なしなやかな手でオレの手を握りしめている。

 オレは真野山君のあまりの超清楚可憐ぶりに、『真野山君は、何かの事情で男装しているだけで本当は女の子なのでは?』と疑ったが、もしかしたら訳あって隠しているのかもしれないし、悪いので追求出来なかった。


「気が付いた? ゴメンね……驚かせちゃって……ボクが男だって分かると、何故かみんな気絶しちゃうんだ……」


 超美少女に見える男の娘、真野山葵まのやまあおい君は可愛いらしい仕草で、申し訳なさそうに謝ってきた。

 首をちょこんと傾げる仕草はいちいちラブリーで、はっきりいってオレ好みである。こんなに超絶可愛い男がいてたまるか。

 だが、真野山君の室内ばきは、れっきとした男子生徒用のブルーカラーのラインが入った靴で、世の無常を心の奥底から感じ取った。


 ……こんなに可愛い子が男の娘だなんて、世の中狂ってやがる。


「いや、勝手に勘違いしたオレが悪いんだよ。気にしなくていいから……」


 そうだ……真野山君は自分から性別を詐称しているわけではない。ただ、あまりにも超美少女に見えるので、オレが勝手に誤解したんだ。


 お互い申し訳ない気持ち伝わるのか、しばし沈黙。友達一号とかいってた割に、やっぱり下心が大きかったんだろうな、オレって……。


 いや、今からでも間に合う……心を浄化して真野山君と健全な男子生徒同士の爽やかな友情を育んで行けばいい。それが、真野山君に対して出来るオレからのせめてもの償いだ。


「午後は体育の授業だけど……気絶したばかりじゃ見学にした方がいいよね?」


 重苦しい空気、長すぎる沈黙……このままではまずいと思ったのか、真野山君の方から話題を持ちかけて来た。体育か……この微妙な気持ちをリフレッシュさせるには、身体を動かすのが1番だ。

「いや、もう大丈夫だから体育の授業出るよ!」


 なんとか、平常心を保とうとするオレの気持ちが真野山君に伝わったのか、『じゃあ、移動するときは一緒に付き添うからねっ』と、超絶可愛い笑顔で優しく微笑んだ。


 可愛すぎる……この柔らかい微笑み……正直言って、可愛い男の娘という域をはるかに超えている。この子、やっぱり女の子……?


 まだ本調子ではないのか、保健室から学生食堂に移動する体力がない。突然現れた保健室の先生の判断により、保健室で昼食を食べる事になった。


「ふう……そうだ、昼食どうしよう? 弁当持って来ていないのに……今日は学食で食べる予定だったから……こんなことなら、エリスに弁当作って貰えばよかったな」


 すると真野山君が、「実は……ボク手作りのお弁当持って来てるんだ……たくさん作ったから一緒に食べよう!」と、パステルイエローのランチボックスを取り出し、手作りのお弁当を分けてくれた。


 ツナや梅のおにぎり、出し巻き卵、ハートや星型のポテト、美容を意識した色とりどりの温野菜、アスパラのベーコン巻き、タコさんウインナー、ウサギ型のりんご……とても男子生徒が作ったとは思えない可愛いお弁当だった。

 どれも美味しく思わず『真野山は、将来いいお嫁さんになれるね』と、口を滑らせそうになったが、真野山君は男の娘だという世知辛い現実を突きつけられた直後だったので、ペットボトルの緑茶とともにセリフを飲み込んだ。


 無事昼食タイムを終え、高速で体操着とジャージに着替えを済ませた真野山君……。なぜか、私服の下に体操着を着込んでいたため、真野山君に胸があるのかないのか確認できないまま、体育の時間になった。



 * * *



【第1体育館】


 真野山君と一緒に体育館に到着すると、クラスメイト達の視線が一斉に集まる。

 クラスメイトのひとりがフレンドリーに、「イクトー大丈夫か? あっ真野山キュンも体育出るんだ、頑張ろうな!」と明るく声をかけてきた。

「真野山キュン? なんだか、萌え萌えした呼び方だな」


 さらに、別のクラスメイトも……。

「女アレルギーのイクトが気絶か……真野山キュンってやっぱり、あっ体育頑張ろうぜ!」

「葵たそが体育なんかやったらサラシが取れて性別バレに……どうするんだろ……あっ今日の体育ドッジボールだってさ」


 みんな、超美少女に見える謎の男の娘転校生『真野山葵まのやまあおい君』の性別を疑っているようだ。

 真野山キュンとか、葵たそとか完全に萌え対象として見ている……そうこうしていると体育の先生(兼担任)がやってきた。


「今日の体育の授業は、異能力系ドッジボールです。危険な異能力バトルなので、気を抜かないように」


 ⁈

 異能力バトルなんて授業あったっけ?

 しかも危険って一体……?


「異能力系ドッジボールって何? 今回から導入された新たなスポーツ?」

「イクト知らないのか? 何年か前に、ドラマで流行っただろ? 」


 思い出した……数年前に流行った異能力系ドラマだ。


 ヒロインだと思われていた超美少女カリスマ異能力者が、普通に男の娘だったのでショックを受けたヤツだ……頑張って最終回まで見たが、結局男の娘の性別は最後まで明かされることはなかった……。


 幼馴染とフラグがたっていて、なおかつ他のイケメンがちょっかいを出していたので、てっきり彼女(彼?)は女性だとばかり……。何故今日に限って……人のトラウマをえぐるようなマネを。



 * * *



【異能力系ドッジボール開始】


 異世界と現実世界が融合した影響なのか、みんな謎の超能力技や謎の精霊を繰り出し、順調に異能力系ドッジボールをプレイしていた。


「イクト! パス! このまま決めてくれよっ」

「よし! 決めるぜ!」


 オレがボールを決めようとした瞬間、真野山君がディフェンスを仕掛けてきた! やるな真野山君! この並外れた運動能力の高さ……疑って悪かった……真野山君は立派な男だよ……。


「ここで異能力発動だ!」

 やる気の真野山君は、自身の異能力で精霊を繰り出して必殺技を……。

「異能力! 超美少女姫天使! ヴィーナスエンジェル!」


 超美少女に見える男の娘真野山君の異能力は、何故か超美少女姫天使精霊召喚で、オレは露出と萌えを兼ね備えた超美少女精霊に『急性男の娘型美少女アレルギー』を発生し、おたけびを上げながら気絶した。



 * * *



 再び保健室で意識が目覚めると、今度は夕方になっていた。


「ゴメンね……ボクの異能力、何故か超美少女姫天使なんだ……」

 目が覚めると、オレは保健室のベッドで寝ていた。しかももう夕方だ。


「気にしなくていいよ、異能力が何故か超美少女姫天使なのは、真野山君のせいじゃないし……」


 もうオレは考える気力を失っていた……フラフラになりながら、謎の男の娘転校生真野山君に支えられて、帰路についた。

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