第39話 チョコレートを大切な人に
クエスト『魔王城のお宝をゲットせよ』の城内探索中に見張りに見つかり、衛兵の痛恨の攻撃により気を失ったオレ。
目を覚ますと、心配そうな顔をしたオヤジプルプルさんが目の前にいた。横になりながら辺りを見渡すと、赤い月と大きな門がある古城の外だ。
屋外で寝ていたのに頭が痛くないのは、賢者マリアがオレを膝枕して休ませてくれていたからだ。
普段は女アレルギーのオレだが、この時はアレルギー反応を起こさなかった。こういう時の仲間の優しさは純粋に有り難いと思う。
起き上がろうとすると、膝枕中のマリアが「イクトさんまだ寝ていないと……」と頭を撫でてオレを休ませた。
オヤジプルプルさんはオレの無事を確認してホッとしたようで、ピョン! とジャンプしてから語り始めた。
「プルプル……大丈夫でしたか? イクトさん……最近の衛兵は品がなくて嫌ですね。やはり立派な城の警備を任されているのですから、もっと品格が欲しいですよ!」
「そうか……今回のクエストのピンチ……レベル99∞のオヤジプルプルさんに助けてもらったんだ」
オヤジプルプルさんの必殺技『煉獄のブレス攻撃』は神ががった強さだった。オヤジプルプルさんの影が不思議と巨大なドラゴンの姿に見えてしまったくらいだ。
「……オヤジプルプルさん、危ないところをありがとうございます」
オヤジプルプルさんは困ったときは「お互い様ですよと言ってくれた」これが『レベル99∞』の余裕なのか……すごすぎる。
すると、やり取りを見守っていた白キツネさんがコン! とひと声鳴き、「……まったく、一応ボクがマネージメントするアイドル、アイラのお兄さんだから今回は助けてあげたけど、伝説の勇者ならもう少ししっかりしないと……まあ、このクエストは君たちのレベルじゃまだ早かったんだろうね。今後は無理しないように!」と忠告してくれた。
賢者マリアは、「白キツネさんすごい回復魔法が使えるんですよ! イクトさんを傷跡ひとつ残さず回復しちゃうんですから! ビックリしましたよ!」など、オレの治癒に使った回復呪文のレベルの高さについて、少し興奮気味に語り始めた。
そういえば瀕死の重傷を負ったわりに、身体は何もなかったようにピンピンしている。賢者のマリアや神官のエリスも回復魔法は使えるが、こんなに回復力の高い呪文をかけてもらったのは初めてだ。
「……ふう、久しぶりに高等魔法を使ったから流石の僕も疲れたよ。ボクとオヤジプルプルさんは、この後居酒屋に飲みにいくことになったから君たちは安全なルートで帰還するように」
どうやらオヤジプルプルさんと白キツネさんは結構気が合うらしく、この後飲みに行くそうだ。ところで白キツネさん、本職のアイドルマネージャー業はいいのだろうか?
「イクトさん、マリアさん、今日はありがとうございました。昔を思い出してちょっとバトルしちゃいましたよ。スマホに連絡先とメンバー登録申請しておきましたから、気が向いたらクエストに呼んでくださいね!」
最後まで感じのいいレベル99∞のオヤジプルプルさん。
『はい! ありがとうございました!』
オレとマリアは、オヤジプルプルさんと白キツネさんにお礼を言った。まさか、こんなに凄腕だとはモンスターは見かけによらないな……。
「ボクの連絡先も一応登録しておいたけど、君はアイラのお兄さんだし、まあ今更だったね……今度アイラ・なむらのライブに顔を出してもらうよ! じゃあ、現実世界に戻してあげるからこっちに来て!」
白キツネさんが移動呪文を唱えると、景色がユラユラと揺れて意識が遠くなる。
* * *
いつの間にか、自分の部屋に戻っていた。
するとタイミングよく、スマホにメールが届く。魔王様こと超美少女に見える謎の男の娘転校生、
『そろそろ今日のクエストに行きます! クエスト名はバレンタインチョコをゲットせよ! です。レベル1の簡単なクエストなので、気楽に参加してください』
レベル1の簡単なクエスト……これなら今のオレでも参加できそうだ。オレは合言葉を入力して、真野山君のマルチプレイに参加した。
我が家のペットである黒猫ミーコも『猫耳メイドのミーコ』として呼ばれていたようで、久しぶりの人間モードにミーコは大はしゃぎだった。
クエストは大きなお菓子の家でたくさんの宝物をゲットするというもの。クッキーやカラフルなキャンディーがふわふわと浮かぶ不思議な空間で、楽しい雰囲気のクエストである。
「にゃー! いっぱいチョコレートゲットしたにゃー!」
ふとお菓子の家に立てられているハート型の看板を見ると、
『お世話になっている人にチョコをプレゼントしましょう!』と載っていた。
ふわふわ空中に浮かぶチョコの包みをゲットして、クエストの残り時間が迫ると真野山君が「イクト君……ミーコちゃん、ボクからチョコレートです。助けてくれてありがとう!」と言ってパステルブルーの包みにピンクのリボンがかけられた小さな箱をプレゼントしてくれた。
中身はもちろんチョコレートだ。実はこのチョコはクエストでゲットしたものではなく、真野山君の手作りなんだとか。
ナチュラルに手作りチョコを手渡ししてくる真野山君に、「やっぱり真野山君って本当は女の子……」と言いかけたが何も言わないことにした。
オレ達が友達になったことには変わりないのだから。
クエストでゲットしたチョコを交換し、クエストは楽しく終了した。
家に帰るとミーコは黒猫の姿に戻ってしまったが、もらったプレゼントの包みを抱えてゴロゴロにゃーにゃー言って普段よりご機嫌だった。
ちなみにミーコへのプレゼントは、猫でも安心して食べられる猫用の特殊なお菓子だという。
「イクト、部屋にいるならちょっと来てくれる? 用事をお願いしたいの!」
どうやら母さんも家に帰っていたようだ。平和ないつも通りの夕方である。
* * *
母さんに頼まれたお使いを済ませるため、ウチの家事を任せられている下宿人のエリスとともに自宅を出て、夕方の立川市内を歩きながらオレは今後のことを考えていた。
するとエリスがオレの腕を組んできて、ちょっとしたプチデート状態になる。美少女エリスの柔らかい胸の感触が伝わり、思わずドキドキする……。
そもそも二人っきりになると積極的なエリスの存在が、女アレルギー持ちのオレにとって危険だからわざと距離を作っていたのに。
嗚呼、オレが女アレルギーじゃなければとっくにエリスと思う存分……と邪な考えが浮かんだ。いけない……女アレルギーを起こさないようにしないと。
「勇者様……今日はせっかく二人っきりになるチャンスでしたのに! 一体、どこに行っていたんですの?」
ちょっとご機嫌斜めな、押しかけ女房下宿人のエリスにチョコを手渡し機嫌を取る。
「ゴメンね、エリス……これを……」
「もう……チョコをゲットしに出てていたんですのね……」
頬を赤らめながら、絡めた腕をキュッとして甘えてきたエリスに悪かったなと思いつつも、チョコのプレゼントはいろんな人に喜ばれるんだ、と実感する。
チョコたくさん集まったな。最近は男からチョコを渡す逆チョコが流行っているらしいし、今年はいろんな人にチョコを渡そう。
家族、学校の友達、現実世界のゲーム仲間、異世界で出会った仲間達、お世話になったみなさん、幼馴染みのカノンにも渡さないと。
その数日後、異世界で社交界デビューを果たした幼馴染みのカノンが、悪役令嬢として魔王の玉座に座ることになるとは……まだこの時オレには想像もつかなかった。
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