第40話 悪役令嬢には玉座が似合う
【招待状】
ゴスロリドール財閥ご令嬢カノン様、社交界デビューおめでとうございます!
次の日曜日、古城でパーティーを開きます。是非遊びにいらしてください!
異世界アースプラネットでは、『悪役令嬢カノン』という呪われたポジションである私宛に招待状が届いた。私はその招待状を自室のデスクの上に置く。
私のデスクの上には、初恋の相手で幼馴染のイクトと小学生の頃に一緒に撮った写真が並んでいる。
けれど、イクトとの思い出の写真は中学生になる頃には、だんだんと撮らなくなった。理由はお互い年頃になり距離を置くようになったのと、イクトの女アレルギーが酷くなったからだ。
天蓋付きのベッドにドサリと横になり、ため息を吐く。
異世界アースプラネットと現実世界地球がリンクしてしばらく経つけど、ついに現実世界の住所にアースプラネットからの手紙が届くようになった。
社交界デビューもしてしまったし、次の日曜日は向こうの世界との付き合いでアースプラネットに行くしかなさそう。ダンスを踊るなら、本当は幼馴染みのイクトと踊りたかった。でも多分、私なんかじゃ伝説の勇者イクトとは不釣り合いなんだろうな……。
この間、学校帰りにイクトに声を掛けようとしたけれど、青い髪のとても可愛らしい女の子と腕を組んで歩いていたので、声をかけることが出来なかった。
確かイクトの家には、銀髪の異世界の神官エリスさんが下宿しているはずだけど、エリスさんとは一応私も知り合いだし他の仲間の人達も紹介してもらっている。けれど、あの青い髪の美少女の話は聞いていない。
イクトの態度もなんだか、他の女の子たちに対する態度と違う気がした。まるで、本気で恋をしているかのような……。
その日の夕方、ホームパーティーをするから遊びに来て欲しいとイクトの妹のアイラちゃんから電話をもらったけど、例の姫君も一緒だときいて断ってしまった。
噂では、魔族の姫君がお忍びで現実世界地球に遊びに来ているらしい。そして、イクトが腕を組んで歩いていた青髪の女の子がその姫君だという。2人が並んでいる姿を見たくなかった。
私って、どうしてこんなに嫉妬深いんだろう……? 自分でも嫌になる。
だから悪役令嬢なんて肩書きが、異世界でついちゃったのかな?
人気オンラインゲーム『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』、私は財閥のコネクションで、発売前に体験版をプレイし大まかなストーリーと、このゲームのラストを知ってしまった。
伝説の勇者は、女の子がニガテ。
でもそれは、小さいときに結婚の約束をした魔族の姫君との約束を破って他の女の子に好意を抱くと、女の子アレルギーが発症するというカラクリ。
魔族の姫君は男の姿……魔王になって勇者が他の女の子に好意を抱いているか調べるが、最終的に勇者は姫君との記憶を取り戻して2人は結婚してハッピーエンドだ。
私もイクトと幼馴染みだけど、私が知り合った頃にはすでにイクトは女アレルギーだったし、結婚の約束もしていない。つまりこのゲームのシナリオに私の入る隙間はないのだ。
しばらく、イクトのことを考えるのは止めよう……。
* * *
数日経って日曜日になった。異世界を代表する伝統的な城である古城では、貴族が集う……今宵はパーティーだ。
古城周辺は、魔力で出来ている赤い月と雰囲気のある大きな門。いかにも魔族の王族が好みそうなデザイン。
城の主人である魔族の姫君が不在になってしまったため、廃城も噂されたそうだが、残った使用人や大臣達でこの交流パーティーを開くことにしたのだという。
「どうですかな? カノン嬢……本来の城主であるはずのアオイ様が家出されてから、この城の兵士たちもすっかり覇気を失っていましてなぁ。なんでも雑魚モンスタープルプルにまで、負ける兵士が出てしまったとか」
「まあ、プルプルに? いくらなんでも、あんな可愛いだけのモンスターに……。きっと手加減しすぎたのね。プルプル可愛いもの!」
「ははは、そうだといいのですが……。カノン嬢がこの城の新しい城主になってくだされば……。いや、聞かなかったことにしてくだされ……」
この城の執事から告げられる意味深長なセリフ……私が城主?
でも一体どうやって……。いくらゴスロリドール財閥が大きな組織だからって、流石になんの所縁もない城の城主になるなんて……それとも……?
一時期は城の中は閑散としていたというが、嘘のように活気付いている。
シャンデリアとステンドグラスの光が虹色に輝き、大理石の床に敷かれた深紅の絨毯が一層城内を絢爛に魅せていた。
着飾った魔族のご婦人や伯爵達に混ざり、私はゴスロリドール財閥の代表者として、財閥デザインの新作ドレスを着てパーティーに出席。
大きく胸元の開いたドレス……黒の羽根飾りを散りばめて妖艶にデザインされている。赤い髪を綺麗に巻いて金銀を使った髪飾りで結ぶ。
財閥の代表として相応しく見えるように……とメイクもバッチリ施してもらった。
普段は女子高生らしいナチュラルなすっぴん風メイクだけど今夜は特別な令嬢。
ローズブラウンのアイシャドウに黒のアイライン、まつ毛をバッチリカールさせてたっぷり塗られた黒のマスカラ。
チークは頬を薔薇色に色づかせ、唇には大人びたピンクベージュの口紅と艶めいたグロス。少し背伸びした私を年相応にしてくれるのは、清楚な花の香りの香水。
アクセサリーはパーティー用にデザインされた、高級な魔石のピアスと豪華なネックレス。
「美しいご令嬢……あなたのような気品のある若い令嬢がこの古城を治めてくれたら、パーティーを開かなくても活気が戻るんでしょうね……」
「おおっまるで、古い記録に残る美貌の令嬢の再来ですぞ……生まれ変わりのようじゃ」
沢山の人達から賛美の言葉が私に贈られる。お世辞と分かっていても、たくさんの人達に褒められて少し嬉しかった。
手にしたグラスには未成年の私に合わせて、葡萄の味の高級ジュース。一流シェフ自慢のローストビーフのオードブルで立食を楽しんでいると、主催者から玉座に座ってみないかと誘われた。
* * *
つい最近まで、ここには例の魔族の姫君が座っていたが、社交界デビューを嫌がって家出してしまったという。あの例の魔族の姫君のことだろう……。
「アオイ姫は、なぜ社交界に出たくないのかしら? もしかして、自由を求めてわざわざ男装を? お姫様の気持ちはきっと、私には一生理解できないんでしょうけれど……」
「ふむ、アオイ様か……確かに姫として生まれたことは確かですが、あの方にはちと荷が重かったのかもしれませんな。なんせ、本来……この玉座はゴスロリドール財閥の一族が座るべき場所ですからね……」
執事が驚く情報を密やかに耳打ちしてくる、初めて聞く話。
「伝説の勇者様との結婚も、本当はゴスロリドール財閥のご令嬢がふさわしいのに……」
続けて魔族は私にこっそりと告げてきた……あの魔族の姫君の一族が玉座を奪ったせいで、私達の一族は王族ではなくなったのだという。
神に近い存在と謳われた古代の龍……彼が魔王と言われるようになり、玉座も彼らに捧げられた。古代の龍にまつわる一族が現在の魔王一族だ。
「どういうことっ? 勇者イクトと一緒にいたあの魔族の姫君、本当は私が、あの姫君の立場だったというの? イクトと結婚するのは、本当は私だったというの?」
「おお、もしやあなたは勇者イクト様のことを……まだ間に合いますよ、この玉座にさえ座れば……カノン姫……」
パーティーの主催者は、とても美しいティアラを私につけてくれた。本来ならこんな誘惑には乗らないハズなのに、大好きなイクトがこの玉座に座る姫君のものだと囁かれると、私にはもう理性なんて効かない。
そして、気がつくと私は引き寄せられるように、魔族の玉座に誘(いざなわ)れていた。
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