第41話 遠くなった幼馴染
バレンタインデー当日の日曜日、オレとは別の高校に通う幼馴染みのカノンに感謝の気持ちを込めて、バレンタインデーの逆チョコレートを渡そうと思い、真冬の風が吹く中、カノンの家に向かったのだが……。
「カノンお嬢様は、今夜はゴスロリドール財閥の代表としてパーティーに出られます。お嬢様は最近、アースプラネットで社交界デビューをされたので、今後ますますお忙しくなるかと……申し訳御座いませんが、お引き取りください……」
オレの家から徒歩10分ほどにあるカノンの家の庭先には、ゴスロリドール財閥の魔族の使用人が庭の手入れをしていて、今夜のカノンのスケジュールを説明してくれた。
カノンは財閥の令嬢として社交界デビューしたので、忙しいそうだ。
財閥のご令嬢で社交界デビュー。
一般庶民の生活をしているオレとは、住む世界が違うように感じられた。オレは幼馴染みがなんだか遠い存在になってしまった気がして少し寂しくなったが、大人しくカノンの人間界での家を後にする。
チョコはカノンが戻ってきたら、本人に渡しておくと使用人さんが言っていたので預けてきた。
仕方ないので、帰宅することに。
* * *
玄関ドアを開けると、ちょうど下宿人のエリスが片付けをしていたようだ。
「ただいまー」
「あら、早かったですのね。カノンさんには会いましたの?」
「カノン……社交界デビューしたから、忙しいんだって。今夜はアースプラネットでパーティーがあるんだとか。ゴスロリドール財閥って向こうの世界じゃすごい財閥なんだろう? なんか住む世界が違うよなぁ」
オレはしみじみと感じたことを語った。リビングに移動し、ソファにドサリと倒れこむようにもたれかかる。 30分ほど外出していただけなのにひどく疲れてしまった。エリスが温かいコーヒーを淹れてくれる。
「そうですね、ゴスロリドール財閥はその昔は王族だったそうです……その、とても言いづらいのですが旧魔王一族だったと言われています」
エリスの口から意外な情報が飛び出す、旧魔王一族? カノンが?
「旧魔王一族って、真野山君の家とは別の魔王一族ってこと?」
初めて知る意外な情報と、幼馴染カノンの秘密に驚くオレ。
「はい……その昔、神に近しい存在と謳われたドラゴンがいました……大きな戦争が魔族達の中で起こり、旧魔王一族は撤退を余儀なくされ、古代龍とその一族が新しい魔王の玉座を継承したそうです。魔物達は一番強い者の命令しか聞かないので、自然と最強のドラゴンが魔王としてあがめられるようになったのですわ」
最強のドラゴン……。
その時マルチプレイで助けてもらった、オヤジプルプルさんのことが思い浮かんだ。
煉獄のブレスは神ががっていたし、何故かオヤジプルプルさんの影が巨大なドラゴンに見えたからだ。
「今そのドラゴンってどうしているんだろう? ドラゴンって長寿なんだろ? 生きてる可能性も高いよな」
どの書物にも、ドラゴンは長寿と書かれている気がする。アースプラネットでのドラゴンも、例外ではないはずだ。
「それが、ある日を境目に消息不明なんだそうです。魔族の姫君グランディア姫と伝説の勇者ユッキーが結婚した時に、行方不明になられて……なんでも亡くなられた姉君の娘グランディア姫を養子にされた古代龍は、グランディア姫を溺愛されていたそうで、お二人の結婚を猛反対されていたとか。でも、まさか行方不明になるとは……。寿命を考えるとまだ存命されているはずなんですけどね」
続けて神官エリスは語る。
「伝説では神に次ぐ強さの持ち主で、勇者ユッキーですら手も足も出なかったそうです。特にドラゴン一族特有の煉獄のブレスを受けた者は、2度と彼に逆らわなくなったと伝えられています」
ドラゴン一族特有の煉獄ブレス……。
オヤジプルプルさん……プルプル族なのにどうしてそんな大技使えるんだろう?
てっきりオヤジプルプルさんはレベル99∞だから、神ががった強さなんだと思っていたが。
「……レベル99∞のプルプル族って、煉獄ブレス使えるの?」
「まさか! プルプル族もレベル99∞になればかなり大技を使える者もいるそうですが、流石に煉獄ブレスは無理だと思います。プルプル仙人という方が一番強いプルプル族でしたが、数年前に亡くなられましたわ」
そうなんだ。じゃあまさか、オヤジプルプルさんが神と謳われたドラゴン? でもなんでプルプルの姿に? オレの考えすぎなのか?
オレが考え込んでいると、無言でエリスがソファに座りオレにピタッとくっついてきた。
そう言えば今日は妹のアイラはアイドル家業で不在、両親も仕事で不在、ペットの猫ミーコは午後の睡眠タイム……つまりふたりっきりの状態だ。マズイ。
「勇者様……今日はバレンタインデー。カノンさんの話はこれくらいにして、婚約中である私たちの将来のお話をしましょう! 私、ハネムーンは沖縄に行きたいですわ……子供は何人くらい欲しいですか? 子供達にお受験はさせますの? 老後はどんな計画を?」
異世界アースプラネットで逆プロポーズしてきたエリスは、生まれた時から勇者であるオレに嫁ぐと決められていたそうで、オレと結婚する気全開である。
というより、いつの間にか異世界での冒険の仲間たちは、みんなオレの嫁になるつもりらしい。異世界アースプラネットは一夫多妻制なので、勇者がたくさん嫁をもらうのは当たり前のことだそうだが……。
今の状況は非常に困る。普通の男なら美少女エリスに迫られて悪い気はしないだろう。
だがオレは女アレルギーだ、万が一何かの間違いでも起きたら女アレルギーの発作で命の危険も……。
ジリジリと迫り来る美少女エリスに、女アレルギーの反応が出始める……。
あやうく生命の危機を感じたが、勘がいいのか、超美少女に見える男の娘転校生、
その日の夜はみんなでチョコレートフォンデュを食べて、バレンタインらしい楽しい夕飯となった。
* * *
一方その頃、異世界アースプラネットでは、古城で魔族達のパーティーが開かれた。
特に最近社交界デビューを果たした、美しいゴスロリドール財閥のご令嬢に注目が集まった。華やかで妖艶なドレスに身を包み、年齢より少し大人びたメイクを施した美少女は、新しい社交界の華と呼ばれるようになった。
そして、本来旧魔王一族が座っていた玉座に導かれるように座り、魔物達を操るチカラを秘めたティアラをつけた彼女を、新しいアースプラネットの女性魔王にしようと意見が出始める。
次の日、アースプラネットは政権交代と、新しい女性魔王ゴスロリドール財閥のご令嬢カノン姫の話題で持ちきりになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます