第38話 神に近い存在と謳われた古代龍


 スマホゲーム『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のマルチプレイ募集欄で見つけたクエストに参加する事にしたオレ。


 現実世界東京都立川市にある自室でスマホ画面をタッチし、アプリゲーム内の冒険に旅立ったハズだが、気がつくと赤い月に綺羅星が輝く古城の目の前にワープしていた。



 * * *



 コウモリがキイキイ鳴いていて雰囲気出ている。これが噂の魔王城こと古城なのか……。


 ゴシック風の巨大な城は、吸血鬼か何か住んでいそうである。空気が少し肌寒いが、ついさっきまで着ていたジーパンにパーカーというラフなファッションではなく、RPG風のグリーンのマントに冒険者用装備に身を包んでいる。愛用の武器である銀色の棍も装備済みだ。


 まさかこんな形で再び異世界転移することになるとは……。


 突然の展開に戸惑っていると、オレの背後から聞き覚えのある清楚で可憐な美しい声が明るくフレンドリーに話しかけてきた。


「あっ、やっぱりイクトさんでしたか? 魔王城のお宝探し、頑張りましょうね!」

 声の主は、オレの異世界での旅仲間清楚系美人賢者のマリアである。このクエストのリーダー『ギャンブル大好き賢者マリア姫』さんの正体は、本当にオレの知り合いのマリアだったというわけだ。


 他の参加メンバーである白キツネさんとオヤジプルプルさんも無事到着し、いざクエスト! となった。


「いやあ、こんなところで再会するとは奇遇ですなあ」

 レベル99∞という超ハイレベルなメンバーは、やはりスパで会ったオヤジプルプルさん本人だった。

 不思議な縁を感じる。ところでプルプルさん、水まんじゅうによく似ていて可愛らしく、とてもオヤジには見えないんだけど一体何歳くらいなんだろう?


 オレ達がのんびり交流を深めていると白キツネさんが、「いきなり古城のクエストに挑むなんて君達も大胆だね……油断しないように」と軽く忠告をしてきた。

 確かにいきなり魔王城に潜入するなんて大胆だけど、ラスボスの魔王真野山君は現在家出中だし、何とかなるだろう。


 オレ達が古城の門の前に立つと、触れてもいないのに城の大きな扉がギギギギギ、と勝手に開いた。怖い……入れという事なのか?


 古城の庭はかなり広く整備されていて、まるで公園のようだった。ただ古城の周囲は、特殊な魔力結界の影響があるそうで常に薄暗い空だという。時刻は昼前なのに、夜の公園を散歩しているような薄暗さだ。

 庭の中央に位置する巨大な噴水やガーゴイルのモニュメントを通り抜け、ついに城の中に入城した。城の中はステンドグラスがあらゆる所にあり、不思議な虹色の光がシャンデリアの光も相まって大理石の床を照らしている。


「やれやれ……まさかこんなカタチで、異世界に飛ばされるとはね……ボクはアイドルのマネージャー業で忙しいのにさ」


 いろいろと口煩い白キツネさんだが、彼はたしかオレの妹アイラのアイドルユニット『アイラ・なむら』のマネージャーである。マネージャー白キツネ……。今日は祝日でライブイベントがあるはずなのに、アプリで遊んでいたのか?


 オレの疑う視線に気づいたのかコン! と咳払いをして、白キツネさんはふわふわの尻尾を揺らしながら、何やら言い訳をし始めた。


「おっと、勘違いしないでくれよ。ボクがマルチプレイに参加していたのは、若者の流行を調べる……市場調査なんだよ。ボクみたいな仕事は、流行に遅れたら終わりだからね!」

 気まずいのか何なのか……可哀想なので、これ以上追及しない事にする。


「プルプル……私なんかが、こんな大きなお城に入れる日が来るなんて……感動しますなぁ……」


 するとリーダーの賢者マリアが、張り切って言った。


「今日は私がリーダーなんで、仕切らせてもらいますね! 今は魔王様が家出中で不在……ふふふ……。お宝をゲットするチャンスですよ! ガンガン宝箱を探しましょう!」


「おー‼︎」


 一応、リーダーの言う通りにするオレ達。



 * * *



「っていうかここって、魔王様こと謎の男の娘転校生、真野山葵(まのやまあおい)君の実家だよね? いいのか? 勝手に入って?」

 そんなことは気にせずズンズン先に進むリーダーマリア。やがて、いかにもお宝が眠ってそうな重厚な扉の一室に入室し、予想通り赤と金でデザインされた宝箱を見つけ出した。


「宝箱発見!」

 マリアは宝箱を開けた! 中には『魔王様プロマイドカードコレクションコスプレスペシャルB』が入っていた!


【お宝説明】

 超美少女に見える男の娘、真野山葵君のメイド服や魔法少女のコスプレ浴衣衣装などの、萌え萌えカードコレクションだ。


 ⁇


 これが魔王城にとっての超重要なお宝なのか? 予想外のお宝に動きが止まるマリアをよそに、白キツネさんがサッと動いてマリアからトレーディングカードを奪った。


「これはすごいレアカードだね……悪いけどこのカードは、アイドルマネージャーであるボクがもらうよ。いろいろ参考にするからね」

 白キツネマネージャーは斜めがけのカバンの中にコレクションカードをしまった。


 そうこうしていると城の衛兵が歩いてきた。見つからないように物陰に隠れるオレ達、相手は全身をイカツイ鎧に身を包んだ衛兵達だ。


 衛兵Aが何やら愚痴り始めた。

「葵たそが家出して、もう1週間以上経つのかーもうこんなブラック企業辞めちゃおっかなー? 葵たそがいないと全然萌えないし、勤めている意味ないっしょ? こんな職場?」


 すると衛兵Bが、衛兵Aの離職を引き留める。

「葵たその性別確認するまでは、この会社辞めないってみんなで誓い合っただろ? あっでも葵たそが女の子だった場合、伝説の勇者のお嫁さんになるんだっけ? ……勇者まじウゼェ……」


 衛兵Cがどこで仕入れたのか、余計な情報を語る。

「それが、オレ達のアイドル葵たんはすでに伝説の勇者と接触していて、腕を組んでラブな状態で学校に通っているんだとか……。あーあ勇者が弱いうちに攻撃しておくんだったよ」


 どうやら魔族たちの間で超美少女に見える男の娘、真野山葵(まのやまあおい)君が人気地下アイドルだという話は本当だったようだ。しかも、既にオレと仲良く登校していた事が噂になっている。なんだか物騒な話しているな……早く帰りたいんだけど……。


 衛兵Dが意地悪そうに、こちらをチラチラ見ながら他の兵士達に提案した……。

「勇者ってまだレベル30過ぎたばっかなんだろ? どうする? 今そこの物陰に隠れてるやつらから、試しにやるか?」


「……⁉︎」

「オレ達が隠れてるのバレてるよ? どうするのこれから⁈」

「仕方ない……戦闘ですね! 私の覚えたての攻撃呪文をお見舞いします!」

「まったく、来たよ! 構えて!」

「やれやれですなぁ」


『テレリララーン!』

 衛兵達が襲いかかってきた!


 衛兵Aの先制攻撃! 痛恨の攻撃! イクトに大ダメージ!

 恐ろしいことに衛兵は今までの雑魚モンスター達と違い、目一杯攻撃してきた。

「グアアああああああ!」

 あまりの痛みに絶叫をあげて、ゴロゴロと大理石の床に倒れこむオレ。


「イクトさん⁉︎ ……神聖なる回復の白の精霊よ、この者の傷を癒し光を与え給え……」

 突然の展開に焦りながらも、賢者マリアが必死に回復呪文を詠唱している。


 混乱する中、衛兵Aが勇者イクトにさらなる攻撃をしようとした、瞬間オヤジプルプルさんが前に出てイクトをかばった……。水まんじゅうのようなプルプルした小さな身体で立ち塞がるオヤジプルプルさんを、馬鹿にしたような態度で衛兵達は見下す。

 だがオヤジさんはポインポインとジャンプして、衛兵達に説教をし始めた。


「プルプル……おやめなさい! 君たち! 君たちは若者の恋愛に嫉妬して恥ずかしくないのかね⁈」


 衛兵Aがケッと笑って、小さな身体でオレ達を必死に守ろうとするオヤジプルプルさんをバカにしている。

「なんだぁ、ザコモンスターのプルプルじゃん?」

 衛兵Bもオヤジプルプルさんを小馬鹿にしている様子で……。

「雑魚モンスタープルプルのくせにナマイキだなぁ、お前もまとめて片付けてやるぜ!」


 衛兵達に説教しても無駄だと判断したのか、ユラリとオヤジプルプルさんから見たことのないような異質なオーラが漂い始めた。まるでラスボスか何かのような……。


「……仕方ありませんね……。あなた達のような格下に、本気を出すのは私のポリシーに反しますが……いいでしょう?」


『オヤジプルプルは煉獄のブレスを吐いた! 衛兵達に99999のダメージ! 衛兵達を倒した!』


『テレレレレレレレレーン!』

 イクト達はレベルが上がった!


(すごい……強すぎるぜレベル99∞のオヤジプルプルさん……)


 オレは痛恨の攻撃で薄れていく意識の中で、オヤジプルプルさんの小さな背中をリスペクトした。

 気のせいかもしれないが、オヤジプルプルさんの影が大きなドラゴンか何かのカタチに見えてしまった。


「まさか……あのお方がこんな姿で生きていらっしゃるとは……?」


 かつての伝説の魔王……神に近い存在と謳われた古代龍の参謀を務めていた白キツネは、オヤジプルプルさんが放つ攻撃技を見て、遠い過去を思い出していた。

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