第37話 祝日のアプリゲームは大盛況


 実は家出してきた魔王だった謎の男の娘転校生、真野山葵(まのやまあおい)君。

 衝撃の告白の翌日、オレが自室で午前中のティータイムを過ごしていると、昨日は心配かけてゴメンねとメールが届いた。


 お詫びに真野山君が主催する、ゲームのマルチプレイの会合に招待してくれるそうだ。


 ゲームのタイトルは『蒼穹のエターナルブレイク』という、異世界を舞台にした剣と魔法のファンタジーRPGだ。


 このゲームは、時代設定や文明が現代の地球とリンクしていることが特徴で、剣も魔法も使えるが電気もガスもバリバリ使えるのが最大のウリである。

 便利な生活に慣れてしまった現代人でも実際に暮らせそうな異世界と言ったところだろうか。


 異世界アースプラネットが現実世界と融合し始めて、しばらく経つ。この異世界を舞台にした『蒼穹のエターナルブレイクシリーズ』は知名度と人気をあげていた。



 * * *



「せっかく、誘ってもらったしちょっと様子を見てみよう。確か、アプリ自体はとっくにダウンロードしているんだよな。あとは、最新情報を取得できるように更新をして……おっデータ量が多いな」


 真野山君に誘われたので、スマホにゲームアプリの更新データをダウンロードしてみる……壮大なオープニングテーマが流れ始め、鮮やかなムービーが目に飛び込んでくる。


『地球のよく似た異世界アースプラネット、現実世界と大きく異なる点は現代的な科学文明と並行して、古代文明からの魔法やモンスターなどのファンタジー要素が受け継がれている点だ。プレイヤーは選ばれし冒険者の1人として伝説の勇者イクトスの足跡を辿り、やがてこの異世界の真実を発見するのである……』


 意外なことに、アプリ版ではすべてのプレイヤーは冒険者という括りで、勇者として冒険しているわけではないらしい。

 そのうち、職業勇者が実装されるという噂もあるが、現状では冒険スタート時点で勇者になれる人物はいない。そして勇者の職業も今のところ実装されていない……本来は。


 だが、確認ステータス画面を見るとすでに『勇者イクトレベル32』と登録されていた。

 どうやらオレの今までの異世界での冒険は、このアプリゲームにすべて記録されているらしい。そして、オレの職業は他の冒険者達と異なり、いわゆる『勇者』というものに固定されているのであった。


「勇者イクト……なんだか、あの異世界で冒険していたことが夢のように感じるな。もしかしたら、本当にスマホゲームをプレイしているだけだったのか? いや、魔王の真野山君の登場……確かに現実の出来事なんだろうな」


 今日は2月の祝日……かなり寒いこともあり、外に出て遊ぶことは諦めて室内でスマホゲームに興じる人も少なくないだろう。


 この手のスマホゲームは、期間限定クエストを設けて季節ごとの楽しいクエストを開催するのがお約束だが、蒼穹のエターナルブレイクシリーズも例外ではなかった。

 ゲーム内の特別イベントが開催され、かなり盛り上がっているようだ。


「うーん、なんていうか装備やアイテムをもっと充実させたいな。せっかくマルチでイベントクエストをこなす訳だし、男としては見栄を張りたいよな。やっぱ!」


 超美少女に見える男の娘の真野山君……実は魔王様という告白も衝撃的だった。が、オレ個人としてはあの可愛さで男の娘ということの方が受け入れ難くて、どこかでまだ女の子なんじゃないかと期待している。


 と、なるとやっぱりカッコつけたくなるのが男のサガというもので……。イケてる装備やアイテムの手に入るマルチで準備をしたくなったのだ。



 * * *



 マルチプレイには合言葉を使って決まったメンバーと楽しむタイプと、フリーで全国の人たちと遊ぶタイプの二種類から選べる。

 真野山君とのマルチプレイの約束まで、まだだいぶ時間がある。フリーのマルチプレイで道具を集められるクエストを探そう。


「えっと、お宝を探せそうなクエストは……」


 女アレルギーの連続発症により、何度も倒れた所為で体調が万全でない事もあり、外出は控えて自室でレモン紅茶とバタークッキーでまったり祝日を過ごしていたものの、昨日の事もありいまいちノンビリ出来なかった。


 これは、ちょうどいい気分転換になりそうだ。それに少しスマホゲームで遊ぶくらいなら、病み上がりの自分でも大丈夫だろう。楽しい音楽が鳴る画面を確認して、ワクワクしながらマルチプレイの仲間募集欄にログインした……が。


「ご希望のパーティーはすでに旅立っています」


「このパーティーはすでに解散しました」


「このパーティーは人数がいっぱいです」


 混みすぎだろこのマルチプレイ……。

 祝日効果も手伝い、マルチプレイは大盛況である。なかなか希望のパーティーに入れなくて困っていると、1つだけ常時募集中のパーティーがポツンとあった……。


【クエスト:魔王城のお宝をゲットせよ!】

 リーダー:ギャンブル大好き賢者マリア姫。

 メッセージ:カネが貯まるアイテムを各自持参してください。

 希望レベル:私より強くてボスを一撃で倒してくれる人。

 その他:金策で困っています!


「これは……! なんて分かりやすい文章なんだろう……楽して金儲けしたいという情熱、自分よりレベルの高いプレイヤーへの依存性、そのリーダーの名はギャンブル大好き賢者マリア姫?」


 オレの脳裏には、例の黒髪清楚系美人キャラにも関わらず元ギャンブラーという賢者マリアの顔が浮かんだが、このマリア姫さんがオレの仲間のマリアとは限らない……あくまでも相手の素性が分からないところが、マルチプレイの不思議なところだ。


 しかもこのクエストの『魔王城』って、あの超美少女に見える男の娘転校生、真野山葵(まのやまあおい)君の住んでいた城なのでは?

 いろいろと謎が多いクエストだが、アプリゲームと異世界アースプラネットの関連性はイマイチよく分からない部分もあり、深く考えないことにした。そんな訳で、怖いもの見たさでこのパーティーに参加することにしたオレ。


 はじめはオレとマリア姫さんの2人だけだったパーティーに、ポツポツと人が集まりだした。


【リーダー(メンバー1)】

 レベル:21

 ギャンブル大好き

 賢者マリア姫


【メンバー2】

 レベル:32

 女アレルギー

 勇者イクト


【メンバー3】

 レベル:53

 疲れたアイドルマネージャー

 白キツネ


【メンバー4】

 レベル:99∞

 温泉通いが趣味

 オヤジプルプル


 正確には他の二人( ? )は人ではなく、モンスターのアバターである。白キツネさんは名前の通り白キツネモンスターのアバターだが、職業は何故かアイドルマネージャーという冒険とは何の関係もなさそうなものである。


 そしてもう一人( ? )のメンバーであるオヤジプルプルさんは、水まんじゅうによく似た雑魚モンスタープルプルのアバターだ。おそらく職業もプルプルなのだろう。

 温泉通いが趣味というと、スパで出会ったプルプルさんを彷彿させるが特に目を惹くのはそのレベルであった。


 レベル99∞だと……? しかも普通のレベル99ではなく、スキルをすべて極めしものだけに表示される特殊な∞(無限大記号)付きで表示されている。


「オヤジプルプルさんだけレベルがずば抜けて高いな。一体、何者なんだろう? でもまあ、高レベルプレイヤーがいた方が全滅の心配もないし、安心してプレイできるな」


 出発準備が整ったところで、冒険開始の号令が笛の音とともに表示される。


「よろしくー」

「よろしくー」

「よろしゅうなー」

「よろしくー」


 マルチプレイ用の会話スタンプであいさつを済ませ、未知のクエストに旅立った。

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