第18話 白銀系生物愛護協会
白銀プルプルとは……?
『ザコモンスタープルプルの亜種で、白銀バージョンのプルプル。白銀系には他に、ヤンキー白銀プルや白銀プル親方などが存在する。弱点は聖水1匹討伐の経験値が非常に高く、白銀狩りと称して冒険者達に乱獲されており、絶滅が危惧されている』
機械的な音声が、白銀プルプルに関する情報を読み上げてくれた。どうやら、白銀プルプルというモンスターはいわゆるゲームのレベルアップのために組み込まれた、都合の良いレアキャラのようだ。
きっと、この転職の神殿が白銀プルプルの生息地側に作られているのも冒険者がお手軽にレベル上げして、気軽に転職できるようにサービスしているのだろう。
スマホのモンスター図鑑で白銀プルプルについて調べると、狩りに向けてスタンバイしている仲間の姿がチラリとよぎった。
「ふんふんふーん! お手軽レベル上げで賢者に転職ー!」
転職活動に希望が見え始めているのか、アホっぽい鼻歌を歌いながら聖水を並べているマリア。
賢者に転職して人生の逆転を図ろうとしているギャンブラーマリアは、つい最近まで修道院を拠点にしながら勉強していた自称白魔導師だったので、聖水だけはたくさん持っているそうだ。
「見ててくださいね、イクトさん。私、賢者になったら、攻撃呪文でいっきに敵を倒して1ターンで戦闘を終わらせてみせますよ。これまでの攻撃呪文不在パーティーとはひと味違います」
ギャンブラーと白魔導師のレベルを両方、11レベル上げなくてはいけないと聞いた時は転職を諦めかけたが、案外手軽に白銀狩りが出来そうである。
「マリアにだけ、戦わせるわけにいかないし、オレ達もレベル上げしたいし、一緒に頑張ろう」
転職の神殿ハロー神殿の武器屋で、白銀狩り専門の武器を思い切って購入したオレ達。
「にゃーん、この武器猫爪っぽくていけてるニャン」
「アタシは、エルフっぽく、妖精の吹き矢かな? 一撃で、経験値ゲットだぜっ」
ミニスカ猫耳メイドミーコは猫爪の武器、金髪エルフのアズサは吹き矢で白銀狩りをするつもりらしい。ちなみにオレは『聖水の棍』という狩りに適した新装備をゲットしている。
「やつらは素早いことで有名なので、スピードを上げると良いですね。特殊防具でカバーしましょう」
「このシリーズ、素早さが上がるって書いてあるにゃん。ちょうど、デザイン変更セールでアウトレットなのにゃ」
「素早さが上がれば、旧デザインでもいいよ。おっなかなかシンプルだな。いろんな職業に合わせたデザインがあるぞ」
全員防具は、素早さをアップさせる『不思議な冒険者シリーズ』で揃えた。デザインも、勇者風やメイド風など多種に渡り、今のオレ達にぴったりだ。
常に金欠状態で冒険していたオレ達パーティーだったが、ハロー神殿の格安宿屋とアウトレットセール装備のおかげで、随分と余裕が生まれてきた気がする。
中級の武器を装備している仲間達の姿を見ると、まるでそこそこ強い冒険者パーティーのようで、感慨深い。
「地道に冒険してきて良かったな。このゲームって、一応バランスを図るために色々工夫してあるんだ」
「ふふっなんだか、一流冒険者の仲間入りが出来そうですね」
「よしっ移動のために、ちょっとじいやさん達に頼んでみるかっ」
問題は、あの頑固なじいやさん達ペガサスが、狩り場まで連れて行ってくれるかだ。なんといっても、この辺りのモンスターは、本来レベルが高めである。レベル上げをほとんどせずにここまできてしまったオレ達にとっては、一度の戦闘も命がけだ。
なるべく、敵に出会わず白銀プルプルの生息地に行って、効率的に狩りを行いたいのだが。
「……というわけで、白銀プルプルがたくさんいる自然公園に移動したいんですけど……」
オレは、ネオフチュウで知り合いになった流れで冒険の仲間に加わった、ウマ族のじいやと姫に白銀狩りポイントへの移動を告げた。
さらに付け加えて説明すると、白銀狩りポイントへの移動は道が険しいせいで、馬での移動が最適だという。
だが、頭の固いウマ族のじいやは、なかなか首を縦に振ろうとしなかった。
「パカパカ……白銀プルプル狩りですと……最近の若者は、すぐ楽してレベルアップを図ろうとする。じいは情けなくて涙が出ます。そんな白銀狩りポイントに、このじいやのチカラを使おうというのですか……? おお! 嘆かわしい! そんなことではいつまでたっても、一人前の勇者にはなれませぬぞ!」
ヒヒンっ!
ウマ族のじいやは、もっと努力をするようにとオレ達に促す。どうやら説教癖があるようだ。やっぱりな……まあこのじいやの言う努力って風水を行うことなんだけどさ。
「にゃー、レベルが上がればお金ガッポリで、美味しいリンゴやニンジン毎日食べれるにゃん! おウマさんも、協力してほしいにゃん! きっと風水的にも意味があるポイントなのにゃん。パワースポットなのにゃ」
「美味しいニンジン……風水的なパワースポットですと……ふむ、そこまで言われたら仕方がないですな」
ミーコは、前世がオレのペットの猫だっただけに動物系と話が合うようだった。ミーコの説得で、じいやはあっさりオレ達を、白銀プルプル狩りの名所自然公園に連れて行ってくれた。
* * *
「なんだか、普通の公園ですね。憩いの場って感じですけど……」
「いや、あれ見ろよ……立ち入り禁止の区域がある」
ボール遊びをする幼いエルフ達や、ベンチに座りノンビリと会話をする人間のカップルなど、人種の垣根を越えて憩いの場とされているネオシンジュク屈指の自然公園。
楽しむ一般客を他所に、立ち入り禁止のエリアに特別許可を得て乗り込むオレ達。見たところ普通の森に見えるが……さっそく、草むらから白銀プルプルが現れた。
「銀プルー、ボク悪いモンスターだよ!」
プルプル!
可愛らしい容姿のモンスターを狩るのも申し訳ないが、これも一流冒険者の務めである。そんな事を考えていると、賢者を目指すマリアが容赦なく白銀プルプル目掛けて攻撃を仕掛けた。
マリアは聖水をかけた!
「銀プルー」
白銀プルプルをやっつけた!
『テレレレテレレレレーン!』
イクトはレベルが上がった!
マリアはレベルが上がった!
ミーコはレベルが上がった!
アズサはレベルが上がった!
白銀プルプルは公園内を散策していただけかも知れないが、運が悪かったのか討伐されてしまった。最初は心が傷んだものの、あまりのレベルアップの速さに、思わず我を忘れて白銀狩りにのめり込んでしまう。
「なんだか、可哀想かな……いや、でも経験値には代えられないし、ごめんな!」
「あなた達の経験値……無駄にしませんからっ!」
次々と狩られる白銀プルプル達……。
そして、レベルもぐんぐんと順調に上がっていった。スマホから、レベルアップのファンファーレサウンドが鳴り響く。
「すごい……この調子なら、あっという間に転職可能レベルに到達だ!」
「どんどん聖水で白銀狩りするわよ!」
『おー!』
オレ達が白銀プルプル狩りで盛り上がっていると『ピピーっ! 』と笛の音が鳴った。
せっかく盛り上がって来ているのに、一体何が?
狩ろうとしていた白銀プルプル達が、ぽいんぽいん飛び跳ねて一目散に逃げてしまう。振り向くと、そこには金髪ショートヘアの美少女エルフの姿があった。
「そこの冒険者達! 私は、白銀系生物愛護協会のものです! 今すぐ、白銀狩りを止めなさい!」
スタッフジャンパーを羽織っていて、胸には愛護協会の札をつけている。
「ちょっと待ってよ、オレ達ちゃんとハロー神殿から白銀狩りの許可を得ていて……」
オレは白銀狩り許可書を愛護協会のエルフに見せようとするが、彼女はオレ達の仲間に気を取られていてまったくみようとしなかった。
そういえば、このエルフの美少女……何処かで見たことのあるような顔立ちだ。
ショートヘアとすっぴん風メイクのせいで気づかなかったが、仲間の金髪ロングヘアエルフのアズサを幼くしたような容姿である。
これは一体?
オレの疑問は、次の瞬間に解消された。
「姉さん? アズサ姉さんなの⁈」
「ミーナ……ミーナなのか⁈」
それは、仲間であるアズサにとっては突然すぎる……姉妹との再会だった。
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