第19話 猫は野性のハンターにゃ

『ぷるるるるるー!』


 ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん! ザザッ! サササササーッ!


 とある公園の立ち入り禁止区域内に生息する、白銀色のプルプルとした可愛らしいモンスター。


「おいっマリア! そっちに白銀がっ!」

「任せてください! 必殺、聖水アタックっ」

『プルーッ!』


 テレレレレーン! 白銀プルプルをやっつけた! 


 イクト達は通常の7倍経験値を取得した。イクト達のレベルが上がった!


「やったぁ! レベルアップだっ。白銀達には悪いけど、こんなにさくさくレベルが上がるなんて……やめられないよな」

「にゃーん! このまま、白銀狩りだけで一流冒険者の仲間入りを果たすのにゃん。効率の良いレベル上げってすごいのにゃ」

「うふふ、もうすぐ賢者、私が賢者! うっ思わず胸がドキドキして……」


 レベルと同時にテンションの上がっているマリアが小躍りしながら抱きついてくるなど、女アレルギー持ちのオレにとって嬉しくも危険なアクシデントに見舞われながらも、順調な狩りを進めるオレ達。


 今オレ達が行なっているバトルは、レベルアップのために経験値の高い『白銀プルプル』を狩る、通称『白銀狩り』だ。


 だが、世の中にはそんなに上手い話があるわけもなく、突然白銀狩りが中断されてしまう。

 白銀プルプルを保護するための団体白銀系愛護協会の登場だ。あまりのハイスピードな狩りに、白銀プルプル達も危険を察知して協会に連絡したのかもしれないな。


 突然現れた白銀系生物愛護協会の金髪ショートヘア美少女エルフの動きが止まる。オレ達を注意してきたものの、様子が何かおかしい……。

 同じエルフ族であるエルフを見た瞬間に、笛を手にした手が止まり、しばし沈黙したのち駆け寄りながら涙ながらに説得し始めた。


「姉さん? アズサ姉さんなの⁈」

「ミーナなのか⁈」


 どうやら、このミーナという美少女は仲間のアズサと姉妹のようだ。アズサは一応、オレ達の仲間であるエルフだが……。

 そういえば、マリアの友人ということでいつの間にか仲間に加わっていたアズサの事を、オレはどんなエルフなのかまったく知らない。


 だから、もちろん家族構成を知る由もなく、ただ黙って姉妹の再会を見守るしかなかった。



 * * *



「姉さん……私達は自然と動物を愛するエルフ族よ! 白銀狩りなんて止めて!」

「ミーナ……今のあたし達には、白銀狩りがどうしても必要なんだ! 許可書もちゃんと貰っている。違法じゃないんだ! わかってくれ!」

「姉さん……!」


 なんだか、姉妹で揉めているようだ。流石エルフ族というか何というか、可愛らしい白銀プルプル達がレベル上げという名目で、どんどん狩られて行くことに危機感を感じているらしい。

 必死に、姉であるアズサを説得している。


「どうします? イクトさん、なんだかアズサの妹さんショック受けてるみたいですよ」

「エルフ族って自然を守らなきゃいけないんだろう? そのエルフ族の姉が、まさか白銀狩りしてるだなんてショックなんだろうし……」

「にゃあ、アズサもいつものノリノリの雰囲気じゃないですにゃ。なんだかタジタジですにゃん。姉妹って大変ですにゃ」

 いつも明るく強気なアズサがたじろぐ姿を見るのは、初めてのような気がする。


「姉妹か……懐かしい光景だな。もしかしたら、オレにも妹のアイラ以外に姉の誰かがいたのかもしれない。地球での家族構成を完璧に思い出せているわけじゃないから分からないけど。でも、なんとなくこういうのは見守るしかないのかもな」


 アズサばかりを説得しても無駄だと踏んだのか、ミーナはくるりとこちらを向いて『あなた達も勇者一行なら、もっと白銀プルプル達をいたわるべきだわっ』と、オレ達のことも説得に入り始めた。


「あんなに可愛い無抵抗の白銀プルプル達を討伐して、人間の心が痛まないの?」

「うっっ!」


 確かにオレだって、罪のない白銀プルプルを狩りすることに最初は抵抗があった。

 だけど、仲間のマリアを上級職の賢者にした方が今後の冒険もきっと順調に行くし、伝説では勇者のパーティーが魔王を討伐しなくてはいけない。

 今回の狩りは仕方のないことなんだ……平和のためなんだ……!


 だけど、本当に良いのだろうか?


 自然公園でノンビリと暮らしている、か弱い白銀プルプル……もしかしたら、さっき狩りした大人の白銀プルプルには、お腹を空かせた小さな白銀プルプル達が、巣で帰りを待ちわびているかもしれない……。


「オレは、一体なんて酷いことを……!」

「ごめんなさい、白銀さんたち……おお神よ。私がこれまで白銀狩りをしてきた事をお許しください」

「ミーナ、アタシもう白銀狩りしないからさ……落ち着いてくれよ」


 白銀系愛護協会のミーナが、自然と動物を愛する大切さについて熱弁する中、オレも仲間達も罪悪感に見舞われて、すっかり白銀狩りを辞めてしまっていた。


 約1名……いや1匹を省いては……。



 * * *



 前世オレのペットの黒猫だった猫耳メイドミーコは、完全に猫時代の本能が目覚めてしまったのか、白銀狩りに情熱を注いでいた。


「にゃー! 前世の血が騒ぐにゃー! もっと狩りたいのにゃー!」

 ミーコの必殺スキル猫爪ひっかき!


「にゃー! バリバリ!」

「プルー!」

 白銀プルプルを倒した!

『テレレレレレレレレーン!』

 イクト達はレベルが上がった!


 草むらを掻き分けて、目ざとく白銀プルプルを見つけ出し、猫爪武器で激しく、そしてしなやかに狩りを続けるミーコ……。


「にゃー! バリバリ!」

「プルー!」

『テレレレレレレレレーン!』

 イクト達はレベルが上がった!

 鳴り止まない、冒険者スマホから流れるレベルアップのファンファーレ。


「にゃー! バリバリ!」

『テレレレレレレテレーン!』

 イクト達はレベルが上がった!

 以下略……。


 途中、ランチ休憩でサンドイッチセットを売店で購入して休んだり、ティータイムにスコーンを食べたり、ほとんどピクニックのようなエルフ族らしい説教の仕方だった。

 ちなみに、サンドイッチセットはツナサンドが個人的に1番美味く、ペットボトルのレモンティーとよく合っていた。

 その間もずっと、白銀系愛護協会特有の弁論は続き、オレ達はすっかりただのピクニック観光客状態となり、野生の元黒猫、現猫耳メイドミーコだけがひたすら狩りをするという、謎の状況が展開される。


 次第に、夕焼け色に公園内も染まり始め……。


「……もう夕方だわ……姉さん、とにかく今後は白銀狩りはしないでね!」

 校長先生の朝礼のお話を遥かに上回る、やたら長い説教を終え、白銀系生物愛護協会のミーナは去っていった。


「……今……イクトさんレベルいくつですか? 私はレベル34になっていました」

 と、ギャンブラーマリア……。


 冒険者スマホのステータス画面を確認すると、イクトレベル32となっている。


「すごい……今日の朝までレベル9だったのに……」


「にゃー! 久しぶりに狩りができて、楽しかったのにゃー!」

 白銀プルプルを狩り尽くしたミーコは、とても満足そうだ。



 * * *



 宿屋の部屋に戻り、ネオシンジュクのデパ地下で購入した豪華惣菜を並べて、ちょっと贅沢なマリアの賢者転職前祝いをしていると、テレビで緊急特番が始まった。


『緊急ニュースです。白銀系絶滅危機か⁈ 本日、ネオシンジュク付近の自然公園に生息する、白銀プルプルの生存数が急速に減った、との報告がありました。通常の冒険者の白銀狩りでは、不可能な数の白銀プルプルが狩られており、外来種が自然公園に持ち込まれたとみられています』


「外来種……? ミーコの前世は、ごく普通の黒猫だったはずだが?」

「イクトさん、このチキンの野菜巻きものすごく美味ですよ! ほら、取ってあげますね」

 甲斐甲斐しくオレの惣菜を盛るマリア、こうしていると凄く良いお嫁さんになりそうである。


「おおっ悪いなマリア、今回のパーティーの主役はマリアなのに……うん美味い! たまにはデパ地下の惣菜もいいよな」

 ニュースの内容が気になるものの、普段は買うことのない美味しい惣菜に気を取られてしまい、再びお祝い会を満喫し始めた。


「にゃー! 今日は、楽しかったのにゃー!」


 すっかり前世猫時代の野性を取り戻した、猫耳メイドのミーコ……スマホのミーコのステータス画面は、いつの間にかメイドさんから、『ハンター』という職業に自動で変わっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る