第20話 転職する仲間達
「今日からマリアさんは、上級職賢者に転職します……儀式を行いますので皆さんも神に祈りを捧げてください…… 」
聖なる光がふわりと舞い、厳かな空気が辺りに漂う……小さな泉が設置された儀式部屋では、『自称白魔法使いでギャンブラー』という修道院出身とは思えないような職業設定だったマリアが転職の儀を受けていた。
(マリア……大丈夫かな? 本当にレベルが上がっただけで賢者に転職できるのだろうか。いや、でもマリアって見た目は清楚でいかにも頭が良さそうだし……本当は賢者になれる素質の持ち主なのかもしれない)
不安で胸が苦しいが、マリアと古い友人のアズサもどこか不安なのかそれとも緊張しているのか、そわそわしながらマリアに小声でエールを贈っていた。
ミーコは、元がオレのペットの猫だっただけに、なんだか余裕の表情だ。むしろ儀式に興味津々の様子で、エリスがかざす光る杖に注目してしまっている。
ピカッ! 眩しい光がマリアの頭上に輝く。
「うっ……これが、転職の光か……マリアは、マリアは無事なのか?」
すると、光に包まれたマリアが、まるで生まれ変わったかのように落ち着きを払った表情でゆっくりこちらを振り向き……。
『私、なんだか今まで見えなかったものが、見えるようになった気がします……これは知識の泉でしょうか……魔力が溢れて……』
「おいっマリア、しっかりしろっ。って、すごい魔力だな……オレにも見えるくらい魔法の光がマリアの身体から溢れている……これって攻撃呪文がたくさん使えるようになった影響なのか……」
急激に魔法力が上がった影響で、ふらつくマリアを受け止める。白い転職の儀式用ローブに身を包んだマリアの身体はしなやかで、細身ながら巨乳でスタイルの良い肉体を抱きとめた拍子に感じ取る。
普段なら、女アレルギーが出てしまいそうな密着ぶりだが、それ以上にマリアのことが心配で不思議とアレルギーが出なかった。
「んっイクトさん、ありがとう……私、これからお役に立てるように頑張りますね」
パチパチパチパチ……儀式の成功を確信したのか、一緒に祈りを捧げてくれていた巫女たちが一斉に拍手を贈る。
「儀式は無事に成功しました……マリアさんは、今日から上級職の賢者として活動できます。急激に魔法力を上げる形になったので、大事を取って休んでください」
にっこりと微笑むエリスは、まるで天使のように清らかで美しい。そして、エリスの杖からは儀式を行ってもなお魔力のオーラが衰えない……これが神官のチカラなのか……。
最初は、いきなり逆プロポーズしてきた夢見がちな乙女だと思っていたエリスが、こんな神がかった技を使いこなせるなんて……。
「神官エリスさん……マリアを転職させてくれて、ありがとうございましたっ」
「ふふっ当然のことですわ……では、私も休みますので……」
* * *
賢者は攻撃呪文、回復呪文、補助呪文をバランスよく使いこなすことが可能だ。
今まで攻撃呪文を使える仲間がいなかったうえに、バトルの要だった格闘家アイラが抜けてしまい、戦力はガタ落ちだった。
攻撃魔法、回復魔法を使いこなせる賢者がいれば戦力も安定するだろう。宿泊施設に戻り、マリアをベッドで休ませて、ほっと一息つく。本当に疲れているのはマリア本人なんだろうけれど……。
「ようやくまともな戦闘ができる……ここまで大変だったな」
ソファでぼんやりと天井を眺めてつい呟くと、オレの疲れを察したのかアズサが労うように、冷蔵庫で冷やしておいたジャスミンティーのペットボトルを手渡してくれた。
経験値が高い事で有名な『白銀プルプル』を狩る『白銀狩り』のおかげで、平均レベル10未満だったオレ達のレベルは32前後まで上がっていた。
賢者に転職したマリアは、レベル1に戻ってしまったが、賢者は上級職なので基本的なステータスが高く、バトルの負担になることはないそうだ。
「一休みしたら、アタシ達からマリアに何かお祝いの品を買ってあげよう! せっかくの初上級職だしさ」
アズサの提案で、ネオシンジュクのデパートで転職のお祝いに魔力増幅のブルーの魔石ピアスを購入。小さな包みを開けてマリアは、「みんなありがとう……私頑張ります!」と涙ぐみながら、新品のピアスを装備する。
魔力を秘めた魔石が、キラリと輝く。
「マリアさんの装備品も新調しましょうにゃん。かっこいい賢者の誕生ですにゃん」
武器防具などの基本的な装備は、ハロー神殿内の新人賢者専門店で購入することになった。
賢者用の魔法の杖や、魔導力を高めるワンピースなど……フル装備賢者ファッションになったマリアは、いつもより綺麗に見えて、オレは思わず胸がドキドキしてしまう。
仲間意識からか、女性を見てときめいているハズなのに、不思議と女アレルギーは起きなかった。
数日後……。
一通りマリアの準備が出来たところで今後について話し合っていると、マリアがやる気に満ちた表情でとあるパンフレットの内容を語り始める。
「あの……イクトさん。私、この初心者賢者開業セミナーというものを受けてみたいんです。いいですか?」
転職した際に貰った、賢者セミナーの宣伝パンフレット。賢者コスチュームの若者が、呪文を唱える決めポーズを取っていて、少し大げさな気もするがこのセミナーで高等魔法が学べるのだという。
賢者になったら本気出す、と豪語していたマリア……どうやら本気で勉強する気らしい。セミナーは、ハロー神殿で2週間行われるそうだ。
「ああ、せっかくだしいろんな魔法を勉強するといいな。頑張れよっ」
もちろん、セミナー参加を快諾するとマリアは早速申し込み用紙片手に、賢者セミナー受付窓口へと向かって行った。 神殿内を颯爽と歩く、新人賢者マリアの後ろ姿を見送り、今後について改めて考える。
「じゃあ、最低あと2週間はハロー神殿が拠点だな、受付に行って手続きしないと……」
みんな慣れない旅で疲れているし、バトルから離れて身体を休めるいい機会なのかもしれない。
* * *
長期滞在用の手続きを済ませ、部屋に戻ろうとすると猫耳メイドのミーコが、オレのマントをくいっと引っ張った。 なんだろう?
「にゃー。イクト……実はアタシも転職しちゃってたのにゃん。メイドさんだったのに『ハンター』って職業に気付いたらなっていたのにゃん」
と、尻尾をふわふわさせて落ち着きのない様子のミーコ。
「ハンター? そんな職業、このゲームにあったのか?」
『ユーガットメール!』
その時、ミーコのスマホ宛にメールが届いた。
初心者ハンターさんへ、初心者向けクエストのご案内ですにゃ。
ハロー神殿地下ギルド会施設に、お越しくださいにゃ。
追伸:クエストにサポーター1人参加可能ですにゃ。
狩りがあなたを待っているにゃ!
このメール……語尾が『にゃ』で終わっていることが、何だか気になる。
「狩り! アタシもっと狩りしたいにゃん‼︎ ウズウズするにゃん! 前世の猫の血が騒ぐにゃん!」
ミーコは白銀プルプル狩りを経験してから、人(猫)が変わったように『狩り』という言葉に反応するようになった。
アズサは、白銀系生物愛護協会の妹さんとボランティアに行くことになったそうで、ミーコのハンタークエストには参加できないという。
もしかして、白銀プルプルを狩りまくったお詫びのボランティアなんじゃ……。
「イクトは何も気にしなくていいぜ……」と、デパ地下で購入した高級菓子折りを片手に、覚悟を決めた表情で外出するアズサの背中を見送るしかなかったのである。
ミーコはまだ狩りのお誘いメールが気になるらしく、ニャーニャーおねだりしてくる。
「にゃー。イクト……アタシのサポーターになってにゃん! アタシ、もう一度狩りしたいにゃん!」
勇者がサポーターって一体……イメージ的には、ネコがサポーターをやっていそうな気がするが、猫耳をシュンとさせるミーコのお願いを断れるわけもなく……。
「前世オレのペットだった可愛いネコの頼みだ! 分かったよ。ハンティングしようぜ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます