第11話 正体はペガサス
「はじめまして! 私、バテイ国を治めるパカラ姫でございます!」
パカパカ……と蹄を軽く鳴らしながら、さらりとした毛並みを揺らしつぶらな瞳でまっすぐこちらを見つめ、自らを姫と称する白馬がオレに自己紹介してきた。
バテイ国……太古の時代のネオフチュウ周辺の名称だ。観光案内にも記述されている。でもバテイ国は大昔の呼び方で、今の名称ではない。何より目の前にいるのは、馬二頭である。
だが馬達はひどく真剣なようで、茶色い毛並みの年配の馬に促されて若い白馬はオレに頭を下げながら、まるで偉い人にお願い事をするかのような態度で、擦り寄りながらヒヒンっと話し始めた。
「私達の国が大変なのでございます! 魔王の手先が、私たちの大事な伝説の馬蹄を奪い去ってしまったのです……あの馬蹄を魔物に使われたら……世界はどうなってしまうのか……勇者様のお力で、伝説の馬蹄を取り返してください!」
「伝説の馬蹄が奪われた? 世界がどうなるか分からない? なんか物騒な話だな」
でもレベル10未満で、初期装備の今のオレに何が出来るんだ? オレがすでに上級スキルも身につけているようなそれなりの冒険者で、仲間達のレベルも高ければなんとかなるのかもしれないが。
ひたすら戦闘を避けて初期装備のままようやくここまで辿り着いたような、名ばかりの勇者チームなのに……。
もしかしたら、自分達のレベルや装備を考えずに無理やりレベルの高いモンスターの出現する地域に来たせいで攻略に無理が生じているのだろうか?
やっぱり、無理しないでネオタチカワ周辺かその手前の大型公園あたりでひたすらレベル上げと装備品集めをしていた方が無難だったのかもしれない。
「可哀想だけど……今のオレじゃレベルも低いし装備も弱いし……悪いけど、他の強そうな冒険者に依頼してくれないかな? ごめんね」
せっかく、勇者というものに異世界転移しているのだから、チートスキルでオレツエーしてさすが勇者さまみたいな超王道展開を目指した方が良いのかもしれない。
だが、オレのスキルはあいにく、女にモテるモテチートとかいうものしかないのだ……。相手はお馬さんだし、敵は魔物みたいだしオレのモテスキルも効かないだろう。
すると『じいや』と呼ばれた方の馬が、パカパカと蹄を鳴らしながら近づいてきて、オレに今後の旅に関わる重要な取引を交渉してきた。
その目は、鋭く戦いに明け暮れたサラブレッド特有の……俗に言う勝負師の瞳だ。なんで、こんなにしっかりしているじいやが付いているのに伝説の馬蹄を奪われたのか謎である。
* * *
「……お金でお困りなのでしょう? 勇者イクト様……伝説の馬蹄には、金運を呼ぶ風水パワーがあるのです。モンスターを倒した収入の取り分が倍になるとか……あなたのお仲間がモンスターレースで負けた分のお金も、すぐに取り戻せるでしょう……」
クククっと、馬らしからぬ笑い方でこちらに圧力をかけてくる。あれっちょっと待てよ……。
「⁈ 仲間がレースで負けた……?」
すると、タイミングよく並木道の反対側にある通りから猫耳メイド、金髪エルフ、うなだれた白魔法使いが、とぼとぼと頼りない足取りでこちらに向かいながら、申し訳なさそうな態度で手を降っている。 あれは、モンスターレースに挑んだオレの仲間達……! あの態度……どう見ても吉報ではないな。
「にゃー すっからかんだにゃー!」
前世が猫だった本能だろうか? ミーコが、ハズレ券をビリビリと破り始めた。爽やかな風が舞い散るレース券の紙くずをさらって行った。
「わりぃわりぃハズレ券だったわ」
アズサは楽観的なのか、軽くウィンクしてレースに負けたことを告げる。
「……ありえないっ私の完璧な予想が、こんなに外れるなんて……!」
1番レースに意気込みをかけていたマリアは、モンスターレース新聞を握りしめてワナワナと震えていた。
じいやが、じっとりとしただけどどこか見下しているような……勝ち誇ったような目でこちらを見ている気がした……。この馬⁈ なんでレース結果を⁈ すると心なしか、ドヤ顔でじいやが話し始めた。
「私達ウマ族には、独自のウマネットワークがございます。RPGにおいて馬は交通の
ヒヒンっと、馬特有の声を上げながら、まさに上から目線でじいやは語る。
「馬には乗ってみよ人には添うてみよ……何事も経験ですぞ、勇者様」
「そんなこと言われたって……装備すら、初期装備なのに……」
「そもそも最近の若者は計画性がなさ過ぎます。例えば、今のあなた方のように取り敢えず初期装備でレース場のある街まで行って賭け事で当てて豪華装備で楽に冒険しちゃおうとか……世の中そんなに甘いはずはないのです。この世で一番大事なものはなんだと思いますか?」
定番の質問だな……ここは堅実に努力とか根気だろう……。
「えっと、努力とか根性とか真面目さとか……貯蓄力とか……」
「それもそうですが、普通の努力や根性では補えないものがあります……それはつまり、風水です! 伝説の馬蹄さえあれば、あなた方には不思議なほど金運が身について、今回のレースで勝利できたことはもちろんのこと、これまでの旅路でも何故か突然モンスターが宝箱を落として装備品をゲットできたり、福引が当たったりとミラクルな出来事が起きたはずなのです! つまりあなた方は、金運風水を行う努力をすれば良かったのです。これだから、最近の若者は……」
じいやは、くどくどと他にも小言を並べて、オレとオレの仲間達に最近の若者の欠点を延々と述べてくる。しかも、じいやの言う努力って金運風水を実践するだけじゃないか?
「努力……金運風水は努力……風水さえ頑張れば……金運風水」
レースに負けたショックが大きかったのか、マリアが虚ろな瞳で金運風水について何か呟き始めた。大丈夫だろうか?
『ピンポンポンピーン』
タイミングが良いのか悪いのか、冒険者用スマホから臨時ニュースが入ってきた。
『臨時ニュースです。株価の大幅な変動および魔王系財閥による企業買収により、世界経済トップは魔王軍になりました。今後も魔王軍は人間側を経済的に支配すると表明しております』
突然の異変に、スマホを確認する。偶然か……スマホの臨時ニュース画面に映し出された魔王軍経済担当大臣の胸元には、黄金に輝く馬蹄のチャームが輝いている。
「まさか、これが例の……」
「もう……伝説の馬蹄の金運風水効果が……」
じいやがブルブル震え始めた……話半分に聞いていた金運風水パワーの馬蹄チャームだが、魔王軍側が人間サイドを経済的に支配出来るほど効果が高いなんて……。
「にゃー! あの馬蹄チャームさえあれば、モンスターレースで大穴が狙えそうな予感がするにゃー!」
ミーコは単純なのか、キラキラ輝く馬蹄チャームに本当に金運効果があると信じているようで、にゃーにゃー騒ぎ始めた。
「金運風水か……魔王軍の奴ら、金運に恵まれやがって羨ましい‼︎」
「あの馬蹄……あの馬蹄チャームさえあれば、こんな大ポカはなかったのにっ」
アズサ、マリアもレースに負けたショックからか、風水チャームのチカラを信じてしまっている。まずいよ……みんな風水に本気なんだけど。
ジト目でじいやが圧力をかけてくる。
「ああもうっやりますよ! 伝説の馬蹄を取り返せばいいんでしょ⁈」
オレは半ばヤケ気味に、じいやに叫ぶと待ってましたとばかりに馬たちが勢ぞろいし、ヒヒーン声高く叫んだ。
「よくぞ言ってくれました! 勇者様!」
次の瞬間、目の前に居た姫とじいやに神々しい光が射し、翼の生えた馬に姿を変えた。もしかして、じいやさん達って本当は……。
「……お乗りください。私達、馬族ことペガサス族があなた方勇者一行を導きましょうぞっ」
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