第30話 スパにはカラオケルームもございます


 水着混浴風呂で謎の記憶喪失に襲われたものの、貸切の休憩ルームで仲間たちが休ませてくれたおかげで、なんとか回復したオレ。

 目がさめると、6畳くらいの和室で横になっていて……マリアが膝枕をしてうちわで扇いでくれていたようだ。いわゆる『のぼせ』って状態だろう。


「んっオレ、気を失ったのか。マリアありがとう、悪いな。うちわで扇いでもらって……」

「……疲れが溜まっていたんですよ。うちわもみんなで交代で扇いでいたんです」


 オレの目覚めを確認したカノンが何やら照れながら、スポーツドリンクを差し出してきた。これで水分補給をした方が良いということだろう。ありがたい。


「サンキュ、カノン。水分取らないと危ないよなっ。んっ美味しい……」

 ゴクゴクと身体から失われた水分を補充していく……思ったよりも、喉が渇いていたようであっという間に半分飲んでしまった。


「イクト……そっそのっ大丈夫だった? あの記憶は……どこまで……」

 なぜか、頬を赤らめてこちらをチラチラと見るカノン。オレが記憶を失っている間に何かあったのだろうか?


「えっと、みんなが水着を着ていて、アイラにジャグジーに誘われて……そしたらミーコがじゃれ始めて……。あれっそういえばカノン、その間どこに行っていたんだ?」

「おっ覚えていないなら、いいのっ。でも、その……思い出しちゃったら……私、すごく恥ずかしいから責任とってよねっ」 

「すごく恥ずかしい? オレの失われた記憶って一体?」


 そういえば、温泉効果のせいか肌がみんなツヤツヤしていて妙に色っぽい。きっと、心の奥深くに眠るオレの魂が、エロい目で仲間たちのことを見てしまったせいで、女アレルギーを引き起こしたんだろう。


「イクトさん、それで具合はいかがですか? もう動けます? 温泉に浸かって、よく眠って……。日頃の溜まった疲れやストレスを発散して身体もリラックスされたでしょうし……あとは栄養補給ですね!」

「そういえば、身体のコリが取れてるな。これが温泉の効果ってやつか。マリアたちも肌がいつもより艶やかだぞ。温泉って美容にも良さそう……」

「ふふっ温泉で気持ちも満たされてしっとりスベスベです。また、たくさん楽しみましょうっ! 今度は記憶を失わずに済むように……何度か通うといいですね。きっと女アレルギーも治りますよ」

「そうかなぁ、治ると嬉しいんだけど……」


 オレの調子が戻ったことを大人数用の休憩室で休んでいた他のメンバーにカノンが伝えに行き、みんなで夕食を摂ることになった。

 今借りている休憩室では、さすがに大人数で食事をする事は出来ないのでここはレストランか食堂に移動するべきだろう。


 テーブル席の数が多そうな、一階にあるレストランでディナービュッフェを食べようとしたが……。


「申し訳ございません、ただいま1時間待ちです」


 レストランの入り口には、順番待ちのお客さんがたくさん座って待っていた。予約ボードもすでに予約客の名前で埋まっている。オープン記念で、ローストビーフやズワイガニ、一流パティシエの作るスウィーツなどが格安食べ放題なのだから、超満員も当然だろう。


「仕方がない、今回は豪華ビュッフェは諦めて食事は他で取ろう」


 レストランは、ビュッフェ形式の店以外にも数軒施設内に入っている。すれ違う人たちも、レストランを探している様子で、スパを出て外で食べる相談をしている人もチラホラ。

 そんな中……ロビーのフロアを移動途中に、カラオケルームの案内のチラシや看板を発見。


『カラオケルームもございます! みなさんでぜひ!』


 マリアが、珍しいものを発見したというような目でふと足を止める。

「あのぉ、私このカラオケルームってところ興味あるんですけど、どんな施設なんですか?」

 意外なことに、異世界人のマリアはカラオケを知らないらしい。


「ああ、マイクで好きな歌を歌って、点数がついたりいろいろ……。まあ、行ってみれば分かるよ」


 そういえば、ネオアキハバラを中心にアイドルソングが流れるようになったのも、ここ1年くらい前からだとか。

 アースプラネットは文明が進んでいるから、現実世界と大差なく感じていたけど、ところどころ文化が異なるようだ。


「カラオケルームなら食事も注文できるし、歌も歌えるし一石二鳥だね! お兄ちゃん! カラオケルームに行こうよ!」

「にゃー! アイラ・なむらの歌聴きたいのにゃー!」

「……分かった……歌う……」


 なぜか、静かにやる気を出し始めるなむらちゃん……温泉に入ってパワー回復したようだ。早速、カラオケルームへ移動……意外なことに穴場だったのか、まだ人がそんなに居ない。予約なしで、すんなり入れた。



 * * *



「いらっしゃいませ! 9名様ですね、ご利用時間は2時間でよろしいでしょうか? 延長もできますので……」


 いろいろ手続きを済ませて、大型ルームへ入る。オレ達が選んだ部屋は、アジアンテイストルームという部屋で、大きめの座り心地の良いシックなソファーに、オシャレなアジアンテイストのファブリックで構成されている。


 まるで、南国のリゾートへ遊びにきたかのような錯覚を覚えるが、ここは日本だ。


「ここが、カラオケルームですか……なかなかオシャレですね」

「すごーい! このカラオケルームいろんな国のフードメニューがあるよ!」


 アジアンテイストルームを設置しているだけあって、アジア系の多国籍なメニューを中心に、程よく和洋中イタリアンなどの料理がある。


「にゃー、クレープだにゃん! チョコバナナのやつ食べるにゃん! メインはお魚料理のこれで……」

「ミーコちゃん、そのお魚の包み焼きパイとクレープにするの? じゃあ私も同じので!」

「アタシはナシゴレンがいいな!」

「……トマトクリームパスタ……あとソフトクリームも」

「私はリブステーキのセット!」

「私イタリアンピッツアがいいです。チーズとろとろってやつ」

「あんかけチャーハンお願いします」

「このガパオライスセットかな? パーティースナックセットもワンセット……」

「あと大皿料理2皿とソフトドリンク人数分と……」


 一通り料理の注文を終えると、アイラ・なむらの生ライブが始まった。


『お兄ちゃんとの大切な約束……』


 ライブで最後まで聴きそびれたアイラとなむらちゃんの歌をようやく最後まで聴くことができた。歌が終わると、テレビの隣にある点数画面に歌の得点……さすが本人達、見事100点である。


 本物の歌手が自分達の持ち歌を歌っているので、当然なのかもしれないが……。

 このスパ施設自体、異世界アースプラネット直営なので、もちろんカラオケルームの選曲もアースプラネットの物ばかり……と思いきや、普通に現実世界のものが大量にあった。


 というより、いつの間にか『アイラ・なむら』の歌が現実世界の一般ソングに載っている……これが異世界と現実世界の融合なのか……?


 カノンやミーコ、ランコさんもそれぞれ自分の好きな歌を歌い、高得点をはじき出していた。みんな歌上手いな。


 ボソっ。

「……つまりこのカラオケルームというのは、みんなでマイクを握り好きな歌を歌い、得点を競い合うバトルなんですね……」

 マリアは何かを勘違いしている様子……別に戦っているわけではないのだが……。


「いや、別に競い合っているわけじゃないんだけど……」


「……ふふふ……実は私とアズサにも持ち歌があるんですよ、もう何年も前のことなんですけどね……」

「……マリア……あれを歌うのか⁉︎ アタシ達の青春のテーマソングを……!」

 アズサも、ガタッと音を立てて立ち上がり、興奮気味だ。


「イクトさん! 悪いけどこのカラオケバトルは私たち『ご当地魔法少女マリア&アズサ』が勝たせてもらいます!」


 カラオケの点数を地球特有のバトルシステムと誤解をしたマリアとアズサは、未知のやる気を出し、魔法少女系の呪文を唱えて魔法少女風の衣装に変身した。


 もしかして、2人はアイラとなむらちゃんの先輩的な……元魔法少女?

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