第29話 水着でみんなで露天風呂

《女湯》


 日本庭園をイメージした、温泉ゾーンに入った女性陣達。想像以上に本格的な岩風呂とヒノキ風呂、竹林が広がる空間……異世界からきたメンバーのみならず現実世界のメンバーも驚いている。


「わぁ、この温泉本格的! 室内なのに竹林がある」


「にゃー泳げるくらい大きいのにゃん、嬉しいにゃん!」

「ミーコちゃん……お風呂が広いからって、泳いじゃダメよ」

「にゃー分かったにゃん!」


 はじめての大型スパ温泉施設を、エンジョイする女性陣達。泡たっぷりのボディーソープで背中の流し合いをし、交流を深める。

「カノン、みんながマリアみたいに胸がデカイわけじゃないんだから、気にすることないのに……」

 アズサに背中を洗ってもらうカノン。


「そうかもしれないけど……みんな堂々としていて、なんだか恥ずかしい……」

「照れ屋なんだな、カノンは……そのうち慣れるさ。エルフの里にも地球式の温泉があって、アタシは温泉慣れしてるんだ」

 アズサから意外な情報、アースプラネットにも温泉が豊富な土地があるらしい。マリアはちょっと不満そうだ。


「そうなんですよぉ、エルフの里には温泉たくさんあるらしくて、アズサも教えてくれればいいのに……そうだ、カノンさん胸をもっと大きくしたいなら、バストアップのマッサージ教えてあげますね」

 親切なマリアが、胸を大きくする方法を教えてくれるという。

「えっマリアさん? あの⁈」


 どうやらマリアは本気でカノンをバストアップさせる気なようで、プロフェッショナルにマッサージを教え始めた。


「それから、鶏胸肉や乳製品を頻繁に摂取するとバストが大きくなるそうですよ。私、そういう食べ物が大好きで……自然と胸が大きくなったんです。今は体型維持のために、ストレッチやマッサージなんかもしますけど」

 真面目にバストについて語るマリア……やはりキレイな人は努力しているんだ……と、感心するカノン。


「へぇ、それでマリアさんってキレイな胸なんですね……勉強になります」


 他にも美容の情報を交換しあい、緊張がほぐれたところでいよいよ温泉に浸かる。

 最初は、みんなで大きめのヒノキ風呂に入ることに……乳白色の湯なので、タオルがなくても抵抗なく入ることができる。


 当初は恥ずかしがっていたカノンも、だいぶ仲間達に打ち解けてきた。熱過ぎずぬる過ぎず、程よい湯加減の温泉に、心身ともに癒されていく。


 木製の立て札にこの温泉の効能が載っているようだ。アイラが読み上げる。


「効能が書いてあるよ……神経痛、筋肉痛、冷え性、疲労回復、病中病後、やけど、きりきず、すごい温泉って万能なんだねー!」

 効能一覧の説明を読んで感心するアイラ。

「……癒される……」

 普段ポーカーフェイスな、なむらも珍しく満足そうな表情だ。

「温泉……素敵な施設ですね。すぐにスパを作った、アースプラネットの企業は優秀だわ」

 エリスも異文化の温泉が気に入ったようだ。


 みんなですっかり和んでいると、賢者マリアがふと思い出したように呟いた。

「でも……交流会なのに、イクトさんとは交流深めていませんよね?」

 思わずハッとするメンバー達。

「男はイクト1人だし……イクトって女アレルギーだし……別行動が、アイツのためなんじゃないのか?」

 一応は、リーダーの勇者イクトを気遣う気持ちが、マリアとアズサにもあったようだ。


「あら、あなた達さっきの男の子のこと気になるの? ここには水着混浴風呂があるから、水着着用なら一緒に温泉で遊べるわよ!」

 色っぽい感じの、魔族のお姉さんが教えてくれる。


「水着混浴かぁ……それならお兄ちゃんとも遊べるね!」

 アイラはイクトが女アレルギーである事をすっかり忘れて、一緒に遊ぶつもりのようだ。


「水着……イクトって、水着の女の子見ると女アレルギー起こして気絶して倒れてたけど……大丈夫かな?」

 幼馴染のカノンは、イクトの女アレルギーぶりを思い出して一応は心配している。


「何事も慣れですよ、少しずつ、イクトさんの女アレルギーを治してあげましょう! 賢者に転職した私に不可能はありません!」

 上級職である賢者に転職した自信からか、何故かやる気のマリア。



 * * *



 オレが、薬湯やボディジェットで心身を癒して風呂から上がると、休憩室で落ち合う約束をしていた仲間たちが、売店で水着を購入してスタンバイしていた。


「あれっここってプールもあるんだっけ? みんなはこれから水着で遊ぶのか?」

「ふふっ違いますよ、イクトさん。ここには水着で入れる混浴風呂があるんです。みんな水着だから混浴といっても恥ずかしくないですし……イクトさんも一緒に!」

「えっえぇぇっ! オレも入るのっ?」


 と、いうわけで何故か水着混浴風呂などという、女アレルギーのオレにとって危険きわまりない場所に、いるわけだが……。


 しかも、マリアやアズサは異世界人なせいか、いささか水着が大胆だ。あの売店、水着の販売店は異世界仕様だったんだな……やたら布の面積が少ない。


 マリアは一見清楚っぽい濃紺のリボン付きビキニだが、肌の露出が高めで目のやり場に困る感じの水着を着用している。アズサは花柄のエルフっぽいデザインの水着だが、やはり露出が高めで何だか色っぽい……。


 っていうか今まで注目しないようにしていたが、マリアってなんか胸が普通の人より大きくないか?

 もしかして巨乳ってヤツ? ぷるんっと揺れる胸をチラチラと横目で見るちょっぴりムッツリなオレ……どうしよう……。


 オレは、普段仲間達のことをそういう目で見たことがなかったので、大胆な仲間達の姿にドキドキしていた。

 正確には、女アレルギーのためそういう目で見た瞬間に気絶していたのだけど……ふぅ、倒れないように気をつけないと。


「お兄ちゃん! 一緒に、ジャグジーに行こうよ!」


 清楚なワンピースタイプの水着を着たアイラが、ジャグジーに誘ってきた。アイラは実の妹だし、このメンバーの中で1番安全な人物だ。

 幸いアイラ相手だと、女アレルギーで倒れるようなことは今の所起きたことがない……当たり前か、妹だもんな。そうだ、オレ今回はアイラと一緒にいよう。久しぶりに家族で交流が深められるし、それがいい……。


「アイラ、ひさびさに兄妹で遊ぼう……じゃあ、オレアイラと向こうで遊んでくるんで……」

 オレが実の妹アイラの元に逃亡しようとしたことを察知したのか、マリアが目の前に立ちはだかった。


「イクトさん! 逃げちゃダメです! この水着混浴風呂は、イクトさんの女アレルギーを治す絶好のチャンスなんです‼︎」


 プルルンと大きい胸を揺らしながら、何故か熱血スパルタコーチのようなことを言い始めるマリア……オレはマリアの大きい胸から一刻も早く逃れたいのに、何を考えているんだ!


 思わぬディフェンスを仕掛けてきたマリアに動揺して、転びそうになったオレを巨乳で受け止めるマリア。


 事故のようなものだが、オレは恥ずかしさで混乱する。


「ふふっイクトさん、捕まえましたよ! こうして水着姿に見慣れていけば、そのうち女アレルギーも治ります……」


 さらに、追いうちをかけるようにアズサが後ろからホールドしてきて、逃げられないように抑えてきた……なんて事だ……。女アレルギーのオレにとっては、この冒険始まって以来の最大のバトルシーンじゃないか?


「そうだぞ、イクト! ピーマンだって少しずつ食べれば美味しいだろう? あたしもそうやってニガテを克服したんだよ……懐かしいな……この大胆な水着も、見慣れればどうってことないんだぞ!」


 何故か、学校の先生のような口調で語り始めるアズサ……まさかこの2人……オレの女アレルギー克服のために、ワザと大胆な水着を着ているのか⁈


 さらに、清純ながらも何故か色気を漂わす神官エリスの白いワンピースタイプの水着姿を見て頭がクラクラしてしまったり、なむらちゃんのゴスロリ風水着に過剰反応を起こしたり、メイド服をアレンジしたミーコとランコさんの萌え系キュートな水着姿を見て悶絶したりと、オレの女アレルギー発症との戦いが展開していく。


 そうこうしていると、幼馴染のカノンが遅れてやってきた。

 そしてカノンの登場が、決して悪気は無いのだろうが女アレルギーであるオレにトドメを刺す結果となる……。


「お祖父様の……ゴスロリドール財閥で働く使用人にさっき会っちゃって……新作の水着だから着てくれって……ちょっとこの水着大胆すぎるよね……ゴメン着替えてくる……」


 カノンの着てきた水着は、

 大胆な黒のビキニを、

 大胆にデザインし、

 大胆に色々施されていて、

 いかにも悪役の美女が着ていそうな、

 大胆な……。


 そういえばカノンって異世界での職業、

『悪役令嬢』だったな。


「にゃー! カノンの水着の紐、猫じゃらしみたいで楽しいのにゃー! 引っ張るのにゃー!」


 猫耳メイドのミーコは猫の本能からか、ゆらゆら揺れるカノンの大胆な紐デザインビキニを、まるでオモチャか何かにじゃれつく猫のように思いっきり引っ張った。

「ミーコちゃんダメ!」


 メイドのランコさんがミーコを必死に止めるものの、時既に遅し。


「きゃあ!」


 試作品であるため耐久性が弱かったのか、カノンの胸元をかろうじて抑えていた紐は、儚く脆く……。


『プツッ』


 そこでオレの意識は途切れた。



 * * *



 目が覚めるともう夕方になっていた。

 何故だろう、記憶がイマイチ思い出せない。


 オレは封じられた記憶がなんなのか、分からないまま仲間達に連れられて、ディナービュッフェに向かった。

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