第31話 3人目はサポートメンバーです
オレ達は交流会で、スパ温泉に遊びに来ていた。最初は男女別々に温泉を楽しんでいたものの、パーティーメンバーの中で男1人というオレに気を遣ってくれたのかその後は混浴水着風呂で一緒に遊ぶ羽目になった。
だが、オレは呪われし女アレルギーである……どうせ気を使ってくれるなら、どちらかというと1人で檜風呂やジェットバスにのんびり浸かり日頃の疲れを癒したかった……。
案の定、オレはアクシデントで女アレルギーを発症させてしまったらしく、いつも通り気絶をしてしまい気がつくとすでに夕方……。夕食と交流を兼ねてカラオケ部屋で遊ぶことになったのだ。
オレにとっては遊びのつもりでも、異世界人のマリア達はなぜかカラオケに対してバトル大会のごとく真剣そのものだった。
* * *
「イクトさん! 悪いけどこのカラオケバトルは、私たち『ご当地魔法少女マリア&アズサ』が勝たせてもらいます!」
「ふっ伝説のご当地魔法少女であるアタシ達が本気を出せば、このカラオケバトルくらい制覇は楽勝だぜっ。この勝負は貰ったも同前だな」
カラオケを歌のバトル大会と誤解した異世界人のマリアは、相棒のアズサとともに、何年も前の自分達の持ち歌を歌うという……よく分からないが、アズサによると青春のテーマソングだそうだ。
2人は気合い全開で手をつなぎ、謎の呪文を唱え、魔法少女風のフリフリミニスカ衣装に変身した。短めのレギンスを合わせていて、可愛いらしくもスポーティーな感じである。
「どこかで見た衣装だな……」
曲名は、『ご当地魔法少女マリア&アズサ』カラオケのテレビ画面から、数年前に深夜枠でローカル放送されていた、美少女変身バトル特撮ドラマのオープニングが始まった。
制服姿の美少女中学生ふたりが、魔法少女に変身する動画が歌詞とともに流れる。
「にゃあ、この魔法少女ドラマ……やっぱり昔見たことあるやつだにゃん! マリアさんとアズサさんって、このドラマに出演していた魔法少女本人だにゃん!」
「そういえば、私もこのドラマ見たことあります。まさか、本物の異世界人が出演していたなんて……」
ミーコとランコさんが記憶を辿り、ドラマに出演していたのがマリア達だと指摘する。もしかしたら、ドラマというより異世界の魔法少女ドキュメンタリーだったのかもしれない。
地球上では体裁上ドラマということになっていたようだが……。
内容は、超有名魔法中学校に通うスポーツ大好きおてんば金髪美少女エルフのアズサが、優等生の黒髪清楚系美少女白法使いのマリアと『ご当地魔法少女』に変身し、友情を深めながら悪を倒す……という内容だ。
『萌え! 萌え! イエィ! ご当地萌え!』
ノリノリの特撮ソングを、やたら熱唱する、萌えエルフアズサと萌えシスターマリア。
やはり、あのドラマこの2人が出演していたのか……? 熱の入れようが凄いし、なんていうかマジである。
青春時代に戻ったかのような気合の入れようだ……そういえば、2人の年齢が幾つなのか、未だによく知らないな。成人しているという情報だが、この異世界の成人年齢は存外に若いらしいので、実はほんの少しだけオレより年上なだけかもしれない。
「映像をよく見てにゃ! 制作に『アースプラネットご当地魔法少女実製作委員会』と書いてあるにゃん」
「どうやら、異世界発のドラマは昔から流れていたみたいですね。びっくりです」
だが、ふたりが熱唱している間、まともに歌を聴いていたのは視聴者だったミーコとランコだけで他の仲間達は食事をとったり、次に歌うカラオケソングをリストから選んでいるようだ。
「……お手洗いに行ってきます……」
なむらちゃんに至っては現役魔法少女アイドルの余裕からか、完全に休憩タイムと化している。
一応魔法少女としては、なむらちゃん達は後輩なんだから、ふたりの歌聴いてやればいいのに……。いや、もしかしたら影響を受けすぎないように、わざと席を外しているのかもしれないが。
『萌えご当地! 萌えご当地!』
ジャジャーン!
決めポーズも激しく決まり、汗が額から流れている。ライブで熱唱したあとのアーティストのような余韻に浸りながら得点を待つと……。
「99点……! すごい、でもやっぱり現役のアイラ・なむらには勝てないのか?」
オレが思わず率直な感想を呟くと、現役というキーワードにマリア達の表情が曇った。
「……どうして⁈ あんなに熱唱したのに? 何がダメなの? ブランク、年齢、それとも引退しているから?」
「くっ! やっぱりアタシ達が現役女子中学生じゃないから、得点が1点足りないのか⁉︎ この得点マシーンちょっとミーハーなんじゃないのか? この現役至上主義機械めっ」
「このままじゃ、アイラ・なむらに勝てない! どうしようアズサ……何か打開策を考えないと、私たちの先輩魔法少女としての威厳を示せないわっ」
「もうっどうでもいいだろ、カラオケの点数なんて」
あまりにも真剣な2人に思わずツッコミを入れる。遊びなんだから、そこまで本気にならなくてもいいのに……。
すると、それまで無言を貫いていた、異世界の神官エリスが口を開いた。
「ご当地魔法少女マリア&アズサは、とても素晴らしい特撮魔法少女ドラマです。でも、あなた達ふたりでは得点を出せなかった…勝てなかった……何故だか分かりますか?」
ゆらりと立ち上がるエリスからは、謎の魔力オーラが満ち溢れている。現役女子中学生じゃないから……と本人達は言っているが……違うのか……?
「……参戦してくれるのか……⁉︎ シャイニング神官エリス……⁈」
シャイニング神官エリスとかいう謎のニックネームで呼び始めるアズサ……エリスは何かを悟ったように、フッと笑った。
「今回だけですよ……アズサ先輩、マリア先輩……」
⁈
「この3人、元から知り合いだったのか? しかも先輩って一体……⁈」
普段は穏やかで表情をあまり崩さないエリスが、静かに熱く燃えている……。
「私も、元魔法少女の端くれ……ここで新人に負けるわけにはいきませんから……シャイニング神官、萌えパワーチャージ!」
魔力を解放し、これまでの大人系神官キャラと反した、ピンク系ロリ衣装魔法少女に変身したシャイニング神官エリス。
「ちなみにシャイニング神官エリスは正式メンバーではなく、困った時のみ駆けつけるサポートメンバーです」
一応自分のポジションについて説明し始める、エリス……どうやらタイトルとの矛盾を若干気にしているようだ。まあ、最初は2人組でもだんだん仲間が増えていく形式のストーリーはさほど珍しくないだろう。
「これから、私たち3人の本気をおみせしましょう!」
「でも、3人組ですよねっ? アイラ・なむらより1人多いですよ!」
「そうだにゃ、3対2でなんとなく有利な予感がしますのにゃ」
ほとんど実況者と化している、ミーコとランコさん。マイクを握りしめ、3人がフォーメーションを決める……。
「くっまだ、本気じゃなかったなんて……」
「どうしよう……なむらちゃん、このままじゃ……」
今までにないオーラの高ぶりに、さっきまで余裕そうな態度を決めていた、アイラとなむらちゃんにも焦りの色が見え始めた……もしかして、逆転劇が来るのか?
「いきます……歌います……聴いてください。私たちの本気の……歌声をっ!」
オレ達のカラオケバトルはこれからだ!
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