第32話 魔法少女達のカラオケバトル
いろいろあって、カラオケバトル大会と化したスパ温泉施設での交流会……。みんなで新入りメンバーのカノンを交えて楽しく親交を深めるどころか、本気のバトル大会と化してしまっている。
本来のメイン人物であるカノンは、隅っこの方で大人しくアセロラドリンクを飲みながらマリア達のバトルの行方を見守っていた。
なんだか、申し訳ないな……本来は、カノンのための交流会だったのに。
「なんだか、イクトの仲間達って個性的で面白い人たちだね。最初は美人ばかりだから、緊張しちゃったけれど……親しみやすい人たちで良かった」
オレの心配をよそに、案外楽しんでいるらしいカノン。食事をする仕草の品の良さといい、さすが異世界では令嬢と呼ばれていただけのことはある。
「そうか? まあ、カノンがそう感じているならいいけど……そうだ、このフライドポテトセット美味しいぜ。サイドメニューの追加注文しようか。カラオケバトルもまだ続きそうだしさ」
「うん。アイラちゃん達とマリアさん達……どちらのチームが勝つか楽しみだね」
* * *
現在のカラオケ得点表は、現役女子中学生魔法少女アイドル『アイラ・なむら』が出した100点が最高得点だ。
マリア達の旧魔法少女ユニットは99点と一歩及ばず。だが、僅かな得点差だし次の点数の合計点数で逆転の可能性も。
逆転への秘策なのか。それとも様子を見るためか……。無言を貫いていた異世界の神官エリスが、魔法少女のコスチュームに変身して『シャイニング神官エリス』として加勢する。
実は、ご当地魔法少女のサポートメンバーだったというエリス……予想外の展開だ!
「エリスは顔立ちが幼いせいか、まだコスチュームを変えると現役魔法少女のアイラ達に負けていないな。いや、マリアやアズサも可愛いんだけど。やっぱり、大人になっているしな」
「そうだね、エリスさんが加入すれば、あのミーハーっぽいカラオケ得点機械も機嫌が良くなって、高得点をくれるかも……3人とも頑張ってねっ」
「にゃあ! 昔テレビで見たあの3人なのにゃっ。楽しみなのにゃっ」
『萌え系ロリ魔法少女に変身したシャイニング神官エリスを加え、3人組になった『ご当地魔法少女マリア&アズサ』の真のチカラが発揮される……! 勝敗の行方はいかにっ』
メイドのランコさんの司会進行により再び幕を開けるカラオケバトル大会……再戦だ。
(注:シャイニング神官エリスはサポートメンバーであり本メンバーではありません)
「……サポートパワー……! 萌えご当地! 萌えご当地!」
さっきと同じ曲調だが、サポートメンバーのコーラスが加わり、なんだか豪華だ。
ダンスも3人組仕様に変更されており、豪華かつキュートである。気がつくとサポートメンバーであるはずのエリスがセンターを陣取っている……サポートメンバーというよりメインボーカルのような存在感である。
「なんていうか、エリスが加わって一気に良くなったっていうか……現役感がアップしたよな」
「もしかしたら……あの衣装の着慣れている雰囲気からするとエリスさんって、今でもたまに魔法少女として活動しているのかもしれないにゃ……。エリスさんが手に持っている魔法少女用の杖……アースプラネットで流行している最新デザインのものですにゃ」
ミーコがエリスの装備している杖が最新モデルである事を指摘……。もし、衣装の点数もポイントに加算される仕組みなら、最新装備の登場はかなり加点率が良さそうだ。
だが、アイラの兄の立場としては妹に勝って欲しい気もするし。けど、ここでアイラ達が勝って魔法少女活動にハマるのも心配だし。
もう1つの違いは、テレビ画面に流れる歌のイメージ映像の変化だ。
美少女中学生のアズサとマリアが魔法少女に変身し、活躍する様子に加えて、憂いを秘めた謎の美少女エリスと、そのイメージを覆す萌えロリ魔法少女に変身したシャイニング神官エリスの絶妙な萌えっぷり……。
「ぬおおおおおー! 通りすがりの異世界人ですが、素晴らしいライブ……今日は運がいいですな!」
『ありがとう、お友達のみなさん……今日は楽しんでくださいなっ」
「ふぉおおおおおおおー! エリスたんの久々のナマ歌ー! 解散ライブ以来の感動ですぞ!」
さらに、本気を出した3人の歌とダンスは、カラオケルームの外にいた魔法少女ファンの『大きなお友だち』をたくさん引き寄せ、いつの間にかカラオケルームは3人組にパワーアップした『ご当地魔法少女』のライブステージになった。
お友だちAが感動して涙を流し始める。
「おお! 伝説の3人のライブステージを、もう一度見れるなんて感動で涙が止まりません! 僕がご当地魔法少女の存在を知ったのは、僕がまだ大学生の頃で(以下略)」
お友だちBも、「アズサたそ! マリアたそ! エリスたそ! アズサたそ! マリアたそ! エリスたそ!(以下略)」と、全力で声援を送る。
そして、お友だちCがまったりと語り始めた。
「いやあ、やっぱりいいですねえ。魔法少女は……しかも初代! 伝説の萌え魔法少女であるアズサ姫とマリア姫の絶妙なコンビネーション! さらに大人っぽさとロリっぽさの両方を兼ね備えた、エリス姫が加入する最強の萌え展開……僕が思うに魔法少女の神秘性は(以下略)」
『萌え! 萌え! サポートパワープラス……!』
ジャジャーン!
『得点は……ぶっちぎりの120点……!』
いつの間にかカラオケルームの外にまで集まっていた、大きなお友だちからの盛大な拍手と歓声に包まれ、エリス達3人は抱き合いながら涙を流していた。
『アンコール! アンコール!』
「みんなありがとう……じゃあ次は、シャイニング神官テーマソング《シャイニングエボリューション》聴いてください!」
『シャイニングエボリューション……! 愛が教えてくれたもの……』
「シャイニング神官エリス歌うますぎだろ……。もうソロの歌手として完全に成り立っている……」
「圧勝だったね……。私、今回の交流会に参加できて良かった。こんなステキな生ライブを楽しめるなんて」
カノンも絶賛するシャイニング神官エリスのソロ曲……。今までの明るい萌えソングからは想像できない、本格的な打ち込み系ソング。
「ねえ、あの部屋で今プロの歌手が緊急ライブやってるんだって! 行ってみよう!」
「きゃあ可愛い! あの子、魔法少女じゃない? あとで記念写真撮ってもらおうっ」
もはや、特撮魔法少女の枠を越えて本気で一般ソングとして通じるテーマソングを熱唱するエリスに、大きなお友だち以外の一般観客も集まり、大盛況の中、魔法少女ライブは幕を閉じた。
* * *
「……負けたの……私達。ここまで順調に来たのに……どうして」
「……なむらちゃん……。あたし達、自惚れていたのかな? 上には上がいたんだ……しかもこんな身近に……」
まさかの敗北に、ショックを受ける『アイラ・なむら』の2人。カラオケルームのソファで手を組んで震える2人を現役魔法少女アイドルとは誰も気づかないようで、観客はエリス達に夢中だ。
歌唱後は、握手や写真撮影で列が出来ている……。
「まさか現役を降りたのに、あんなに歌もダンスも完璧にこなすなんて……」
すると、密かに潜んでいたアイラ・なむらのマネージャーである、白キツネがいつの間にか現れた。敏腕マネージャーとして、厳しい現実を2人に告げる。
「どうだい? はじめての敗北は……? 契約した時に言ったよね、どんなにつらくても頑張るって。今まで君たちは順調だったけど、これからはこんなもんじゃないよ……」
だが、2人はこんなことでは負けるつもりはないようだ。
「私、負けません! どんなにつらくてもくじけません!」
いつもは無表情のなむらちゃんがやる気になっている……。なむらちゃん、流されてアイドルになったような様子だったのに結構本気だったんだな。いや、今回で本気になったのか。
マネージャーは楽しそうに……、「でも伝説のご当地魔法少女に勝つなんてかなり難しいと思うよ……もっとドルオタや大きなお友だちを大事にしないと……」と、彼女達とのレベルの違いを指摘する。
新人魔法少女アイドル『アイラ・なむら』の戦いはまだ始まったばかりなのだ。
それでも2人は進む、どこまでも続くアイドル坂を、登り続ける決意を胸に秘めて……!
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