第33話 ごく普通の高校生活(男の娘付き)

 オレの名前は、結崎ゆうざきイクト。16歳、趣味はスマホRPG、オレって結構イケメンだよな……と、たまに鏡を見て自惚れているナルシスト気味のゲーマー高校生だ。


 小さい頃から呪われているかの如く、女と接触すると気絶などの反応を起こす女アレルギーを持っているが、それ以外はごく普通の若者である。最近までは……。


 最近までというのは、女アレルギーであるにも関わらず、美少女ハーレムRPGテイストの異世界アースプラネットに、勇者として異世界転移してしまったからである。


 魔王軍のチカラにより、異世界と現実世界の融合が始まったため、一旦現実世界地球に強制的に戻ってきた。


 しかし、異世界の仲間たち(全員女性)も一緒についてきたため、あまり状況は変わらなかった。

 というより、現実世界でも異世界人がフラフラするようになり、状況は悪化していると言っていいだろう。



 * * *



『では、今朝のニュースです。異世界系企業の人気ファッションブランドであるゴスロリドール財閥が、都内のファッションビルにオープンし、長蛇の列が出来ました。大胆なファッションセンスは、若い女性を中心に人気を獲得しており、今後も異世界系企業に期待が寄せられています』


 リビングで朝食を食べながら、テレビのニュースを観ていると、さっそく異世界系企業の情報だ。最近ではこの手のニュースに慣れてしまって、何事もなかったようにコーヒーと食パンを味わうようになってしまった。


 やはり、朝はコーヒーに限る……かぐわしい香りが目覚めに心地よい。目玉焼きとウィンナーソーセージに醤油をたらして、ちょっぴり和を感じさせる朝食。付け合わせのサラダもトマトがフレッシュで、シャキシャキのレタスと相性抜群だ。


 ちなみに作ってくれたのは、うちに下宿している異世界の神官エリスである。まるで、新婚の新妻のような淡い花柄のエプロンがよく似合っている。


「まあ、異世界系のブランドですって! どんどん、アースプラネットのファッションが地球で流行するのかしらねぇ。これからも、いろいろお店が増えて魔法が使えるようになるアイテムとかも増えてくれると、便利なんだけど。エリスちゃん何かオススメはある?」

 当然のように食卓を一緒に囲むようになったエリスに、オススメアイテムをリサーチする母さん。


「そうですわね、疲れが一瞬で癒される回復ドリンクとか人気ですわ。地球のドリンクも人気らしいですから、飲み比べると楽しそうですね」

「ドリンクかぁ、イクトも女アレルギーが治るドリンクでもあればカノジョの1人でも作れるのになぁ。せっかく、エリスちゃんが婚約者候補として下宿してくれているのにねぇ。なんてね、はははっ父さんは、通勤が楽になるアイテムが欲しいなっ」


 エリスは、両親との交流を順調に深めており、すっかり押掛女房としてのポジションを確立している。


「お兄ちゃんの女アレルギーは、そう簡単には治らないよ。あっ今日は私、放課後は地球のテレビ番組の収録だから……。行って来まーす」

「うっ父さん。朝からからかうのやめてくれよ……じゃあ、オレはこれから学校に行くから」

「イクト様、魔王の動きがまだ判明しておりませんので、気をつけてくださいね」


 若干潤んだ瞳で見つめられて、思わずドキッとする。まるで本当の新婚さんのようなやりとりだが、あいにく女アレルギーであるため不必要に接触できない……。

 そんなわけで、エプロン姿のエリスに見送られて、学校へ。


 嗚呼、こんなに可愛い子と一緒にいるのにキスはおろか、手をつなぐことすらできないなんて……。


  まあ、エリスが地球に未だにいる理由は、魔王軍の動きが分からないため、しばらく現実世界地球で様子を見るという神官としての責務を果たすためでもあるのだが……。

 妹のアイラが現実世界でもアイドルデビューしたり、家庭でもいろいろ変化はあったが、オレは普段通りの生活をこの数日送っていた。


「ふう、なんだかこの生活に慣れちゃったな……でもオレってこのまま女アレルギーなのか? せっかく可愛い女の子と縁があってもこれじゃあな……」



 オレの女アレルギーは、自他共に認めるほどで永遠に続くように思われた。


 そんな或る日のこと……。



 * * *




「ごめんなさい……無理言って」


 そう言って、上目遣いで目を潤ませ、頬を赤らめた身長160センチ前後の青髪ショートボブの超美少女と、オレは腕を組んで歩いていた。

 オレの身長が172センチだから、相手の目線はほんの少し上目遣いに見える程度だが、こんなカップルみたいな状態になるのは、生まれて初めてだ。


「気にすることないよ、オレこう見えても厄介ごとの解決を頼まれることが多いんだ。でも、イカツイ連中がキミみたいな子に何の用だろうね。早くどっか行ってくれるといいんだけど……」


 腕を組んでいるせいで、超美少女の控えめな胸が当たってドキドキしている。普段のオレなら、女アレルギーを引き起こして気絶しているところだが、今日は不思議と気絶しない。


「ありがとう……腕、組んでいて嫌じゃない? ボクなんかと……」

「まさかっ! むしろ、役に立てて嬉しいよっ」

「ふふっ優しいんだね……良かった。親切な人に出会えて……あっまだあのイカツイ人たちが物陰に……」

「本当だ、見たところ、最近移住して来ている魔族かな? オレ、魔族相手でも戦えるから大丈夫だよ。安心していいからね」


 朝特有のスズメの鳴き声も、今日は神が祝福しているかのごとく素晴らしいさえずりに聞こえるし、何処にでもある普通の住宅地の通学路も、輝かしい栄光への道筋のように感じられた。

 素晴らしい……これが『リア充』というものなのか……。


 超美少女は、イカツイ外見の男たちにしつこく付きまとわれているそうで、たまたま学校に向かう途中、通りすがりで出くわしたオレに助けを求めてきたのである。


 奇跡だ……オレが女と腕を組んでアレルギーを引き起こさないなんて……。

 もしかしたら、異世界から現実世界に戻り、融合などが行われたことで徐々に体質改善しアレルギー体質が治ったのかもしれない。


 オレの前開き状態のコートから見えるブレザーの学生服を指して、超美少女は言った。


「……あのっその制服、西地区高校の制服ですよね? 中高一貫校の……。ボクも今日から、西地区高校の生徒なんです……制服が間に合わなくて、私服登校になってしまったんですけど」

「ああ、家が近所だから中学受験して入学したんだ。でも珍しいな、高校からの転入生なんて、もしかして帰国子女枠?」

 まさか、同じ学校の生徒だとは……運命を感じる。


「まあ、そんな感じです……たまたま受かっちゃって。ボク、この辺りのマンションで一人暮らしすることになったから、そこを受験することになって……人気校っていうのは後から知ったんです」

「へえ、公立の中高一貫校は出来て数年だし、まだ珍しいから、知らない人もたくさんいるだろうし……これからよろしくなっ。もしかして、オレがこの学校での友達一号かな?」

「はい、こちらこそよろしく! ボクも早速お友達ができて嬉しいです!」


 超美少女は、自分のことをボクと言った……ボクっ娘なのか?

 だが、超可愛いので問題ない。


 むしろ、可愛い。


 体裁上、友達一号とかいう設定にしたものの本音としてはこのまま恋人に……なれたらいいな、なんて夢を見てもいいだろう。


 私服の少しダボっとした、紺色のダッフルコートがよく似合っている。ハーフパンツにタイツを合わせ、ショートブーツというカジュアルでボーイッシュな、どこにでもいるような服装だ。

 が、神ががった美少女ぶりのせいで、どこかの姫君がお忍びで庶民の服を着ているかのように感じさせられた。


 今は冬だが、はじめて早めの春が来たと言っても過言ではないだろう。


 これまでつらかった……美少女や美人とやたら縁があるものの、アレルギーの発作で恋人なんかできたことない。


 だが、今日知り合った超美少女は違う。女アレルギーが起きないし、優しそうだし可愛いし……。


 これが健全な、ごく普通の高校生活なんだ。驚いたことに、彼女はオレと同じ1年A組に転校してきたという。


「クラスメイトですね、ボク真野山葵まのやまあおいって言います。山葵わさびってあだ名がついてます」

「山葵かぁ、オレ今までワサビ抜きで寿司を食べていたけど、今日からはワサビ好きになるように頑張るよ。いや、もう好きになっている! キミのおかげで!」

「ふふっ」


 超美少女はにこっと笑った……可愛い。


 うちの学校は卒業までクラス替えはないので、残りの高校生活はこの超美少女と一緒に過ごせる……幸せすぎる。


 そこに、担任の先生が通りかかった。


「おはよう! 転校生の真野山君じゃないか? 結崎が案内してくれたのか? ははは! そうしていると、カップルみたいだな!」


(オレ達、カップルに見えるんだ、どうしよう……嬉しい、やっぱりこれは運命なのか?)


「明日、真野山の制服が届くそうだ。悪かったな、女子生徒と勘違いして……真野山は女の子みたいな外見のせいでいろんなトラブルが多いらしいから、そうやって親切にしてやってくれよ!」


『悲報:女子生徒と勘違いして』

『悲報:女子生徒と勘違いして』

『悲報:女子生徒と勘違いして』


「ボク男の子なのによく女の子と勘違いされるんです! でもこの学校では、男らしく振る舞えるように頑張ります!」


『悲報:ボク男の子なのに』

『悲報:ボク男の子なのに』

『悲報:ボク男の子なのに』


「お、男の子……だと……。キミ、こんなに可愛いのに男の娘……なのか、おと……こ……」


 聞いてはいけないセリフを聞いてしまった気がして、オレは急性男の娘アレルギーを引き起こして、ショックのあまり通学路のど真ん中で他の学生に注目されながら、いつものように気絶した……。



 神よ……なんかオレって、前世で悪いことでもしたんですかっ?

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