第15話 転職の地ハロー神殿へ
パーティーメンバーの少女アイラが冒険のメンバーから抜けてしばらく経つ……。アイラが現実世界地球での実の妹であったことを思い出したのは、離れ離れになってからで。オレの心の中では妹への心配な気持ちでいっぱいだった。
ネオシンジュクの宿屋で身体的疲労を癒すために滞在するものの食事も喉に通らず、アイラの情報をペガサス達と手分けして探すも見つからず……。
だが、諦め掛けていた頃に情報収集を兼ねてふとつけたテレビ番組……。そこには、生き別れになったはずの妹の姿。テレビ番組のタイトルは『注目の魔法少女アイドル密着取材』というものだ。
取材を受けている新米魔法少女アイドル……。それは見覚えのある顔の2人で、フリフリのアイドル衣装を着て、魔法少女の変身後によくありがちな謎のポーズを取っていた。
ツインテピンク髪の方は、髪色に馴染む淡いピンクカラーの魔法少女風衣装……ミニスカニーソに白いフリルがポイントのようだ。
もう一人の女の子は、黒髪を三つ編みにし白いヘアバンドを身につけている。相棒の少女と色違いの、ライトグリーンの淡いフリフリ魔法少女風衣装である。
『みなさん初めまして! 魔法少女アイラです!』
『みなさん……初めまして……魔法少女なむらです……』
『2人合わせて……魔法少女アイドルアイラ・なむら!』
そう、この新人魔法少女アイドルの正体は、オレのかつての仲間で実の妹アイラと、アイラの友人で魔法使いの少女なむらである。二人は魔王軍の魔法使いになると言って、どこかに消えたのだが……。
「なんだよこれっ? 『魔王軍の魔法使いになる』と言っていたのはオレの聞き間違いだったのか? 実際はテレビ番組で宣伝中の、新人魔法少女アイドルになっているじゃないか? っていうかなむらちゃんの方、テンション低くないか……? 大丈夫なのか……これ……」
「にゃあ、イクト落ち着くのにゃっ会話が聞こえないのにゃっ」
「取材の場所が変わりましたよっ……ライブ会場みたいです」
レポーターが笑顔で取材を進める。
『いやぁ2人とも可愛いですねぇ。では、ここでネオアキハバラのドルオタのみなさんに期待の新ユニットはブレイクするか……聞いてみましょう!』
小さなライブハウス内に集まった、目の肥えたドルオタ達にインタビュー……。様々なアイドルを見守ってきているドルオタの目に、妹アイラはどう映っているのだろう?
頭に『アイラ・なむら』と書かれたハチマキを巻き、ピンク色のハッピを着て応援のダンスを踊り狂っていたドルオタ魔族の男性が、メガネをカチャカチャさせながら、ドヤ顔で評論し始めた。
【ドルオタAのドル村ドル太さん(仮名・魔族系企業会社員372歳)】
『僕が思うに……アイラ・なむらは、僕たちの世界に突然舞い降りた天使という女神というか……これはもう、神が起こした奇跡ですね。彼女達の存在は、宇宙のメタファーであり、自己のアイデンティティーの確立を僕たちドルオタ魔族に促す究極の現象であり、これらを全力でプッシュすることが、僕たちドルオタが神から与えられた使命であり、これから命懸けでアイラたそとなむらたそを支援していくことが……(以下略)』
「ずいぶん語るな……。どうやら、アイラ達のことがえらく気に入ったようだ」
「人間と魔族の間でバトルが行われていることを忘れそうな勢いですよね……。あの人魔族ですよ」
マリアが修道院出身者らしく、ロザリオ片手に取材の様子を見守る。
「おいっ魔族だけじゃなくてエルフ族もいるぞっ」
エルフ族のアズサが思わず声をあげる……レポーターが、別のドルオタにマイクを向けると……さっきのオタ会社員は魔族だったが、今度のオタ公務員はエルフ族のようだ。
人間族であるアイラが、他の種族から評価されるのはなんだか不思議な気持ちである。
【ドルオタBのオタ村オタ太さん(仮名・エルフ村公務員530歳)】
「アイラたそ! なむらたそ! アイラたそ! なむらたそ! アイラたそ! なむらたそ! (以下略)」
応援で手一杯のようである……さらに別のドルオタに、インタビューするレポーター。
【ドルオタCのドル山オタ蔵さん(仮名・ドワーフ鍛冶屋店勤務285歳)】
「やっぱイイっすね、魔法少女は。さらにアイドル! 明るく純粋なアイラ姫と、クールツンデレキャラのなむら姫の究極の美が、僕のハートを鷲掴みっすよ。さらに僕が思うには(以下略)」
「究極の美か……随分入れ込んでいるようだな。実の兄としては少し心配な展開だ」
「まさか、エルフやドワーフにまでオタ文化が広がっていたとは……。都会の妖精族は、凄いな」
「にゃあ……舞台の照明がチカチカしているにゃ……。歌が始まるのにゃ」
『ではここで、アイラ・なむらデビュー曲【お兄ちゃんとの約束~マジカルハート】です!』
お兄ちゃんという曲名にドキリとしたが、流石に全曲は流さないのか軽快なサウンドとライブハウスの様子が徐々に遠巻きになり……特番自体終了してしまった。
続きはCDで、ということなのだろう……歌詞は分からず終いだった。
* * *
白魔法使いのマリアが、ロザリオをサイドテーブルにコトンと置いてテレビのリモコンを消し、ダラリとソファに横になって一言呟いた。
「アイラ……転職したのね。魔法少女に……」
マリアは仲間の裏切りが相当ショックだったのか、虚ろな目でもはや抜け殻のようだ。
他のみんなも、パーティーメンバーの突然の離脱に、ショックを受けているようだった。
そうだよな、旅立ちから1ヶ月程とはいえだいぶ仲良くなって来たのに……。
重苦しい沈黙を破ったのは、前世はオレの元ペットの黒猫という経緯の持ち主の猫耳メイドミーコだ。アイラとも暮らしていた時期があるし、いわば家族のようなものであるが……。
「アイラ…………ずるいニャー! 自分だけ魔法少女アイドルになって! ミーコも猫耳メイドアイドルになりたいのニャー!」
ミーコが、にゃーにゃー騒ぎ始める。
「えっ? そっち? それでショック受けてるの?」
予想外の反応に拍子抜けしていると、アズサが髪の毛をクシャリとかきあげてやや沈んだ声色で語り始める。
「仕方ないだろ。あたし達はもう成人している……魔法少女には転職できないのさ……あたしも10代の時には……。いや、この話は、もうよそう……」
「アズサまで……っていうか、ミーコって成人している扱いなのか? 確かに成猫だけど、てっきり女子高生くらいだと……」
「にゃあ、猫は人間年齢でいう16歳でお嫁に行けるのにゃ。だから、女子高生くらいで成人扱いなのにゃ。このままじゃ、ネコミミメイドアイドルにもなれないし、イクトのお嫁さんになるしかないのにゃ……。アイラは、もう魔法少女アイドルになる運命なのにゃ」
どさくさにまぎれてミーコにぎゅっと抱きしめられて、思わず女アレルギーを起こしそうになるも緊迫した会話の最中のはずなので、なんとか根性で堪える。
どうやらみんなは、アイラが突然転職したことの方にショックを受けているようだった。
ソファでどんよりとしていたマリアが、フリーペーパーの転職雑誌を片手にポツリポツリと自分語りを始めた。
「転職といえば実は、私……白魔法使いではないんです。確かに白魔法は使えるんですけど、本職扱いではなかったみたいで。自分でも気付かなかったんですけど、私の本当の職業……ギャンブラーなんです」
「ギャンブラー? そんな冒険者用の職業、この異世界にあったんだ」
スマホステータス管理のマリアの職業欄が『ギャンブラーマリア・ギャンブル大好き』になっている。旅立ちの時は、山奥の村で修行を積んだ真面目な白魔法使いだったはずだが。
ネオフチュウでギャンブルに没頭するあまり、職業が変化してしまったのだろう。
本当の職業……つまり本質か。
どうりで変だと思った。あのレース場に掛ける意気込み……あんな白魔法使い、いないよな……普通。
「そして、気づいたんです! 私……レベルがあと少し上がれば、上級の職業にに転職できるって! 私、上級職【賢者】を目指します」
「上級職……だと? つまり、パワーアップってことだよな、使える呪文が増えるとか?」
突然の上級職転職希望オレは度肝を抜かれるが、マリア曰く『才能のあるギャンブラーならすでに、モンスターレースで勝ちまくっているはずで、自分はこれ以上ギャンブラーを続けても伸びない』と感じたのだという。
「アイラちゃんが抜けて、戦力ダウンでしたが……この戦力の穴を埋めるためにも、私……転職します! 転職して賢者になります! バンバン、バリバリ攻撃呪文を放てるようにしてイケてる戦闘を披露してみせます……行きましょう! 転職の地ハロー神殿に!」
「にゃあ、バリバリ転職だにゃん!」
「アイラも無事だったしさ……いつまでも落ち込んでられないぜっ。なあイクト」
「みんな……ありがとう。じゃあ転職の神殿に行くかっ」
妹の無事も確認できたことだし……戦力アップを目指して、いざ転職へ!
* * *
《ひとこと感想》
いろいろ心配したけど妹アイラが元気そうでひとまず安心……かな?
(イクト)
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