第16話 神官の美少女に逆プロポーズされた件

 転職の地で名高いハロー神殿。


 そこは、大都市であるネオシンジュクに鎮座する就職活動者達の憧れの聖地……ありとあらゆる職業の就活相談に応じており、資格専門スクールとの連携もバッチリ対応。


 ネオシンジュクの区役所から徒歩5分の場所に位置し、格安宿、サウナ、温泉、レストラン、カフェ、バー、武器防具屋、道具屋、図書館、人生相談占いコーナーなど、様々な施設が揃う複合施設神殿だ。

 もちろん冒険者必須のギルドや旅仲間の仲介も行なっており、ひとり旅からパーティーを設立するために立ち寄るものも多い。


 特に人気となっているのは、冒険者には嬉しい格安宿で冒険者割引や転職者割引を活用する事でかなり、リーズナブルな価格で泊まることができる。



 * * *



「へえ、ここが噂のハロー神殿かぁ……おっ宿泊施設は向こうのカウンターが受付か……」

「今回は、私が賢者の転職を申請するので転職割りも適用されます。あと、アズサもスキル習得検定を受験するんだとか……結構お得に滞在できますね」

「にゃあ、部屋の写真も綺麗なのにゃ……とりあえず、2DKルームを1ヶ月申請することになるのかにゃ?」


 長期滞在者向けの案内書をみんなで確認、男性1人と女性3人の4人組パーティーだから、部屋は性別で分けて2つ必要だ。

 小綺麗な2DKの案内書には、自炊可能で長期滞在に便利・プライバシーが守られる2ルームなので男女共同パーティーにおススメです……とのこと。


「よし、ここで申し込もう。あとで、スーパーで食料品を購入して……しばらくは自炊だな。オレは、今のところ転職予定も検定を受ける予定もないし、みんなの為に料理でも作るよ」

「えっ本当ですか? 私、鳥の唐揚げ好きなんです! イクトさん、もしよければたまに唐揚げを……」

「にゃあ、私も手伝うにゃん。メイドの本領発揮なのにゃ。料理はもちろん、お掃除とお洗濯はお任せなのにゃ」

「はは、ミーコも頼りにしてるよ。じゃあ、契約して鍵を受け取ってくるから……」


 神殿内は豪華な大理石で作られており、宿の室内もそれなりの家具で、とても格安宿には見えない。

 女性3人は1つの部屋を3人で使うのでやや狭いかと思ったが、二段ベッド完備でプライバシーもキープされているようだ。大きめの荷物を部屋に置いたら、夕食の支度のためにスーパーへ……近所に激安スーパーがあるらしくなんとかやっていけそうだ。


「今日は手作り料理だにゃん! 楽しみなのにゃ」

「唐揚げ以外のオカズは、向こうで安い食材を確認してからにするからな」


 スーパーに向かう途中の通路で改めて神殿内の様子を見る。


 シャンデリアの灯りが転職への希望に満ち溢れた冒険者達の表情を、より輝かせてみせる。学者風の若者が、併設図書館で資料集めに奔走し、転職に迷った冒険者が占いコーナーに並ぶなど、ずいぶん活気があるようだ。


 若い女性達はカフェでひと休みしていて、ペットも同伴可能。女性に連れられ、カフェから出てきた通りすがりのチワワが可愛い。

 武器防具も、転職者限定アウトレットセールで購入可能……転職後の初期装備に困ることもなさそう。


 ミーコと一緒に買い物を済ませて、久しぶりの手料理。


 メニューは、炊きたて白米、わかめスープ、鶏の唐揚げ、もやしと卵の炒め物。

 安い食材でなんとか乗り切れたらいいな、と考えたメニューである。勇者イクト特製鶏の唐揚げはメンバーから好評だ。

 本当は魔法少女アイドルデビューをしてしまった離ればなれの妹アイラにも食べさせてあげたかったが、今はマリアの転職を全力サポートだ。


「じゃあ、今日からこのハロー神殿がオレ達の拠点です! 頑張ろう!」

「おー!」


 順調な出だしに安心するオレ達……まさか、このハロー神殿でオレは女アレルギー持ちとして、最大のピンチを迎えることになるとは思わなかった。



 * * *



「履歴書に証明写真を貼って、あとは印鑑を押して……」


 実は職業ギャンブラーだった、自称白魔法使いのマリア……ギャンブラーと白魔法使いの職業を両方一定レベルまで上げれば、上級職の賢者に転職出来るという事実に転職専門誌を読んで知り賢者になる決意をした。


「イクトさん……私賢者になったら本気出します! 見ててください!」


 まるで、明日から本気出すみたいな言い方をし始めたマリア……。今まで本気出してなかったのかよ、と突っ込みたい気持ちもあったが、これまでにない健気な姿に胸を打たれて何も言えなかった。


 ちなみに……勇者は固定職として外すことはできないが、副業としてもう1つ職を持っていいそうだ。

 料理担当係をしながら勉強できそうなスキルがあれば……と考えていたが、スマホのステータス画面に料理上手スキルが追加されていたので、今回はそのスキルを取得しよう。


 最近の冒険者は、自分で裁縫をして装備品を強化させてバザーで売ったり、副業が本職……という人も増えてきているという。

 将来的には、いろいろな副業スキルを取得して……など夢は膨らむ一方。

 この異世界が、あくまでも美少女ハーレムRPGであることをすっかり忘れて、まるで普通のRPGを攻略しているような気分になっていた。



『ようこそ! 転職の地ハロー神殿へ!』


 複合施設の奥にある転職専門神殿に入ると、ミニスカニーソ姿の巫女が大勢いた。

 神殿と名乗っているだけあって、職員は聖職者ルックのようだ。何故か激ミニニーソ姿の巫女が闊歩する……この神殿の萌え萌えしたオーラに、オレは動揺した。


 どうしよう……この神殿、男の職員が1人もいないよ。オレの女アレルギーが、久しぶりに発生している。 さっそく、鳥肌が立ち始めている。


「イクトさん、みんな……面接に行ってきます」

 リクルートスーツ姿に身を包んだマリアは、面接室に向かって行った。


 どこか女性の少なそうな場所に避難して、アレルギーを沈めないと……。大理石の床がコツコツ鳴る神殿内で、オレの後を追うように、コツコツと靴音が響く……気のせいだろうか?


 避難場所を探していると、神官ファッションの青い瞳に銀髪ロングヘア美少女が、オレに声をかけてきた。


 どうやらオレの後に続く靴音の主は、この神官の少女のようだ。美少女は神官特有の白いローブを身に纏い、金色の杖を手に携えている。

 突然現れた彼女の美しさに、女アレルギーである事を忘れて、しばらく見惚れてしまう。


「勇者様……伝説の勇者イクト様ですね!」

 銀髪ロングヘア美少女は、美しい青い瞳を潤ませている。


 だがオレの記憶を辿っても、青目銀髪美少女の知り合いなど居るはずもなく、オレは混乱した。


「えっ誰……?」


 感極まった少女は、大胆なことにオレに抱きついてきて、華奢な身体を絡ませてきた。

 細身ながらも女性特有の胸の膨らみや、しなやかな身体の感触が伝わり、持病の女アレルギーが発症し始めた。

 マズイ……早くこの場を切り抜けないと……。


 だが神官の美少女は、か弱そうな容姿に似合わず、隠し部屋まで追い込んできて、狭い空間でガッチリオレをホールドロックし、オレは逃げることが出来なかった。

 そして、トドメを刺すようにおそろしい台詞を甘い声で囁いてきた。


「私このハロー神殿の神官です。ようやく会えました勇者様……私…あなたのお嫁さんに永久就職するって神のお告げで決められていたんです! 私をお嫁さんにしてください! 勇者様……」


「えっちょっと……わっごめん……」


 不可抗力だが……神官の少女から離れようとした途端、運悪く彼女の胸を大胆に揉む結果に。


 ドサッ! ムニムニ! 手に滑る柔らかな弾力が気持ちいい。


「あっ勇者様……いけませんわ! こういうこときちんと婚約を交わしてから……あっ!」


 どうしよう……わざとじゃないのに……。胸を揉んだ柔らかな感触が手に残り、動揺した結果、さらに少女を押し倒すような体勢になり……。


 バタン! 隠し部屋のソファの上で美少女を組み敷いた状態で、扉が閉まる。

 呪われているのか、不可抗力の名の下に、あらゆる部分が密着しまくってしまう。


「んっあっはっあ……これ以上は……」

「あぁっごめんオレ、こんなつもりじゃ……」


 まずいよ、でもオレの中のハーレム勇者の魂が暴走してしまい、心とは裏腹に身体はどんどんくっついていくのであった。


「……違うんだ、これは不可抗力で……うっ女アレルギーガァああ! うわぁああああっ!」



 その瞬間、オレは『神官逆プロポーズ系急性女アレルギー』を引き起こし、絶叫とともに記憶を一部喪失。

 勢いで隠し部屋のドアをぶち破り、大理石の神殿内をのたうち回りながら、その場で気絶したのである。

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