第4話 伝説のチートスキル、モテチート
女アレルギーであるにも関わらず、美少女ハーレムテイストの人気スマホRPGの異世界の勇者になってしまったオレ。
山奥の村に召喚され旅に出てから、一週間ほどが経過。
最初はオレのことを『勇者様』と呼んでいた白魔法使いのマリアも、ようやく『イクトさん』と名前で呼んでくれるようになった。
何と言っても、衣食住共にしているのだ。あまり距離を取られると、こちらも困る。
格闘家のアイラはオレより年下なせいか、初めからオレのことを『お兄ちゃん』と呼んでいた。まるで本当の兄妹のようだ。しかも、まるっきり違和感がないので不思議である。
そして、オレは自分に妹がいたかどうか思い出そうとしたが、不思議なことにオレは現実世界でどんな生活をしていたのかイマイチよく思い出せず、自分に妹がいたのかどうかさえ分からなくなっていた。
オレが小学生の頃飼っていた黒猫のミーコとは、この異世界で猫耳メイド美少女という可愛らしい姿に転生した状態で再会したが、ミーコという黒猫を拾って育てた記憶は残っているものの、どんな家で暮らしていたのか思い出せない。
思い出せるのは、ゲーム仲間達とファーストフードで『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』というスマホRPGをダウンロードしたということだけである。
こうして、どんどん現実世界の記憶を失ってしまうのだろうか?
オレはこのゲームをクリアすれば現実世界に戻れるような気がして、今日も女アレルギーと戦いながら冒険の旅を続けていたのだが……。
* * *
「イクトさんも、もうすぐレベル5ですね。そろそろスキルが解放されると思いますよ」
大型都市を目指して山道を旅している途中、戦闘も終わり冒険者向けのベースキャンプ施設で休憩をとっていると、いつも世話を焼いてくれるマリアが、スキルについて説明し始めた。
いわゆるRPGの世界では、レベルが上がるにつれて自然と覚えるスキル……ゲームをプレイしている段階ではいったいどのような仕組みでスキルが身につくのか謎だった。だが、リアルに異世界に転移して来て徐々に仕組みが判明して来ている。
まず、この異世界のステータスはすべてスマホを通じて冒険者ギルドに管理されており、体力や攻撃力などの数値が一定基準を達すると特技実装データがスマホに送られてくる。
実装データは、そのレベルに達したのものならおそらく使いこなせるであろう技の使い方を説明する動画や文書で、冒険者はこれらを参考にスキルを取得するのだ。
ちなみに、オレ達の所属ギルドは異世界転移した日に泊まった山奥の修道院、ギルドマスターは例の族長である。
この世界には、あらゆるところにギルドがあるらしく各地の施設が連携しているそうで、学生を中心とした学園ギルドなどもあるらしい。オレもこの世界で生まれた学生だったら、学園ギルドに所属していたのかもしれない。
雑魚敵である、ゼリーのような水饅頭のようなサッカーボールサイズのモンスター『プルプル』や、宙に浮くたぬき型モンスター『ふわふわタヌキ』などとしか戦っていないが、RPGゲームの異世界であることを踏まえると、今後起こるであろうボス戦に備えて何か有効なスキルを身につけたい。
「勇者のスキルって、どんなのなんだろうな?」
オレは、未だに呪文というものが使えない……これから、使えるようになるのだろうか?
ベースキャンプの鍋を使いコトコト煮た野菜のスープをひとくち飲むと、じんわりと疲れが癒される。これらの食事で体力や魔法力が回復するというのだから、ありがたいものだ。
マリアいわく、勇者特有の呪文があるらしいが、データ管理用のスマホには、勇者が次にどんな魔法を覚えるのか載っていないため分からない。
キャンプ施設の鍋や食器には、回復効果の高い魔法アイテムが使用されているので、宿屋に止まらなくても体力や魔法力を回復する事が出来る。
だが、唯一の白魔法の使い手であるマリアにばかり怪我の手当てをさせていては、そのうち旅がきつくなるだろう。
一般的なRPGでは、勇者はそれなりに回復魔法などを使えるケースが多いし、本当にレベル5でスキルというものが使えるようになるなら、有り難いのだが……。
「たぶん勇者しか使えない、カッコイイ魔法とか使えるようになるにゃん!」
猫耳メイドのミーコが、一般的なRPGのスキルを例えに挙げた。そう……一般的なRPGなら、そんな感じなんだろう。
オレ達はこのゲームがあくまでも、美少女ハーレムRPGであることを忘れていたのである。
* * *
「ふわふわー ニンゲンニンゲンやっつけろー」
空飛ぶタヌキモンスター『ふわふわタヌキ』の群れが現れた!
このモンスター達は群れで行動し、次々と仲間を呼ぶので厄介だ。
「てや!」
「ハッ!」
攻撃担当のオレとアイラが、モンスターにアタック!
ミーコはメイドということもあって、サポートが得意らしく補助呪文で守備力を上げてくれる。
マリアの回復呪文で傷口を回復してもらい、モンスターの群れとの攻防に勝利を納めた。
『テレテレテレテレテーン!』
イクトのレベルが上がった!
スキルモテチートが加わった!
スキルを振り分けてください
スマホから陽気な音楽とともに、レベルアップのメッセージが出た……が、モテチート……? なんの役に立つスキルなの?
「……モテチート……! あの伝説の勇者ユッキー様が使っていたと言われている? ハーレム勇者ユッキー様は、聖なる勇者イクトス様の意思を継ぐために現れた有名なお方なんですよ」
「おにーちゃん……伝説の勇者様とおんなじスキルが使えるの? カッコイイー!」
マリアが、驚きの声を思わず上げる。 アイラも興奮気味だ。聖なる勇者イクトスに、ハーレム勇者ユッキーか。
オレの名前である結崎イクトと、それぞれの名前が被る気がするが偶然だろうか。
マリアが美しい声で、おとぎ話を語るような口調で話し始めた。
「勇者イクトスの意思を継ぐ、勇者ユッキー……その若者は黒き衣を身に纏っていた。銀色の髪は誰よりも美しく、遥か異世界より召喚されし希望の光。各国の娘達が勇者の妻となった。やがて伝説のハーレムと呼ばれ勇者は世界を平和に導く……」
「伝説のハーレム?」
「つまりイケメン勇者のユッキー様が、様々な国の女性をお嫁さんにしたことがキッカケで戦争が終わり、世界を平和に導いた……という伝説です。その勇者様が使われていたスキルがモテチート……と呼ばれるものです」
おい、ちょっと待てよ。
女アレルギーのオレが、そんなスキル持ってどうするんだよ。オレは現実世界にいる女好きのイケメン達に、勇者の座を譲りたい気分になった。
「イクトさんは女アレルギ……じゃなかった、聖なるチカラを保つために、女性との過剰な接触は厳禁ですものね。このスキルどうしたらいいのかしら?」
マリアの奴……オレが女アレルギーなのに完全に気づいている……。
「そうだよー、イクトおにーちゃん、女の人と親しくすると倒れちゃうもん! 別のスキルの方がいいよ!」
アイラの奴も、オレが女アレルギーなのに気づいている……?
「にゃーんイクトは子供の時から、女アレルギーだから意味がないスキルだにゃん! いらないにゃん!」
この猫耳メイド……前世がオレの飼っていた黒猫のせいなのか、はっきり女アレルギーって認識してやがる!
スマホから、機械特有の無機質なボイスでメッセージが繰り返される。
『スキルを振り分けてください』
『スキルを振り分けてください』
このスマホしつこいな……どうやら俺に意地でも、モテチートとかいう伝説のモテスキルを使えるようにしたいらしい。普段機械的なくせに迷惑なスマホだ。まるで生きているかのようだ。
仕方なく電源を切ってごまかそうとしたが、仕様なのか何故か電源が切れないようにできていた。
『スキルを振り分けてください』
「……」
「……」
「……」
その時、普段は優しい表情のマリアが無表情無言で、オレのスマホをオレの手から奪い思いっきり地面に叩きつけた。
ガチャーン!
『……スキルを振り分け……てください……げふっ』
マリアの攻撃!
スマホに9999のダメージ!
冒険者用スマホをやっつけた!
『応答がない……ただのスマホの亡き骸のようだ』
それが、オレの冒険者用スマホ(初代)の最後のセリフだった。
オレはいつも癒し系で通している、マリアの裏の顔を見たような気がしたが、マリアは何事もなかったように再び優しい表情で微笑み始めたので、オレ達も何事もなかったかのように装い、全員無言で次の街を目指した。
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