第3話 猫耳メイドも仲間になるニャン
「萌え萌えにゃんにゃん! メイドだにゃーん」
猫耳メイドの生歌が喫茶店内に鳴り響く、だがお客さんは誰も気に止める様子を見せない……いや、それどころかなぜか羨ましそうな目で歌うメイドさんを見て喜んでいるようだ。
「可愛いー! メイドさんが歌って踊ってるよぉ」
「ここのメイドさん達の耳とか尻尾てリアルだよね? もしかして、猫耳族なのかなぁ?」
お客さん達はこの萌え空間を楽しみにして来ているのだから、喜ぶのも当然なのだろう。だが、オレがこの店にやって来たのは腹が減っているからで、決して萌えに来たわけではない。
女アレルギー発症間近でピンチのオレの頭の中では、アホっぽいけれど可愛いメイドの歌声がリピート再生していた……。
どういうわけだか、人気スマホRPGの勇者に異世界転生してしまったオレ……困ったことに、このRPGは美少女がやたら登場するハーレムテイストだが、オレは女アレルギー持ちである。
山奥から市街地へとおりて、ようやく見つけた憩いのお店。それが、この喫茶店だったのだ……ただし、そこはミニスカニーソ猫耳メイド達が闊歩するメイド喫茶だった。
しかも、田舎の店の割には、しっかりと萌え要素が詰まった空間でメイド服は黒のミニスカ、ロンスカに加えてピンク系や水色系のアイドルちっくな衣装も揃えられている。
さらに、通常の歌のサービス以外にハートマークを一緒に作りながら記念写真だとか、メイドさんからバースデーソングとケーキのプレゼントがあるだとか、結構本格的なお店のようだ。
そういえば、男の人が山奥からは消されたと言っていたが、市街地に来たら男性の姿もチラホラ見かけるようになったな。もしかしたらこの辺りの地域からは、魔王軍の呪いがかかっていないのかもしれない。
頑張って食事をして、早い所次の街へと進もうとしたものの萌え空間には耐えきれずに案の定、持病の女アレルギーを発症し……『もうダメ……』と呟きながら倒れてしまう。
「勇者様⁈ 大丈夫ですか? しっかりしてください!」
「うわーんお兄ちゃんが倒れたよぉ」
アレルギー発症により、気絶したオレを介抱する仲間達。だが、気のせいかもしれないがオレを抱きとめたマリアの胸は、想像しているよりもずっと大きくふくよかで、しかも運の悪いことに胸で顔を受け止められてしまったので、女アレルギーへの打撃がものすごい。
いわゆる、おっぱいとおっぱいの間に顔を挟んで揉まれているような状態であり、顔じゅうで清楚で美人で可愛らしいマリアの胸の膨らみを感じ取っているような状態だ。
マリアの胸に包まれながら女アレルギーが起きている一方で、オレの中にあるむっつりスケベな健全男子モードのイクト君が『マリア可愛いし、胸でかいし……もうこのまま天国行きでもいいかなぁ……』なんて弱気になっている。
しかも、命の危険を察知してなんとかマリアと離れようとした瞬間に、柔らかな胸をタッチしてしまう……むっつりスケベな方のオレの魂が今の状況を堪能し始めて、絶体絶命のピンチである。
「あっ勇者様……その、そこはちょっと……恥ずかしいです……あっ」
「ごっごめん、わざとじゃ……ぐふっあっアレルギーがっ」
「うわーん、このままじゃお兄ちゃんがぁ」
そんな修羅場が展開される真横で、さっきの猫耳メイドが勝手にオレのスマホをいじっていた。
マズイ……このRPGは元がスマホゲームなせいか、冒険の記録やデータ管理は『冒険者用スマホ』を介して行われる。しかも、本物の猫のように素早い動き……いくら外見が可愛いからって、何者だかよく分からない猫耳メイドに、勝手にスマホをいじられたら……。
ピッピッピッと、軽やかな音が聴こえる。
「にゃんにゃん登録完了にゃーん」
登録⁈ いったい何を? あの猫耳メイドは一体?
猫耳メイドの美少女はミニスカートをひらりとさせながら、こちらの方をくるりと愛らしく振り返り、ややつり目がちの大きな瞳を涙目にさせながらオレに訴えてきた。
「イクトが悪いんだにゃん! あたしの事すっかり忘れて、他の女の子と仲良くして! だから勝手に仲間に登録するにゃん! イクトの本当のお嫁さんは、あたしなのにゃん!」
何言っているんだ……このメイドは……。
「イクト……本当に覚えていないの? あたしの事……」
猫耳メイドが涙を流し始めた。 胸がチクリと痛む、誰だ……こんな知り合いいたっけ?
「あたしだにゃん……黒猫のミーコだにゃん」
黒猫のミーコ……オレが小学生の時に可愛がっていた黒猫と同じ名前だ。
捨て猫だったミーコを、ひろってオレが一生懸命育てた。黒猫ミーコとメイドを比べると……。
ツヤのある黒い毛並みは黒髪の美少女といったところだろうし、猫耳も黒くてキレイな三角形……尻尾の先だけ白いところも、このメイドの萌え尻尾と共通しているし、確かにミーコを人間の女の子にしたような感じではある。
でも、ミーコは既にこの世には……。
「あたしね! 黒猫の時からイクトのお嫁さんになりたいって、神様にお願いしていたのにゃん! 気づいたら、あたしもイクトもおんなじ世界に来ていたのにゃん! なのに、あたしに会っても気づかないなんて、ひどいのにゃん! お願いだから一緒に連れて行ってにゃん! もう1度猫じゃらしで遊んで欲しいにゃん!」
猫耳メイドミーコは、オレに必死に訴える。ミーコの話を聞いて、マリアとアイラが涙を流していた。
「ミーコちゃん、可哀想……」
「私……猫大好きなんです。勇者様は自分の飼っていた猫の健気な姿を見て、なんとも思わないんですか?」
子猫のうちから大事に育てた、可愛いミーコ……オレはマリアの胸の中からかろうじて起き上がり女アレルギーであることを忘れて、子猫に対するようにそっと猫耳の頭を撫でて、ミーコに話しかけた。
「……にゃんにゃん言い過ぎだ。にゃんは1度の会話に1度まで……そうすれば、また猫じゃらしで遊んでやるよ」
涙目だったミーコの表情が、一気に明るくなる。大きな瞳は見覚えのあり、俺の可愛いペットのミーコを彷彿させるもので……この娘はオレが面倒見てやらなきゃなという義務感が湧いて来た。
「‼︎ 嬉しいにゃーん」
ミーコが仲間に加わった!
『テレレテレレレタララーン!』
オレのスマホから、仲間が加わった時のサウンドが流れ始めた。
書き換えられるスマホの情報、プラスされる仲間情報には猫耳メイドのアバターが可愛くさっきのメイドダンスを踊っている。
やれやれ……思ったよりもずっと、にぎやかな旅になりそうだ。
* * *
【今日の冒険の記録】
猫耳メイドが加入!
現在のパーティのレベル
勇者イクト レベル2
白魔法使いマリア レベル2
格闘家アイラ レベル2
猫耳メイドミーコ レベル1
ひとこと感想……メイド喫茶のミルクティーもラブリーオムライスも美味かった! (イクト)
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