第6話 再結成、ご当地魔法少女

 危ないところを、大型公園のボランティアで巡回していた、エルフのアズサに助けられたオレ達……どうやらアズサはオレ達のパーティーメンバーである白魔導師のマリアと旧知の仲のようだ。

 遠い昔を振り返るかのごとく、公園内のベンチに腰掛けながらアズサが学生時代のことを語り始めた。なんだか、長い話になりそうな予感がしてならない……オレとしては、早いところ街に行って壊れたスマホを修理したいんだけど。


 だが、仮にもアズサはオレ達のピンチを救った命の恩人……昔話のひとつやふたつ付き合わなくてなならないのだろう。


「知り合いっていうのは本当のことだし! なっ! マリア!」


 アズサが親しげに、マリアの肩をポンと叩く。ベンチの隣に腰掛けさせて、まだ開けていないペットボトルをマリアに差し出す。

「ほら、マリアの好きなフルーツティーのペットボトルだぞ。学生時代に2人でよく飲んだだろう? なぜか、偶然持ってたんだよ。飲みなよ、せっかくの再会だし……アタシのおごりだ」


「アズサ……」


 せっかく好きな飲み物を手渡されているのに、マリアはアズサの顔を見ようとしない。顔を伏せてしまった……それでも、アズサは諦めないようだ。っていうか、なんだかアズサの突然の登場ってタイミングが良すぎないか? 


「あっそうだっ! これもまた偶然なんだけど、マリアの好きな化粧品メーカーのコスメキットを今日買ったんだった……いやぁ偶然ってあるんだなぁ、もちろん未開封だぜ、これも再会の記念に……」


 また、偶然? まるで、マリアがこのルートを通過するのを初めから知っていたような気すらして来た。まさか、最初からその計画で……いや、考えすぎか……でも、偶然にしてはあまりにもタイミングが……。


「ごめんね、アズサ……私もう……ああいうことはする気がないの……ファンの人たちにも方向性の違いで解散したって発表したじゃない? 今更……」


 方向性の違いで解散……なんだか、バンドが突然解散した時のようなセリフだな。マリアは昔アズサと何かしていたのだろうか。

 マリアの反応に焦っているのか、アズサはマリアの肩をグッと掴み説得モードに入る。一方、オレ達は話の内容が分からず置いてきぼりとなってしまい、ベンチでまったり休憩タイムだ。ミーコに至っては、売店でシャボン玉を購入してアイラと遊び始めた。


 キラキラと光を浴びて、まあるいシャボンがふわりと飛んでいる。今日は天気もいいし、この広い公園でまったりするのも良いのだろう。



 * * *



「もう一度、2人で活動したいんだ……‼︎ やっぱりあたしの相棒はマリアしかいないんだ……!」

「ごめんなさいアズサ……私……」

 マリアは乗る気ではないようで、申し訳なさそうに謝り始めた。相棒というと、2人組で何かしていたのだろうか、活動……相棒……? やはり、イマイチ話についていけない……。


「あっもしかして……にゃあ、気のせいかにゃ?」

 シャボン玉で遊んでいたミーコが耳をピンと立てて、何かを思い出した様子……。

「ミーコ、何か思い出したのか?」

「あの2人……昔猫だった頃に地球のテレビで見たことがあるような……中学生の女の子が主人公で……うーん、やっぱり気のせいだにゃ」

 なぜ、地球でこの異世界の少女達の活躍がテレビで放送されるのか、謎でしかないがこの際様子ばかり伺っていないではっきり訊くのが良いだろう。


「あのぉ、おふたりは一体どのようなご関係なんでしょう? 活動って何でしょうか……バンドの解散状況みたいな話し振りだったけど……」

 オレは思い切って、2人の関係……そして、なんの活動をしていたのかを聞いてみることにした。


「ふっアタシ達は相棒さ、唯一無二の……萌え萌えご当地魔法少女ユニット……その名も【ご当地魔法少女マリア&アズサ】萌えエルフアズサ、萌えシスターマリア、ご当地の平和は私たちが守る!」


 なんだか、キャピキャピしてそうな姿が想像できるな……マリアはそのユニット名がよっぽど恥ずかしいのか顔を真っ赤にして耳を塞ぎ、アズサの話をさえぎり始めた。


「やめて……! もう……終わったことなの……」

 激しく首を振り、涙ながらにアズサの話を止めるマリア。どうやらマリアにとっては触れてほしくない過去のようだった。ご当地魔法少女か……別に青春の1ページとして大事にすればいいのに、何をそんなに拒否するんだろう?


「……マリア……」


 2人が魔法少女ユニット活動再結成を巡り、揉めていると、『テレレレレーン!』と、スマホからサウンドが流れモンスターの群れが現れた!  


「⁈ この公園を抜ければ、もうすぐネオタチカワシティに着くっていうのに!」

 オレが自分の武器である冒険者の棍で戦おうとした時に、壊れたスマホからメッセージが入った。


『あなた達は、冒険者として登録されておりません。戦闘参加を禁止します』


「えっ?」

「嘘でしょ?」


 オレ達は、目に見えない不思議なチカラで武器を使うことができなくなった。それにも関わらず、今まで登場しなかった触手型モンスター達がオレと仲間達に襲いかかる。

 シャボン玉遊びをしていたミーコとアイラが、触手に巻きつかれて捕まってしまう。なんて事だ、さっきまでほのぼのタイムをすごしていたのに……。


「にゃーん! この触手気持ち悪いにゃーん! 助けてなのにゃーん」

「やだ! 気持ち悪いよぉーやめてよぉ 」


 アイラとミーコの戦闘能力なら、この触手くらい倒せそうなものだが、生理的に受け付けないタイプのモンスターなのか涙ながらに助けを求め始める。さらに、オレもいつの間にか触手に巻きつかれてしまい。身動きが取れない。


「くそ! こんなところで全滅するわけには‼︎」


 アズサが、真剣な眼差しでマリアに語りかける。

「マリア……お前の仲間がピンチだぜ、お前の正義感で見捨てるはずないよな? お前が一緒に変身さえしてくれれば……アタシ達は2人じゃないと変身できない。分かるだろ……?」


「マリアちゃん久し振りですウサー」

 ウサギをパステルカラーにしたような、妖精がどこからともなく現れた。

「まさか、女子中学生でもないのにこの年齢で……でも、今戦わないとイクトさん達が……分かりました。今回だけ……今回だけですよ」


 頬を硬直させながら、マリアはオレ達のピンチに何かの覚悟を決めたようだ。2人でポーズをとり、何かの呪文を唱え始めた。


『萌えエルフ‼︎ 萌えシスター‼︎ ご当地チェンジ!』


 まるで変身アニメか何かのように変身していくアズサとマリア……フリフリのミニスカートにスニーカーを合わせていて、活動的なファッションである。


『ご当地魔法少女! マリア&アズサ!』

「キシャー!」

『萌えエネルギー! ご当地フラッシュ!』

「グハァ……」


 二人はあっという間に触手軍団を打ちのめし、フィールド上に平和が訪れた……が、オレは萌え衣装に身を包んだ2人を見て、突発性女アレルギーを引き起こし……気を失った。


「イッイクトさんっ? ごめんなさい。私が女子中学生でもないのにこんなフリフリのファッションで戦ったから、女アレルギーが……」


 いや、2人とも可愛かったよ、可愛くて気絶したんだよ。そしてオレは女アレルギーなんだよ、女の子の可愛い露出ファッションを見るたびに気絶するオレって一体……。



 * * *



 風がそよそよと頬を撫でる……柔らかな枕がわりの感触温かな体温……これは、膝枕?


「イクトさん……起きてください! もうすぐネオタチカワシティですよ」

 マリアの優しい声で目を覚ますオレ……。どうやら、膝枕をして介抱してくれていたのはマリアだったようだ。一度倒れたせいか、密着していても女アレルギーを起こさなかった。


「あれ……ご当地魔法少女は……?」


「ご当地魔法少女……? 何のお話ですか?」

 キョトンとした表情の白魔導師マリア。

「イクトようやく目が覚めたのか? 幸せなヤツっ早くスマホ直すんだろ?」

 アズサがイタズラな表情で笑う。


 オレは気を失っていたようだ……いつの間にか仲間になっていたエルフ剣士アズサを加えて、ネオタチカワシティが見えてきた。

 ご当地魔法少女ユニットマリア&アズサ……2人が変身していることは勇者イクトにも知られてはいけないのである。なぜならそれが、魔法少女の掟だからだ。


「ご当地魔法少女か……なむらちゃん……どうしてるかな」

 アイラが沈む夕日を眺めがら、誰かを懐かしむようにつぶやいた。

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