第45話 異世界の青い月
『こんにちは! 異世界のみんな今日も萌えてる? 異世界と現実世界の融合記念に、両方の世界のご当地アイドルが集う記念イベントが決定! なんとあの超美少女に見える男の娘・元魔王、
異世界と現実世界の融合はどんどん進み、現実世界地球のテレビCMでも当たり前のように、異世界アースプラネットの宣伝が流れるようになった。
勇者イクトが異世界転生した頃は、まだ魔王軍の驚異が異世界を脅かしていたような気がするのだが。
現実世界地球と融合したことにより、地球の文化に感化されたのか世界征服への野心が薄れたのか、魔族達はビジネスにチカラを入れるようになり、人間達に牙をむくモンスター達もいなくなった。
そもそも、魔王軍の大臣達が魔王真野山君の魔力を悪用して、無理やり嫌がる真野山君を魔王にさせて政権を握っていたのだ。
不思議なことに現在女性魔王として君臨しているカノン姫には、モンスター達を凶暴にさせる魔力は備わっていないらしく、ただの美少女姫様アイドルとして君臨している。
すっかり平和だ……。
だが現状に不満を持つ若者がいた。元魔王の真野山君である。
散々魔王になるのを拒否して家出までしたくせに、いざ魔王の座から脱落すると自分は魔王様アイドルという肩書きに満足していたのだということに気づいた。
真野山君は、自分を見限った元手下達を見返すために1から魔法少女について勉強し、アイドルマネージャー白キツネのプロデュースで、萌え系アイドルとして再デビューする決意を固める。
「元魔王アイドルの本気を見せてやる!」
真野山君は美容パックでお肌のお手入れをしながら、再び異世界アースプラネットのトップアイドルとして君臨すべく、日夜自分磨きに励むのであった。
* * *
【某レッスンスタジオAルーム】
「キャワワ! 萌え萌えご当地アイドルー!」
元魔王アイドル真野山君は、特撮系ご当地萌えアイドルの歌とダンスをほぼ完璧にこなせるようになっていた。
「やあ……ずいぶん練習したようだね、歌もダンスも格段に良くなっているよ。あとは実際のライブで鍛えるだけだ」
いつも厳しいマネージャーの白キツネに褒められたのは初めてだ。この白キツネも魔王軍に離反して、元魔王の自分に付き合ってくれている。何故……?
「ありがとうございます! でも、どうしてボクなんかに付いてくれるんですか? ボク、魔王軍で孤立無縁になったのに……」
白キツネは遠くを見つめて言った。
「ちょっと昔を思い出してね、もう一度自分のチカラで挑戦したくなったのさ。アイドル坂をね……」
【白キツネ回想】
白キツネはまだ、自分が本当のキツネになる前のあの頃を思い出していた。
異世界アースプラネットで、ドームツアーができるレベルまで自分たちのアイドルユニットは登りつめた。
最強の魔王と謳われたあの古代竜とともに……。
キツネ顔イケメンがスポットライトを浴びて、観客席に向かい熱く語りかける。
「みんな! 今日はオレ達のアイドルユニット『魔族系王子様』のライブに来てくれてありがとう!」
観客席は、若い女性を中心に完全満員だ。
「キャー‼︎ 白キツネ様ぁ」
竜顔イケメンが相棒の肩を抱き、ステージから客席に手を振る。
「今日はみんなで……弾けようぜぇ!」
さらに盛り上がる会場。
「キャー‼︎ 竜様ぁ」
アイドルの頂点を極めた、伝説のイケメンアイドルユニットの2人に怖いものなんてなかった。
ドームツアーの熱気とスポットライト、鳴り響く音楽、大勢の観客、すべてが輝いていた。
【白キツネ回想終了】
今じゃ見る影もない。どこにでもいる普通の白キツネと……相棒で自分が参謀を務めていたかつて神に近い存在と謳われていた古代竜に至っては、呪いでオヤジプルプルの姿に変貌していた。
「もう……大昔に終わったことだ……」
翌日、冥界のショッピングモールの特設ステージで、元魔王アイドル真野山君の再デビューライブイベントが行われた。カバー曲とダンスと魔王時代のマル秘エピソードを織り交ぜながらの再デビューライブイベントは、好調な出だしだ。
ここから元魔王アイドル真野山葵君の再デビュー伝説が始まるとは、白キツネですら想像つかなかった。
* * *
「ところでさ……オレ異世界を救うための勇者なハズなのに、沢山の女の子と遊んでいただけで全然世界を平和に導いていないんだけど」
オレ勇者イクトは自分の活動に疑問を抱いていた。
一緒に元魔王アイドル真野山君の再デビューライブを見ていた仲間達(全員女性)に、素朴な疑問をぶつける。
確か伝説では世界平和のためのハーレムとかいうものを作って、各国の偉い人の娘達をお嫁さんにすることで世界を平和に導くという内容だった気がする。
だけどオレは女アレルギーだし、色んな女の子とフラグは立つものの恋人はいないし、何より正ヒロインっぽいポジションの
すると、冒険の初期からともに行動している清楚系美人賢者のマリアがクスクス笑って答えた。
「イクトさんは世界を平和に導いていますよ! 真野山さんもカノンさんも、世界を滅ぼす予定の魔王様なのに伝説の勇者イクトさんのお嫁さんになるため、世界征服を放棄して、アイドル活動に専念しているじゃないですか?」
世界はどんどん平和に向かっていますよ……とマリア。
「そうなのか? 」
そもそもなんでオレこんなに色んな女の子にモテるんだろう?
オレは結構ナルシストなので、自分がそれなりにイケメンなのは自覚しているが、だからと言ってこんなにモテるのも不思議な気がする。
伝説の勇者という肩書きの所為だろうか?
オレはまだ気づいていなかった。
この世界はあくまでも異世界スマホRPGであること、そして今の段階はゲームでいうところの第一部が終わる段階なだけで、これから第二部、第三部と冒険が続くということ……。
異世界転移したあの日の青い月……。ブルームーンはまだ現実世界の地球では煌々と夜空を照らし続けていて、オレの意識はまだ月明かりの下を彷徨い続けているのだということも……。
オレがこの世界の真実に気づくのは、まだまだ先のことである。
* * *
ハロー神殿内にある4畳ほどの小さな個室、ベッドと小さなデスクが置かれているだけのシンプルな部屋の中で、住み込みで働く巫女が恋占いをしているようだ。
「会える……会えない……会える……会えない……会える……」
コロコロコロン……魔法陣の上を小さな天然石が転がり、精霊の声が響く。
結果は……。
【今世では、可能性が低い……来世に期待しましょう……】
「どうして……今すぐ会いたいよ……勇者様……私の運命のソウルメイト……勇者イクト様……」
ポロポロと涙をこぼす、巫女。
「元気を出して、ミンティア! 運命を信じましょう、会える日まで美しい心を育てて……」
彼女を励ましているのは、守護天使のようだ。
ミンティアと呼ばれた巫女の少女は窓を開け、夜空に向かい祈り始めた。
「いつか、もし、運命の勇者イクト様に出会えたら……。私、すべてを彼に捧げます……だから、お願い」
星にかけた願いは、届く日が来るのだろうか?
窓から見える青い月の光が、ミンティアの心に射し込んだ。
蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス- 第一部 星河由乃 @yuino_y115en
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます