第22話 現実世界へ
「やったぁ! 発掘クエスト終了、さてアイテムもいっぱいゲットできたしそろそろ帰るか……。ミーコどうだ、ハンターになってはじめてのクエストは?」
「にゃあ、お宝探しは順調にいって嬉しかったにゃん。でも、モンスターには手も足も出ない感じだったから……もっともっとレベル上げして、立派なハンターになるのにゃ」
「おうっ頑張れよミーコ! マリアも賢者に転職したし、これからは上級職を加えて冒険だな」
* * *
猫耳メイドミーコの狩りクエストを無事クリアし、ハロー神殿内の宿屋に戻ると、すでにマリアは賢者セミナーを終えており、新人用の賢者の杖で呪文を繰り出すポーズを練習中だった。
「あっイクトさん、ミーコさん、お帰りなさい! どうですか? 研修で習った賢者ポーズ、ちょっとは出来る女賢者に見えます?」
「あっああ、結構カッコいいぞ。新人とは思えないくらい」
「にゃあ、マリアさんってもしかしたら、前世もシスターから賢者に転職した事があるのかもしれませんにゃ。なんだか、新人離れした風格がありますのにゃ」
どうやらポーズを覚えるなどの形から入る事で、オレ達仲間にやる気をアピールしているようだ。まあ、最初はそれっぽい雰囲気づくりをする事が大事なんだろう。
「クエストに出ている間に2週間過ぎていたのか、あっという間だったな」
「にゃー、楽しかったのにゃん! イクトありがとなのにゃ」
喜ぶミーコにオレは、「ああ、また狩りしような」と、次の狩りの約束をする。
「イクト大好きにゃん!」と、猫の本能なのかミーコはオレに抱きついてきて、スリスリと甘えてきた。
元々オレの飼い猫だったとはいえ、今は可愛いミニスカメイドの女の子であるミーコに密着され、メイド服やニーソ越しに触れ合う胸や美脚の感触に、危うく女アレルギーが出そうになったが、気合いでこらえた。
すると、タイミングよくコツコツと廊下から足音……部屋のドアがガチャリと開いて……アズサがボランティアから帰還した。
「ふう、疲れたぜっ。おっメンバー全員揃ってるな。マリアも賢者装備似合っているぜ」
「ふふっありがとうアズサ、ボランティアどうでしたか? 妹さんと長く一緒にいるのは久しぶりだったでしょう」
「ああ、それがさ相変わらず真面目っていうかなんていうか……。本当はもっと早く切り上げられたんだけどさ、白銀プルプル達の新しい住まいを作るんだって張り切りだして……。アタシにも、もっとボランティアをしろってうるさくてさ……」
口うるさいと言いつつも妹とのことを語る口調は優しく、姉らしい表情を見せるアズサ。
「でも、その分一緒にいられたんでしょう? きっとアズサに会えて嬉しかったのよ」
マリアがエルフ姉妹2人を羨ましく思うような素振りで、アズサに語りかける。
「まあ、そういうことにしておくか。一応アタシもエルフ族として公園管理のボランティアバイトを最近までしていたしな。たまにはこういう活動もしないとエルフっぽくないし」
姉妹仲良く2週間ボランティアに精を出していたアズサは、妹のことを愚痴りながらも、なんだか楽しそうだった。
妹のミーナさんとお揃いの、グリーンカラーのボランティアジャンパーを大事そうに畳んでいる。
妹か……アイラは元気だろうか? 地球から転移してきた影響で、オレはきちんとした家族構成を未だに思い出せずにいた。アイラが妹で、他にも誰か……姉がいたようなオレと年が変わらないような。
萌え萌えな美少女が離れて暮らしているような……ダメだやっぱり記憶が曖昧だ。
オレが思い出せない記憶を引っ張り出そうとソファで考えていると何やらもう1人来客の気配。
コツコツコツ……トントントン! ノックの音だ。
「こんにちは、ハロー神殿の転職後アンケートに来ました! マリアさん、賢者に転職して調子はどうですか?」
「順調です! 前世でも賢者に転職した事があるんじゃないかって、褒められちゃいました」
「まあ。それは良かったですわ。あら、イクト様……そのアイテムは……?」
オレ達の部屋に転職後のアンケートを取りに来た神官エリスが、狩りで発掘したアイテムについて聞いてきた。
「ああ、地下ギルド会のクエストで発掘したんです。伝説の~とか、天空の~とか、宝探しみたいで楽しかったですよ」
オレがクエストで発掘した剣やペンダントなどのアイテムをエリスに見せると、武器防具を鑑定する呪文を詠唱し始め……そして驚いた顔でこう呟いた。
「それ……本物の伝説のアイテムですよ……流石勇者様ですわ。驚きです」
「本物……だと?」
「にゃー! イクトすごいにゃー!」
一緒にクエストをこなした猫耳メイドハンターのミーコが、身を乗り出して発掘アイテムを眺め始めた。すごいすごいと盛り上がる仲間達。だが、エリスは浮かない表情だ。
「なんでも……異世界へのトビラを開くのに必要なものと伝えられています。予言によると、姫巫女達の歌と踊りとともに、伝説の勇者は伝説のアイテムを胸に異世界へ戻った……と伝えられています」
「異世界……もしかして、現実世界のことかな?」
「勇者イクト様は、自分の世界に戻りたいと仰っていると聞きました……戻られるのですか? もし、冒険を続けられるのであれば、巫女のサポートメンバーを紹介しようと思っていたのですが」
「新しいメンバー? 巫女さんの?」
「ええ……ミンティアという名のエリート巫女ですわ。日が悪いとか、時期ではないという卦が出たとかで……本人もまだイクト様に会いたがらないのです。今回、発掘したアイテムが影響しているのかしら?」
新メンバーの紹介を考えてくれていたエリスが困り顔で呟く。戻りたいのか、と聞かれてオレは返事に困った。妹のアイラも一緒じゃないと……。
それにまだ魔王討伐もしていないし、仲間のマリアだって、ようやく上級職の賢者になれたんだ。
オレはいつの間にか、このRPG異世界を自分の居場所と認識し始めていることに気づいてしまった。
最初の頃は、女アレルギー持ちのオレにとって、女だらけの冒険パーティーは危険なものでしかなかったが、寝食を共にしているうちに情が湧いてくるのは当然で、今ではこのメンバーといると安心できる。
「……えっと……その……」
返答に困るオレに、何も言わない仲間達……鎮まりかえる部屋。聞いてはいけない質問だったと思ったのか、神官エリスが沈黙を破り明るく話し始めた。
「……そうだ! 歌といえば、今日はハロー神殿で特別なイベントが開催されるんです! イクト様達の今後は、イベントを終えてから考えてみてはどうですか?」
気を遣わせてしまったのだろうか、せっかく来てくれたのに申し訳ないな。
イベントは、人気歌手のシークレットライブだという。早めの夕飯をハロー神殿内の料理店で取って、ライブを観に行く事になった。
もしかしたら、この夕飯がこの冒険の仲間達と食べる最後のものになるのだろうか?
メンバーは皆気を遣っているのか、誰も今後のことを話そうとはしなかったが、普段は食べることのなかった『うなぎのお重と天ぷらのセット』という高級セットを注文し、肉厚の特上うなぎを堪能した。
ふっくらとしたうなぎは、滋養たっぷりでクエストで疲れた身体を癒してくれた。もちろん味も極上に美味しく、コクのあるタレがうなぎとも白米とも合っていて、とてもバランスが良い。
けれど、心のどこかにポッカリとした寂しさが出来てしまったことも事実で……その寂しさは、うなぎの美味しさだけでは補えないものだった。
* * *
食事が終わり、みんなでハロー神殿の庭園に設置された、特設ライブステージ観客席に移動。
エリスの計らいで席をキープできたものの観客席は既に人で一杯だった。チケットの番号の席に辿り着くと、歓声が沸き起こる。どうやら歌手が登場する時間になったようだ。
一体どんな歌手が登場するんだろう? ステージにスポットライトが当たる。
『魔法少女アイラです! 魔法少女……なむらです……2人合わせて、魔法少女アイドルアイラ・なむらです!』
ふりふりのお揃いの魔法少女アイドルルックで登場したのは、オレの実の妹アイラのユニットだった。
「ア、アイラっ? そっか、そういえば歌手デビューしたんだよな」
よく考えてみると、オレはまだ妹のデビュー曲を聴いた事がない。アイラはすでに慣れた雰囲気で、音楽に合わせてダンスを踊り始めたが、初めて聴く妹のステージにオレの方が緊張してしまう。
『マジカルハート、お兄ちゃんとの大切な約束……』
アイラもなむらちゃんも透き通った声で歌を歌い、思ったよりも2人は実力派アイドルだという事を実感する。
「まあ、アイドル的な容姿に気を取られていましたけど、思ったよりも本格派の歌手なんですわね。びっくりしましたわ」
「ああ、オレもなんだか意外……アイラってこんなに歌が上手かったのか、なむらちゃんも……」
エリスと感想を語りながら歌を楽しんでいると、アイラ達の歌が終わりに近づく。すると、オレの持っている伝説のアイテムが輝き始めた……突然の魔力の輝きに動揺する仲間達。
「えっ? この光なんですか? イクトさん、その装備品なんだか普通の魔法力じゃないです」
「にゃー! 怖いにゃ。カミナリとか苦手なのにゃ」
「こら! ミーコ大丈夫だから!」
『お兄ちゃんとの約束忘れないよ、必ず私達のお家に帰ろう……』
伝説のアイテムから溢れる光は、オレ達だけではなく会場中のあらゆる場所に広がっていった。
「えっ何? なむらちゃん! 私達も身体が光っているよ!」
「アイラちゃん!」
ライブステージが……会場が……世界が歪んで見える……意識が遠のく……。
これは一体……? 気がつくと、オレ達は現実世界東京都新宿区にある自然公園で気を失っていた。
そう、オレ1人ではない……。
賢者マリア、メイドのミーコ、エルフのアズサ、神官エリス……そして妹のアイラとその友人なむらも、全員異世界から現実世界に転移してしまったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます