第27話 温泉癒し交流会発足
オレと幼馴染カノンは、新宿区にある自然公園のベンチで、異世界アースプラネットでの現実世界との職業ギャップについて話し合っていた。
話し合いといっても、悪役令嬢だとか聖女だとか、オレの知らない女性特有の職業の話題ばかりで、会話についていくのが精一杯だった。
「私、どうして異世界だと悪役令嬢なんだろう? あの時、誰かが私のこと悪役令嬢なんて言わなければ……」
いつも強気だったはずの幼馴染カノンが、トラウマを発動してものすごく落ち込んでいた。
「気にするなよ! 現実世界じゃ、お前別に悪役令嬢じゃないし……なんていうか、こっちじゃしっかりものの優しいお姉さんって雰囲気のキャラで通っているだろう。誰もカノンのこと悪役だなんて思わないよ……それに、誰に対する悪役なのかもイマイチよく分からないしさ」
どちらかというと、カノンは典型的な世話焼き幼馴染キャラだと思っていた。
よく考えてみると、女アレルギー持ちのオレが何故かハーレム状態の勇者なわけだから、異世界って現実世界とキャラにギャップがあっておそろしいところなのかもな……。
「悪役令嬢のライバルっていったら、だいたい、聖女なの! 男の何割かは聖女に惹かれるってデータが統計で取れてるの……。きっとイクトだって運命の聖女様に出会ったら、私のことなんかすっかり忘れちゃうわ。聖女って、そういう不思議な魅力系のチートスキルを持っているんですって……」
「考えすぎだよ! それにどんな綺麗な聖女が登場したって、幼馴染はカノンなんだから、忘れる方がおかしいよ! 絶対忘れないから。気にするなよ」
動揺しっぱなしのカノンを、なんとかなだめていると当然のごとく隣に座る誰かの影。
「イクトさんの言う通りです。気にしない方がいいと思いますよ、カノンさん! 悪役令嬢なんて、お金持ちの美人お嬢様ライフが約束されているんだから、いい職業じゃないですかー」
うんうん、とマリアが言う。
「そうだな、マリアも賢者に転職しただけあってたまにはいいこと言うじゃないか……ってなんでマリアがここに⁉︎」
気がつくと、オレ達のすぐ隣にマリアが座っていた。まるで、最初から待ち合わせか何かをしていたかのような堂々とした態度だ。
しかも異世界人であるはずのマリアは、いつものRPG風の服装ではなく、現実世界で通用する清楚系のワンピースだ。性格を知らなければ、美人で上品な女子大生に見える。
「あの……改めてきくけど、マリアはどうしてここにいるの……?」
マリアは、目をパチクリとさせてから笑顔で語る。
「私……温泉というものに入ってみたいんです! この国は温泉が至る所にあるんでしょう? 賢者の講習会で肩が凝ってしまって……そういう疲れって、温泉で回復できるんですよね? アズサから聞きました」
一体何が、起きているんだ? 温泉?
「悪い! マリアのヤツが、どうしても温泉に行きたいって言うからさぁ、交流を深めるためにみんなでどうかなって? 名付けて温泉癒し交流会!」
マリアに温泉の知識を与えた張本人のアズサ……続々と現れ仲間の美女たち……どうやら、みんな自然公園に集まってきたようだ。
「あっえっとマリアさんって、あなたなのね……イクトの語っていた賢者の……はじめまして。カノンです」
「ふふっはじめまして、賢者のマリアと申します。賢者としては、知識力でパーティーメンバーのことをどーんと支える予定なので、安心して私に頼って下さい!」
「は、はぁよろしくお願いします……」
あっという間に、オレのパーティーメンバーに囲まれてしまい、動揺して泣いているどころではなくなるカノン。
「アタシは、エルフ剣士のアズサって言うんだ! へえ、カノンってやっぱ想像通り可愛いじゃん! よろしくなっ」
「私、ハロー神殿の神官をしておりますエリスと言うものですわ。もしかして、ゴスロリドール財閥のお嬢様ではなくって? 噂はかねがね……とても美しい方だと聞いておりましたわ。噂にたがわぬ容姿端麗な方ですのね。もしかしたら、私達お互いにイクト様の妻になるかもしれませんし……お見知り置きを……」
「ふぇ? 妻っ? そっか、アースプラネットは一夫多妻制だものね。でも私とイクトは幼馴染だけど恋人ってわけじゃないし……その……」
まさかの、将来の妻発言に顔を赤くするカノン……なんていうか、オレも恥ずかしい。
「カノンさん……はじめまして……なむらです……。ゲートキーパーの後輩になるかもしれないし。これから、よろしくお願いします……」
「えっ新人ゲートキーパーさん? そっか、お仕事いっしょに頑張ろうね」
「メイドのランコです! カノンお嬢様、悪役令嬢は流行した憧れのポジションですよ……メイドとしては、大切なお嬢様です。落ち込まないでくださいね」
「メイドさんっ? そっか、メイドと令嬢はワンセットだものね……」
相変わらず、元気でよくしゃべるメンバーだが、今はそれに助けられている気がする。それぞれ、ファンタジー風ファッションから現実世界の服装に着替えているが、よく似合っている。
ランコさんは、バイト先のメイド服のままだけど……。なぜか公園にいても違和感がない。これがプロのメイドのオーラなのか?
マリアは清楚系女子大生風、アズサは露出度高め渋谷系、神官エリスは清純な露出度控えめ系、なむらちゃんはゴシックテイスト風……とファッションに性格が現れているようだ。
* * *
「ところで、みなさん温泉って、どこかいいところがあるの?」
「……温泉癒し交流会……。オレは1人で男湯に入るだけだから、みんなが交流を深めるだけだけど……」
男湯に入るだけなら、女性陣とも離れられるし、女アレルギーのオレでも安心だ。
「カノンさんの歓迎会とか、色々兼ねて楽しみましょう! ミーナさんが不在なのは寂しいですけど。仕事が落ち着いたら、アズサが姉妹で遊びにいくつもりなんですって」
「私も、アイドル活動で疲れているで。癒されたいです……」
肩をトントンと叩く仕草をするなむらちゃんにアイラが、「なむらちゃん、やっぱりアイドル活動に疲れていたんだ」と、苦笑いをする。なむらちゃん、いつもテンション低いもんな。
「地球の温泉……一体、どんなところなんでしょう? 楽しみですわ!」
地球の文化に関心があるようで、嬉しそうなエリス。
「お兄ちゃん温泉に行くの? 家族風呂って、猫のミーコも入れるかな?」
「……ペットは預けるようだと思うけど……ペット預かりコーナーを探すか。あれっこのチラシ……ペットも是非って。どういう温泉なんだろう?」
ミーコも温泉に興味津々のようでスリスリとオレに甘えてきて、おねだりしているかのようだ。
「都内にも最近は温泉が増えたんですよ! 今、イクト君が持っているこの温泉のチラシ。今日、オープン記念のスパなんです」
メイドのランコさんも、温泉に行く気全開だ。
チラシには『新宿に温泉がオープン! 定番の檜風呂、岩風呂を始め薬湯、ヨーロピアン風呂、アジアンテイスト風呂、サウナやエステで心身ともにリラックス! 豪華ビュッフェにカラオケルーム、アミューズメント施設も充実で、大満足間違いなし!』とクーポン付きで宣伝している。
既にみんなの気持ちは温泉に向かっており、このまま今日オープンの温泉に行くつもりらしい。まだ午前中だし、都内のスパ型温泉に行くだけなら時間にも余裕があるだろう。
悪役令嬢問題はさておき……現実世界に戻ってきたオレ達は、新しい仲間でオレの幼馴染のカノン歓迎会と交流会を兼ねて、都内の温泉で遊ぶことになったのである。
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