第9話 話題の金策スポット
カードバトル大会当日。
実はカードバトルが趣味だという格闘家のアイラが出場する事になったカードバトル大会は、賞金がそれなりに高く一回戦のみの参加者にも豪華な参加賞が配られることもあり、なかなか盛況の様子。
大会の会場となるのは、冒険者ギルドとしてもお馴染みのネオタチカワシティのスマホ工房屋上だ。開始時刻の1時間前にエントリーのために列に並ぶと既に多くの人が集まっており、優勝するのはハードルが高いように感じられた。
意外と年齢層の幅が広く、小学生くらいから青年や大人の女性、白髪の高齢者までマイカードデッキを持参して受付を済ませ、カードバトルに向けてスタンバイしている。
せめて、年齢層別に対戦相手を分けるとかしてくれれば、いい線まで勝ち残れそうだが、あいにく年齢も性別も無関係のランダムバトルのようだ。
「いきなり、大人の強そうな人に当たったら、アイラが可哀想だよな……」
予想外に大人が多い参加者達に、アズサがアイラのバトルを危惧してポツリと呟く。
「それが……私と同じくらいの子やもっと小さい子でも大人より強いカードバトル選手はたくさんいるの……ほら、カードバトルって体力はあまり関係ないでしょう? 子供だからって手加減はされないんだ」
「にゃあ、まあ……遊びに来たと思って楽しむにゃん! ほら、あっちに屋台があるにゃん」
会場内では様々な屋台が並び、焼きそば、たこ焼き、焼きトウモロコシ、あんず飴、綿菓子、チョコバナナ、ラムネなどの食べ物系に加え金魚すくいなどもあり、ちょっとしたお祭り気分だ。
もちろん、カードの販売コーナーもあり初心者向けのセットデッキや限定カードセットを買い求める人だかりも出来ていた。
「アイラ……もし、デッキの内容が気になるなら今からでも新しいカードを購入してデッキを組み直すか? 新しいシリーズのカードもセット販売しているぞ」
「ううん、今からデッキを組むとコツを掴むまで時間がかかるし、このままでいいや」
ざわざわと、落ち着かない会場内では緊張で泣き出すものや、ブツブツとカードを並べ直すものなどもいて、なんだかみんな大変そうだ。どうやら、出場者達の中にはプレッシャーを感じている者もいるようである。
スムーズに受付を済ませたアイラは、マイカードデッキを握りしめ、指定されたバトルスペースに向かう。対戦相手はちょっと年上の男の子のようだ。なんていうか、いかにもカードバトルの強そうなオーラを放っている。
「よぉし……アイラ! 頑張れよ!」
「アイラー、応援してるにゃん!」
「うん! 全力を尽くすね!」
* * *
気合十分のアイラは意気揚々と戦場へ入り……その30分後項垂れて戻ってきた。
「ごめんね。みんな……私……私……」
アイラ負けたのか。悔し涙を流しながら、ピンクのツインテールを揺らして震える手でカードをケースにしまうアイラ。仕方ないよな、必殺技が発動できない弱いデッキで挑んで予選突破できたら凄かったけど、これが現実なんだ。
その後、観客席に座り無言であんず飴を完食し、虚ろな瞳で会場のバトルスペースを見つめるアイラ。居た堪れなくなったオレ達は、結局バトル大会予選終了とともに会場を後にした。
* * *
金銭的事情で、町で一番安い宿屋に宿泊しているオレ達……夕食を宿屋内食堂で食べながら、今後のミーティングをする事になった。
今日の夕飯は鳥の唐揚げ定食だ。鳥の唐揚げ、コールスロー、ほうれん草のおひたし、冷奴、なめこの味噌汁、白米と安宿ながらもそれなりの夕飯で味も美味しい。白魔法使いのマリアは鳥の唐揚げが好物なんだとかで、喜んでモグモグ食べている。
「サクサクした衣にジューシーな肉がたまりません! 冒険者達への愛情が感じられますね。これは……この宿屋にして正解ですよ! ほら、みなさんもどんどん食べましょう。今夜は私のおごりです……さっきATMで貯金をおろしたんで安心してください。頑張ったアイラちゃんには、デザートもつけますからっ」
「マリアお姉ちゃん……ありがとう……」
説明的食レポをし始めるマリアと、ちょっと元気を取り戻したアイラ。いつの間にか清楚系キャラで登場したはずのマリアが、KYムードメーカーと化しているが、暗いオーラで食事を取るよりマシだろう。
というか、マリアってカードバトル大会では終始無言に近かったよな……もしかしたら、アイラが負けることを予期してプレッシャーを掛けないようにしていたのかもしれない。
しかし、マリアも貯金をおろしてしまったしいよいよ金銭的に厳しいな。
「そもそも、こんな大会の賞金で金策しようとしたオレ達が悪いんだよ。気にするな! マリアも悪かったな、貯金使わせちゃって……ありがとう」
アイラに、妙なプレッシャーを与えたことを謝り、マリアにも例を言う。
「そうだにゃん! 冒険者らしく、地道にモンスターを倒してお金を稼ぐにゃん!」
猫耳メイドのミーコが、今後の金策について堅実な提案をする。
「でも、モンスターを倒すにも今の装備じゃ勝てないだろ? どうする? 敵の弱い地域に移動するか?」
エルフ剣士アズサのいうことにも一理ある。この辺のモンスターと装備のレベルが合わずに四苦八苦だ。急いでレベルの高い地域に来てしまったのだろうか?
「RPGで金策って、モンスターを倒すか、洞窟に潜ってお宝を探すか……他に何かあったっけ? 金策スポットとか」
ぼそっ。
「ギャンブル……」
「何か言ったかマリア?」
「いえ別に……」
そう言いながら、マリアは無言で何かの新聞を読み始めた。
オレの気のせいでなければ、『モンスターレース新聞』というものを読んでいる気がする。もしかしたら、結構無理して貯めたお金を使っているのかもしれない。マリアの目が深刻そうだ……悪いことしたな、どうしよう。
すると、食堂の向かいのテーブルで初期装備の冒険者達が、なにやら盛り上がっている声が聞こえた。
冒険者Aが笑顔で、「お前凄いよー! レースで大穴当てちゃって!」と仲間の1人を肘でつついて、はしゃいでいる。
「レース?」
冒険者Bは恥ずかしいのか、照れ笑いしながら「オレの職業遊び人だからさー金策は得意なのよね」と、照れ笑い……どうやら、金銭的に当てたようだ。
冒険者Cも影響されたのか、「次のレース、オレもネオフチュウに行ってみようかなー」と語りながら、何かの情報を新聞で探る……盛り上がる三人組冒険者。
「ネオフチュウ? 大穴? この近くにそういう類の施設があるのか?」
「そういえば、カードバトル大会の参加賞でこういうの貰ったよ」
【ネオフチュウ名物餃子食べ放題無料券】
アイラが、参加賞としてゲットした食べ放題券を見せてくれる。名物餃子5名様まで食べ放題無料、ちょうど今現在のパーティーの人数だ。餃子とニンニクのイラスト入りのチケットには、ネオフチュウ名物の文字。
「ネオフチュウって餃子が有名なの?」
オレの素朴な疑問に答えたのはミーコだった。
「にゃー! ネオフチュウは歴史の長い古代都市で、餃子が美味しいのとレース場があるので有名ですにゃ。 いつも人でいっぱいですにゃん! 大穴で一攫千金する人もいますにゃん!」
レースなんて元手がいるし、余裕のある冒険者が挑むべきだろう……それに大人の遊びである。
「高校生のオレは、賭け事できないしなぁ」
もしかしたら、この異世界アースプラネットでは16歳のオレでもレース券を購入出来るのかも知れないが、現実世界の基準が抜けず気がひける。
というより、レース自体良くわからないし、将来大人になってからも賭け事をする気はない。運を賭け事で使いたくないのだ。
「アタシとマリアは成人してるし、レース券は余裕で買えるぜ! なんならお姉さん達が、大きく当てて何かおごってやろうか? なーんて……そんなうまくレース券なんか当たるはずないし……」
なぁマリア?
と、アズサが言った瞬間、それまで大人しくしていたマリアが普段はおろしている黒髪をバレッタで高く結びレース新聞を握りしめ突然立ち上がる。
ガタン! と、食堂のレトロな椅子が鳴り……。
「アズサ……そうです私達大人にはギャンブルがあります……みなさん、行きましょう! 古代都市ネオフチュウへ!」
清楚系白魔法使いマリア……青く輝く美しいその瞳は完全にギャンブラーの目になっていた。
* * *
注:イクトが冒険をスタートした街は田舎だったので、男達が全員魔王にさらわれていましたが、都会のネオタチカワシティ周辺からは、普通に男性の冒険者も生き残っている設定です。
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