第34話 それって多分、無敵ですよ
「あーあー、マイクテスト、マイクテスト。ん、いい感じですね」
「コホン、こ、けふっ。いえ大丈夫です。行けます。キューお願いし、え、もう回ってる!? 締まらないじゃねーですかっ。あーもういいです!」
「えーと、改めましてこんばんは、アシハラ学園生徒会会長・周防虹子です」
「皆さん、本当にお疲れ様でした。寝食を惜しんでの皆さんのご協力のおかげで、明日の作戦行動に必要な全ての準備が、つい先程、終わりました。本当に、本当に――ありがとうございます」
「私から皆さんへ激励の言葉……なんて大層なものじゃ全然ないんですけど、少しだけお話させていただきたいと思って、無理を言って全体放送を使わせてもらってます」
「皆さん、いよいよ明日、決戦です。十五年ぶりの戦争です」
「明日に控えたいま、もう一度、これまでを振り返ってみてください。だって明日は、どんな結末を迎えるにせよ、何かを決定的に変えてしまう日。だから今この時が、振り返る事のできる、最後の瞬間なんです」
「私達は、大事なものをいくつも失ってきました。人の尊厳、文化、歴史、全てが十五年前に踏みにじられました。私に至っては、それこそ人の繁栄していた時代を体感した事のない世代です。明日戦いに赴く人々のほとんどが、そうです。物心ついたころから、支配される窮屈な生き方を強いられてきました。そして先日、かつての栄光を取り戻すための手段とはいえ、私達は子孫を残すという、生物の本質さえ放棄しました」
「全ては覇権を奪還し、自由を得るために」
「でも覇権って何ですか? 自由って何なんですか? 味わった事ないし知らねーですし、種としての意味を捨ててまで、命を賭してまで、手を伸ばす価値のあるものなんですか?」
「正直、てへへ、私にはよく分かりません。ぶっちゃけた事を言えばですよ、ドームが壊された瞬間、『ああ本当に戦うんだ』って思ったんです。その時初めて実感したんです、あの恐ろしい龍魔と戦うんだって。駄目な会長ですよね、すみません」
「四愚会の魔女に啖呵を切った夜、本当は足ガクガクでした。心臓バクバクでした」
「魔女を逃がした上になずなさんに重傷を負わせてしまって、『あ、無理だ』って、思っちゃったんですよね」
「そんな弱い私が、覇権だとか自由だとか、よく分かってもいないもののために皆さんを率いて戦うなんて事、しちゃいけないんじゃないかって」
「――でも」
「でも、ですよ」
「歌誉さんが皆さんに受け入れられた瞬間、思ったんです」
「ああ、この瞬間のためになら、私は命を懸けて戦える――って」
「人とか魔族とか、種族の壁なんか関係なく、皆で笑いあえるこの瞬間を、ほんの一瞬だけじゃなくて、ずっと長い間実現していくためになら、私は努力を惜しまない」
「いま、皆さんの隣には誰がいますか? 信頼するお友達ですか? 尊敬する家族ですか? 導いてくれる先生ですか? もももしかして愛を育むここ恋人ですかッ?」
「是非向かい合って、にこって、笑いかけてみて下さい。改めてやってみて下さいなんて、照れ臭いですかね? じゃあ、握手してみるとか、掌を合わせてみるとか、拳をこつんとぶつけ合うなんてのも萌えるかもしれません。そうするとほら、自然と顔が綻んできません?」
「何ていうかこういうの、幸せ――じゃないですか」
「明日も明後日もその次の日も、こうして好きな時に好きな相手と笑い合いましょう。そしてその幸せの輪を、ずっとずっと大きくしていきましょう」
「そしていつか人だけじゃない、龍族とも魔族とも、エルフ族ともドワーフ族ともゴブリン族とも、他の種族の皆さん全員と、私は笑いあいたいって、そう思います」
「そのためになら、私は戦えます」
「皆さんは、どうですか? 今一度戦う意味を考えてみてください。その上で、もしも皆さんが同じ気持ちを持ってくれて、一緒に戦う事が出来たなら――」
「それって多分、無敵ですよ」
「勝利を信じて明日を迎え、笑顔で明日を終わらせましょう! 以上です! グッナイ!」
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