第4話 自虐戦争
――戦争があった。全人類の七割以上が失われた、史上最悪の戦争。
その発端は、人類史を揺るがす画期的な発明にあった。
対話型超高々度先見処理装置・オルテラ。完全なる未来予知を実現した人型装置である。
それを成功させたのは、日本の科学研究開発都市の一つだった。
世界共同開発計画へ参画していた同都市には技術の開示が義務付けられていたが、それに反目。オルテラの隠蔽・独占を試みる。
しかし、それは些細なきっかけで世界に露見してしまう。オルテラの危険性を脅威に感じた各国は、その都市を強く糾弾した。
幾何級数的に膨れ上がる開示を求める声。その底に溜まる悪意が剥き出しになるまでに、そう時間はかからなかった。
我が国でこそ独占を――各国の醜悪な叫喚は暴力と成り、戦争に発展した。
泥沼の戦争で人類が疲弊を極めた頃、唐突に、オルテラがある宣言を行う。
――覚悟せよ、人の子よ。今日を境に人の歴史は、繁栄から衰微へと逆途を辿る。
人類は、その日を忘れない。
宣言は未知の脅威を顕現した。龍族、魔族、エルフ族、巨人族、ドワーフ族、ゴブリン族、不死族、生体機械族、吸血鬼族――異なる九の異界より召喚された者達であった。
人の叡智を遥かに超えた技術に、世界の声は戸惑いと絶望に塗れる。
史上類を見ない混沌。各種族入り乱れての血戦。
既に疲弊していた人族は、満足な応戦も出来ないまま他種に屈する事となる。
かくして争いは収束し、異族は自然と各大陸に散らばり、建国に至った。そして彼らは劣等種の烙印を押された人族を、それぞれ支配下に置いた。
全ての発端となったオルテラは、戦火に紛れてその姿を消した。
その際に各種族へ向けて、三つの契約を課して。
一つ、異族との交配を認めない。
一つ、二種族以上の同盟をもってのみ、交戦権を有する。
一つ、オルテラを探してはならない。
後に人族は語った。人同士での戦争がなかったならば、支配に甘んじる事もなかったかもしれない。その悔恨から一連の戦争は、自虐戦争と呼ばれるようになる。
特にオルテラの宣言の日を、怨恨と畏怖をもって終極の日と銘打った。
――十五年前の話である。
人族は、その日を忘れない。
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