【カクヨム小説創作オンライン講座】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第4回

12月より開催する第4回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座」の第一弾!



カクヨムコン歴代応募作品講評会は、過去にカクヨムWeb小説コンテストに応募した作品を対象としたカクヨム運営によるオンラインの作品講評会です。
講評対象に選ばれた作品は、キャラクターやストーリーなど、作品を構成する5つの要素を5段階で評価して作品分析を行うとともに、長所や改善すべき点をコメントにまとめて指摘します。

今回の企画では、プロの目を通してしっかりと評価された講評が、カクヨムブログ上で公開されます。そのため、講評される作品は、だれでも閲覧して参考にすることができます

講評作品に選ばれた方は、プロが精読して判断したご自身の作品の良かった点や改善すべき点について知ることができ、今後執筆する際の指針として活かすことができます。
また、応募しなかった方や講評対象から漏れた方も、他の作品に向けられたアドバイスを読んで、自身の作品にあてはまるポイントを見つけることができます。


【エントリーNO13】
感情を持つAIの少女 VS データを偽装するテロ組織
『404の私』 作者 乙島紅
あらすじ:
時は2033年、東京。
人間のあらゆる行動が小型チップ「P−SIM」に記録されるようになった情報管理社会において、感情を持つ高性能AIを搭載したヒューマノイドが誕生した。
その名も、「藤沢ユウ」。
警視庁サイバー犯罪対策課とともにテロ組織〈バスティーユの象〉を追う彼女は、あることがきっかけで私立高校「宝星学園」に潜入することに。
次第に明かされていくテロ組織とそのリーダーの正体。同時に彼女はある疑問を抱く。
感情は搭載されているのに、なぜそう感じるのか分からない。自分は一体何者なのか──と。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:3
・ストーリー:4
・世界観:5
・文章力:4

◆良かった点:
人工知能の発展や戸籍の電子化の進んだ近未来で起こる知能犯罪のサイバー感がよかったです。現実の世相を反映して、近すぎず遠すぎない時代性を的確に捉えた世界観にリアリティがありました。
人工知能も人間もアイデンティティに迷う姿が読者の共感を得そうに思います。
社会問題となっている無戸籍児童を絡めたストーリー構成がうまく、問題点や危険性を事件の核心に落とし込んでいて読みながら考えさせられました。

◆改善すると良くなりそうな点:
ストーリーがややシリアス一辺倒で重苦しいのでターゲットとする読者層の年齢が上がってしまいそうです。舞台を高校にするのであれば、もう少し高校生のキャラクターに若々しさが欲しかったです。
世間ずれして大人のずる賢さが目立つ高校生キャラクターたちへ素直な好感を抱きにくい。カウンターウェイトとして一人くらい熱血漢なり、天然系なり、裏表のないキャラがいるとギャップが引き立つように思います。


【エントリーNO14】
世界を覆いつくす災厄の霧に挑む者達の戦いを描くダークファンタジー。
『滅びゆく世界のキャタズノアール』 作者 斉藤タミヤ
あらすじ:
数百年前に突如、天に現れたとされる凶星
「キャタズノアール」
50年周期で世界に凶星が接近する時、魔物達は力を増し始め災厄の具現「黒い霧」が世界を蹂躙する。
黒い霧は空を海を大地を覆い、生ある者を貪り喰らいながら広がり続けていた。
かつて世界に7つあった王国も、すでに4つが滅び世界の大半はすでに黒い霧に包まれつつある。
だが、それでも人々は失った生活領域を取り戻そうと、幾度となく黒い霧へと挑戦した。
その度に多大な犠牲を払いながらも、人々は長い時間をかけて黒い霧の侵攻を食い止める手段を着実に確立しつつあった。
安全とは言えないながらも、折り合いをつけて3つの王国で生き残る術を模索し続ける人々が暮らす残された最後の大陸がある。
そして今また50年の周期が近づき、世界に影に落とす黒い霧は広がりを見せ始める。
これは徐々に滅びが迫りつつある世界で、災厄に抗い、挑む者達の、戦いの軌跡を描いた物語である。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:3
・ストーリー:2
・世界観:3
・文章力:2

◆良かった点:
骨太で不屈な主人公像、実によかったです。主人公は当然物語の中心点ですので、魅力がなければ物語自体が死んでしまいます。その点、“命”としての強さを備えながらも他のキャラの魅力を引き出す触媒にもなっている主人公はまさにその役目を十二分に果たしていました。
そして、ゲームを思わせるドライな世界観も、主人公の有り様とマッチしていてよかったですね。キャラと舞台が互いに生かし合う関係性を構築できていました。

◆改善すると良くなりそうな点:
セリフに頼らず、地の文による描写を心がけてください。
セリフは説明ばかりでなく、キャラクター性、さらには心情描写と情景描写までしてくれる、書き手にとって非常に便利で楽な表現方法です。しかし、それだけに詰め込んだ要素のひとつひとつが散漫になり、著者さんが打ち出したかったものを出し切れないまま、「なんとなく」で終わってしまうわけです。
そのことが多分に作用しているのですが、物語が平坦に見えてしまっているのはもったいないですね。セリフでエピソードが流れていくだけでなく、見せ場もまたセリフで塞がれている感が強いため、せっかくの展開が見えてこないのです。
まとめれば、この作品のように雰囲気を見せたいものでは、書きやすさで流してしまうことなく、地の文章をきっちりと書き込んで世界観を余さず見せ、魅せてください。となります。


【エントリーNO15】
なんで私の伝記まで作るのよ!歴史に私のあれそれが曝されるの!?
『渡華記』 作者 采火
あらすじ:
『渡華記』という伝記を紐解いていこう。泰連の国史の横で語り継がれたこの書は、とある泰連国王の傍らに生きた妃を中心に据えた様々の人の出来事について綴っている。
「兄様、何で私のまで作る流れになってるの!」
「えー、だって君の魅力がきちんと伝わってなかったから」
「まぁ、彼が関わってる時点で分かりきってたことだ」
「王様はもっとよく考えて!」
編纂途中の第一巻は、海の向こうにあったという伎国より来た亡命を望む娘が、泰連国と伎国の駆け引きと、過去の因縁が渦巻くなかで、王と惹かれ合うお話。
海を越えて、国を越えて、時間を越えて、お妃様と運命はやって来る。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:2
・キャラクター:3
・ストーリー:3
・世界観:4
・文章力:4

◆良かった点:
「中華風後宮もの」という一定の需要が見込めるジャンルに絞った点はよかったです。本好きな姫というのも読者に親近感が湧きます。
静月と明が心に傷を負った者同士、お互いがお互いにとっての理解者のような関係に他人が入り込めない愛や絆を感じました。
子奇の幽鬼じみた存在感や三槐の過去など背景が緻密で独自の世界観を構築できていたのが素晴らしかった。

◆改善すると良くなりそうな点:
明に料理なり、薬学なり、武術なり何か他人が真似できない特技をひとつ与えて、それで周囲を助ける立ち位置や役割があると作品のオリジナリティやキャラクターの個性が出たかと思います。
静月も同様に、このキャラにしかないような強い個性が欲しい。「国政改革」を掲げて序章では明の功績を讃えているくだりがあるが、この話の中では今のところ何も為していないので当初の期待感から肩透かしを受けた。
静月と明が出会ったことで何かが起こりそうな変化の片鱗くらいは匂わせて欲しかったです。


【エントリーNO16】
今回の能力は、効率チート
『Q:何のチートが欲しいですか? A:効率チートが欲しいです~最強チートを手に入れて、女の子と一緒に異世界旅行無双~』 作者 ラズベリーパイ
あらすじ:
定木瑛(さだきあきら)16歳。
異世界に転移しかかった所で、ランダムにチートをくれるといった声が聞こえて選んだチートは、“効率チート”。
「ほかの選択肢がなかったんだよ!」という瑛の理由から、そのチートを手に入れたわけだが、次の瞬間、何故かどこだか分からない草原にいた。
ここはどこだ、から始まる異世界転移譚。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:2
・ストーリー:2
・世界観:3
・文章力:3

◆良かった点:
チートを得て異世界に転移して女の子とイチャイチャするという作品の趣旨がわかりやすい。
主人公の他にも多くの異世界人がやってきて異世界に様々な影響を与えている世界観が面白いです。
序盤から国家の危機という大事件に巻き込まれていく怒涛の展開もテンポがいい。大事の渦中にあっても主人公がどこか余裕があって楽しげで異世界を満喫している様子が伝わってきて和みます。
複数のヒロインに想いを寄せられるハーレムラブコメパートもしっかり描けていました。

◆改善すると良くなりそうな点:
「効率チート」が及ぼす効果が万能すぎて、問題解決までの創意工夫や戦闘での緊張感がみられない。チート対決ものなので、いかに自分の強みを活かし、相手の弱みを突くかというスキルの駆け引きをもっと練ってみましょう。
主人公のキャラが弱い。何か他人にはない信念や夢や過去を与えて差別化しましょう。状況に流されるのとスキルによる力任せの決着が続かないように、ストーリー構成を見返してみましょう。
全体的に描写が浅い。この世界にしかない魅力はなにかを、読者に伝えるようにしてください。


第5回は10月26日更新予定です。