【カクヨム小説創作オンライン講座】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第3回

12月より開催する第4回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座」の第一弾!



カクヨムコン歴代応募作品講評会は、過去にカクヨムWeb小説コンテストに応募した作品を対象としたカクヨム運営によるオンラインの作品講評会です。
講評対象に選ばれた作品は、キャラクターやストーリーなど、作品を構成する5つの要素を5段階で評価して作品分析を行うとともに、長所や改善すべき点をコメントにまとめて指摘します。

今回の企画では、プロの目を通してしっかりと評価された講評が、カクヨムブログ上で公開されます。そのため、講評される作品は、だれでも閲覧して参考にすることができます

講評作品に選ばれた方は、プロが精読して判断したご自身の作品の良かった点や改善すべき点について知ることができ、今後執筆する際の指針として活かすことができます。
また、応募しなかった方や講評対象から漏れた方も、他の作品に向けられたアドバイスを読んで、自身の作品にあてはまるポイントを見つけることができます。


【エントリーNO9】
よいか、民のために休まぬ余は、ニホンでは【社畜】と蔑まれるのだぞ!
『異世界帰りの聖王、休暇を満喫する』 作者 笛吹ヒサコ。
あらすじ:
聖王イシュナグと魔王ガラムは長きに渡る因縁に決着を着けるため、激しい一騎討ちを繰り広げられました。
その一騎討ちのさなか、二人の王は忽然と姿を消してしまわれたのです。
あれから、百年。
異世界《ニホン》より帰還を果たした聖王イシュナグは、こうおっしゃいました。
「余にも、休暇を得る権利があると、異世界《ニホン》で学んだ。よって、これより余は休暇を満喫することにする」
呼び出された諸侯らは、びっくり仰天さあ大変!
ケモミミ従者とともに、聖王さまの休暇のはじまりはじまり〜。
そう、これは聖王イシュナグの休暇の物語。あるいは――。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:3
・ストーリー:3
・世界観:4
・文章力:3

◆良かった点:
逆異世界トリップものですが、トリップ先ではなく、帰還後の物語が展開。しかもそれを語るのはこちらの世界の人間ではなく、魔物の王! 王道とはその見せ方をどれだけ変えられるかが勝負となりますが、その点申し分のないネタでした。
そして、作品全体に流れるやわらかな空気感も魅力的です。読者の性別や年齢を問わず多くの「好き」を集められるだろうことは間違いなく、好印象を持ちました。

◆改善すると良くなりそうな点:
聖王と魔王が異界へ行ったという、物語の胆へ通じるプロローグが生きていないのは気になるところです。
主人公である聖王にスポットを当てるのは正しいのですが、現状では他の重要人物(この場合は魔王と1年を過ごした異世界の人間たち)が完全に死んでしまっています。
彼らを描くこと、そして物語性を高めるため、聖王と彼らとのドラマを物語の前半部に挟み、それを反映する形で聖王が行動していく……聖王が受けた影響の部分を浮き彫りにしていくべきでしょう。主要キャラを生かすだけでなく、聖王の心情や以前に比べての変化などを打ち出せます。
文章自体はてらったところがなく読みやすいのですが、一文の中にふたつ以上の事象が詰め込まれている例が目立ちます。
この場合は文をふたつに分けて、主語となるもののみで一文を形成するようにするのが無難です。もしくは主語になるものに他を付随させた一文を構成してください。


【エントリーNO10】
アサツキと変人だらけの異世界で、ワタシは夢を追うことにした。
『こちらS県浅葱町。一応、異世界。』 作者 達見ゆう
あらすじ:
あることがきっかけで、異世界である浅葱町を行き来するようになったワタシこと田中達子(アラサー公務員)。
隣町ですか?というくらい普通の日本の異世界だけど、公務員であるワタシはしがらみの無いこの世界で小説家を目指すことにした。
しかし、やはり異世界。なぜかアサツキは多いし、住民は個性的を通り越して変人ばかり。
果たしてワタシはこの街で何かを得ることができるのか?

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:2
・ストーリー:2
・世界観:3
・文章力:2

◆良かった点:
異世界ものの流行に真っ向から対抗した、その心意気と思いきりにぐっと来ました!
アサツキという存在もマクガフィンとして機能しており、期待値を高めてくれていました。
どうしても応募作のジャンルが重なってしまう賞において、このようないい意味での妙さ――外連味は好印象です。ネタに妥協することなく、今後も素敵な“妙”をひねり出していってください。

◆改善すると良くなりそうな点:
冒頭部のキャッチーさの不足、これが第一の問題です。冒頭部とは小説の顔であり、第一印象を決める大切な場面。「後からおもしろくなる」は、賞において評価ポイントとはなりえません。
第二の問題は説明が長いこと。説明は読者の読む気を猛烈な勢いで下げてしまいますし、キャラクターの個性もぼやけさせてしまいます。特に現状では、キャラ同士の会話も説明になってしまっていて、アサツキも今ひとつ生かし切れていませんからなおさらです。
まずはキャラクターの行動や会話によるドラマを作り、そこに必要最低限の説明を差し込むつもりで構成してみてください。
と、以上を踏まえまして。
「読者に見せ、魅せるための構成」、これを意識し、説明ならぬドラマを描き出すことを心がけていきましょう。
それと、三点リーダー【…】はふたつ続けて【……】とすること、カギカッコ内の最後の句点は省略するのが掟ですのでご注意を。


【エントリーNO11】
現役大学生vs.連続毒殺魔!激動の24時間を巡るクライム・サスペンス!
『殺人珈琲店の怪~大学生プロファイラー・蒼の事件簿~』 作者 貴堂水樹
あらすじ:
「待ってろ、橙花――俺が必ず、お前を助ける」
四年前に起きた刃物男による通り魔事件で、当時高校生だった富永蒼《とみながあお》は右腕に後遺症の残る大きな傷を負ってしまう。その事件をきっかけに、大学生になった蒼は犯罪心理学を学ぶようになる。
そんな中、巷を騒がせている連続毒殺事件――名古屋を中心とする東海圏で起こった『新種の毒物』による一連の殺人事件に、蒼の恋人である鳴海橙花《なるみとうか》が巻き込まれてしまった。
発症から24時間後に死亡するという謎の新種毒に侵された橙花の命を救うため、蒼は毒殺魔を見つけ出そうと立ち上がる。
凶悪な殺人鬼と戦う蒼の武器は『犯罪者プロファイリング』。警察官志望の親友・黒崎健《くろさきたける》とその彼女・真壁朱里《まかべしゅり》とともに、蒼は独自に犯罪捜査を開始する。
与えられた時間はたったの24時間――蒼は無事、愛する人を救うことができるのか?!
現役大学生vs.連続毒殺魔――激動の一日を巡るクライム・サスペンス!


◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:3
・ストーリー:5
・世界観:4
・文章力:4

◆良かった点:
恋人の命の危機と事件解決を結びつけたことで読者の興味を湧かせ、事件解決までの制限時間を設けたことで緊張感が生まれているのがよかったです。
主人公たちが加わったことで、短時間で目まぐるしく捜査が進展していく加速感もよい。
異なる分野のスペシャリストたちが一丸となって犯人を追い詰めるチームワークに頼もしさや安心感を抱きながら読むことができました。
理詰めで犯人像を捉え、包囲網を狭めていく推理の組み立て方は秀逸の一言。

◆改善すると良くなりそうな点:
警察のコネクションを持つ健やハッキングの天才である朱里に比べると、犯罪心理分析ができると言っても大学生レベルの蒼が探偵役としてキャラが弱く見えてしまいます。
例えば、世界最先端の研究をしている特別な教授に師事しているとか、人より直感が優れていて相手の感情を見抜けるとか、共感性が高く犯罪者の思考に同調して先読みできるとか、何か他人にはない才能や特技もプラスするとキャラの個性も強くなり、推理にも説得力が生まれると思います。


【エントリーNO12】
Amazou通販=全品無料!な楽園から全力で出ようとする元社畜達のお話
『雨の庭』 作者 友浦
あらすじ:
そこは生活に関するものが「天蔵(アマゾウ)」という通販サービスを通して何でも無料で手に入る楽園のような世界だった。
仕事も学校も試験もなんにもない――。
人々は毎日、時間もお金も心配せず楽しく過ごしている。
「でも、なんで無料なの??」
ふとこの世界に疑問を感じた律歌と北寺は、好奇心に任せてこの場所のすべてを探索することにする。
この世界は何なのか?
何故自分たちはこの世界に来たのか?
触れてはいけない領域に辿り着いた時、次第に明らかになっていくのは――。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:2
・世界観:4
・文章力:2

◆良かった点:
すばらしいディストピアですね! ある意味でユートピアという切り口から次第に露わとなっていく世界の真実は、読者の目を引っぱる謎として正しく機能していました。
主人公の心情描写の細やかさと濃さにも目を惹かれました。読者に心情を理解させ、感情移入させられる主人公は、物語においてもっとも価値が高いものですので、これからもぜひ意識していただければと思います。

◆改善すると良くなりそうな点:
リーダー(……)とダッシュ(――)の多用は要注意です。これらは雰囲気、特に余韻や間が簡単に作れることからつい使ってしまいがちですが、逆に言えば表現をそれだけ狭め、文章を「平均以下」に引き下げてしまうもの。余韻も間も地の文で!
また、一段落の長さが目立ちます。文は、多く固まるほどに読者の目を滑らせます。できれば200字程を最大にして一段落を形成し、さらに間々に短文を挟み込むなどして、読みやすさを演出しましょう。
上記に付随してのことになりますが、次は物語自体のシェイプアップを心がけてください。現状では一挙一投まで書き込まれている感が強く、冗長に見えてしまっています。
軸となる文にどれだけの枝葉(状況描写や修飾)を残せばいいか。それを考えられると、完成度が格段に上がります。


第4回は10月25日更新予定です。