花は雪解け、散りゆくことなく　―女へ変わる僕の体と、変わらない君への想い―

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（1488文字）

雪郷の町で、一人の少年の体が女性へと変化していくお話。
皆が当然に抱くであろう気遣いと優しさ。だからこそのすれ違いが描かれた作品。
優しさが必ずしもそうではないことは、当たり前にそれを受け取っている人間にはなかなか気づけない。
彼は女性になるのと同時に大人になったのだろう。
その時に感じた寂しさや痛みを優しさだと感じられる日が来てよかった。

後天性性転換症を発症したことで、高校生・奏太の体は女性の体へ変貌を遂げていきます。そんな本作は、女性の肉体を手に入れたことで始まるラブコメではありません。自分の体や周囲の変化への不安を丁寧に描かれた恋愛ものです。
奏太が好意を寄せる人は、すでに彼女がいる親友の拓真。女の子になってからも、秘めた思いに悩まされる日々は続き――

同じ病気を抱える舞子先輩や母の支えがあるものの、やさしいはずの言葉や温かいはずの気遣いに傷つくことも。
普段何気なく使っている自分の言葉は適切だっただろうかと、何度も考えさせられました。
あたりまえとは何か、自分が自分でなくなる恐怖がどれほどつらいか、真っ向から切り取っ…続きを読む

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（784文字）

心は体に引きずられたり引きずられなかったりする。
ならばこの恋はどうなってしまうのだろう。そもそも恋だったのか。友情ではなかったのか。

しゅんしゅん沸くヤカンと、温泉の湯気。雪。
温度差のある湿気が常に作品を潤す。

雪国の冬に立ち尽くす少年はどこに行き――彼は少女に生まれ変わるのか。
春はどこに。

少年が踏み出す一歩を楽しみにしています。

（1月 までを読んでのレビューです）

わたしは、知ってた。
作者さまの視線、その優しさを。

だから、扇情的なタイトルで、あるいは主題で、わたしのような下世話な興味の煮凝りみたいなものを呼んでおいても、作者さまがけっきょく何をみせてくださるのかというのは、わたしは、わかっていた。

変わる。
変わらない。

ねえ、当たり前ってなんだろう。
あなたって、わたしって、どんな形をしているのか、ねえ、そのことを説明できる？　僕は、あたしは、俺はあたいはうちは、どんな色と匂いを当たり前に持っているんだろうね。

変わる。
変わる。

ねえ。
血の色があおであっても、あなたは愛してくださいますか。

印象的な冬景色の中で、ゆっくりと男性から女性へ変化する。
体の変化だけではなく、心もゆっくり女性へと変化する。

それは自分を認識するすべてが不自然に変わってしまう、そんな不安を連れてくるのかもしれません。

普通の恋愛や人間関係でも悩みが尽きないのに、それに加えて性別の変化が起こったら自分だったらどうなるのだろう。

逃げられない現実と雪に閉ざされた街の印象が重なります。

真実に悪い人間なんてどこにも居ない。
ただ、雪が降っていて、人は一人では生きられない。

主人公のせつない思いがどこに着地するのか見届けたい、そんな気がします。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（233文字）

登場人物の心理描写が、まさに「全編エモい」…わたしには書けないわぁ…続きが楽しみです！