後天性性転換症を発症したことで、高校生・奏太の体は女性の体へ変貌を遂げていきます。そんな本作は、女性の肉体を手に入れたことで始まるラブコメではありません。自分の体や周囲の変化への不安を丁寧に描かれた恋愛ものです。
奏太が好意を寄せる人は、すでに彼女がいる親友の拓真。女の子になってからも、秘めた思いに悩まされる日々は続き――
同じ病気を抱える舞子先輩や母の支えがあるものの、やさしいはずの言葉や温かいはずの気遣いに傷つくことも。
普段何気なく使っている自分の言葉は適切だっただろうかと、何度も考えさせられました。
あたりまえとは何か、自分が自分でなくなる恐怖がどれほどつらいか、真っ向から切り取った作品です。
印象的な冬景色の中で、ゆっくりと男性から女性へ変化する。
体の変化だけではなく、心もゆっくり女性へと変化する。
それは自分を認識するすべてが不自然に変わってしまう、そんな不安を連れてくるのかもしれません。
普通の恋愛や人間関係でも悩みが尽きないのに、それに加えて性別の変化が起こったら自分だったらどうなるのだろう。
逃げられない現実と雪に閉ざされた街の印象が重なります。
真実に悪い人間なんてどこにも居ない。
ただ、雪が降っていて、人は一人では生きられない。
主人公のせつない思いがどこに着地するのか見届けたい、そんな気がします。