第21話
「母さん……」
少年が向かっていたのは、花が咲いていた森から東の方角にある女性の石像だった。
「僕の……」
少年は表情こそ無表情のままだが、その声色からは揺らぎと焦燥が滲んでいた。
石像の足元に膝を着いた少年は、一心不乱に素手で地面を掘り出すと、キラキラと星屑のように輝く土の中から豪華な女性の衣服が出てきた。
「母さん…」
少年は、その衣服を一度ギュッと抱きしめ、匂いを吸い込むが、その衣服にはもう、少年の求めていた懐かしい匂いは消え失せていた。
もう顔も声さえも覚えていない、母の香り。
なぜここに母の香りのする服が存在するのかは分からないが、少年の唯一の宝物であることに間違いはなかった。
少年は、ひとしきり母の服を抱きしめた後、そのまま立ち上がり、カリン達の眠る家の方へと足を向けた。
が、少年が辿り着いたそこは、以前ののどかな場所ではなかった。
朝日に照らされた青々とした草花や色鮮やかな花々は踏み荒らされ、大量の赤い液体が滴っていて、幼い子供達があちこちに倒れている。
花の中に倒れ込んだ子供達の瞳は、光を失っており、身体中に貫かれた様な穴があいている。
「…………………?」
少年は混乱しながらも、震える体を強引に動かし、各家の中を確認する。
しかし、家の中で横たわっていた子供達は全員、体から大量の血を流し、息をしていなかった。
「どうして…」
石の床に広がる赤い液体に、朝日が差し込み、まるで母の石像の胸に少年自身が埋め込んだルビーの様に輝いていた。
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