第29話

「なあ、お前も俺と一緒に来ないか?」



黒髪の少年は、ブレスレットにはめ込んだ赤い宝石を眺め、まじないを唱え、宝石が魔法石として働くかどうかを確かめていた。



「………フリージアは…」



「あ?なんだ、コイツか?もう死んでるぞ」



黒髪の少年は、木の下で座り込んでいたフリージアに一目も向けず、片足で蹴ってみせた。



蹴られたフリージアの体は、ドサリとそのまま地面に倒れ込んだ。



「!?」



倒れたフリージアの胸は抉られ、大量の血が流れ出している。



「どうして……」



「はあ?どうしてって、コイツからすげー魔力反応あったからそりゃあ変だと思うだろ。昨日までなにも感じなかったのに、今日突然魔力覚醒する訳ないだろ?」



「でもそれはフリージアにあげたものだ…返せ!」



「はあ?返せってもう死んでるだろ?いくら偉大な魔法石でも死んだ人間を蘇生させることは出来ないぜ?」



「お前がなにを言ってるか分からない、それはお前の物じゃない、だから返せと言った」



「わかった、わかったから。だけど俺にもコレが必要なんだよ、だから俺にくれ」



「嫌だ!返せ!」



「嫌だって、子供かお前は…。つか、早くこっから出よーぜ?お前だって閉じ込められてんだろ?自由になろーぜ」



言いながらゆっくりと少年に近付いてきた黒髪の少年は、俯く少年の肩に腕を回す。



「おい、なに持ってんのかと思ったら、それ首か?やめろよ、すぐ腐るぞ」



そうして少年を嘲笑した瞬間、黒髪の少年の腹部に大きな衝撃が走り、体内から熱い液体が流れ出すのを感じた。



「は、あぁ?なん、だ、これ…」



黒髪の少年は口から血を吐きながら自分の腹部を見下ろし、少年から後ずさった。



穴の空いた黒髪の少年の腹部は春風の様な心地よいそよ風を通り抜けさせ、その風が血なまぐさい匂いを纏う。



「お、まえ!!!!!!ぶざけっ…!!!!!!」



黒髪の少年が霞む視界の中で、白髪の少年を見返すと、少年の手からは赤い血が滴り、俯きながらなにかブツブツと呟いている。



頭部から生えた少年の牛のような角が次第に大きくなり、ぐねぐねと形を変え、黒々とした魔力に包まれていく。



その様を目の当たりにした黒髪の少年は、最後に「ははっ」と引き攣った笑いを浮かべた。



(いや、こんなん勝てる訳ねーわ…)



そして黒髪の少年が最後に聞いた音は、他でもない自分の頭部が踏み潰される音だった。

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