第35話
そして満月が少年の額から唇を離すと、次に空洞の両目を手で覆い隠した。
「お前のその悲しみが、その子供を救うんだ。大丈夫、絶対に僕がお前を月へと導いてやる。だからお前はもう一度、その美しい目で現実を見ろ。受け入れられないなら辛い記憶は捨てて良い、そうしないと前に進めないならな」
そうして次に満月が少年の顔から手を離すと、空洞だった少年の瞳は、月明かりに照らされて輝くルビーの瞳が戻っていた。
「ぼ、くは……」
再び鮮明に周囲を映すようになった少年の瞳は、微かな光でさえも強い刺激となり、少年は思わず顔を背けた。
そして顔を背けた拍子に腕の中のカリンの顔を再び目にしてしまい、嗚咽を漏らした。
「忘れたくない…だけど、そうしないと僕はずっと君を手放せないんだ…」
少年はルビーの瞳からボロボロと大粒の涙を流し、固く目を瞑ったカリンの頬を撫でた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…きっと次こそは、君がもっとずっと笑顔でありますように…」
少年はそう言ってずっと抱えていたカリンの首をそっとフリージアの亡骸の横に置いた。
そして少年が立ち上がる際に、カリンの焦げ茶の髪を縛っていた赤いリボンが解け、豊かな草花の中に紛れてしまった。
「……僕は貴方について行く」
「ああ、僕は眩しいからな、見失うなよ」
「ない、貴方が僕を僕の月に導くその日まで、僕は貴方について行く」
自分を見つめる少年のルビーの瞳に、満月はふっと笑みを零して頷いた。
そしてずっと自分の後ろで控えさせていた白川を振り返り、「出番だ」と顎で指示を出す。
なんとも雑な扱いに白川は一瞬その甘いキャラメル色の瞳を見開いたが、すぐに薄い笑みを浮かべ、満月と入れ替わるようにして少年の前へとでた。
『じゃあ、君の記憶を貰うけど、何処から食べて良いの?』
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