第34話
少年のそんな頑なな態度に、満月はふぅ、っと息をつき、一瞬次の言葉を考え、一旦言うのを止めようとしたが、やはり必要なことだと思い、口を開いた。
「お前のソレは執着だ。お前がそうしてその子供に執着している限り、その子供は生まれ変わってもまた、お前に引き寄せられてしまう」
「生まれ、変わり?またカリンに会える?」
少年は、空洞の瞳で満月を見上げ、まるで希望を見出したかのような、やや高い声を上げた。
「いいから最後まで聞け。お前にとってその子供が月でない様に、その子供にとってもお前は月じゃないんだ。お前がその子供を引き寄せ続ける限り、その子供は正しい月に巡り会えない」
「………正しい月…?ぼく、じゃない…」
満月の言葉に、少年の心臓の鼓動がだんだんと速くなるを感じた。
それは焦りだった。
カリンが他の誰かと笑いあっている様子を想像しただけで、身体中に強い衝動が巻き起こり、抑えきれずに黒い魔力となって鋭く満月の頬を掠めた。
黒い魔力によって掠った満月の美しい頬からは一筋の血が流れ、スっと滴り落ちるその一雫ですら美しいと、後ろに控えていた白川は思った。
(僕も欲しいな…僕だけの、唯一の
「……それでもいい…!それでも僕がカリンの隣にいたい!!他の誰かなんて要らない、僕にはカリンが、カリンには僕がいる!それだけでいい!!」
少年のその強い口調に満月は悲しげに瞬いた。
「違う、そうじゃない…お前がその子供を諦めない限り、その子供はまた無惨な死を迎えるかもしれないんだぞ?」
「え?」
満月の言葉に、少年はビクリと体を震わせた。
「一概にそうとは限らないが、間違った運命には必ず軌道修正がかかる。この力には誰も逆らえない。今回、その修正がその子供の"死"として働いたんだ。それ程までにお前のその子供に対する想いが強かったんだろう。お前に自覚がなくてもな」
「………分からない…僕にはなにも…だけど、カリンが悲しむのは嫌だ…どうすればいい?」
空洞の瞳から血涙を流しながら少年は血塗れの両手で満月に縋りついた。
眼球が無くとも少年は、美しい満月の姿を確実に捉えていた。
満月はしばらく少年の空洞の瞳を見つめ、その深い暗闇に優しく微笑みながら「その記憶ごと未練を手放すしかない」と呟きながら少年の額に唇を落とした。
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