第33話
少年の中で渦巻いていた悲しみが、激しい攻撃性となって体から滲み出ているのを見た満月は、「まあ、分からんでもないが」と一人呟くと、
その手を少年へと差し伸べた。
「お前の悲しみはよく分かる。だけど、お前は間違えたんだ」
「まち、がい?」
ボロボロと血の涙を流す少年の両目は、自分で抉ったのか、黒い空洞と化していた。
そんな少年の前へと満月はしゃがみこみ、そっと少年の目元を撫でる。
満月の心地よい温度の手が、血涙で濡れた頬を包み、まるで真っ黒な憎しみと悲しみ、そして重苦しい後悔によって汚れた少年の心をゆっくりと洗い流していくようだった。
「ああ、お前は自分を捧げる"月"を間違えたんだ。お前が愛したその月は、本来お前のものではなかった。だから失ったんだ」
「つ、き…?」
「そうだ、狂おしいほど愛しい存在。肉欲でも依存でも執着でもない、命で繋がった存在だ。しかし巡り会うには長い年月を要する。探している中で精神がすり減り、諦める者もいる。月を見誤り、自ら自分の月を壊す者もいる。間違うのはお前だけじゃない」
「愛おしい…?分からない…、あなたが何を言っているのか…」
「今すぐに分からなくて良い、お前が分かるようになるまで、僕がお前に教え続けてやる。だから僕と一緒に来い。僕がお前の本当の月へと導いてやる」
「ほんとうの……でも…」
少年の心は満月の言葉によって揺らいでいたが、もう一度、空洞の瞳でカリンを見て「むりだ…置いて行けない…」と再び血の涙を流した。
少年自身、何故だか分からなかったが、カリンに対してだけは罪悪感とは別に、
ここから満月と共に旅立とうとする自分を強く引き止める何かがあった。
手放したくない、
ずっと傍に居たい、
何故と聞かれては上手く説明出来ないが、少年はそれ故にギュッとカリンを抱き締めて離さなかった。
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