おまけ
第37話
満月が分厚い本を閉じ、「昔話はこれで終わりだ」と立ち上がったその時、すぐに足元から抗議の声が響いてきた。
「え〜〜?それだとなんで
不服そうな声を出し、満月の足元でボヨンボヨンと飛び跳ねる白い物体に、満月は溜息をついた。
「……お前も察しが悪いな…、紫苑の母親は父親が囲っていたその聖牛との間に紫苑をもうけたんだ。全部言わせるな、僕はこの手の話が一番嫌いなんだ」
心底不愉快そうに顔を背ける満月に、白い物体は慌てて謝罪し、開いていた分厚い本を閉じて自分のお尻の下へと隠した。
そして次にどう満月へと声を掛けたら良いのか分からず、そよふっくらとした一頭身の体をモジモジと動かしていると、顔を背けたまま再び満月が口を開いた。
「あの悲しい獣を生み出した責任は誰にあると思う?」
「えっ、ああ…ええと…」
朱殷はまさか満月が質問してくるとは思わず、丸々とした体をビクリとさせ、口どもった。
「王様でしょうか…聖牛を返さなかったのが原因ですし…」
朱殷の返答に満月は「本当にそうか?」と金色の強い瞳で朱殷を見下ろした。
朱殷を見つめるその鋭い瞳は、やり場のない怒りを帯びているように見えた。
(満月さんが感情的になるなんて珍しい…)
「紫苑が半獣として生まれ、強烈な魔力を持っているのは、他でもない聖牛の子だからだ。普通の女であれば牛になど欲情しないだろう、しかし王妃は神の呪いを受け、聖牛を求めるよう仕向けられた。そして、王は何故聖牛を神へと返還しなかったのか。簡単だ、その聖牛は人間が神との約束事すらも放棄すりほど心を掴み離さない牛だっただけだ。これがどういうことか分かるか?」
「えっと…いずれにせよ、王も王妃も神の呪いを回避することは出来なかったということですかね…?」
朱殷はなぜ満月が一々自分に意見を求めてくるのか分からなかったが、満月の顔色を伺いながら恐る恐る答えた。
朱殷の回答に、満月はただ目で頷く。
「そうだ、そもそもこれは神のはかりごとだった」
「え、いや…でも神様がどうして…」
「紫苑だ。全てはアレを作り出す為に行われた。王も王妃もそれに利用されただけだ。しかし、王妃はそれを知ってかしらずか、アレを迷宮に隠したんだ。魔法石を隠していたのはきっと、民衆と同じ様に自分に奇異の目を向けた王への仕返しだろう」
「なるほど…じゃあ、王妃様は、紫苑を憎んでいたのでしょうか…呪いとはいえ、望まない子だったわけですよね…」
悲哀に縫い止められた漆黒の目を伏せ、短い前足をグリグリと合わせる朱殷に、満月は立ち上がり、朱殷がその白いお尻で隠していた本を取り上げた。
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