第13話
翌朝、少女が目を覚ますと、外からはカチン、カチンと石を叩くような音が聞こえてきた。
「……あれ、フリージア…?」
固い床に二人寄り添って一緒に寝ていたはずの妹の姿が見えないことに気が付いた少女は、慌てて寝間着のまま外へと駆け出した。
「フリージア!」
青々と生い茂る草や、朝陽に照らされ、鮮やかに咲き乱れる花々を裸足で踏みしめながら、バタバタと足の向くままに走っていると、後ろから「お姉ちゃん」と声がした。
慌てて振り返ると、そこにはニコニコと満面の笑みを浮かべる妹が、上半身裸の状態の白髪の少年に連れられている様にして立っていた。
「!?ふ、服着てください!」
少女に突然大きな声を出され、少年は一度首を傾げたが、自分の姿を思い出し、無表情のまま「カリン達の家を作っていたから」とある方向を指さした。
少年が指し示した方を見ると、そこには削り途中の大きな石がゴロゴロと転がっていた。
「あ、ありがとうございます…って名前…」
しれっと教えてもいない自分の名前を呼ばれたことに時間差で気が付いた少女は、驚いて思わず一瞬だけ少年を見返したが、上半身裸の少年を見ていられず、すぐに目を逸らした。
「フリージアから聞いた」
「お姉ちゃんおはよう!あのね!お兄ちゃん、名前ないんだって!だからお兄ちゃんに名前をあげようよ!」
「名前を?」
「うん!」
無邪気に微笑むフリージアに、カリンは戸惑った。
(昨日言ってた、分からないって…もしかしてこの人は記憶喪失とかなのかな…)
「お姉ちゃん?」
つい一人で考え込んでいたカリンは、フリージアに顔を覗き込まれてハッと我に返る。
「う〜ん…名前をあげるって言ってもなぁ…お姉ちゃん、人の名前なんてつけたことないし…」
カリンが言いよどみながらチラりと少年の方を見ると、心無しかフリージアと共にしょんぼりと小さくなっている気がした。
「えっと…名前…忘れてるとかじゃないんですか?ないんですか?」
「分からない」
「ですよね…」
(そもそも記憶喪失の人にこんなこと聞く私がおかしいな)
「分かりました…できるだけ良い名前を…考えます…」
カリンは少々プレッシャーを感じながらも、少年には命を助けられ、今まさに自分達の家まで造って貰っているのだからと自分に言い聞かせ、意を決して頷くと、
少年はパッと花が咲いた様な明るい笑顔を浮かべ、唐突にぎゅっとカリンを抱きしめ、頬擦りをした。
「〜〜〜〜/////!?」
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