一章:破節【クレス編】 第三十九話 ひるね
―、
クレスは
最近は一日の密度が濃く、心身ともに疲れが浮かび上がっていようだった。
それはみなも同様なのだろうとクレスはふっと笑った。
「マスターマスター」
そう言い、すり寄ってくる白竜の少女。
(やめろ、いまちょうどいい感じに眠気が来てるんだ)と思いつつも、口には出せなかった。
なんどもマスターと揺さぶっていると、後ろから声が聞こえた。
「
ハクに指さすタオ。
ハクはその言葉を理解できなかったが、指をさした先には尻尾がある所だった。
ハクはごまかす。
「そ、....そのロンニィってなんですか?」
タオ
「.....あなたは龍ジャナイノ?」
不思議そうな顔をする。
ぎくりと顔をふるハク。
「りゅ、龍ー!? そんな立派生き物 あははワタシそんなのシラナイナー(そそそ)」
タオ
「....ここでは龍はドラゴンヨバレテル
なのにあなた龍知っている」
背筋が震えあがる。
(バレたー!!??)
マスターと大きな声でクレスを揺さぶる。
少しこめかみに力入れている。
「あ?」
ハクはクレスにタオにバレたという話をする。
「あの、あの!! タオさんにバレました!!」
タオ
「なんでワタシの名前知っているの?」
クレスは吐き捨てる。
「そんなの前回のイリアスに堂々と姿を見せて.....」
まどろむ思考から、目の記憶が浮かび上がる。ハクはずっと変身魔法を使っていることに。
驚きから目を見開く。
「見えるの!⁉」
タオは不思議そうな顔で頷く。
クレス
「驚かないの!? この子結構バカ力あるよ?」
クレスの発言にハクはえっと驚く。
タオは胸に手を添える。
「わたしの国 龍は神様そのもの おどろきません」
クレスははえーと感心するが、どうして見えるのかが分からなかった。
タオはそれを読んでいたかのように答える。
「わたしの目には、この世とあの世を見分ける力を持っています。
魂の形が見えるのです。」
クレス
「魂の形....なんかスピリチュアルだな」
だが、ハクの本来の姿を見抜いたことには納得せざるは終えなかった。
(魔法....とどう違うのか?)
「ハクはどんな形に見えているんだい?」
そんな疑問を投げかけた。
だがタオは少し狼狽えたような様子で答えた。
「それが....人の形をしているのに、龍の特徴を持った。トテモ不思議な形をしているのです。」
クレスはなるほどという顔で頷く。
ハクは自身の体をべたべたと触り、本来あるはずのない尻尾などを見つめていた。
クレスは思い出す。
(思えば、ハクは幻覚魔法ではなく、変身魔法を使っていると言っていたな。
仕組みは細胞の変質から始めるという異常な魔法。
もしこの
ハクのドラゴンの姿が本来の魂の形だ。
だが人とドラゴンが混ざった姿の魂なら、細胞の変質が魂の形を変えたということか?)
ふむと分からないことが多いが考察する。
気付くとタオはハクを引っ張り、遠い場所に居た。
「龍娘 一緒にアソぼう 龍と遊ぶのハジメテ どんな風に遊ぶの?」
ハク
「わたしにはハクって名前がー
マスター助けてー」
そう手を差し伸べていたが、クレスは笑顔で手をふる。
「何を言っているのか分からないが、助けだろう はぁよし寝れるな」
さきほどの考察を置き、その場で寝込む。
タオ
「ねぇ...なんであの人の魂は2つアルノ?」
―、
風が心地よく、木漏れ日となびく草がうたたねという音楽を奏でていた。
(意外と眠れないんだな)
そうベストポジションを探すように体の向きを変えていた。
眠気はまだ最高到達点至れないのがどこかもどかしかった。
「そこで何をしていらっしゃるのですか?」
声が聞こえたクレスは目を開かずに「お昼寝です」と答えた。
「領主さまが今仕事をしているのに?」
そんな疑問をなげかけてきた。
サボっているように見えたのだろう。
「労働は罰なのです。休まないと」
「それは十字教の教えでしょう 関係ありません」
やけに突っかかるなと思い、ゆっくりと瞼をあけるとセシリア・レムリアが居た。
クレスは気にもとめず目を閉じる。
「あなた様には助けていただきましたが、ロンドール伯に失礼だとは思わないのですか?」
「わたしはイリアスの友人です」
「友人とはいえ、そこまで自由に寝ていら」
「セシリア様は労働の重みを知らないのですか?」
その言葉をセシリアは疑問を浮かべる。
「労働の重み?」
「人はどんな行いをしていても、必ず疲れが出るものです。
それは心でも、体でも降り積もるものです。」
「......」
「その疲れという塵はどこへ捨てないといけない。
それが休憩なのです。
それに多分イリアスはサボってると思いますよ?」
えっと驚くセシリア。
「そうがっかりしないでください
イリアスはつい先日に父を亡くし、ほぼ同時期に暗殺されかけたのです。
しかしそんな哀しみもロンドール辺境伯という重みが抑えつけているのです。
そりゃ疲れもきましょう」
「ですが 役目は役目です。
責務から逃げては....」
「ですから休憩なのです。
セシリア様は通商連盟の会長は自身に引き継がれたとしたら立派に果たせますか?」
そんな質問を聞かれたセシリアは断固たる思いで答える。
「ええ、しかと 務めを果たします。」
クレスはゆっくりと眠気が来ていたのか優しく笑い、言葉を放つ。
「ふっ 質問を間違えました。
なら今引き継がされたら立派に果たせますか? 前会長と並ぶあるいはそれ以上務めを果たせますか?」
セシリアは「それは...」という風に狼狽える。
「ええ はたせないんです。
なぜなら一日で責務は完成しないんです。」
「ですが わたしは1年あれば立派に」
「1年......正確にはいつできますか?
一日は12つ時です 半日仕事しても2年かかりますよ」
そう言われてしまえば、しっかりとは答えられなかった。
「わたしの知る言葉では、"一万時間の法則"という言葉があります。
まぁ一万時間もあれば、どんな仕事もうまくなるよねって話なんですけどね
要は1年は365日、1日は12つ時
セシリア様はそのお仕事を12つ時フルに責務を果たすつもりなんですか?」
セシリアはその言葉に「いいえ」と首をふる。
「そうですね 毎日12つ時なんてやってたら、あっという間に体なんてぶっ壊れます。
イリアスは慣れない責務を突然押し付けられ、一生懸命にそれに応えている。」
「そうですね.....」
「彼は先代から辺境伯の仕事を教えてもらってないと聞きました。
分からないことだらけでしょう。
そんな時に"逃げてはいけません"って言ってみてください
きっと彼は辺境伯という務めはできなくなるでしょう。」
「.....」
「『エーゲは一日にして成らず』
かの大国も年をとり、大きく成された。
それにイリアスは逃げる子ではありません
イリアスは一日で一生懸命をかけ、苦手なものでもゆっくりと立ち向かっていくのです。
そして時が経つにつれ、得意になりましょう。」
そういうと朗らかな声で伝える。
「セシリア様もさきの友人の義憤
慣れない言葉でお疲れでしょう?」
セシリアはなんでか心を透かされたような気持ちになった。
「どうしてそれを?」
「顔を見ればとしかいえないのですが、
.....きっと今回のお役目も初めてなのでしょう?」
「.....ええ
祖父からロンドール泊との連絡役を承ったとき、なんとお話すればよかったのか思い付きませんでした。」
「それはイリアスも同じこと
そして友人の侮辱と感情の発露。
それは疲れましょう。」
「.......」
セシリアはただ黙っていた。
「ですから 休憩が必要なのです。
ほらちょうど心地良い風が来ているでしょう?」
「でもそれはイリアス様のお話で、あなたのことではありませんよね?」
少しかわいた笑いをするクレス。
「あははバレてしまいました 結構適当に逸らそうとしたんだけどねー....
でも風は気持ちいいでしょ?」
「.......」
それは確かにセシリアの頬をなで、髪をなびかせた。
ふと上をみあげると木漏れ日の隙間から見える晴天が不思議と心に惹かれた。
「確かに....どこか重みを感じます。」
「ならお昼寝しましょう ここで寝そべったらすごくいいですよ」
セシリアは驚き、恥ずかしがる。
「と、殿方の隣なんて....///」
「...........」
クレスからの返答はなかった。
ふと気になり、顔をのぞくとすやすやと寝ている様子。
セシリアは周囲を見る。
誰も居ない様子だった。
ほんの少しクレスの近くですっと寝そべる。
上を見るとやさしい木漏れ日と木陰が心地よく感じた。
(.....そうですね 確かに休息は必要ですね)
そう感嘆たる思いが湧き上がる。
―
――
すっとクレスは起き上がると隣には少女が健やかに眠っていた。
「..........え? あれ? 本気で寝てる」
そんあことをボヤいた。
クレスは仮眠のつもりで、目を瞑ったつもりだった。
ちょうど道では従者がこちらの様子が見えたのか微笑ましい顔になりつつ、その場から離れていった。
「........」
ま、いっかと思い、少女が起きるまでこの青空を眺めていた。
―、
セシリアの瞼が一層暗く感じた。
その違和感から目をあけると空は赤く染め上がり、ところどころに紫がたちこめていた。
目をこすり周囲を見ようとすると、「起きたか」と後ろから声が聞こえた。
ハッとなり、後ろを振り向くとクレスが居た。
セシリアは驚き、立ち上がる。
「あ、ああ、あああ////」
「ご、ごめんなさい」
クレスはその行動に理解できず、首をかしげる。
「どうした?」
セシリアはただどよめいて声がしどろもどろとなっていた。
「ふっ 少しは疲れが取れたか?」
そう優しい言葉を投げかけた。
セシリアはその言葉をちゃんと受け取り、黙って頷いた。
「よかった 女の子は笑顔が似合うからね」
クレスは優しく微笑む。
夕日に照らされたクレスの顔がどこか美しく見えたセシリア。
「あ、あの.....」
なにかを言おうとしていた。
しかし、―
「クレス!!」
男の声が響く。
クレスはその声の主を知っているように、驚き声の元へ体を向ける。
「師匠!!」
ロートリウスはがしりとクレスの体を抱く。
「生きておったか...全くどこをほっつき歩いとった。」
セシリアはその男を知っていたように呟く。
「エルテ帝国の三賢者
"知識"の賢者 ロートリウスさま.....?」
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