一章:序説 第三十話 やるせない気持ち

ハァハァハァ


俺は一体....いや僕はなんで!!


クレスが心配だ ああ、心配だ


だけどだけど 父さんに!!

父さんに事情を話せば!!


学園都市から辺境伯邸までの距離は短く、乗馬から急いで向かう。


イリアスには思い出があった。


リミカルドとの稽古も、

父の最低ながらある愛のある言葉も、


本人の前では罵倒しかしないのに、陰口ではどれだけ息子自慢をしていたかを。


確かに愛情はあった。

最低なほどの愛情があった。


だから、だからこそ


リミカルド・・・・・も、

父さん・・・も、


僕だけは殺さないって思ってた!!


傲慢じゃない!! 自惚れでもない!!


確信だ!! だってだって.....


だって.....んじゃなんで僕を殺さなかったの?


最初から"殺せなばよかったじゃん"


最初から"産ませなければよかったじゃん"


最初かr.....


そう考えることが絡まり、蝕まれ、もうほどけなくなった。


急いで父が仕事しているであろう書斎室へと駆け込む。


バンッとドアを開け、叫ぶ。

「お父さん!! なんで僕を殺そうとした!!

もしそれが本当ならクレスをたすけ...」


違和感があった。

父はただ椅子に座っていた。

父は窓に向け、座っていた。

それは学園都市がある方向だった。


僕は近づく。

忌避も恐怖もいびつさも感じつつ近づく。


そうして向かい合うように顔を合わせると。


首にナイフを刺していた。


「え....」


おもわず腰を地面に打ち付けてしまう。


「え、え、ええ」


イリアスは顔を抑えてしまう。

恐怖で涙と混乱が溢れる。


イリアスの中にも確かに父親を愛していた。

だからこその対面。

だからこその直談判だったはず。


だけど父は死んでいた。

ポトリ、ポトリと垂らしながら。


だが、顔を抑えた手にべったりと液体が付いていた。

それはまだ生暖かった。


イリアスは血の付いた手で父の肩を揺さぶる。


「生きてるよね!? お父さん お父さん!!」


そう何度言っても、そこに答えはなかった。

少し位置がずれたのかガタリとそれ・・は落ちた。


父の肌は冷たかった。


「ああ、あゝあゝあゝ嗚呼あ」


――――――――――


ぎいぃと扉が開かれる。

クレスたちが部屋へと入る。


「イリア......す」


ハク

「マスターこれは....」


部屋の隅で座るイリアスに急いで駆け寄るクレス。

「大丈夫か!?」


イリアス

「なぁクレス 俺は..」


イリアスはクレスの肩を掴む。


「俺はを殺したやつらを殺したい」


「...........」


クレスは押し黙る。


「なぁ 俺はどうしたらいい?」


「」どうしたらあいつら・・・・を殺せる!!!


クレス

あいつら・・・・とは誰だ?」


イリアスは手にもった血に染まった手記をクレスの前に出す。

「こいつらだ!!」


クレスとハクは一緒にその手記に書かれた内容を読む。


―、

◯◯、1月、20日


ここに新たな記録を残す。

わが息子 イリアスも不器用ながらもリミカルドにしごかれて成長している。

リミカルドも目覚ましい成長があると喜んでいた。

あやつも色々とあるのに、まるで我が事のように毎夜のイリアスの自慢話をしている。


いやうちの息子なんだが?


◯◯、1月、24日


全くあれほど鍛えても、ほどほど息子がモテないことが本当に気がかりである。

黒い髪が原因であろうが、それはあいつ自身が周囲に距離を取っているのが原因だ。

跡取りがいないとロンドール家として、心配である。


◯◯、2月、4日


政略結婚でもと私も嫁探しをしていたが、依然として見つからない。

辺境伯の地位は魅力的であるが、黒髪は難しいという話で終わる。

あの子が、あそこまで心配していた理由はこういうことなのか....

だがあんな最低な態度をしてしまったんだ。

最低な態度を貫いていかないとあの子に失礼だ。


◯◯、2月、10日


最近妙な訪問者が来ることが多い。

素性を明かさないというのは、外交も含めた辺境伯として毅然として断らないといけない。


◯◯、3月、10日


一月程度たったが、その妙な訪問者が毎日のごとく来る。

さすがに息子に見られるのが気がかりなので、今日30刻ほど受け入れようと思う。


◯◯、3月、11日


ここに記録を残す。

妙な訪問者は自身の服装で特定されないように市民の格好をしていた。

見た目は金髪、精悍な顔立ちと落ち着いた声だった。

彼は名乗らずに私がダンタリ騎士団とのつながりを知っているようだった。

依頼をしたいようだが、準備があるためまた後日と言っていた。


どこから仕入れたのか それを突き止めるため、いくらか訪問を受け入れようと考えている。


◯◯、3月、12日


今日は2人で来たようだ。

リミカルドは協定国の依頼により、出払っていることが気がかりだが、手紙を送っても半月ぐらいかかる。

仕方ない。 聞く他ないようだ。


◯◯、3月、13日


全くあの息子がモテない理由に辟易してきた。

ああ、ゆるさない


◯◯、3月、14日


なんだあの言い草は舐めきった態度を取りやがって


◯◯、3月、15日


思い出すたびに憤りが止まらない

あいつは一カ月前に学園へと向かっていったが、あんな奴モテるわけがないだろ


◯◯、3月、16日


あんな奴、産ませるべきじゃなかった

死ねよ 本気で、しね


◯◯、3月、17日


いつか殺してやる 早く帰ってこいって催促してやろうか考えている


18日 ころす 19日 ころす 20日 ころす

21日 ころす 22日 ころす 23日 ころす

25日 ころす 26日 ころす 27日 ころす

28日 ころす 29日 ころす 30日 ころす

31日 ころす  1日 ころす  2日 ころす

3日 ころす 4日 ころす 5日 ころす

6日 ころす 7日 ころす 8日 ころす

9日 ころす 10日 ころす 11日 ころす


◯◯、4月、12日


あゝ あゝ もう....いやだ

確かに俺はイリアスに憤りをもっていたのは確かだった。

もう赦してほしい 赦してくれ

お願いだからゆるしてくれよ 

お願いだから


今日がイリアスが死ぬ日


リミカルドが俺の息子をころす日


リミカルドすまない ほんとうにすまない

お前だってあの子を気に入ってたのに、

盟約によって俺たちの約束のせいでイリアスを殺してしまう。


次は判子を押した俺だ あいつに殺される

だがすまない リミカルド

俺は耐えられない

イリアスは俺のたった1人の息子なんだ


復讐は1人でやってくれ


―、

つづられた日記はここで終わっていた。


――――――――――――――

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