一章:破節【クレス編】 第三十八話 継承

―数日経ち、無事に葬儀とロンドール家当主の継承式を終えた。


イリアスは継承式のさいに、

亡き父と憂う領民に宣誓した。


「先代ロンドール伯は亡くなられた。

だがこれは嘆くべき出来事ではない、

  これは憂うべき出来事ではない


なぜなら次代ロンドール辺境伯として、私が居るからだ。


父は言った。

『国を想い、民を思うが、領主たるさだめ

ロンドール家はこの誇りと使命を胸に刻むのだ』

とそう仰っていた。

私もそう胸に刻んでいる。

皆 安心してほしい

父の想いを背負い、ロンドール家としての家督を背負う私が居るからだ。


ここに

第13代 ロンドール家当主 イリアス・ロンドールが亡き父の思いを背負い、立派に務めを果たすと宣誓する。


どうか皆も私を頼ってほしい」


そう宣誓した。


―、

多少の噂も耳にした。

「先代は自殺したんだってねぇ

務めが重かったのかしら 息子も大変でしょうに」


「イリアス様はテトラ商会に大胆な交渉したらしいな」


「ああ、だけどイリアス様のほうが根を上げたらしい テトラ商会も伊達じゃないってか しっかし大見得きったのに意外とイリアス様は交渉下手かもな」


「学園で襲撃事件があったらしいけど、領主自殺といい絶対なんかあったじゃねぇのか」


式典で行われる会話の内容ではなかった。


そんなイリアスは各国から来訪してきた貴族たちとの会合をしていた。

悲しむ暇もないだろうに、立派に顔を作り上げていた様子だった。


リンドはイリアスの護衛と共に隣に立っており、ハクと私は周囲を見渡していた。


するとイリアスの元へ2人の少女が訪れた。


周囲はざわつく。

「あ、あれは....」


「そうか あの子が... 美しい」


イリアスは2人の少女が礼をした、彼も挨拶をする。


「はじめまして イリアス・ロンドールともうします。」


なびく金の髪がさらりときらめく少女は顔を上げた。

「はじめまして ロンドール伯

私はガンドラス王国群通商連盟会長のタンタル・レムリアの孫

セシリア・レムリアと言います。


先代ロンドール伯と父は懇意の仲であったとお聞きしています。」


イリアス

「レムリア... ええ父との仲はお聞きしていますよ えっと彼女は?」


そう隣の濡鴉ぬれがらすのように艶めく黒髪、黄色い肌の見目麗しい少女。

「ハジメまして わたくしタオ・ラァンと言います。

セシリア様との付きソイの元、ごアイサツしに来ました。」


イリアス

「これはどうも タオ・ラァン様」


セシリア

「彼女は遥か東の国から来訪した方でして、なりわいの元、彼女と出会い、一緒に学園へ入学していたのです。」


イリアス

「そうだったのですね

どうですか? うちのロンドールは?」


そうタオに聞いた。


タオ

「エエ、とっても素晴らしいとかんじています。 わたしの国から見ても、類はみない」


イリアスは微笑む。

「ここまでお褒めくださるとは思いもしませんでした。 父もお喜びになりましょう」


周囲はヒソヒソと声が出る。

「なんだあの肌は...」

オレンジ肌よりも汚らしい色だ」

「きっと何かの病気でしょう可哀想に」

「イリアス様の黒髪に似ているきっと穢らわしい家系なんだわ」


それを顔を隠しながら聞いていたフレデリカ。

「.......どうしてわたくしの国の方々は赤肌などと揶揄するのでしょうか...」


そう顔をうつむかせていた。


セシリア

「なんでしょうか?」


そう周囲に声をかける。

周囲は黙ってしまう。


「言いたいことがあるのでしたら、直接お聞きしましょう」


だが誰も前には出なかった。


「もしこのままわたしの友人を侮辱するようでしたら、私も振るべき力を振りましょう」


イリアスもただ黙って見ていた。


「おいおい 子供がそんな強そうな言葉を言うんじゃない」


誰かがそれに答えた。


イリアス

「コンダリウス伯爵....」


コンダリウス

「これはどうもロンドール伯 お父君が亡くなって、お辛いでしょうが

ですがこの不気味な肌を連れた方との会話をしないほうがよろしいかと存じ上げます。」


イリアス

「なぜだ」


コンダリウス

「それは先代ロンドール伯に失礼だからです。 先代はエルテ帝国のために命を賭したようですが、その式のさいに他国の野蛮人と仲良く会話しているなど お父君も哀しみましょう」


イリアスはただ返す。

「コンダリウス伯爵 彼女がどなたかご存知か? それがわかって、発言しているのか?」


コンダリウス

「ええ、通商連盟会長の孫娘ですね

彼女はいいのです。

ですがその隣の子供の話をしているのです。」


そうタオに指をさす。

「彼女は不気味な肌をもち、周囲の人間に溶け込もうとしている。

これは人に化ける怪物であるという証左ですよ そうやすやすと関わっていいものではありません」


それを聞いたセシリアは笑う。

コンダリウスはその笑いに顔をしかめる。

「何が言いたい」


セシリア

「いえ 随分と見ている世界が小さいなと」


コンダリウスはこみかみに力が入る。


「知っていますか? 他国から呼ばれているエルテの名を」


コンダリウス

「そんなものエルテ帝国にほかないだろ」


セシリアは微笑む。

「エルテというのは、"民衆"を意味します。


通称 "我々の帝国"ということなんです。


他国からは "アングロ人の集落"

      "アレマ人の国"

      "ゲントリー人の街"

と様々です。


そして "話せない人々の国"と言われているんです。」


コンダリウス

「わが国をバカにしているのか!?」


セシリアは黙ってイリアスに謝罪の仕草をする。

「いえ 大多数はそうではないでしょう

ですがあなた様はそう思われても仕方がないとしか言えませんね」


コンダリウス

「な、なに?」


セシリア

「私は祖父と父にならい、世界をまわりましたが、様々な国、文化、そして肌に違いがあるのです。

なにもエルテ帝国が世界の中心に立っているわけじゃないの よくご存知でしょう?

話せない人々とはこういった方々を言うのでしょうね」


それは一種の宣戦布告。


コンダリウス

「このガキ レムリアとか関係なく、躾がなってねぇ!!」


手を出そうとした瞬間、クレスがその男の手を止める。

ハクがセシリアの前に立ち塞がる。


クレス

「伯爵 ここで手を出したら、条約に反しますよ?」


そう諭す。

チッと舌打ちをし、イリアスに一礼をしその場を離れた。


タオ

「セシリア....ゴメンね」


セシリア

「いえ....タオがバカにされたのに黙ってはいられませんでした。

イリアス様 せっかく葬儀に迷惑をかけてしましました。

たとえ話の流れとはいえ、貴国を侮辱したことここでお詫びいたします。」


イリアス

「いえ 大丈夫です お互いさまなところもありましょう。


それに痛快でした 父も彼には困っているとよくお聞きしましたので、彼の不服な姿をみれば父も腹を抱えましょう。


セシリア様の想いには理解を示せます。

友人をバカにされてしまえば私も黙ってはいられない性分ですので」


セシリア

「そうでしたか.....」


割り込んで助けてくれたクレスとハクに礼をする。

「どなたかは存じ上げませんが、助けてくださってありがとうございます。」


タオ

「アリガトウ」


クレスたちはただ頷く。


―、

イリアス

「リンドが割り込んでくれると思ったんだけど....」


そんな疑問が浮かんだイリアス。


リンド

「すみませんが、私の"護衛はイリアス様のみ"ですので、クレス様もハク様も守りません フレデリカ様はさすがに別ですが」


そんな言葉が出てくるイリアスはそれもそうかという顔をする。

クレス

「リンドさん 信じていたのに....」


リンドは呆れる。

「私を取り押さえた人に言われましても...」


顔を隠したフレデリカが近づく。

「わがエルテ帝国はどうしてここまで他者を遠ざけるのでしょうか

父上の行いが無駄だと言われいるように感じます。」


クレス

「フレデリカ様 致し方ないかと...

元々エルテ帝国は移民同士が連ねった国とお聞きします。

他国からの使者であろうとも、忌避感あっても仕方ないのです。」


慰めようとしてしているクレスに反応するフレデリカ。

「たとえ忌避感があっても、話したこともない人にあそこまでの狼藉ろうぜきを働けとは王家は言っていません。」


クレス

「思う、口に出すのは個人です。

"王家だから"と言って、個人の価値観は生涯を賭してでも変わらないことでしょう。」


フレデリカは「そんな」というショックを受けた。


フレデリカ

「それでは....もう...どうにも出来ないということですか?」


それは未来はない、平和はないのかという悲観的な質問だった。

クレスはフレデリカの目をしっかりと見て、その質問に答える。

「いいえ」


「師匠はおっしゃいました。

『今は難しい。

だが争いしかない世の中で、

世界で初めて子供たちがしっかりと学べる"学園"が出来た。


なら将来見据え、子供たちに平和を教え、次代へ次代へとつなげることこそ大事でしょう』っと


フレデリカ様 あなたの想いはすぐには叶いませんでしょう。

しかしフレデリカ様が、わたしたちが"平和とはなにか"をしかと伝えてゆけばきっと良くなります。」


「わたしたち....//// ええ、そうですね」

フレデリカはそれを聞き、どこか安心したかのようにクレスに寄り添う。


ハクはそれ見てむっとなり、フレデリカをクレスから引き剥がす。


「わたしたちはわたしたちです!!

フレデリカ様 お二人だとお思いですか!?」


「あら? ええ、そうね独り占めには致しませんわ 王家も多くの方々を召し抱えていますから」


「な!?////」


クレスは何の話をしているのか分からない様子で、目の前で言い合いが広がっていた。


クレス

(.....言い争いって突然に起こるもんだな)


世の常にしみじみと頷くクレス。


イリアスはただその光景を見て、辟易した感情が湧き出る。

(すごいな あんな口説き文句 俺も言ってみたい...相手いないけど)


――


式は閉幕し、無事屋敷に戻る。


応接間にはさきほど話していたセシリア・レムリアとその連れ、タオ・ラァンが居た。


イリアス

「これはさきほどぶりですね」


セシリアは笑顔で受け答えする。

「ええ、さきほどぶりです。

改めましてわたくしガンドラス王国群通商連盟の使いとしてやってきました。


先代と誓った契約。

それの更新を伺いにあがりました。」


イリアス

「更新....」


セシリア

「はい 父との契約には、ガンドラスからなる物資の通商には必ず通商連盟を通して、取引を行うという契約です。


条件としてエルテ帝国の物資はロンドール地方からの輸入とすることで、辺境伯にも利益があるというものでした。」


イリアス

「そういうことか....」


まだそういった書類は確認できなかったイリアスはとりあえずという形で反応していた。


(下手に更新するのはやめたほうがいいな)


「そういう話になりますと"取引そちら"に詳しい私の部下を連れてもよろしいですか?」


セシリア

「ええ、わたしも友人を連れています。

ここからは....ってタオ...どこに行ったの?」


そう隣に居るはずの友人は霞のように消えていた。


イリアス

「さきほど 無遠慮に出てゆかれましたよ?」


えっという顔でイリアスを見つめる。


「タオさんが必要なら、こちらも探しましょうか?」


セシリアは首を横に振る。

「さすがにロンドール伯に迷惑をかけれません。

それにタオは"この話"には付いてゆけないので、どこかでお時間を潰してもらうというお話をしようとしていたのですが....」


その意図を聞いたイリアスは頷く。

「なるほど ではロンドールの名を持って、屋敷の徘徊を許しましょう。」


セシリアはその言葉に少し驚きを持った。

「よろしいのですか?」


イリアス

「彼女ははるか東からの来訪者でしょう?

ガンドラス方面とは異なるエルテの様式

それを見て学んでもらうっていう名目でしたら、ロンドールうちとしては問題ありませんよ」


セシリア

「ご厚意痛み入ります」


そんな話をしたイリアスはセシリアを執務室へと案内した。


廊下を渡っている最中に、エルシーと出会う。

「エルシー ちょうどよかった

セシリア様との会合 付き合ってくれないか?」


セシリアは自身とイリアスに齢が近い少女を見て、イリアスに質問する。

「イリアス様 彼女が?」


イリアスは微笑む。

「ええ 彼女がわたしの元仕えてくれるエルシー・テトラだ」


エルシーはセシリアのほうへとお辞儀をする。

「エルシー・テトラと言います。

セシリア・レムリア様ですね

お話は伺っております。」


そう会合の内容を把握しているかのような発言をしていた。


イリアスはうん?、言ったっけ?と少し考える。

セシリアは楽しく話せそうな人との出会いで胸が高鳴ったのか、微笑む。


エルシー

「お話の準備ができましたのでこのままご案内させていただきますね」


セシリア

「ええ、お願いしますね」


イリアスは思う。

(あれ? なんか主導権が....)

と違和感がまだ薄氷のごとく積もったままだった。

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