一章:序節 第十八話 魔法とは― 


はぁはぁと走る。 走る。 走る。


だけど、―


マルド

「まってくれよー」


そう優しそうな声で言うマルドだが、その顔は歪み、その手にはハンマー、距離もあってか思っているよりも全力疾走ぜんりょくしっそうだった。


エスメ

()ッ!ダメ もう胸が!!!


走るのもつかの間、肺は出たり入ったりしていたが、ずっと膨らみ続けていたのか限界が来ていた。

心臓がずっとバクバクと鳴り響き、鼓膜に金属音が鳴りやまない。


吐きそうな気分を、"生きたい"その一心でやっていた。


それは横にいたサリィも同じだ。


サリィ王女に関しては特にそうだ。

必死すぎて"走ること"にしか集中していなかった。

エスメは戦いのため、兵士の訓練などを受けていたが、サリィは生粋のお姫様。

走るなど体力などないし等しい。

けどそれでも、 それでも サリィは必死に走っている。


せめて、―

彼女だけでも......


『お父さま!! せめてエスメだけは殺さないでください!!』


そう必死に懇願こんがんする彼女。

カストル国も含め、

『禍根は残すな 残すと奪われる』という格言かくげんがある。


これは知恵ある者たちが反乱や革命を起こしてきた歴史があって、生まれた言葉だからだ。


貧困、圧政、蹂躙、復讐、強欲、怠惰、軽視


その全ての苦渋くじゅうをもって、盤面くにをひっくり返えされる。


そのために、王家は断絶したほうが10年後、30年後、50年後、100年後の国にとって安泰あんたいなんだ。


だけどサリィは"たった1人の友達"のために、

その運命さがに逆らった。

もちろんアディス中でもカストル中でも、

非難轟々ひなんごうごうだった。


私は なんのために.....


サリィ

「エスメ!! はぁはぁ」


声はデなかった。指先がその道を指ししめる。

その先は会堂だった。


私たちは会堂の中に走り込む。


マルド

「会堂にはいれらたー くやしいー」


そうふざけた口調でいうマルド。

だがそのまま走り続け、時間はかけたがその彼女たちが入った会堂に辿りつく。


かちゃりと金属音を鳴らし、入り込む。


サリィとエスメはもう限界だった。

心臓が高鳴り、体は震え上がり、なんとしてもなんとしても空気を吸いたくて仕方なかった。

だが吸ってしまえば、"見つかる"。


マルド

「見つけた!」


エスメとサリィはひぃっと本能からの悲鳴を上げる。

だが目の前には先ほど追っていた男は居なかった。


別の場所から叫び声が聞こえる。

いやぁああ、やめてやめてという嘆願たんがんの声が後ろから聞こえる。


マルド

「黙れよ」


そう一言言うと、捕まえた子供をなぐる。

う....っ、そう"黙らずにはおえなかった"が嗚咽が以前としてなっていた。


マルド

「あ? お前リストにねぇな」


捕まえた子供をよそに頭をかくマルド。

くそっ....そう呟く。


子供を地にふせたマルドは追い込むかのように覆いかぶさる。


子供はマルドの"笑顔"で恐怖する。


叫び声が耳につんざくのか、男はあることをする。


バンッ!!っと。


サリィとエスメは聞いたことないような音に困惑が走る。

見えない背景が余計な想像を掻き立てる。


子供はその音と衝撃を感じた所を見る。

自身の小さな手は、自身の小さな指がいとも容易く鉄槌によって、打ち砕かれた。


子供にとっては神経はまだ若く、ありとあらゆる感触が鋭く感じていた。

子供は悲鳴を上げ、その場から逃げ出そうとしていた。


男はしぃいしぃいと声を出す。

「ガキ 死にたくなかったら答えろ」


子供は必死な様子で頷く。


「さっき2人組がここに入ってきた

お前は見たか?」


「わからない」


バンッ....


「ああああああああああああああああああ」


男はもう一度、しぃいと指を子供に口に添える。

悶える子供にとっては恐怖しかなく、ただ従うほかはなかった。


「んじゃ次だ さっき2人組がここに入ってきた お前は知っているか?」


「お、とうさん、おかあさ...」


おとこは鉄槌をふりかざそうとする。


「見ました 見ました 見ました見ました見まし.....」


「しいしい いい子だ」


以前としてその笑顔は酷く歪んでいた。


「んじゃそいつらはどこにいった?」


「わかんない」


「そっかニコリッ」


「あっ、....わかんない わかんないわかんないわかんないわk....」


バンっと音が鳴る。


「あああああああああ」


2度の悲鳴。

サリィとエスメには重責が来る。

今ここで傷ついてる子を助けるべきだろうかと、今助けないと悔恨がのこり、今助けにいったら命が消える。

それは完全に本能が囁いていた。


"見捨てて生きるか"と"助けて死ぬか"という二択を。


想い重いおもい恐怖と矜持と生欲が織り混ざる。

エスメとサリィは必死に悲鳴をおさえた。

恐怖をおさえた。 王家をおさえた。

『知恵あるものが民を導く』が運命さだめであるなら、その本領を発揮するのは今なんだ。


い...ま....なんです。

ほとりと涙がこぼれ落ちる。

そして少女たちが選んだ選択肢は


    "見捨てる"ことだった。


子供の息はもう絶えかけていた。


「なぁ? 分かるか? 俺がこんな笑顔なのは?」


子供は痛みと恐怖で動きもしなかった。


「俺がこんな笑顔なのはな 痛みがわかんねぇからだよ!!」


「貧困街のやつらはな!! つねに笑顔で居たら飯をくれるんだ 貴族もそうだ

憐れみっていうんか? へへ生きるためになら仕方ねぇってやつだ」


「だけど俺は人生一度でも笑ったことがねぇんだ そもそもの話笑っていたつもりもねぇ」


「だって笑顔には感覚があってできるもんだ」


「俺にはそれが感じ取れねぇ

わからねぇんだよ てめぇらの痛みが!!」


「だから殺した だから拷問したころした だから弄くったころした


痛みってどんなのかを知りたくて知りたくて知りたくて知りたくて知ってみたかったんだ」


「そうするとわかったことがあった」


「わかるか?」


子供は絶えたかけた力で首をふる。


男は笑顔で答える。


「わかんねぇだろ?」


「答えは"痛みを感じるとみんな笑顔になる"だ」


そうニッコリと笑う。

こどもにはりかいができなかった。

したくなかった。それはサリイもエスメもだった。

会堂中に響く声がまるで反響して自分に返るかのように孤独な答えだった。


そして、―


「それでよぉ...さっき前払いで魔法をもらえたんだ どんな魔法か知りたくて知りたくて知りたくて 試してみたんだが、がっかりだ


だから君にそのがっかり魔法をあげるね」


そう子供の顔に手をかざす。

子供は嫌そうな顔で首をふって、避けようとするが大人の大きな手には逃れられなかった。


「―、

ウィデオー見て!

エゴオプティムス私の最高で、―

ラクリマフロース花の涙のようなクラルスメエリタ明るく素敵なラエティティア喜びの笑顔を!


そう唱えると、子供の顔は徐々にひどく歪み、痛みが生じ、悲鳴と雄叫びをあげていた。


「ああああ嗚呼ああゝ猗aaa」


会堂中に反射してくる届かない悲鳴、涙が永遠に流れ続けた。

まるで自身に返ってくるように、―


マルド

「なんだよ お前結構素敵な笑顔をするじゃないか」


子供の顔は、マルドと同じように歪んだ笑顔で叫んでいた。


―――――



かちゃりとコップを渡す男。

「そういえば先ほど、ダンタリ騎士団と会っていたそうですがなにをしていたのですか?」


「え....?ああ魔法を渡していたんだ」


「魔法ですか? そんな簡単に明け渡していいものですか?」


「大丈夫だよ」


受け取ったカップをすする。


「彼らが扱う魔法は彼ら本人にしか扱えない代物です。」


はぁ...と答える男。


「魔法というのは聖典に記されているようにそのものの人生さまを詠唱にすることが多い」


「だから彼らに似合う魔法とその使い方を教えただけだよ」


「そうなのですか 何か面白いと感じた魔法などありました?」


そんな雑談をふる。


「面白い.....」


そう顎をさすり考える。


「いえ、なかったらなかったらで全然問題はありませんよ」


「いえあります」


「どんな魔法ですか?」


「"人を笑顔にする魔法"」


一瞬手をとめる。

「なんですかそれは....」


「彼はね、もともと痛みを感じないようなんだ」


「だけど痛みがわからないから、他の人にその痛みを聞くことが多いんだって、

だけどね

彼はね 痛みを感じたいんじゃなくて、

"自分の無痛いたみを感じてほしい"のだよ」


「だから"人を笑顔にする魔法"」


「............」


「面白い....魔法だよね」


両手を握る。

「そうですね

彼にも、救いがあらんことを」


「ええ、そうですね 祈りましょう

救いがあらんことを」




――――――


あはははははあはは、そんな声が会堂中に響く。

そして、疲れ、壊れた子供は壊れた指で方角をさす。

その方角は確かにサリィたちが隠れている場所に繋がる方角だった。


だがサリィとエスメは"我慢"ならなかった。

一瞬でその場から離れて、マルドに見えるように姿を現すとシュパンっと首筋に何かが通る。


サリィとエスメは後ろに振り向くと、ナイフが大理石の壁を破り、突き刺さっていた。


「ちぃっと黙ってろ」


一瞬にして、状況を抑えられた。

もう....動けなかった。


マルドは拷問を続けようとしたが、


「おい」


一瞬の衝撃、足で頭を抑えられたようだった。

そこには団長が居た。


「あ、兄貴 今リストにいるやつを探していたんです! さっき見つけたんでその足を...」


リミカルド

「おい、俺なんつった?」


マルド

「え....」


リミカルド

「俺はなんつった? リストにいねぇやつは?」


マルド

「手を出すな でも俺ころし....」


リミカルド

「手を出すなってつったら、処女でも指突っ込んだら破けるだろうが!!

傷をつけるなって言ってんだよ!! このゴミがぁ!!

おめぇは童貞か!?」


リミカルドは足をつけたまま、唱える。

アウクシリア支援者よオブリーウィオー忘却をコンキオリ与える、―

スビトーただちにレスティンギルアゴー消せ、―」


するとたちまちマルドの顔に痛みが生じる。


マルド

「いたいたいたいたいたいたい」


リミカルド

「それがてめぇの笑顔の痛みだよ ゴミがぁ」


ぶつうんっとスイカが潰れる。


「死んどけよ いっつもいっつも隊長命令聞けねぇ癖して、何が兄貴だよ この寄生虫が」


ダントル

「どうしやす?」


リミカルド

「とりあえず 子供の状態の確認だ」


リミカルドは子供を起き上がらせる。


「大丈夫か?」


子供の顔は壊れ、目に光はなく、ただ周囲に立っている人たちのような立ち振舞だった。


ダントル

「ダメっすね 使えないっす」


はぁ...とため息を出すリミカルドは苛つく。

潰れたスイカに対して、バンバンと蹴りを入れる。

その死体はひどく飛び上がり、くずれ、曲がっていった。


リミカルド

「はぁそうだな あそこのお嬢さん2人にも聞き込みするか」


サリィとエスメに目を向ける。


サリィとエスメは構える。


リミカルドは優しそうな声で言う。

「大丈夫だよーおじさん 悪くないからねー だからね 

イリアス・ロンドールって子とクレスって子を知らないかなー?」


サリィ、エスメ

「「し、しらない」」


そう嘘をつくが、


リミカルド

「嘘はよくないなー だって君たちはリストに載ってたんだ 顔とか居場所はわかるはずだ」


ダントル

「ね、ねぇ 手を出していい?」


リミカルド

「"追っている最中"だけだ 我慢しろ」


ダントル

「はい」


そう近づいてリミカルド。

だがサリィとエスメは逃げれずに立ち止まっていた。


すると、―


クレス

「サリィ!!!」


会堂の入り口から声が響く。


ハク

「こいつらなんですね」


イリアスは状況を把握した。

「.........」


リミカルド

「おや坊っちゃん こちらからいらしたのですね」


イリアスはぼうぜんとする。

「り...み....カルド」


リミカルドは笑顔で言う。

「大きくなられましたね 坊っちゃん」


そこには、父のとなりで楽しく談笑していたリミカルドの記憶が浮かび上がる。


そしてイリアスは言う。

「なんで裏切った リミカルド・クライトス」


クレスたちとリミカルドたちは対抗する。

まるでもう戦いが始まってるかのような雰囲気が漂う。


クレスはサリィの方へと顔を向ける。

ほっとしたような顔で言う。


「サリィ 大丈夫か? 助けに来た

だから安心してくれ」


サリィとエスメは安心したのか足が震え、パタリと座ってしまう。


クレス

「なぁイリアス リミカルドは知り合いか?」


イリアス

「.....ああ、」


クレス

「そうか.....」


クレス

「ハク....イリアスについていけ」


ハク

「わかりました」


イリアス

「!?.....なんでだ」


クレス

「やれることをやれ イリアス」


「こいつは俺が対処する」


ダントル

「ふーん 犯しがいがありそう」


そう言うと自身の懐にあった半月状の剣を抜く。


リミカルド

「いいねぇ....坊っちゃん 2人で一人前ってか」


ハク

「一人前? 3人前ですよ 竜を舐めないでください」


イリアス

「今度こそ勝たせてもらいますよ 師匠」


ははっと笑うリミカルドはローブを後ろへと大きく開き、腰に携えた斧を出す。


フランキスカ、―

彼の斧には十字に作られている鉄製の手斧。

XXと重ねるように構える。


リミカルド

「さぁ楽しいころしあいの時間だぁ!!!」


そうして、両者相対す、―

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