一章:序説 第三十一話 吹っ切れ方
「そういえば ロンドール伯に判押して貰えたとお聞きしましたが、一体どうやって?」
「ん? そうだね 彼自ら進んで押してもらったよ」
そう笑顔で言った。
「たまたま私が連れていた者はね、貧民街で盗みや強姦繰り返していた者なのだがね。
彼の魔法が有用で連れて行ったんだ。」
「そうですか」と顎をたずさえ、少し考える。
「魔法で説得したのですか?」
「ああ、魔法で説得した。
何やら私の隣人は、あいての本音を100倍にでも増幅させる魔法らしくてね
ロンドール伯の息子への本音を相当に高めたらしい」
「素直に押して貰えるとは思いませんけどね」
「それがやはり神の言う通り。
彼も中々におのが罪を持っていたらしくてね
それはもう複雑な感情があったとか」
「隣人はその
こんな悪魔のような者でも、
泣きながら喜んで判を押すものかとね
ついでに神の言う通り、ダンタリ騎士団が学園到着するまできっかり一月後に解除されると連絡しました。」
彼は笑う。
「ふふお人が悪い 私も人相書きをするのかなり苦労を要しました。」
「君のおかげで
「感謝の極みです。」
「して、その隣人は何処へ?」
それを聞かれるとどこか
「え? 死んだよ? 川に身を投げたらしい」
「へぇ 神がそう仰ったのですか?」
「ええ、約束通り 神は隣人の死は
そう笑顔で答える。
少しおかしそうに笑うのこらえながら聞く。
「そのご様子お聞きしても?」
―――
崖沿いにもたれかかる男。
「お、おい助けてくれよ?」
「いやです あなたの命日は今日だと主が仰っていましたので」
それを聞いた男は激昂する。
「ふざけるな!! だれがあの男を唆したと思ってる!! 俺のおかげなんだぞ!
お前は主ではなく、俺に感謝しろ!!
あんたは言った!! 俺は変われると
変えられると!!」
「ですからちゃんと人生を変われましたでしょ?
感謝して、あなたの死に様をしかと見つめているのです。」
狂っているとそう思った男。
だが、
「かかったな!!」
眺めている彼のつま先に触れる。
「
俺を助けろ!!」
へへっと笑う男だが、一切の無表情の相手に驚く。
「なんで!? なんで哀れねぇんだ!?
可哀想だと思わなねぇのか!!??」
それを質問され、答える。
「神に教えてもらったのですが、
遠い遠い海の奥 平面地球から絶海を越えた先にある場所に ヨジジュクゴという言葉にある言葉があります。
『喜怒哀楽』と呼ばれる言葉です。
たった四文字ですが、簡単です。
喜とは 喜び
怒とは 怒り
哀とは 哀しみ
楽とは 楽しみ
と言った人間の感情を伝えたものです。
とは言っても、
4文字で表現するというのは些か神に無礼かと思いますが、しょせん異教徒ですからね 仕方ありません」
震える男は何が言いたいのか分からなかった。
そして彼は笑顔で答える。
「彼らの言葉にあやかるなら、
私はその感情を等しく"もっている"ということです。」
「は?」
男は理解したようだった。
彼の魔法は感情の一部を100倍以上にする魔法である。
感情の一部でも偏れば、人は
喜 10% 怒 100% 哀10% 楽 10%
と言った具合。
だがこの男は、
すべての感情を等しく、
喜 100% 怒 100% 哀 100% 楽 100%
魔法で無理やり上げられた感情の一部と同等の出力で"抑えた"ということである。
男は恐怖してしまう。
「ば、ばけもの」
気づけば男は手を離してしまった。
―――――
「と言った具合でね 困りましたよほんと」
そう笑う。
「しかし ちゃんと練習しておいてよかったです これも神の試練あってこそ」
「
「ええ しかし疲れました あれほど感情を出すというのも中々酷なものです
もう二度とやりたくありません」
そうそうと忘れていたことを聞き出す。
「そういえば ダンタリ騎士団のお一人はどうなったのですか? 逃げたとお聞きしましたが」
「ええ、無事に殺しました。」
それを聞き笑う。
「なるほど それは早かったですね」
――、
クラカル
「ふぅ ここまで逃げれば....」
足に痛みが生じる。
右足を見ると、抉られていた。
その勢いで倒れてしまうクラカル。
「なんだこれは!?」
「おや わかりませんか?」
すっとどこからか声が聞こえる。
「お前は!? 誰だ!!」
「お初にお目にかかります 卑しきクラカル」
「」誰だと言ってんだよ!!
「ふむふむ主の仰ったとおり、主のもとへ報告するのですね」
いっこうに話を聞かない様子だった。
「困りますね あなたが生き残ると
「は? シナリオ?」
「ええ、あなたの主は死んだのですから
復讐に駆られても、困りますので」
「は?え? おまえどうやって いや殺しても判は押せないはず。」
動揺するクラカル。
「ああ、知っています。 魔法がかけられているんですよね? ええ、ですから目には目をです」
「!? ロンドールを ロンドールを操ったのか!? あのガキを殺せと命じたのか!」
「いえご親切に殺したいと仰っていましたので、目的の一致です」
「ふざけるな あのガキ育てるのにロンドールはどんだけの心労をかさn」
「でもあなたたちは 殺そうとしたんですよね?」
クラカルは閉口する。
「どれだけ言い繕っても、魔法で操られてないあなたはイリアスくんを苦も無く殺そうとした それって 一体どれだけの自分勝手なのですか?」
そうほくそ笑む。
クラカルは俯く。
「かってに言ってろ」
「おや さきほどなんと?」
「かってに言ってろっつってんだよ!!
このクズが....」
そうダガーを投げようとした腕は消えていた。
「
そう近づく男。
「これで私の魔法です。 クラカル あなたたちに魔法を教えたのは私です。」
一体何が起こっているのか分からずに居たクラカル。
それに気付く男。
「ふむ やっぱり見えないのですね
そういうと、
目の前が光りだす。
紋様が描かれた円が球体を作り出すように回りだす。
そしてその中に、腕と血があった。
その血溜まりは一滴もこぼれず、宙に浮いていた。
クラカルは黙った。
「そもそも今回の目的はあなたたちの死亡とロンドールの継承です。
そのためには、塵は塵に、灰は灰に、なってもらわねば困ります。
まぁですが天命はここで終わりだったようですね クラカル」
「あんたらはここまでがお見通しなのか?」
「ええ、そうです」
「その神とは誰だ!」
「知らなくていいですよ」
そう言うと、音が鳴った。
まるでそれは鐘の音のようだった。
―、
「彼らは死ぬべくして死んだのです。」
「塵は塵に、灰は灰に ダンタリ騎士団、
エルテ帝国、アルテメリア学園
あんな血に染まったモノ 人々にとっては害悪です」
「そうですね 醜く、救いようもない代物ですね」
「ええ、だからこそイリアス・ロンドールを殺すべきだったのです。」
「ですがイリアスは生き残ってしまった。
「いえ 今回の目的は、ロンドールの次期当主が当主になること。
それが
「では今までが
そう何かをめくる。
「神が仰るとおりであるならば、そうですね」
「なるほど ようやく軌道にのったということなのですね」
「ええ こたびの事件で出る影響に我々も乗っかるべきだと神はおっしゃています。」
「神がそう仰せになるのでしたら、そのご意思に従いましょう。」
そう言う2人はどこか歓喜の色があった。
―――――――――――――――――
―――――――――――――――
思わずクレスもハクも震える口元を抑えた。
イリアスは投げかける。
「俺はどうしたらいい!!
どうしたら!! どうしたら.....」
そう今でもどうしようもない感情をただただ訴えるほかがなかったイリアス。
「俺は 俺は どうしようもなく"愛されていたんだ"
俺は....」
うなだれるイリアス。
沈黙が通る。
クレスはイリアスの肩を掴み、しっかりと顔を合わせる。
「よしっ 俺を殴れ!! イリアス」
ハク、イリアス
「「ハァ!?」」
クレス
「」いいから
イリアス
「おまえふざけてるのか!? こんな時に、」
クレス
「んじゃおまえのどうしようもないその感情どこで
イリアスはそれを言われ、目を逸らす。
「それは....父さんを殺したやつを....」
クレスは冷たく言う。
「それで晴れるのか?」
イリアス
「...........」
クレス
「それで晴れるのかって聞いてる」
イリアス
「しらない わかんない 考えたくない!!」
そう自暴自棄になるイリアス。
クレス
「それじゃ経験者から言う。
一切晴れねぇぞ 一切もだ
永遠に心の中にモヤだけが残り続ける。」
イリアスはそれを言われ、クレスを睨めつける。
「なら!! どう」
クレス
「だから俺を殴れ イリアス 今やりきれない想いを俺にぶつけるんだ!!」
そう胸に添えるクレス。
動揺するイリアス
「なんで 関係ねぇ友達を殴らねぇといけねぇ なんで助けてくれた友達を...」
クレス
「友達だからだ おまえを友達だと思って、言ってる。」
握り拳が震えるイリアス
「殴れねぇよ....」
クレス
「なら俺が殴る」
バンっと問答無用だった。
イリアスの感情は溜まりにたまった想いの
イリアス
「てめぇ!!??」
そうクレスの顔面を殴る。
クレスの顔は無表情だったが、殴ってしまったことに震えが来る。
イリアス
「ハッ!? す、すまない くれ...」
クレスは寂しそうな目で言う。
「"ほんのすこし"スッキリしたか?」
イリアスはそう言われ、自身の拳を見る。
なんとなく なんとなくだが意識が明瞭に感じてしまった。
クレス
「これは"俺"ができなかったことだ」
その意味を知っているハクはただ心配そうに感じた。
「マスター」
クレスは胸に手を添える。
「イリアス おまえの想いを俺にぶつけろ
その怒りも すべてだ」
イリアスはただ無言でクレスを殴ると、イリアスはクレスに殴られた。
え!?という感じに頬を擦るイリアス。
「この流れ、殴られ続ける感じじゃ!?」
クレス
「誰がサンドバックになる
理解ができないイリアス
「ええぇ」
「はぁなんかもう台無しだ」
クレスは笑う。
「いいんだよ 復讐なんて 自分が幸せに生きてこそ、復讐なんだよ」
イリアス
「どういう意味だよ?」
笑うクレス
「親孝行みたいなもんだ
ただ復讐して死んで、家族に土産話なしはツライだろ?
なら楽しく復讐して、家族に爽快感ある土産話持っていったらいいってことだよ」
「爽快感.....」
クレス
「ああ、"俺にはできなかったこと"だ
だからこそ 俺はお前の復讐を否定しない
だけど
一生その憂さは後ろ髪引いてくる
それは爽快感のある土産話にはできないだろ?」
イリアスはクレスの言いたいことがなんとなく伝わった。
「ああ、そうだな ちくしょう」
泣きそうな顔になるイリアス。
ハクはこの流れでなんとなく聞いてしまった。
「あの...私も参加するべきですか?」
クレス
「ハクは見てて、 気持ちの変わりようは
ハク
「わかりました 見守ります」
そうして向き合う2人。
心身ともに満身創痍も
そして殴りあう。
互いの想いをぶつけるように。
はじめにイリアスから殴り始めた。
イリアス
「俺はただ父さんに認めてほしかった」
クレス
「俺もだ 母さんに認めてほしかったんだ
親父が居れば母さんをとめれたのかも知れないのに」
イリアス
「ほんとうに舐めてるよな あいつら
自分勝手に愛情振りまいて」
クレス
「わかるくっそわかる 私愛してますよ何か? ってとぼけた顔をしてるのがなおさら殴りたくなる」
イリアス
「ああ、そうだな ほんとうにそうだ
聞けばきくほどイライラしてくる」
クレス
「てか俺ら2日でこんな関係だぞ!!
意味わかんねぇだよ」
イリアス
「それはこっちのセリフだ クレス
俺の心見透かした気持ちになりやがって!!」
クレス
「あんなわかりやすい行動してたら誰だってわかるわ」
イリアス
「」そんなもんお前の才能だよ 誰も持ってない妬むべき才能だ!!
クレス
「そういうお前だって 社交辞令ばっかうまくて本気で見ててイラっとくる」
イリアス
「」ああ、言ってはならないこと言った!!
クレス
「ああ? 何がだよ」
イリアス
「俺 そこすっげぇ気にしてんだよ
だって社交術うまくなっても女の子にモテないんだから!!」
クレス
「お前のキレるポイントそこかよ!
女の子なんてモテる必要ないだろ!!」
イリアス
「」そういうこと言うやつが一番モテんだよ
なめんな モテない男の経験則を!!
そう互いの想いを、"早すぎる"打ち解けを
気付くと夕方になっていた。
この状況に気付いた執事たちが何事かと周囲に集まっていた。
後ろで領主の死亡の隣で、イリアスとクレスの喧嘩でてんやわんや。
ハクは状況が混乱している最中でまだしている2人に少しイラつきを覚えていた。
イリアスとクレスはその状況でなんだか面白おかしくなってしまった。
イリアスはクレスに抱きつく。
「なぁクレス 俺はやっぱつれぇよ
父さんが死んで、やるせない気持ちでいっぱいなんだ なぁなぁなぁ!!」
そう瞳をうるわせる。
クレス
「そうか.....」
ぼんっとクレスの腹を殴る。
イリアス
「くそくそくそっ」
ぼんぼんぼんっと殴るとクレスはうっと言う。
イリアスは無言で殴り続ける。
クレス
「ちょっ....ちょうっ うっ ちょっと待てイリアス」
イリアスは拳を止める。
「なんだよ?」
クレス
「みぞ みぞに入ってるから 死んじゃう死んじゃう」
イリアス
「はぁ? 人を殴れって言って、次はみぞうち禁止?」
なんだかもう鼻で笑ってしまうイリアス。
「」はぁ....なんもかんも全部台無しだよw
クレスも笑う。
「こんなもん 全部ぶっ壊していけばいんだよ」
イリアス
「こんなバカ話
クレス
「英雄譚になるほど ひどいもんにしよう
大概 こういうひどいことをするやつは大層なもんにしたがるんだよ」
イリアス
「なんだそれ? 何事も大事にしたがる人みたいなもんか?」
クレス
「そうそう それ あえて何事もしょうもなくしたら、そういう相手はブチギレるだろ?」
イリアスは顎を擦る。
「まぁ確かに
俺だってドラゴン退治して、実はトカゲ倒しただけでしたーって格下げされたらイヤだしな」
ハクは一瞬ピクリと反応する。
クレス
「だから 復讐すらしょうもなくしてやれ
それが俺たちなりの復讐だと思う」
イリアスは指を差す。
「いいね そうしよう
しょうもない復讐にしよう そうしたら父さんたちにいい土産話になるかも」
クレスは笑う。
「だろ?」
ハクは手を上げる。
「ならしょうもないことは終わりにしましょう? 私 ドラゴンなんで
ドラゴン退治はしょうもなくないですよ
ではドラゴン退治をしましょう」
クレス、イリアス
「「え?」」
バンッとイリアスを殴ると、イリアスは気絶した。
クレス
「へ?」
ふぅうとコキリこきりと腕を鳴らすハク。
「時間かけすぎです。 人に迷惑かけすぎです。 あと私 トカゲじゃありません
マスターでも許しません お覚悟を」
クレスは逃げようとする。
「俺は何もしてない! あと絶対トカゲにブチギレてるだけだろー!!」
屋敷から轟音が響いた。
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