序章:第四話 衝動

「あ、こらやめろ」

そう言うクレスは嬉しそうに拾ってきた木苺きいちごかじるドラゴンとはしゃいでいた。

―........え、なにあれ? 先生?

あ、わしもわからん.....


両者ともに互いの顔を見つめるが困惑が思考を行動に沈黙を与えていた。


せきを破ったロートリウスはクレスに聞く。

「あ、あークレス? そやつは

その奇々怪々ききかいかいな生き物はなんだ」


クレス

「え?あーこれは」


ロートリウス

「い、いや言わなくていい それは翼あるトカゲ ドラゴンだ そうだよな?」


クレス

「はい 契約しました」


エリザ

「けい...やく....?」


ロートリウス

「契約....とな? それは行商人や国同士が執り行うと おこな契約書のことか?」


クレス

「......あれ? 契約魔法ですよ?」


ロートリウスはクレスの一言に疑問を覚える。

いや興奮しているようだった。


魔法・・!!??)


クレスの肩を力強く握り、振りこのように振る。

「お、...おおお....おぬ....お前....おぬし!!??

ま、魔法ができるのか!!??」


「落ち着いてください」


ぐぁあとロートリウスの行いぶりに威嚇するように白いドラゴン。


エリザ

「魔法使い!!??さん....」


エリザはわ、わっとゆっくりゆっくりトランポリンのように高揚が沸き立っていた。


クレスはこらこらと白いドラゴンを諌めるように頭を撫でる。

「え、えっと魔法が扱えるって言ってもドラゴンの魔法を注いでもらっただけで...」


ロートリウス

「魔法を注ぐ? .....」

(魔法には様々な種類がある....が魔法は液体でもない現象だ 魔法・・を注ぐということは注いでもらう・・・・・・状況があったということだ)


「クレス 何があった」

真剣な顔つきで言う。


クレス

「えっと....こいつが怪我をしてて助けようとしたから魔法で治癒しようとしたんだ」


ロートリウスは無言となる。

すっと考え込む姿にエリザは何かに感づいたようにクレスに聞く。


エリザ

「クレス 何かあぶないこと起こった?」


クレスはその一言を逸らすように答えた。

「あぶないことは...なかったよ」


ロートリウス

「そんなわけあるか!!」


へ?と激昂していた老人の一言に驚きを隠せなかった。


ロートリウス

「いくら私でも気付けないはずがなかろう

昨日クレスが夕暮れまで帰るのが遅かったそうじゃないか?

イルナやカーターには連絡していたのか?」


クレス

「あ、いやその してないです」


ロートリウス

「それでもクレスに狼狽えないように聞かないようにしたがいくらなんでもドラゴンと契約するということ、

そしてこやつドラゴンが怪我をしていたということはそこは戦いが起こった場所だと推察するのは簡単だろう!!」


激昂しながらもドラゴンに指をさし、クレスの一言を批判した。

クレスは老公の言葉が一言一句に驚きを隠せずに居た。

ドラゴンはロートリウスの強張った言葉に警戒心を持ち、クレスを庇うように吠えた。


ロートリウスはクレスの肩に掴みながら言う。

「何があった」


....心配させないように口に出さないと考えていたクレスはゆっくりと口を開き、事の始まりとその顛末を喋った。


エリザ

「大丈夫?大丈夫? どこも痛くない?」


とさわさわとクレスの体を触り、安否を確認していた。

依然ドラゴンはクレスを庇うようにロートリウスの前に立ち、

ロートリウスは腕を組み、

「熊に襲われて、一撃で吹き飛ばされたと

よく生きていたな」


そう目を細めるロートリウスにクレスは

「はいたまたま....」

その目にはゲームをするという誘いを受けた景色を見つめていた。


ロートリウス

「そうか...だが熊は死んでいないのだな」


クレスははいと答える。


ロートリウス

「なら村人を集め、熊の討伐をしなければ行けないな」


クレスは驚く。動物愛護とは呼べない多少なりとも撃退したのだから心配は無用なのでは?と考えたゆえに言う。

「な、なぜですか? 撃退したのですよ?」


ロートリウスはため息をつき、その理由に答える。

「はぁまだクレスは小さく知らないことも多い それは重々承知しているだがそれは甘い考えだ 自然は甘くない 彼らは生きているのだ」


エリザ

「甘くないってのは先生 熊さんは怖い怖いしたんじゃないの?」


とそう言うとロートリウスは首を横に降る。


ロートリウス

「熊というのは執着心が強く、一度選んだ獲物は2度も逃さないんだ

特に狩れると分かれば何度も襲う」


クレス

「それは....」


ロートリウス

「まぁ聞け 先の話で恐らくその熊はそのドラゴンとクレスを倒せれると覚えてしまったということだ」


エリザ

「それは...そうなのでしょうけど」


ロートリウス

「ということはエリザや子供達にも影響が出るのだ 何故なら狩れる対象だと覚えたからなのだからな」


クレス

「それは...僕のせいですか...」

ふと弱気になってしまった。

エリザが熊に喰われる姿を想像してしまったからだ。


ロートリウス

「お前のせいではない」

そうクレスの頭を撫でる。


「だがこのまま生かしては行けないのは確かだ」


クレス

「どうして?」


ロートリウス

「クレス 自然は生きている 熊もだ

彼らは生きるため食料を求め、森を彷徨うのだ それは狼も野犬然りだ

食えるものがあるなら、その食い方、その殺し方を教え生き繋いでいく

我々も知恵と実践を持って、その生き様を子供達に見せるようにな」


クレス

「それは人を食ってでも?」


ロートリウス

「ああ、だからこそ我々は彼らを食うのだ

食って喰われるそして生き繋いでいくんだ

それが自然と皆呼ぶ。

クレス、エリザ 覚えておきなさい

獣は時として人に牙を向けるのだと」


そう言い、2人共の頭を撫でてすぐさまに教会を後にした。


その後というのは、父と母にボッコボコに怒られ、山の討伐隊を教会経由で依頼をし、夜は火を立て警備を強めた。


だが依然としてクレスが見た熊を見つけることはなかった。


イルナ

「クレスあなたは危ないから家に居なさい!」

カーター

「よし俺は夜の見回りに入るよ」

イルナ

「わかったあなた気を付けて」


そう一連の会話をし、父のカーターを見送った。

クレスはごめんなさいと母に謝罪する。


イルナ

「はぁ クレスはいっつも色々なことが気になって仕方ないんだよね そう仕方ないのね」


そう言葉を濁すかのように口を絞り、

そして出た言葉は


「ごめんなさいで済むと思ってる?」


え? そう思わず口に出した。


「ほんとうにごめんなさいで済むと思ってるの?」


その言葉には怒りが入っていた。

その言葉には憐憫が入っていた。

その言葉には深い悲しみがこもっていた。


イルナはクレスに抱きつき、強く強く抱き締めた。

「あなたは誰の子だと思ってるの!!??

私たちの子よ! あなたは私たちの子なのよ

なんで なんでなんにも言ってくれなかったの!!??

なんで....


お母さん置いて勝手に死なないで!」


慟哭どうこくが家中に響いた。

彼女の心中ははっきりとは見えなかった知らなかった

父親の心中も恐らくは...


ただ

はっと見えたのはあの懐かしきカナカナカナと鳴く蝉の声。

懐かしき なつかしき な...つ...

ほとりと涙を流した。


なんでだろう 不思議と栓を開けた蛇口のように声が溢れた。


ごめんなさい

ごめんなさいとそうなんどもなんども謝った。

イルナも

ごめんなさいとそう一言呟くと強くぎゅっとクレスを抱き締めた。


後悔の嘆きにならなかった声が大きく響いた家の様子を見ていたロートリウスはただじっとじっと見つめていた。


エリザはというと―


どたりばたりと整った部屋で左に行ったり、右にいったりとどこか規則的に見えるように十字に動きつつクレスを心配していた。


エリザ

(ああーもう クレスなんで いっつもクレスはあんなに冷静なの?

お母さんが言ってたじゃない

熊さんはこわいって真っ先に逃げなさいって)

分からない

そう頭に浮かんだ。


その瞬間、―

エルク

「エリザ 落ち着きなさい」


エリザ

「おとうさん... ごめんなさい」


そう落ち込む姿を見たエルクは頭を撫でで、エリザを宥めた。


エルク

「クレスが熊に襲われたって言われて心配だったんだよな」


....きゅるりと口を曲げ、こくりと頭を下げた。


エルクはぴしりとこめかみの血管が浮き出ていたが、エリザに言った。


「心配なのは分かるが、今は危ない

今日は余計なことを考えず寝なさい

明日もまたクレスに会うんだろ?」


うんと頷くエリザ。

よしっ行きなさいとベッドへと向かわせて、エルクは部屋ののれんをかき分け出ていった。

だが エリザのその胸中には何か煙が湧き立っていた。


それもエルクと同じだった。


エリザのお母さん

「エルク エリザは....」


エルク

「すぐにベッドに眠らせたよ

俺もすぐに出る」


エリザのお母さん

「気を付けて」


ああっ...とカランと木の釣り板をかき分けて、家から出ていった。


エルク

「クレス....カーターの所か....ふっ」


(うちの娘にそうそう色目を使ってんじゃねぇ 捻り潰すぞ小童 渡すつもりねぇからな)


とぐっと握り拳を作り、村の中央、井戸がある広場へと向かっていった。

その広場にはぽつぽつと火が立っていた。

それはヤニが多いとされる松の木を扱い、先端を細かく切り枯れた草木を束ねてくくりつける。

そして種火を移し、火が付くという松明と呼ばれるもの。

それがひとつ、ふたつとまた増えていく。


エルク

「カーター もう着いていたか」


カーター

「エルク ああ、エリザは」


エルク

「寝かせた」


村の住民1

「しっかしよ 熊って言っても大したことはないだろ」

そう緊張感のある空気を和らげるような声が聞こえたが、

カーターは

「うちの息子が襲われたのに大したことがないと?」


そう怒気を込めた声が冗句じょうくにはできなかった。


村の住民1

「す、すまない 冗談のつもりだった」

村の住民2

「言葉のあやってやつだ お前も言い方気をつけろ 子供たちが一人でも死んだら大事になるのは確かなんだから」


.....カーターは無言を貫いたが、

みなさん そう集まった住民たちに声がかかったのに気づき、教会がある方向へと目を向けると牧師のデリウスとエデリだった。


エデリ

「すみません 討伐隊に要請を掛けましたが、応援が来るまで8日はかかります

みなさんそれまでの辛抱です。」


デリウスはコクリとお辞儀をした。


「して ロートリウス様は何処に?」


ロートリウス

「ここじゃ」

そう薄暗い所から現れた。


村の住民1

「賢者様 熊が出現したというものですが、ここまで警戒するべきものなのでしょうか?」


村の住民3

「いや警戒はすべきでしょう カーターに息子 クレスが襲われたのは確かなのだし」


村の住民1

「それはそうだが、ほら熊は朝や昼に見かけるもんだからさ 夜っていうのに疑問を感じて」


デリウス

「そうですね 熊も動物である以上神が作り給うた習わしを逆らうことは冒涜の他ないと私も思いますが」


エデリ

「こらこらそう突っかかるものではありませんよ

今回の集会と警戒の旨を伝えたのは賢者ロートリウス様です。

何か理由があるのでしょう」


ロートリウス

「そうだな まずは前日に集まり、警戒し村の周囲を回ってくれたこと 感謝する」


村の住民たちは突然の感謝に驚く。


「では始めに討伐隊を依頼したかというと

かの熊のテリトリーが広がった可能性を案じたためだ」


村の住民

「そ、それはどういう」


ロートリウス

「クレスが見つけたという熊は2山先のテリトリーとしていた。」


エルク

「うん? それでは私たちの村には程遠いにでは? なぜ警備体勢を」


ロートリウス

「詳しくは話せないが クレスは熊を火で焼き付けたらしく 無事追い出せたということだ」


エデリ

「火を?....」


デリウスは目を細めた。


村の住民2

「な、なんだそれでは熊は追いかけて」


ロートリウス

「来るぞ」


え?という声が闇夜に響く。

「熊は執着心が強く見つけた獲物を逃がしはしない 現にクレスは出会った瞬間、怪我をしてしまった。」


沈黙が続く。


「ここからは私の憶測でしかないことを許してほしい

クレスとの対峙の際に彼は争いに負け、縄張りを追い出されたと勘違いし新たな餌場を探す可能性がある。


縄張り争いに負けた熊は忽ち山から降り、人と対峙することもある。

だがその熊は人が狩れると分かれば忽ち人を食い荒らすぞ

狩り方を覚え、子供にも教え、必ずその餌場をテリトリーとする。


だからこそ狩らなければいけない」


つばを飲み込む村の住民1

「け、..どさ いくらなんでも夜まで警戒する必要は」


ロートリウス

「おおかみのよる を知っているか?」


村の住民1

「伝え話だ 古くから伝わるじっちゃばっちゃがよく話しているのを覚えている」


ロートリウス

「そうか 家畜を飼っている者ならわかると思うが、あれは夜こそ一番襲われやすいと言われる教訓だ

夜は獣も人も隠れやすく、眠りやすい

いわゆる無防備な時間帯を指す。


いくら熊や狼が昼に動くからといって、

むやみやたらと戦ったら傷が腐って死ぬだろ?


その戦闘を回避し、確実に狩りを遂行するために夜に実行する知恵を持っているのだ


しかもクレスは熊との戦闘で匂いを付けられたかもしれない

だからこそ追いかけてくる可能性もあるということだ」


「だったらクレスを差し出したらいいじゃないか」


そう無遠慮とよべる一言がさらなる沈黙を呼んだ。


カーターは声の主に掴みかかる。

「おい...」


村の住民2

「し、仕方ないよ うちにだって子供がいる 家族がいる 守るためには必要ってもんだ」


ロートリウス、デリウス、エデリ

((こいつこの人さっき先ほどの話を聞いていたのか?))


エルク

「それはお前の子供たちは差し出されても仕方ないと言いたいのか?」


村の住民2

「そ、それは....」


エデリ

「ま、まぁ今回の件は短くすると

熊はクレスを覚えてしまい追いかけてくるかもしれないから

みなで子供たちを守ろうというのが趣旨のはずです そうですね ロートリウス様」


ロートリウス

「あ、ああ しかもクレスでも子供でも我々ですら一回でも襲われたらここを餌場だと覚えてしまうため、どうにか応援が来るまで警戒体勢を取ろうという話だ」


村の住民2

「だがここにクレスを匿う必要はないではなんじゃ もう少し遠く離れた場所に」


カーターの拳は月を隠すように上げていた。


村の住民1はその状況を見て、焦るようにカーターをエルクと共に抑えた。


デリウス

「家族が心配になる...というのはお気持ちは分かりますが、それはとても隣人を愛すという御言葉が相反します。

我々は魔女を罰するために来ているわけではありません。


仮にも自分の子供が熊に追いかけられたとしてあなたは先の言葉のように我が子を一人隔離するという石を投げるお覚悟がおありですか?」


村の住民2は二度目の失態にようやく気付き、カーターに心からの謝罪を行った。

カーターは喉から這い上がりそうなものを抑え、拳を下げる。


ロートリウス

「今回 4人組に分かれて、村周辺の警備をしてもらう

必ず皆には松明を持ちながらの哨戒をお願いしたい

理由は簡単だ クレスの火付けで熊は火を恐れた可能性が高いため、松明の火をつけていたら寄ってこないだろうということだ


だが用心にこした事はないため

武器となるものを用意しつつの警戒体勢をとってくれ

わかったな」


カーター

「....ロートリウス様

子供たちは 子供たちはどうするのですか?

おれのクレスも....」


ロートリウス

「いや 今回は人狼が紛れているわけではない

下手にクレスを孤立したとして他の子供たちは襲われ丨ない《・・》わけではない

遭遇してしまったらそれまでだ

そこには神の道理も介在しない」


デリウス

「運命は神が決めるものですが、

偶然はあります 皆はよく扱う道、よく遊ぶ広場にだって熊が現れるかもしれません

偶然を必然にしないためにもという意を込めて賢者はその言を発したのです。」


そう指を交差するように両手を重ねた。


パンパンと両手を叩き、注目をさせたのはエデリだった。


エデリ

「賢者はさきほど子供たちや奥方さまには教会での保護を行ってもらう予定の旨を我々に伝え、承りました。


わたしたちの教会であれば、堅牢かつ扉は蝶番と閂があるため、そうやすやすと入れはしないでしょうというお言葉ももらいました。


神はしっかりと見ておられるのです。

奇跡はあるのだと ご安心ください」


村の住民たち

「おおそれなら」と喜びの言葉

カーターの顔は少しほころんだ。


ロートリウス

「ではみなのもの警戒体勢に取り掛かれ」


村の住民たちは はい と答えて、村の周辺を見回った。

だが その日も熊が出現したという報告はなかった。


後日、―


朝焼けが空に染みる。

鳥の遠吠えが聞こえる。


クレスの目に光が差し込み、それで目を覚める。

イルナは起きていた。

目元は涙で溢れていたのか赤く膨らんでいた。

「おはようクレス」


「おはようございます....」


「おとうさんは...?」


「まだ帰って来てないよ」


ハッとなり、クレスは思わずに家から出ようとした。

が、勢いで何かにぶつかり倒れてしまう。


カーター

「おっと、クレス 昨日はよく寝れたか?」


クレス

「う、うん....」


どこかほっと心からの安堵が来ていたが、

その目元に深いクマがあった。

それは私が居た場所でもよく見る体調を表す徴でもあった。


クレス

「おとうさん 大丈夫?」


カーター

「ん? ああ心配はするな お父さんこれでも結構鍛えてるからな!」


そう腕を上げ、上腕二頭筋を見せるカーター。

クレスはその姿がついふっと笑った。


カーター

(笑った?....そうか)

「イルナ、クレスとりあえず教会まで一緒に来てほしい ついでに食料もだ」


うんと頷くように準備を行い、教会まで一緒に歩くこととなった。


――

―――


はぁ...はぁ... 必死に森を走る...

子供だからなんだろう


「いい加減にしなさい! 誇りをもちなさい」


「いい? あなたは人から敬まれるべき存在なの だから確固たる誇りをもちなさい」


なんでこんなに必死に丨生きなさい《誇りをもちなさい》をしないと行けないんだ


なんで...


「おいこら!!まてー」


駆け抜ける険しい森の中、追いかけてくる。

それは僕を誘拐したものだった。

それは誇りを殺しにくるものだった。


ガチャガチャと鈍い音、鋭い音を鳴らしながらもやってくる。

もう何振りかまっていられないのだろう。

バシュっと音がなりグアンと僕の横にあった大木に矢が刺さる。

弓矢が放たれたのだろうと考えたが、僕はそれを知っている。


僕はバシュという大きく響く音はクロスボウだ。

最近お父様が気に入っているという武器だった。

それが今放たれた。

装填には時間がかかる。


いまのうちに....


目の前の草むらから、

すっと毛で覆われた前脚が現れた。

その歩くという反動なのかその体を草むらから現れる。


それは犬のような大きな顔だが皮膚は大きく焼け爛れただれ、目は白くかすみ見えているのかひん剥かれているのか分からない顔つきだった。

その巨体は2mを超えた茶色の毛皮をもった熊であった。


僕は驚き、唖然とした。

その大きな体に恐怖をおぼえ、足が竦み倒れてしまった。


....熊は匂いを嗅ぐように鼻を前に突き出す。

僕は無心で手を突き出した。


熊は光でかざされるその姿が、

....かざされてしまったその姿がひどく

あの白きなにか、あのヒトの幼体がひどく

怖くなってしまった


ぐおおおと雄叫びをし、翻すように子供を通り過ぎ、さきほど追っていった盗賊たちが居る方向へ走ってしまった。


ぐたんとぐたんと重いはずの足音が異常な速さでやってくる。


「な、なんだ!!??」


焼け爛れた熊が突進してくる姿に怯え、一瞬立ち止まる盗賊たち。

クロスボウを持った盗賊が弩を放った。

だが如何に貫通力があれど、急所に当てなければ意味がなく、それをものともしない突進が続く。


いたい ....木漏れ日に光がさす

あ、 ヒト だ


ズバアンと音圧が盗賊たちの耳元に響く。

気付くと一人は熊に覆いかぶされ、貪り喰らわれていた。

顔を ぶちりぶちりと悲鳴とその勢いを抑えるように顔を押すがものともせず指を噛みちぎり、そのまま皮が引き剥がされ、まるで柔らかい布を引きちぎるかのように伸びていた。


盗賊は恐怖にのまれ、剣を斬りつけるが皮は分厚く、毛がその勢いを殺した。

何人かは剣を突き立てるが筋肉が硬く、芯まで届くことすらなかった。

熊は振り返る仕草で刺し立った剣が盗賊たちにぶつけ、吹き飛ばされる。


焼け爛れた皮を狙うにしろそこにはただの恐怖があった。


そこからは血が飛び散る、油とともに肉が木に染み込む。

その様は土が草が森が 阿鼻叫喚あびきょうかんと共に人という血肉を飲み込んでいったように見えた。


ぐおんとぐおんとなんどもなんども

鳴き声が響く。


熊は一瞬僕のほうへと顔を向けた。

そして鼻を鳴らすかのようにそのまま森のおくへと去っていった。


はぁはぁと疲れていた僕の体、森の静寂が心と体に安堵を与えた。

熊は僕を...助けてくれたのだろう。

その姿はまるで危機から助けてもらった姿は英雄かのように見えた。


僕は思った。

神は居るのだと....

神は人に楽園を与えたように

そこに動物たちを与えたように


牧師様の言う通りだった。

これはあれは 精霊さまなのだと

神は僕に熊という精霊さまを与えてくださったのだと


ぐっと両手を指を交差し握り、感謝をする。


彼は僕の救世主だと.....

誇りとはこれ神に創られたことのことなんだ!!


―――

――

教会での生活が慣れてきた。

村での生活とは対しては変わらず、生活の住処を教会に移した程度だった。


だが討伐隊が来るまでの警備には昼と夜に人を分けており、焚き火などの節約のために教会を中心とした円陣に焚き火台が置かれていた。


....熊は確かに怖かった。

あんなことは二度と来ないでほしい...と思うほどでもあった。

だけどそこまで...たかが熊一匹で・・・・・・・・?とは考えてしまう。


「どうしたクレス?」


師匠の声が聞こえる。


クレス

「いえ、なんでこんなにも警戒をしないといけないのかなって思いまして」


ロートリウス

「...そうか 知らないのも当然か」


その言葉の意に疑問を感じた。


ロートリウス

「クレスにはまだ早いとは思ったが、直接の恐怖を知っているなら今更恐怖が増えても大丈夫か?」


その質問の意はよくわからなかったが、熊の怖さが今更分かったって聞いても聞かなくても変わらない そう感じたため、コクリと頷いた。


ロートリウス

「元々熊は火を恐れない・・・・


え? んじゃなんで...そんな言葉が脳裏に焼き付いた光景とともに思い出す。


ロートリウス

「語弊があるな 生物ともども未知に恐怖し、火を恐れるという習性がある。

それは人でも同じだ。


だが熊の毛は非常に燃えにくいため、よほどの火でなかれば燃えやしない、いや燃え盛り・・・・もしないのだ


だから一度でも火を通り越してしまうと火危なくないと覚え、怯まずに襲いかかるのだ」


そうだったのかと...その話には理解が出来たが納得はしなかった。


「そのせいか 火に慣れた熊は村を襲いかかることが多く、私が知る限りは消えた村は両手足の指の数では足りない。


だが危険性は高いが熊は食える部分が多く、よく重宝されているがこの村には狩りという概念が少ない。」


クレス

「....そうですね ここはどっちかというと農耕が多くて、よくてうさぎやシカをたまに狩る程度ですね」


ロートリウス

「そう 警戒すべき点の一つはそれだ

襲われた村のほとんどは農耕など狩りを軸としない村が多く、そして熊狩りに慣れていない・・・・・・


クレス

「なるほど だからなんだ」


ロートリウス

「そして2つ目

熊は執念深く、追いかけてくる可能性がある 熊は匂いに敏感だからな一ヶ月後にだって現れる可能性がある」


クレス

「だけど戦いに勝ったんだったら追いかけては...」


ロートリウス

「個体による...だが手負いの獣ほど何をしでかすか分からない 復讐にだって走るだろうし、何よりクレスを襲えて・・・しまったことことが懸念すべき点だ」


クレス

「襲えてしまった?」


ロートリウス

「人はみな出来る・・・というきっかけはあれば、やる実行だろう?

それは動物でも同じなのだ

飛び越えることが分かれば、

食えることが分かれば、

簡単に縄張りを広げる。


いくら縄張り争いに負けた熊でも縄張りを形成するために別の場所に縄張りを作る。」


クレス

「それが....今回の」


ロートリウス

「そうだ

偶然 クレスが二山先で熊と争い勝ってしまい・・・、そして争った場所を中心にクレスの縄張りだと勘違いし、別の縄張り作りでカルエ村を含めたテリトリーにして、クレスを敵か食料かは分からないが戦える・・・ことがわかり、カルエ村の人々を襲うかもしれない

ということだ。

だからこそ 討伐隊を呼び、来るまでの間までの警備を皆にしてもらったのだ。」


クレスは納得が言った。合点がいったと言えるかもしないがそれでもそれでも警戒すべきほどではない....考えすぎなのではと感じてもしまった。


ロートリウス

「弟子にしかここまで細かくは教えないぞ」


少し目を開く。

それはロートリウス自身がクレスにしか話さない、口をあえて緩ませるかのように開く。


「人は死ぬ どのようなことがあれ

人は死ぬんだ クレス

お前 何も伝えず、なんの警戒もせず なんの対策もせず

ただ朝 様子見に行ったたらエリザは貪り喰われたらどう思う?」


無言になった。

なってしまった。

想像力は高くない自分が、 その自分が

ただ連絡しなかった ただ言わなかっただけでエリザの笑顔が あの熊に喰われる姿を想像してしまった。


そしてロートリウスはクレスの肩を掴む。

「お前は何も悪くはない だが

何事も備えよ 死にたくなかったら

死なせたくなかったら 何事も備えよ


クレス 知識は大事じゃ だが一番大事なのは知識を知恵にかえる実践なんだ

クレス お前は何もしない自分を誇ることが出来るのか?」


「できません」 ただその言葉がすぐに出てきた。


「なら考えうる限りのことは考えよ

そしてそこまでしてようやく私は賢者と呼ばれるようになったのだ」


それは死に対する言葉なのか、なんなのかは分からなかった。

ただ 備えあれば憂いなしとはこういうことを指すのだろうかとも考えた。


ただ... 家族の顔を、エリザの笑顔を思い出した。

それは少なくとも僕が失いたくない出来事なのだろうと考えた。

そう、....だから


師匠の考えを支持することにした。


エリザ

「あ、ここにいたー」


とてとてと歩いてくる赤毛の幼女。


クレス

「エリザ...」


エリザ

「もう2人して何話してたの?」


ロートリウス

「そうじゃな 適当に話しておった」


エリザ

「適当ってなに?」


ロートリウス

「適当は適当じゃ ははは」


エリザ

「もう...ってそうだった あの白いドラゴン...っていうんだっけ? そのドラゴンってどこに行ったの?」


クレス

「ん? ここに居るよ」


そう腕を胸元まであげると、何か空間から染み出すように白い小さきドラゴンが現れた。


ロートリウスは髭をこしらえ、

「ほう、周囲に溶け込む能力もあるのか...」


エリザ

「なにそれ!! すごい」

と両手を握り思わず上げてしまった。


クレス

(擬態ってタコかよと思うのだが...)


エリザ

「んでんでクレス 名前ってあるの?」


えっと驚く仕草をするクレス。

ロートリウスはその行いに気を抜けた言葉で言った。


ロートリウス

「なんだまだ決まっていないのか...」


うーん名前か...そう悩むを呟く声がかすかに漏れてしまった。

クレスが考えている隙に、エリザはロートリウスに疑問を投げかける。


エリザ

「先生...このドラゴンってなんですか?」


そう白きドラゴンとじゃれあう幼女。

ロートリウスはその質問は事細かに説明してしまう本人にとって、エリザのタメになる説明を整えるため、手癖の髭をこしらえる。


ロートリウス

「ふむ ドラゴンというのは

翼あるトカゲ、あるいはヘビと呼ばれる古くから伝えられる怪物を指す」


エリザ

「怪物〜?  おおかみのよる みたいに怖いの?

けどこの子全然こわくないよ?」


ロートリウス

「人狼とドラゴンは違うが...そうだな

古くからみんなから恐れられた伝承の生き物なんだ」


口を曲げてそうなんだとドラゴンと見つめ合うエリザ。


エリザ

「けどなんでドラゴンなんだろ?」


それはどういうことだという形で首をかしげるロートリウス。


エリザ

「だって こんなにもかわいいのにどうしてみんな怖がるんだろうって

あとなんでドラゴンって名前なの?」


ロートリウスは知識顕示欲事細かに抑えるには少々難しい内容が来てしまい少し沈黙が続きその口を開く。


「ドラゴンとは

古代エルゲ語でドレイクから来ており、

ドレイが"見る"という蛇の睨みつける意をもち、レイクが"大きい"という意味で大きい蛇や魚、海の生き物は目が大きいからという理由でドレイクという名が付けられた。


ドラゴンはその訛りから来ている」


エリザ

「.................チンっ理解 ドレイクって魚なの?

この子 魚なの?」


ロートリウス

「いやまぁそもそも存在しえない生き物だから 魚だとしても畏怖の何かがあったのだろう...」


エリザは??????????????という顔を浮かべる。


ロートリウス

(助けてクレス 私にはこれが...)


そう見やると名前、名前かぁと悩んでいるクレスの姿があった。


(こりゃ集中してるから話かけても気づかないだろうな)


そう確信してしまい 一所懸命に説明した。


「こほん あー...あーまぁそもそもの話

言葉にはいろんな意味がある。

今回の場合は海に巨大な影があったらエリザはどう思う?」


エリザ

「海って何? あ、塩水の湖だっけ?わかんない」


ロートリウス

「.....ニコっ ....もし森の奥に大きな影とか見えたらどう思う? ほらあそことか」


森の奥の方へ指をさす。


エリザ

「...怖いとおもう」


ロートリウス

「海の場合はこれが一面水の中に真下に大きな影は現れるんだ。」


エリザ

「こわい!!!」


ロートリウス

(なるほど...こうやって子どもに説明していくのか なんとなくわかってきたぞ)

「昔の人たちは大きな何かに見られていると感じて、ドレイクって名前を付けたんだ」


エリザ

「そうなんだー すごーい 確かにドレイク!!ってなるね」


だけど、エリザはそこから先生が発した言葉からさらなる疑問が現れる。


「先生 さっき伝承の生き物っておおかみのよるさんみたいにほんとうは居ないの?」


それはおとぎ話はあくまでも空想、

存在していないという質問にロートリウスは回答した。


「存在しない ほんとうはドレイクもドラゴンも夢幻の類なんだよ」


クレスの集中はきれ、ロートリウスの言葉に耳を傾けた。


クレス

「え? 存在しないのですか?」


エリザは悲しそうな顔でドラゴンを見つめ合う、そうなんだと言った。


ロートリウス

「もともとドレイクは大きな魚や鯨の影が見えた時の恐怖から恐れられている。」


エリザ

「おおかみのよるさんも?」


ロートリウス

「人狼も一種の教訓を指す伝え話だ

一つは人を殺す生き物の警告

一つは狼の習性の対策

一つは夜は危ないという教訓を伝えるためにおとぎ話にしたもののことを指す。」


クレス

「それは...なんだか夢がなくなりますね」


エリザ

「けど私っすっごく面白いって思うよ?」


そうなのかとクレスは驚くがロートリウスの説明はまだ続く。


「夢がないか....少なくとも私は20...30の国を渡り歩いてきたが、ただの一つも本当だった伝承はなかった。

悲しい限りだが、

現に帝国でゴブリンが居るという報告があって、私はウキウキでゴブリンが居るという生息地へ向かっていった。」


クレス

「ゴブリンってなんですか?」


ロートリウスは目をぱちくりとし、クレスが知らないことに逆に驚いてしまった。


エリザ

「ふふん やっと私の出番! ゴブリンはね!

肌が緑でね ちっちゃくてすっごく凶暴なんだよ

群れでいっーぱい居るんだって」


そうドラゴンと一緒に手をあげて表現するエリザ。

がうっと鳴くドラゴン。


クレス

「へーそうなんだ 危ないんだ そういうの....いる...」


この言葉を繋げようとしたが、ロートリウスの話がゴブリンの存在を

否定するのか、しないのかという結論に至っていなかったのでそこで言葉は止まってしまった。


ロートリウス

「とりあえず 向かったが、そこに居たのは緑の装束で纏った少数民族のことを報告主がゴブリンと揶揄したのが正解だった


すごく悲しかったので、私が直接同盟関係築いて帰ったがな...」


クレス

「え? ゴブリンって人だったの?」


エリザ

「さいてー」


ロートリウス

「調べたら、報告主はその領地を持っていた貴族、森に擬態する少数民族をゴブリンと揶揄して討伐隊を派遣させたかったのが本音だったらしいがな

この流れをみると眉目秀麗と言われたエルフも恐らくはどこかの民族の蔑称なんだろうなとは思った


結局

人というものは都合の悪い現実を自分好みの空想に変える生き物なんだろうな」


クレスは目を閉じ、その落胆するであろう光景に肩を落としてしまった。

それはモニター前の少女に期待を見せられなかったから来たものでもあった。


ロートリウス

「だが、奇跡はあった」


クレス

「え?」


ロートリウスはドラゴンに指をさす。


「実在しないモノが目の前にあり、魔法が奇跡と呼べる現象が起こさせる。

これこそ夢があった・・・と言えるではないだろうかと私は考えている」


エリザはドラゴンとすっと見つめ合う。

そしてエリザはくしゃっと笑い、ドラゴンに抱きつく。


クレス

(夢があったか...そうだな そうだまだ行けるかもしれないってことか)


ロートリウス

「そういえば ふと疑問に思っていたことがあった」


エリザ、クレスは首をかしげる。


「クレスはアレスという魔法を扱っていたという してアレスとは何か?だ」


クレス

「?...アレスってああ、丸い火が出てきた魔法のことですか? あれは魔術理論から書かれていて...」


ロートリウスは手を出し、否定するかのように振る。


「それは知っている 今でもそのアレスは使えるのか?」


えっとそう言葉が詰まるかのように自分の手を見る。


「はい、使える...とおもいます」


ロートリウス

「なら 移動しよう 実際に魔法を見てみたい」


流れのまま、恐らく川がある方向までみんなで向かっていった。


エリザ

「先生は魔法をみたことあるの?」


ロートリウス

「いや ないな」


クレス

(見たことない....)

「けど、確か魔法使いとかが弟子入りに懇願したとかなにか その際に魔法を見たことはあるのでは?」


顔色には出さなかったが少し落胆したかのような色の声で返した。


「あやつらは魔法を神の御業か何かだと勘違いしているのか滅多に見せん」


クレス

「え? 戦争でも使わないのですか?」


ロートリウス

「....使用したという記録はないな」


クレス

「そうなんですね...」


がさりと草むらを避け、通ると川へと辿り着いた。


ロートリウス

「だからこそ 魔法・・というものを見てみたいのだ」


ロートリウスは太めの木の枝を手に持ち、

よしいいぞと言われたクレスは手を前へとかざし魔法を発動しようとする。


それは火の玉である。

それは火だった。

あのときの光景がはっきりと思い出す。


熊を燃やしたあの火の玉を


アレス燃え盛る


するとかざした手の前に火の玉が出てくる。

それが見えた瞬間ロートリウスは火の玉の中に木の枝を突っ込む。

すると当然のように燃え、そして火の玉はまるで卵のように木の枝を避け落ちていった。


その場は石も水もぼうぼうと火が燃え盛っていたが途端に落ち着いた。


パチリパチリと木の枝は火の玉を受け、大きく燃え盛っていた。


ロートリウス

「やはりか....」


クレス

「何がですか?」


ロートリウス

「この木の枝はまだ枯木ではなく、生木だ

水も十分にあり、火が付くなんてもってのほかだ

だがこの木は燃えた。」


クレス

「そ...うなのですか?」

(キャンプや焚き火などの知識がないから分からない)


そうなんとなくエリザのほうへと顔を向けると、エリザは凄すぎて口を開けて顔が固定して唖然していた。

ふっと笑ってしまったクレス。


ロートリウス

「ほれこれをよくみろ」


パチリパチリと燃える木の枝は相当数の白い煙を吐き出しながら燃えていた。


ロートリウス

「これは木と水を燃やすと煙は白き吹き出し、周囲を包み込む。

だがそれは相当強い火でなければ、燃えることすらあたわない

そして生木のまま燃やすと毒を出すものもある」


クレス

「毒!!??」


すっとエリザの口元を塞ぐ。


エリザ

「え、なに??」


意識を取り戻したエリザをよそに、


ロートリウス

「まぁその対処は煙を出さないほどにもっと強い火が必要なのだ。

だから人は木を燃やす時は生木ではなく、枯木を選ぶのに理由がある。


だがこの火はただ燃え盛っている・・・・・・・だけなのだ


煙もほれ 少しずつ燃えているだろ?」


よく見ると煙にも小さく赤やオレンジが混じっていた。

不思議な光景とも言える。


ロートリウス

「なるほど 予見していたとおりだ」


クレスは黙って、ロートリウスの見解を聞いた。

エリザもなんとなくわかってきたぞみたいな顔をした。


「アレスとは 古代エルゲ語で "燃え盛る"という意味を持ち、火や争い、怒り、鍛冶を表す言葉だ。

エルゲ人はそれを恐れ、それを自然災害とし、そして"神"として崇めた。


恐らくこの魔法は"延焼"という力を持っている」


クレス、エリザ

「延焼...」


ロートリウス

「そう 実際火種があっても、延焼がなければ大きく燃え広がることも燃え上がることも出来ない

だがこれは問答無用に燃え上がる。


現に熊の毛は火に強い」


クレス

「え? そうなのですか!?」


ロートリウス

「どっちかというと耐火性が強いが一度燃えたら燃え移りやすい

まぁ動物ならどの毛も同じようなものだが

特に熊は多少の火では燃えない


だが"燃え盛る"のであれば、話が違う

耐火性を無視して燃やすのだからな あとは自明の理というものじゃ」


クレス

「そうか...だから撃退できたのか」


ロートリウス

「やはり 魔法に扱うに言葉は真に意味があるのだろう...だがそれだとこのドラゴンの意味とその契約魔法の意が異なってくる」


エリザ

「魔法でも様々な形があるってこと?」


ロートリウス

「そう...なのだろうな 魔術理論の本によればな」


クレスは言われずとも目の前でドラゴンとその契約魔法扱った魔法陣を描いた。


クレス

「僕はこれを書きました。」


ロートリウス

「......................」

(知らない文字だ というかこやつ文字書けるのか...)


「たしか "契約時"と言っていたな」


クレス

「え?はい 契約時に体を同調するって」


ロートリウス

「それでドラゴンの傷が無くなったと言っていたな

回復でもなく、治癒でもなく?」


クレス

「想像できなかったので同調でやりました」


ロートリウス

「なるほど」

(同調だけだと上書きという形だが、それは最悪ドラゴンの体のほうにクレスが同調してしまう危ない手段だ

だが、"ランダム"なのか? 魔法が?)


「前回使ったアレスは今さっきのアレスと全く同じものだったか?」


クレスはロートリウスの考えていることが分からないが確かに依然と同じような火の玉だったのでそのまま はい と答えた。


「では、同調してないな」


クレス

「? いえ それなら」


ロートリウス

「いや 2回めの話を言っている」


クレス

「?」


ロートリウス

「恐らくアレスが全く同じような形であるのならば、詠唱かどこかで、クレスの体調が主軸となり、ドラゴンの体調を上書きした形なのだ。

だから契約時のみになっているからドラゴンの体調が戻った時点で"同調"はもう終わっている」


クレスは気付く、何が言いたかったのかを。

エリザはなんとなく話の内容をわかり始めてきた。


エリザ

「え?んじゃ帰る時に怪我が治ってたのは」


ロートリウスは腕を組み、答える。


「そのドラゴンがクレスにたいして回復魔法とやらを使ったのだ」


クレスははっとドラゴンを見つめた。

ドラゴンはにかっと気付いたかかと言いたげな顔で笑顔になった。


エリザは「あれ? この子頭いい!!」と口を塞ぎ、ロートリウスは黙ってその光景を見ていた。


ロートリウスは憶測をそのまま言う。


「クレスが魔法を扱えるようになったのは、このドラゴンが"魔法"を持っており、

体を同調したことによって魔法を扱えるようになったのだ。」


エリザ

「んじゃドラゴンと契約したら魔法扱えるってこと?」


ロートリウス

「いややめておいたほうがいいかも知れない

クレスが扱った契約魔法の詠唱文や魔法陣がどんな影響を与えるのかが分からない...

だが同調したことによってクレスは魔法を扱えるようになり、

ドラゴンは恐らく回復したことにより、回復魔法を理解し扱えたのかも知れない」


と少しずつ高揚感がでているような口調で喋っていた。


クレス

「そうか おまえが俺を助けてくれたのか...」


とドラゴンはその言葉の意をわかっているのかコクリと頷き、クレスを見つめた。


ロートリウス

「とりあえず教会へと戻り、教鞭を取ろう

本格的な授業と研究をしてみようか」


エリザ

「そうだね! たのしみ」


クレスは名前を決めかねていたがドラゴンの名前を決めた。


「 ハク 」


ドラゴンはきゅっと首をかしげる。


「おまえは ハク だ」


きゅっとコクリと頷く。


エリザ

「ハク って決めたんだ!! かわいいー」


ロートリウス

「名前になにか意味が?」


クレス

「え?っと白いから?」


エリザ

「え、白いからってハクって意味が分からないんだけど.... 普通に白じゃないの?」


ロートリウス

「どこかの国にハクという言葉があるのだろう そう隅を突かなくて良い」


とエリザの頭を撫でるロートリウス。


エリザ

「ごめんなさい」


クレス

「ううん大丈夫」


エリザ

「けど ハクかー めっちゃかわいい

ハク〜」


きゅいっとエリザに顔を向けるハク。

わはーとそのままあぜ道を走っていくエリザとハク。

そのままクレスは後ろをついてく形になった。


ロートリウス

(とある伝承で革命の白い竜というものがある

それは国に大きな変革をもたらすものだという...

それは確かにあったがどう変革をもたらすのだろうか.....ハクか....まぁよい)

そう何気なく、木々で生い茂る碧の隙間に映る青空に見つめるロートリウス。


一行はともに村帰り道であるあぜ道へと帰っていった。

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