一章:序節 第十六話 混乱


「お、おい!! 何を武器を携えているんだ!」


探し始める傭兵たちに向け、言葉を交わそうとするが「邪魔だ」その一言で押しのけられる。

だが、男は何かをうしなったように茫然自失ぼうぜんじしつの如く彷徨さまよい始めた。


よく見ると周囲が何も見えず、何も聞こえないように歩いていた。


ダントル

「団長の魔法って....」


リミカルド

「正確にはわからないが、相手を意志喪失させる魔法だ」


ダントル

「それって最強なんじゃ...」


リミカルド

「」そうは言いたいけど、お前に試しても


ダントル

「え、俺にもためしたの?」


リミカルド

「剣と同じように有効時間と有効範囲があるっぽいんだなこれ」


ダントル

「な、なるほど」


リミカルド

「そう だからクラカルの結界と俺の魔法は相性抜群っぽくてな 広範囲でも効くようになってる。」


ダントル

「なんか竿兄弟みたい」


リミカルド

「殺すぞ?」


そういえばという風に先ほどまで意識があった男に目を向け、団長に報告するダントル。


「さっき見たいな 効いてないやつも居るっぽいすね」


リミカルド

「ああ、なんで効かねぇかはわからん

だが言えることはある。」


ダントル

「?」


リミカルド

「"追っている最中"に殺していいリストのやつらは動けるんじゃないか?」


ダントルはなるほど!とポンッときねを打つように手をたたく。


ダントル

「つまりは依頼主は見越してリストを作っていたと?」


リミカルド

「気味悪りぃ」


ダントル

「ですね!」


――――


バンバンと見えない壁を叩くが伸びる布のように感じた。


エスメ

「なによこれ....」


サリィ

「不思議な感触ですね.....」


エスメ

「どうする?」


そう聞かれたサリィは悩んでいた先も行けず、ただこの場に居たとしても...という感じだ。

少し頬をさすり、考える。


すると歩いてくる音が聞こえる。

それは回廊の脇道から現れる。


そこには何も見えず、何も見えず意識せずただ茫然自失とを歩く一行。

天になにがあるのか、

なにが見えているのか、

わからないような様子だった。


エスメはその光景に気味の悪さを感じた。

サリィはその光景に理解が出来なかった。


そして.....彼らの一行に紛れるように、どかすかのように、避けるかのように動く誰かが居た。

そしてその群れ・・から、

がちゃりと軽装の鎧と片手のハンマーを携えた角刈りの男が現れる。


マルド

「」お、みつけた ニコリッ


その笑顔はひどく歪んでいた。

ひどく歪みこわれていたえがおに


" わたしたち " はこわくなった。


エスメとサリィは彼が居る方向とは別に走り出した。

悲鳴は出せなかった。

出したくなかった。

もし.....出したら.................、―


―――――――――――――――――


クレス

「どうする?」


イリアス

「別行動は危険だ 下手に別れたら死ぬ」


ハク

「私も同意です。」


イリアス

「仕方ない 武器が必要だ こっから武器庫行けるか?」


クレスは考える...三角測距そっきょ法的に行けるどうかを考える。


クレス

「確か武器庫は訓練場近くだったよな?」


イリアス

「ああ、そうだな....」


なら、と指を出し、目と指で比較対象を作る。

今見える位置には円形図書館が見える。

円形図書館は外だが、ここからの距離は分かる。

そして武器庫があるとされる訓練場は、.....


クレス

「訓練場は膜外っぽい」


イリアス

「そうか.....」


そう言っていると回廊から心を落としたかのように彷徨う人々が居た。


クレスとハクはその違和感を感じ、すぐさまに見える目に宿すを発動させた。


よく見ると、彼らの周囲には魔素にまみれていた。

だが、周囲にある魔素は吸い込まれているのに彼らを"包む魔素"だけはあの天にある膜まで吸われていなかった。


ハク

「マスター あれに触れないほうがよさそうですね」


クレス

「イリアス 彼らには近づかないほうがいい」


イリアス

「なぜだ? あれに関係しているのか?」


クレス

「あそこ周辺は毒煙どくけむり地帯だと考えてくれたらそれでいい」


イリアス

「わかった あの一行を避けるならどうするこっちの道からになるが...」


そう指をさすイリアス。

クレスは考える。


悪手あくしゅだと思うが教室に戻ろうと思う」


イリアス

「悪手かそれは?」


ハク

「教室で使えるものがあるかもしれませんし、最善の可能性もありますよ」


イリアス

「まぁもっとも最善なのはあそこに居る警備兵の剣を借りるのが最善かもな」


クレス

「近づけないからな」


イリアス

「そうだな クレスの意見に従う」


クレス

「よしっ向かうぞ!!」


一行は態勢たいせいを立て直すために、走り出す。


―、

回廊に廊下と行く先々にある道を曲がり走っていると脇目わきめに見えた会堂の中に隠れるように座り込む人影が見えた。


クレス

「待ってほしい!」


一同が足を止める。

クレスはその会堂に入ると、その足音が聞こえビクリと体を震わせていた様子だった。

息を殺す。

そうとはいえないほどの怯えようだった。

そしてその影が見える所まで辿りつくと.....


身なりがととのった男の子が居た。


「き....君は?」


怯えた様子だった。


クレス

「どうしてここで隠れているんだ?」


「か、隠れるも何も!!みんなおかしくなっっちまったからだよ!!」


あ、っと口元を抑え、会堂の扉の奥を見つめていた。

小さな声で呟く。


「だ、だって ここにいるみんな 死に神にさらわれたようにこの世を彷徨っているんだ! この世の終わりだよ!」


クレスはその男の子の肩を掴む。

「大丈夫だ これはすぐに終わる」


「なんでわかるんだよ....」


「俺たちが終わらせてくるからだ」


「......」


「今俺たちは一旦教室に戻ろうと思っている」


「は? 教室? 君は噂の特待生!?」


しぃーと口元に指をさす。


「俺たちに付いてきてほしい そこは安全だと思うから」


逡巡しゅんじゅんするが、「わかった」とそう答えた。

クレスはこくりと頷き、こっちに来てくれと言うように会堂の外へと向かった。

男の子はその先を恐れたが、ぐっと握りこぶしを作り、彼らについていく。


イリアス

「君 名前は?」


「......キラル....キラル・コントラリウス」


ハク

「キラルね よろしく」


キラルは白髪の美少女に少し頬を赤らめた。


キラル

「よ、よろしく/////」

(う、うつくしい)


行く先々では、何人か魔法・・の影響を受けた様子は見当たらなかった。

そのため、保護し、一緒に教室へと向かうこととなった。


出会った人は念の為、名前を確認した。


キラル・コントラリウス

ラナ・ミリエスタ

サナトリウス・シビュレ

シリウス・マルタリー


の4人だった。


大所帯おおじょたいとなった一行だが、すぐさまに目的地であるロートリウス教室クラスに辿り着いた。


ラナ

「ここが...教室....」


サナトリウス

「な、なんでもいい ここが安全なんだよな?」


心配そうに見つめる人たちを安心させるため、クレスは「安全だよ」とそう答えた。


シリウス

「なんで こんなことに....」


キラル

「お、おいお前ら何を、....」


イリアス

「あったぞ」


そこには剣があった。

鉄製のしっかりと作られた75cmの刃渡りはわたりの幅が広い剣を見つけたイリアス。


「グラディウス エーゲ帝国で古くから使われている名剣ってやつだ。」


クレス

「1個しかないのか?」


イリアス

「あるとしたらほら」そう剣を投げる。


それは細く、刃渡りが40cmぐらいの幅が細い杖のようにも見える剣だった。


「それはセミスパタっていう短剣だ。

このグラディウスの後継、今のエーゲ帝国での最新鋭装備だ」


「さすがは賢者 歴史研究のために保管していたのか?」


キラル

「」お?お前たちなにを?


イリアス

「なにって この騒動起こした連中をらしめに行くんだよ」


シリウス

首謀者しゅぼうしゃがいるのか!!??」


クレス

「今からそいつらを探しにいく」


ラナ

「そ、それならここが安全じゃないってことよ!!」


クレスとイリアスは困惑を隠せなかった。


ラナ

「だ、だってあ、あなたたちが居なくなったら私たちはどうなるの? 武器は?

その敵が、やってきたら私たちはどうしたらいいの!!??」


そう状況が状況なのか相当に焦っていた様子だった。


クレス

「大丈夫だよ ここは学園でも端っこ

人っ子1人も通らないよ」


ラナ

「そ、そんなの誰がしんじろって...」


クレスはラナの肩をつかみ、じっと見つめる。

「俺を信じてほしい」


クレスの優しい顔がラナという女の子の焦燥感に落ち着きをもたらした。


クレス

「大丈夫 すぐに応援を呼んでくる」


「だから待っていてほしい」


彼女は頬を赤らめる。


「はい////」


男一同はその状況に焦りはあったが、ただ聞きたいことがあった。


シリウス

「保険はあるのか?」


クレス

「.......とりあえず奥に書斎がある。

そこなら幾らか隠れられる場所が多い

もし人が入ってきたら、俺たちだとしても警戒して外には出ないでほしい」


全員が固唾を飲む。


シリウス

「わかった 必ず応援は来るんだな?」


ラナ

「必ずお帰りください」


そう手を組む。


クレス

「ああ 保証する」


そう言うとクレス一行は教室から出ていく。

イリアスは少しふざけた口調で言う。


「お前人誑しひとたらしの才あるよ?」


クレス

「え? 俺結構優しい声で落ち着かせたって思ってたけどてっきり....」


イリアスは鼻で笑うようにはいはいと答える。

それに理解ができずにハクを見ると、ハクはただ親指をたててグッジョブという顔をしていた。


クレス

(どういう意味だよ....)


、―


ハミルトン

「気味が悪いですね 人はかくも心をなくすと彷徨うようになるとは(真顔)」


そう周囲を見ながら歩くハミルトン。

人を避け、会堂の一室、一室を見て回る。


(意外にも素直に物事が進む...

魔法というのはやはり十字教が"奇跡"と呼ぶ理由も分かる)


そして、―

自身の手を見る。

はたしてそれはなに・・を意味をしているのかを明白にするような雰囲気を真顔の彼からただよわせていた。


がたりと音が聞こえる。

その音は、会堂の隣、書簡しょかんを納めた書斎室から聞こえた。


ハミルトンはこの彷徨う人々が起こしたものかとは思ったが、その理性考えを無視し、本能で音のする方向へ進んだ。


ひぃっと怯えた声が、ハミルトンの心に安らぎを感じさせた。

隠れているだろう机の下に何かが居るのが見えた。

かつり、かつりと軽装の金属音と靴の音が混ざり近づいてくるのが分かる。


僕はただ、―

じっとじっと目の前の足が近づいてくるのが怖かった。

そして左右を見るかのような足遣いでその場を去っていった。

僕はほっとした。

何も来なかった。何も起こらなかった。

それがどれだけの安寧あんねいなのかハッキリとわかったような気がする。

もう奴隷の子にも嫌味とか言わないから、このまま何も.....おこらな...いで.......


すっと机の影から何かが現れる。

それは人の顔だった。

その顔に一切の驚きも、感情も、色もなくただじっと僕を見つめていた。


じっとじっと、―


「見つけた」


そう呟いた。

その声には喜怒哀楽という何かが欠落していた。


ぼくは叫んだ。


いやぁああああああああああああ


ハミルトンは頭をかく。

しまった、―顔が見えない。

暗殺対象かどうかがわからないと"殺す"か"殺さない"の判断に決めかねる。


(団長に殺されるな)


「おいガキ(真顔)」


そう呼びかけても叫び泣いていた。

ハミルトンはめんどくさくなり、顔を押さえていた腕を掴み、引っ張りだす。

子供を宙に浮かしていると、子供の力では維持できないためそのまま垂れるようになる子供はただじっとハミルトンを見つめていた。


ひっくひっくと嗚咽混じりのその顔をみているとハミルトンはイラつきそうなのを我慢しつつ、顔を見た。


(やっぱり団長の言う通り、顔のリストに載ってないやつが居る。

よかったやらかすのは私も嫌いだからね)


「なんだテメェじゃないのか(真顔)」


そういうとガキを投げ捨てる。

子供はうっと棚の角にぶつかったのか気絶してしまった。


(依頼主は用意周到すぎる....何か....

いや考えすぎか 今回の印はうちのボスが記していた。

つまりボスが許可済みということだ。

それを疑うことは騎士団を疑うことに繋がる。)


だが、―と何か思うように書斎の扉奥へと見つめている。


誰かがこっちへ走っている音が聞こえる。

「こっちに叫んでいる子が居る!

助けないといけない!!」


「うん、そうだね!」


男女の声、子供の声だ。

だが状況を把握している可能性があるなとも考えるハミルトン。


そして足音がハッキリと聞こえるとここの書斎に辿り着いたようだった。


グラディウス

「お前は!!??」


ミエラ

「あ!?」


彼らから見たら、子供を殺したハミルトンのように見える。

グラディウス

「ダンタリのハミルトンだな」


そう剣を構えるグラディウス。


ミエラ

「私があの子を助ける。」


グラディウス

「ああ、わかった」


ハミルトン

「そういうお前はピピンの子だな?(真顔)」

(やはりリスト通り だが"追っている最中"に殺していいのかの範疇かはわからない。

だが戦うしかないようだな)


ハミルトンは自身のショートソードを下に構え、グラディウスから右手肩と剣を隠すように構える。


「俺たちの邪魔をするなら 殺すぞ ピピン(真顔)」


グラディウスはいさみ、構える。


「やれるもんならな!!」


そうして彼らは会敵かいてきす、―

戦いの火蓋ひぶたを切って落とされる。―

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