一章:第十話 運命

ばたりっと扉が開く。

「失礼いたします!! クレス様はいらっしゃいますか!!」


ヘルナのそんな声が教室中に広がる。


「あ、あれ?」


驚くのも無理はない。

やまびこのようにかえるはずの音も声もなく、ただ目の前の光景は沈黙を通していた。


アリス

「誰も....いらっしゃらないの...?」


ミカエラ

「留守なのでしょうか?」


2人は見つめ合い、少し首を傾げる。


―――――――――――――――


先日のときに戻る―


パンっと手を叩く。

「よし 友達自慢の綿密な作戦を組み立てよう」


そう意気込むクレス。

少し心配そうな顔で見るイリアス。


「な、なぁ 友人になったのはいいが、いくら紹介をするのに作戦会議を立てる必要はあるのか?」


「......ないと思いたい」


「ないと思いたい?」


「ああ」


そうどこか考えこむかのような顔つきでクレスはその言葉・・の意味を答えた。


「そ...の....イリアスを友達自慢にする相手は...ドラゴンなんだ」


「........」


クレスは開示した。

いきなりを開示した。


「お前はなにを言ってるんだ?」


そう口角を曲げた。

だがクレスからの返答はなく、ただ"沈黙はYES"と聞こえるように感じた。


「え....仮にドラゴンだとするじゃないか...

え?そいつを友達自慢したらいいんじゃないか?」


「僕より」


ご尤もごもっともなのは確かだ。

友達自慢という勝負では、いかに"友達がすごいか"を競うと考えるのは一般的。


クレス

「それはそうなのだが、勝負を仕掛けたのはそいつからなんだ」


目を開けしめする。

意外にもクレスとの会話で"唐突"に慣れてきたのか、その言葉の意図を聞くことにした。


イリアス

「ああ...うん だがそうか発起人ほっきにんはドラゴンなの....か」


クレス

「ああ、人の姿を取ってな」


イリアスはその言葉を聞き、手を頭に当てる。


「人の姿をとれるのか....神話のように感じる。」


クレス

「そう...魔法で しかも尻尾と角と翼を残したままでだ」


イリアス

「え? それは人と呼べるのか? まるで怪物ではないか...」


クレス

「....それで少々口が悪い」


「だからそんな奴に友達が出来るとは思えないが」


イリアス

「そうだな」


クレス

「思いたくないが...万が一ってこともある

そのため、多少なりとも凄さを見せたいんだ」


少しを頬を擦るイリアス。


イリアス

「言葉をそのまま受け取ると、

確かにちゃんと人の姿を取っていないのに、友達自慢という勝負を吹っかけた。


神話や伝説では、獣の特徴を持った人や魔物が居るとは聞いたことがあったが実在したのか」


少し感慨深くなった。


「そして....口の悪さ含めて友達が出来にくいのに友達自慢で負けたら"恥"というわけか」


少し目を逸らすクレス。

「......」


「お前 意外にも負けず嫌いなんだな」

と少し笑うような口ぶりで言う。


クレス

「初めて....だからだろうな」


イリアス

「初めて?」


クレス

「勝負事が....初めてなんだ だからこんなにも気持ちがはやっている。」


イリアス

「そうか...初めてか....そっか.....」


『お父さん 見て!』


どこか何かを思い出したかのように感じたイリアス。

少し腕を上げる、意気込みイリアス。


「よしっ クレス このイリアスに任せてくれ」


少し驚くクレスを見たまま、イリアスは続ける。


「俺は こう見えても大貴族の息子の1人だからな ちょっとばかし安心しろ

このロンドールの名は大きいからな」


クレス

「そうか .....よろしくお願いします。」


そう話は進む。―


「ああ マスター!! お友達連れてきたんですね!」


と教室の中へ入るとハクがその場に居た。


クレス

「ああ、彼がそうだ」


そう紹介する。

後ろにいる彼に手のひらをかざし、ハクの目線を集中させる。


クレスの背中からイリアスは髪をかきあげながら現れる。


「やぁ始めまして! 俺はイリアス

イリアス・ロンドール

ぜひイリアスと呼んでくれたまえ!」


そう先ほどまでの性格とは違い、

大ぴらにどこかチャラ気があり、お調子者のような耳に残る声が教室中に響いた。


ハク

「ふーん パッとしなさそうなお人ですね」


イリアスの行動やクレスの紹介に全く気にしていないハク。

イリアスはピシリとこめかみに力が入る。


「あ、あの...友達自慢という勝負において、

このロンドールの名はとても良いと思いますよ?」


そう意地を張るように言った。


ハク

「ロンドール? いくら名前だけでもw

あはは 高名さがあっても、あなたは当主じゃない時点でパッとしないです。

あと性格 薄っぺらい!!」


ぐっと心臓がくり抜かれるように感じる。

伝説において、ドラゴンは心を見抜く、真実を与える等などがあるがこの一言は相当に痛かった。


クレス

「おい ハク 俺の友人にいくらなんでも言いすぎだろ」


イリアス

「いや いいんだ クレス」


そうなだめるようにクレスの肩に手を添えるイリアス。


(君が言うめんどくささはこういうことなのか)

「ほ、ほう ロンドールの名を聞いても驚きもしない

聞けば友達自慢という勝負事を行っているとか、君は人では...ないようだがそれで?

俺やクレスに紹介できる友人は居るのかな?」


と煽るような口調で言うイリアス。

今回の"友達自慢"には正確なルールはなく、とどのつまり両者間に"敗北感を感じた"が勝負になる。

いかに友達を自慢しきれるかが重要になる。


そしてイリアスは交友関係を主軸に自慢話を始めた。


「俺は 友人と呼べる者は大勢居る

社交界に村々、都に領地でも私の耳は届く。

父は軍事を担い、武器庫や流通を司っている。

そして辺境伯としてこの地を管理をしている。その振る舞いも確たるべしと言えるのではないかな?」


そうハクの感情を煽るように言った。


ハク

「まぁそれはすごいんですねー(棒)

マスターはこの方をどう自慢したいんですか?」


興味なさげにクレスに質問を投げかけた。


クレス

「いや イリアスは十分に自慢できる友人だ 彼は調子がよく、話が合う

その時点でも十二分に自慢は出来るが、この位によって出来ることが大幅に違う

その点も見込んで彼を紹介したんだ。」


イリアス

(あっれー?天邪鬼って言葉はどこ?

いやこのもの言いが悪いハクを分からせるには少しでも言い方を訂正するべきだと思うけど....うん)


口裏合わせるようにクレスは言葉を言い繕ったようで、その言葉を聞いたハクは少し不服そうな顔になった。


「まぁマスターがそう仰るなら、

よかったですね! パッとしないんですけどマスターの友人になったことを喜んでください」


イリアス

「そんなの当たり前じゃないか なぁクレス」


クレス

「あ、ああ....」

(意外にもすんなりと話がすすm)


ハク

「ふふん 先ほどイリアスに煽られましたが」


イリアス

(早速呼び捨てかーう〜ん)


こんな・・・私にも友達が出来たんですよ?」


クレス

「ほ、ほーんじゃ紹介をしてほしいな」


ハク

「さ、サリィちゃん いでよ!」


そう言うと教室の中にある別の個室から人が現れる。


この時、イリアスに電流走る。


それは白き髪が風に揺らめき、一歩一歩歩くだけでそれはたなびく旗のように広がる。

かつりかつりと上品に聞こえる足音のそれは高位の生まれだと感じざるえない気品さを、

その服はひらりと薄く、絹で出来上がっていると思うほど豪奢だった。


そして


「は、始めまして

わたくし アディス大王国第一王女

アディス・ダダン二世・サリィ・エンドロメダ と言います

そのよろしくお願いします」


褐色の肌に珍しい青い瞳にどこか鳥がさえずるような可愛らしい声が響く。

王位たるお辞儀がはいる。


一瞬の沈黙、

「クレスこっちに来てくれないか?」と引っ張って教室の玄関口に連れて行くイリアス。


クレス

「ど、どうした イリアス」


イリアス

「無理だろ....」


クレス

「......何が、だ?」


イリアス

「あれに勝てって言うのか!?」


そうクレスの胸ぐらを掴み、教室の中に指をさすイリアス。


クレス

「そりゃ お前 勝つしかないだろ」


イリアス

「ぼく 勝てないよ!?」


涙目になるほかなかった。


クレス

「その...なんとか 天邪鬼で?」


イリアス

「君の言う天邪鬼はただの性格じゃないか、こんな性格でどこをどうやってアディス第一王女に勝てって言うんだ!!」


クレス

「」。。。大丈夫お前を信じている


ん?っとよく見るとクレスの頬に汗が流れていた。


イリアス

「お前 まさか冷や汗かいているのか?」


クレス

「..........」


「なんとか....ならない?」


イリアス

「なんともできないから"今ここにいる"」


クレス

「そっかー」


この言葉がながくながく、ため息を吐くように長く続いた。


クレス

「一矢報いたかったな...」


イリアス

「気持ちはわかるよ 君のハクに対する言いたいめんどくささは確かに 多少なりとも苛ついたさ

だが だけど 僕無理だよこれ!


下手打ったら 失礼罪で廃嫡はいちゃく確定だよ!!」


クレスは言い訳を始めた。


「いや友達はまぁ最悪出来るとは思ったよ?

そう出来るとは思ってた けど王女様とか本当になんで?」


イリアス

「いや聞かれても困る 困るし、

その困るし....困る」


"こ"と"ま"と"る"しか言えなくなったイリアス。


クレス

「イリアス お前 もう....くっ」


そうして肩に手をかけるクレス。


「だがお前は 天邪鬼 だ!!

お前はできる なんとかできる 行ける

信じて.....」


そう目をそらすクレス。

その姿と言葉に一切合切に動揺があった。


イリアス

こまる こまる こまる こまる こまる


なんとも勝ち筋が見当たらないこの勝負に2人は絶望に伏していた。


イリアス

「もう....諦めよう」


クレス

「.....ああ、どだい無理な話だったな

すまない 変なことに巻き込んでしまった」


イリアス

「いいんだ お互いに予測できなかったことさ 仕方ない うん 僕気にしない」



初めて勝負事をして負けたくない少年、

そして貴族であるという誇りを持った少年、


彼らは "勝負" を諦めた。


そうして彼らは教室へと戻った。


ハク

「どうしたのです? お二人とも」


どうにもげんなりとした顔になっている姿がどうにも気になった様子だった。


クレス

「いやいい 気にしなくていい こっちの話だ」


イリアス

「ああ、こっちの話」


と話をそらすことにした。


ハク

「そうですか... ではではサリィちゃんもう一度!」


サリィはえ!?ともう一度という言葉に動揺を隠せなかった。


イリアス

(この怪物・・ 大国の王女様を簡単に呼び捨てにしたぞ)


サリィ

「え、えと先ほど紹介させていただきましたし、同じ口上...のほうが....」


とオロオロとし、ぶつぶつと呟いた。

なんでかイリアスは彼女のほうへと近づき、膝をつく。


イリアス

「先ほどは退室してしまい失礼いたしました。 アディス・ダダン二世・サリィ・エンドロメダ王女殿下


此度、友人の紹介という行事のもと行われると聞き、参加させていただきました。

ですがアディス大王国の姫君がいらっしゃるとは思わず動揺してしまい、退室という判断してしまいました。」


そう頭を深く下げた。

クレスはおおーと感心してしまった。

クレス本人は社交界での行い、政治的な礼儀作法を師匠からは教えてもらっていたが、実際に行う姿を見るというのはどこか感慨深く感じた。


そういった教材・・じみた何かを生涯見たことなかったのが影響しているのだろうと自己分析した。


サリィ

「い、いえ さほど気にしてはいません

たとえこの学園でも王族との対話は誰しも驚くことだと教えてもらいましたので


それと...ぜひ私の名前はサリィとお呼びください あなたたちの言葉ではフルネームがサリィなので」


イリアス

「サリィ王女殿下とお呼びさせていただきます。」


クレス

「右に同じく」


イリアスはおいとクレスの方へと顔を向ける。

イリアス

「サリィ王女殿下に失礼だろ!」


クレス

「すまん その王族というのは初めてだったもんで」


イリアス

「お前 本当に貴族か? 貴族の礼儀作法を...」


クレス

「農民だよ 私は」


イリアス

「......なるほど合点はいった」


近づき、胸ぐらを掴む。


「お前 貴族さまに対して失礼だな!」


そう怒りの口調を混ぜたがどこかふざけても居るように感じた。


ハク

「ちょ マスターをイジメないでください

そのちんちくりんなおててを離してください!」


イリアスはその言葉を聞き、

クレスのほうへと顔を向ける。


イリアス

「なるほど....従者の教育はお前仕込みか」


クレス

「あれは老人たちの口喧嘩で育ったらしい」


イリアス

「君の村は物騒だな スラムよりも酷いのではないか?」


そう軽口を叩いていると実際に手を叩く音が響く。


サリィ

「まぁすごい 農民の方が学園へとご入学できるのですね!」


そうほわほわとした感じで喋るサリィ。


イリアス

「サリィ王女殿下?」


クレス

「サリィ王女殿下 ここでは市民や商人の方々もご入学をしているとお聞きしていますが」


サリィ

「サリィでお願いします」


え?とクレスとイリアスを互いに目を向ける。


「サリィで♪」ともう一度言う。


クレス、イリアス

「「さ、サリィ...」」


サリィ

「はい♪ えーとですね はい他国では市民の方、商人の方々がご入学しているとはお聞きしていました。

ですがこう間近で見るのは初めてでして」


クレス

「意外ですね サリィ...は市政の方々を見たことが初めてなんですね」


イリアス

「どこの国もそうだが、一般市民に顔を出すというのは国事、祭事、有事がなければ見ることはないのが普通だ。

下手に王族が外に出たら、誘拐ものだからな」


それを聞いたサリィは驚く。


サリィ

「そうなのですね...初めて知りました。」


イリアス

「王族同士が垣間見る場所はこのアルテメリア学園しかないらしい」


そしてその会話で思い出したかのように言う。

サリィ

「あ、けどわたくしの親友で王族の方はいらっしゃいますよ」


クレス

「そうなのですね どこの国の方ですか?」


サリィ

「はい! お父さまが侵略した国の王女様ですね」


イリアス、クレス

「「.............」」


ハク

「え? サリィちゃん その親友って身分はどんなの?」


サリィ

「私専属の奴隷ですね」


一同全員が沈黙した。


アディス大王国の資金源は戦争による資金調達と奴隷売買、色彩豊かな織物業が主軸としているらしい。


クレスは好奇心で聞いた。


「そのお父さまはどうして親友の国を襲ったのですか?」


サリィ

「え? っとたしか喧嘩を売られたからとかなんとか だから末代まで凌辱し尽くしたとかなんとか」


クレス、イリアス

((こ、怖い))


サリィ

「ちなみにその親友も父のお手がついてるとかなんとか」


イリアス

「さ、サリィ様」


サリィ

「サリィ〜」


とぷくぅっと頬を膨らませる。


イリアス

「今はサリィ様とお呼びさせてください

お願いします(切実).....」


残念がるような顔で言った。

サリィ

「.....分かりました」


イリアス

「そ、そのお話は少し脱線しすぎてるので、その先ほどのお言葉の意味を教えください」


サリィ

「あ、そうですね... 私たちアディスでは身分制度が非常に厳しく、同じ身分のもの同士しか結婚してはいけないという教えがあります。


そちらはエーゲ帝国と同じようなものだとお聞きしています。」


イリアス

「失礼かと思いますが、エーゲ帝国とアディス大王国とも身分制度の厳しさは天と地ほどに違います。」


サリィ

「まぁそうなのですね

ニコリッ とまぁアディスの教えでは、

『知恵ある者が民を導く』というのに倣いなら高位ある身分の者にしか教育をしては行けないのです。」


クレス

「え? では私のような人が入国したら...」


サリィ

「他国の方々ならどうにかなりますが、自国の者でしたら最悪処刑ですね」


クレスはイリアスに耳打ちする。


クレス

『アディス大王国ってやばくないか?』


イリアス

『ヤバいから 廃嫡はいちゃく確定って言ったんだよ』


クレス

『たしかに 友達自慢・・・・なら勝ち確定だな だって相手死ぬのだからな』


イリアス

『物騒なこと言うな お前も廃嫡だぞ』


そんな与太話をしている姿を見たサリィは少し顔を俯く。


「やっぱり私はなにかとんでもないことをしてしまったのですね...」


その顔にどこか憂いを持っていた。

その意図の真意は分からなかったが、互いに何かが起こったのは分かった。


含みある言葉、―


クレスはその言葉に、その憂いある顔に疑問を呈したてい


「......何かあったのですか?」


その言葉を聞いたサリィはどこかぼかすかのように言葉を言い淀む。


「あ、いえ....その ただ呟いてしまったと言いますか」


ハク

「そういえばサリィちゃんは あの大木のそばで何をしていらっしゃったのですか?」


話を遮るかのように言うハク。

クレスとイリアスは話を戻さず・・・にそのまま話を聞いた。


サリィ

「あれは みなさまとお戯れをして...いました。」


ハク

「戯れていたのですか? ....マスター」


クレス

「なんだ」


ハク

「せっかくの友達自慢なので、

彼女との出会いを事細かに説明しますね!」


サリィ

「え!? ハク様!?」


動揺を隠せないサリィを見ても、全く気にもしない白き竜。


ハク

「それは.....」


―マスターとの友達自慢ということで、

そこで私も自慢できる友達を見つけるため、世界のあちこちで東奔西走とうほんせいそうしておりました。


クレス

(嘘だな)


イリアス

(始めたの数時間前なんだろ? んなわけねぇそんなことないだろ


そして、

足もクタクタ、人間たちの愚かさで心もヘロヘロしており、疲弊ひへいのひえーをしていました。

そんな折、

アルテメリアの端、自然公園にそびえ立つ大木の枝に座っていました。

すると大木の根にて、何やら人声が聞こえてきました。


私は面白そうだったので、そのまま急転直下きゅうてんちょっかしました。


すると私の姿を見て、皆々驚き、蜘蛛くもの巣を散らすように居なくなっていました。


私は思いました。

「はぁやれやれ ヒトとはかくも愚かですね あれでは友達作りなど夢のまた夢ですよ」


と口に出して、振り向くとそこに

サリィちゃんがいました!。


そして言うのです。


「問おう あなたが私の友達か?」 と


それが出会いでした!。


クレスは思う。

(なんかどこをどうツッコめば、

このバカドラバカドラゴンの意を止められるのだろうか...)


(自分視点と話を盛りすぎて、何が起こっているのかわからない)


クレス

「サリィ....さ...ん....はこのバカドラを見て、驚かなかったのですか?」


サリィはクレスの質問を聞くと否や、

手を合わせ始め、驚き言葉を発する。


サリィ

「"運命"!! だと思いました。

ハク様は偉大なる白きモノに違いないと!!」


クレス

「................」


「イリアス 『類は友を呼ぶ』というのを知っているか?」


イリアス

「なんだそれは....だが言いたいことはわかった。」


クレス

(面倒くさい奴が"面倒くさい子"を連れてきた)


イリアス

(なるほど 親の子は親に似ると同様のことわざだな うん)


クレス

「すみませんが その白きモノとは?」


サリィ

「白きモノとは、とある予言にまつわるモノでして ハク様がきっと と思ってしまったのです。」


イリアス

「予言?」


サリィ

「『とおくとおく

はるかな白きモノ

かのモノ、みえたるカベを越え、

海へとその覇を遠からん


いずれ世を正すべからず』」


クレス

「正すべからず? 世を乱すという意味では?」


サリィ

「いえ この場合は、正すべきを意味します」


クレス

(正すべき? なんで... 

予言の場合は正すとか"確定"してる前提で言うものなのでは?

まるでその先が決まってない・・・・・・ような...)


「そうなのですね ありがとうございます。」


クレスはサリィに一礼をする。

いえとサリィも丁寧に礼をする。


クレス

「そういえばサリィ はその集まっていた方々とどう遊んでいたのですか?」


サリィ

「それは.....」


どこか嫌そうな顔をしていた。


「石を投げたり、言葉遊びをしていました。」


クレスは少し深呼吸をする。

ただボソッと一言、「そうでしたか」と呟いた。


ハク

「石を? けどあの方々が向けていた先はサリィちゃんだったような とても戯れているようには...」


サリィは目を逸らす。


...このドラゴンは遠慮というのを知らない。

掘るべき話、遠慮するべき話の加減を知らない。

まぁそれは仕方がないというもの、

この竜は生まれたばかりで人の愚かさ、欺瞞を知っていても、イジメ・・・を知らない。


彼女サリィは明らかにこの話を避けたがっている。

掘るべきではないのは確かだ。

だが一体どうしたら.....


イリアス

「ところでハク この友達自慢勝負 一体どちらが明白でしょうか?」


それは勝負の行方はどちらかを明確にする言葉だった。

ハクはそちらに意識が向く。


「ふふーん 残念ながらサリィちゃんです!」


イリアス

「なぜだ?」


これは勝敗はわかりきっていたが、

ただなんとなく理由を聞きたかった。


ハク

「そんなもの イリアスはあまりにも滑稽こっけいで、矮小わいしょうな存在に決まっているからでしょう!

まず自慢話をするなら父親ではなく、自分からするものでしょう?

そもそも.....―」


イリアスは思う。

あ゛?っと.....


誇りプライドがそうしたのか、

普通にそうなったのか、

沸騰ふっとうした感情が喉から出そうになる。


そして、―


イリアス

「ふはははははは!!」


ハク

「え? なに 頭おかしくなりました?」


唐突な出来事に周囲は驚く。

イリアスの発狂と言わざるこの状況に一切の"きっかけ"がないのがさらなる困惑を呼んでいた。


ばさりと手を大きく振り、

「残念ながらこの勝負 俺の勝ちだ!」


ハク

「な、なんですって!?」


そういうとイリアスは自身の顔に手をかぶせ、指の間から覗きこむようにハクを睨んでいた。


「このイリアス・ロンドールは、

サリィよりも凄くないと仰りたいのか!?」


ハクは恐る恐る言う。


「あ、はい」


イリアスの心は完全にヒビが入ったが、

それでもおどりきろうとしていた。


「なぜ父の自慢話をしていたか!

君には分からないだろうな!

傲慢だからこそ細かい所を見れぬとは滑稽こっけいだな」


ハク

「な、なにをー!」


イリアス

「俺の偉大さはそこのサリィ王女と比べても比べたりん!」


声が震えそうになる。

心臓が鼓動が速めた。

なんか反抗したくなった。


何やってんの?自分。と―


「俺はこの黒髪は 予言 あるものとして、帝国に丁重に扱われているのさ!」


ハク

「え?それなら老が....」


それを遮るように会話を続ける。


「予言の内容はこうだ!

『黒からなるモノ 帝国より現れ、帝国の大地を花々で埋め尽くそう!』 っだ!


俺は国を周り、地域ごとに人々に花々幸せを贈ってきたのだ!」


サリィ

「まぁすごい」


「そして国から侵略してきたモノを斬ったり払ったりと追い返した!。

そのため、この.....傷があるのさ!」


イリアスは腕にあるボタンをはずし、前腕部をハクたちに見せた。


そこにあったのは、大きく削れたような傷跡。

何か・・があった。とそう感じえないほどの感情が込み上げた。


ハク

「そ、そっれで......さ、サリィちゃんに勝てると?」


「俺の行った覇業を今ここで、事明ことあかにしようぞ」


ハクはがくりとし、「負けました」とそう言った。


そしてイリアスは勝負に勝ったが、当然の嘘を盛ったので、意気消沈していた。


クレスはイリアスの肩に手をかける。


「.....頑張ったなお前」


「ああ、もう.....僕は」


「そういえばここの食堂はうまいらしい

奢るぞ 食いに行こう。」


「......飯で心が和らぐわけではないがそうだな....そうする。」


と2人の会話は小さく終わった。


クレス

「ハク、サリィ すまないがイリアスは少し興奮したままだ 少し落ち着かせるから一旦教室から離れる。 いいか?」


ハクはうなだれたまま、「はい」と答えた。


そのまま教室から離れた音がなると、

サリィはハクに話しかける。


「エルテメール帝国の貴族は野蛮やばんだとお聞きしましたが、聞いたお話とは違いますね! なんと素晴らしい方でしょうか」


そんな嬉々とした声で喋る。


「うう、....わたしの目には狂いなかったはずなのにー....」


とすっかりイリアスの雄弁に乗せられた2人だった。


――

―――


「ほら」と食堂で受け取った配膳をイリアスの前に差し出す。


そこには綺麗に焼き上げた腸詰めソーセージ、目玉焼き、キャベツや人参を焼き上げた炒め物。

そして程よく時間が経ったふっくらとめくれがった半分に切られたパンだった。


イリアス

「珍しいな ソーセージがあるなんて、」


クレス

「現代的っぽいよなこの構成

なんでも今日はほら新入生の入学祝いか何かでこのメニューらしい」


イリアス

(現代っぽい?)

「金額は?」


クレス

「確か 真鍮貨3枚と青銅貨5枚だった」


イリアス

「え? 安くないか? しまったな今手持ち銀貨しか持っていないぞ」


青銅貨10枚で真鍮貨1枚、

真鍮貨10枚で銀貨1枚、

銀貨1000枚で金貨1枚となる。


パンの価格によるが、パン10日分で銀貨1枚。

この世界では、

一日2食が一般的であり、パンは一つで一日分を賄える。


つまり価格設定的に、

パンで真鍮貨1枚、

ソーセージ、卵、野菜で真鍮貨で2枚をあたりになっている。


ようはこの豪勢な食事一回で、3日分支払うというぶったくりぶりだ。

日本風で言うなら、

一日2食 1000円だとすると3000円だよ

いや青銅貨もあるから3500円くらいか

これを安いだと?


クレス

「いいよ今回は俺のおごりだ」


「今回の勝負 ほぼ負け確定だったのにイリアスの奮闘のおかげで勝てたし」


イリアスは恥ずかしそうに顔を隠す。


「やめてくれ 僕もほぼ諦めかけていたんだ」


クレス

「わかっている」


「さ、食事だ」



「うまい! 人生で食事をおいしいと思ったのは初めてだ」


そう答えるイリアス。


クレス

(昔の食事とはこういうものなのだろうな)


「貴族では食事はおいしくないのか?」


そんな疑問を投げかける。


イリアス

「いやうまいものだぞ 専属のコックも居るのだし、だけど....そうだな」


「農民のクレスでもわかりやすく言うなら、

貴族での食事は報告会を模している」


クレス

「報告会....ああ、会合とかか」


イリアス

「そう 食事は楽しむものではなく、する必要なもの。

だから貴族では周一で家族との会合がある。

それが報告会になるんだ。」


クレス

「楽しいのか?」


イリアス

「楽しくない!」


と笑顔で返す。

そして今食べている食事を見つけていると、

「だから純粋に食事を楽しむというのがこんなにもいいものとは思ってなかった。」


クレス

「そっか ここを紹介できてよかった。

ここは師匠のお墨付きでな

各国の食事を楽しめれるように工夫しているとか」


イリアス

「そういえばなんとなく察していたが、

お前の師匠ってロートリウス様か?」


クレス

「ん? そうだよ」


イリアス

「まさか教室クラスに案内された瞬間、なんの冗談かとは思ったが、そうかあの賢者が弟子を取るなんてな....」


クレス

「そういえば 弟子になるまえに賢者が弟子を取ること自体が前代未聞だとか」


イリアス

「.....前代未聞っていうかロートリウス様がかな?」


「他の賢者たちは弟子を取るというのはそう珍しくない 元々この学校という仕組みもその師弟していの形を参考にしているほどだからね」


そう食事をやめ、クレスに目を向ける。


「だけどロートリウス様は賢者になって40年一度も弟子を取ったことはないと聞く。

今のクレスまでは」


クレスは「そうなのか」とただ呟く。


「ま、こんな貴族に対して無礼をはかるのは弟子を作ったことがないロートリウス様なら仕方ないとは思うな」


クレス

「いや社交辞令はきっちり教えてもらったぞ」


イリアス

「ならなぜサリィ王女には『右に同じく』と言った。」


クレス

「え、改まった言葉かと思ったからで」


イリアス

「改まった言葉か...まぁいいか

基本的に 高貴なる方々と喋る際は、他と自を分けて喋らないと行けないと考えられている。」


クレス

「他と自?」


イリアス

「今回なら 俺の意見には賛同だったから右に同じくと答えた」


クレス

「そうだな」


イリアス

「けどそれは自分が入った主張ではないとされ、失礼にあたるとされている。


その場合ならこうだ

『イリアスと同じように"わたくし"もサリィ王女殿下と呼ばせていただきます』

と答えたほうが後々・・楽なのだ」


クレスは思う。「後々・・


イリアス

「そう後々・・ 会話とは自己主張だ

自身の言葉がなければ、そいつは能無し、意志なしと呼ばれることが多い


だからクレス できる限り自分という言葉を使って喋っていったほうがいいぞ

僕も父との会話で相当苦労したから」


クレス

(意志なしか....つまりは受け答えはしっかりしろ、

と他人と同じ意見だとしても

しっかりと自分と他人の区別をした上での意見を述べろってことか)


「分かった」


となるとだ。


「イリアスはサリィが言い淀む姿を見て、どう思った?」


本題へと入った。


「どう思った? どうもかな?」


「なにも思わなかったのか?」


少し外側を見るように目をみやる。


「何かがあったぐらいしか分からない

実際に言ってもらわないと分からないものだよ 人の心は」


クレスは少し顎をさする。

おかしい、ハクなら知らない・・・・から話を誇張してでもあの話友達紹介へ誘導した。

"分からない"から俺に聞いてもらった。


あのバカドラは多少なりともサリィ王女を心配していたんだ。


わかりにくいがな、うん。


だがイリアスもサリィを見て、何かを感じたはずだが。

さっしていた。


「本当に分からないのか?」


「分からん 人の心を読めるような力はない」


「サリィ王女はイジメにあっていたのに?」


「なにぃ!? サリィ王女が!?」


バンと机を叩く。

周囲は突然の衝撃でこちらを観ていた。


「いや すまない 興奮していた。」


耳打ちするかのように小声でもう一度聞いた。


「サリィ王女をイジメる度胸がある奴が居るのか?」


「居るからあの話があったんじゃないか?」


「......あの話?」


「サリィ王女の 『石遊び』

ハクの『石を向けていた方向』で分かるだろ 空気を読めんのか?」


少し首を傾げるイリアス。


「空気? なんだ空気に文字でも書いてあるのか? それが心を読めるやり方か?」


「.....いや、いい とりあえず

"もし"サリィ王女様をイジメるとしたらどこが原因か分かるか?」


「原因?」


「そう原因」


うーんと腕を組む。

王女様をイジメるというのが想像できないのか深く考える。


「やっぱり 先ほど言っていた"他と自"

意志なしが原因か?」


「いや それはあるが、あの王女様は意外にも意志は強いぞ」


「.....そうだな 正直に言い過ぎな所はあるな」


「そうだな 俺が分かるところなら一言で言うなら"肌"だな」


「肌?」


「ああ、あのオレンジ肌だ」


「おれ...え、なに?」


少し驚いた顔をするが、気にしなかったイリアス。


「農民のイリアスなら知らないだろうが、

世界には様々な肌をもつ者がいる。

南へ行けば行くほど、日照りが強くなり肌が赤く、黒くなっていく。」


「知っている」


「.......とま、我々エルテメールの民は白き肌を持ち、エーゲに近い民は赤肌、南へと向かうと肌色が濃くなっていく。」


(人種差別ってやつか)


「エーゲ帝国は大国で、肌に問わず様々な者たちを受け入れてきた功績があるからか、

肌色に一切気にもしないが、

我々エルテメール帝国では白き肌が一般的

だから立場関係なく石を投げる理由にもなるだろう」


「オレンジ肌....というのは分かるが、

赤肌とは?」

(てかオレンジ肌ってアジア人の蔑称だよ

ね ここでは褐色はオレンジ肌なのか)


「赤肌というのは海に近い者たちでみな肌が赤みを帯びているのが特徴だ。


ちなみにアディス大王国は赤肌の者が多いと聞く。

彼女は珍しくオレンジ肌だな」


「.....そうか」


「イリアス お前は気にしないのか?」


「何が?」


「サリィ王女のこと」


「.....肌の話で言うなら」


イリアスは自身の黒髪を見せるようにする。


「僕はこの髪も同じような理由なのに、彼女を貶すけな 理由ワケがないだろ?」


少しそれを聞いて笑ったクレス。

だが....クレスに指をさす。


「だが、クレス お前だけは許さないからな?」


「」ん?。。。。。。。。。。。。。。。。。


「お前 初対面の貴族に対して、多少どころか失礼が多かったな」


「え? 天邪鬼のところです?」


「ああ、あれは」


「合ってるだろ?」


「」へ?。。。。。。。。。。。。。。。。。


「合ってるだろ(2回目)」


「いや お前 しつ....」


「合ってるだろ(3回目♪)」


はぁ....と少し時が立つと少し可笑しそうに笑う。

その姿を見ていたクレスはイリアスに聞く。


「イリアス どうして農民だと分かっても、今も俺に関わってくれるんだ」


「『類は友を呼ぶ』って言うんだろ?」


「.....」


「これを『類は友を呼ぶ』のなら、

変人同士で関わり合いができるのも必然じゃないか」


「変人って....」


「いや変人だろ この不吉なる黒髪を持った貴族に友達になれっていう農民を変人と言わずになんという!」


「まぁその考えで言うなら私は変人なんだろうな」


なんだか少し考えたら、


「あれ? 待てよ 俺ハクやサリィとか"面倒くさい"って思ってたけど、実は俺が面倒くさい系なのか?」


「案外そうかも? 俺も天邪鬼らしいし

てかサリィ王女を面倒くさいって図太いな」


「そんな...」


と互いにの違う笑いをした。


―――


時が立つ―


シンシンと青黒い世界が眼前に広がっていた。

夜、ものに囲まれた教室はハクと自分しか居なく。

入ってくるのは月明かりと夜の冷たさだけだった。


あのあと、改めて皆で会話をし、そのまま何もなく解散した。


クレス

「ハク」


ハク

「なんですかマスター」


ベッドに座るクレスの膝に横たわり、うずくまるハク。

この竜はクレスを主人としてから、夜はいつもクレスにひっついていた。

理由は"寒い"という理由だった。


クレス

「どうして私を友達自慢に招待した?」


そう言い、頭をゆっくりと撫でている。


ハク

「それは....マスターに友人を持ってほしかったのです。」


それは意外にも正直な答えが返ってきた。


クレスは「どうして?」と言い切る前に、ハクは起き上がりクレスに言う。


「マスターはエリザ様やロートリウス様、の家族だけで十分だとお考えなられてますが

"もし"マスターがこのままゲームを求めるのなら、情報集めのために友人・・が必要です」


「友人を利用しろと?」


「そうは...言っていません。

ですがマスター ゲームはみんなで楽しむものですよ?」


「.......」


『一緒にゲームしよ!』、昔言われていた言葉を思い出す。


「だから私はマスターを焚き付けたのです。 だって、私はマスターの笑顔を見るのが好きなんですから!」


クレスは嬉しくなった。


「そっか.....なら罰ゲームだな」


ハクは肌白いさがより一層肌が青くなった。


「ま、マスター? ば、罰ゲームがなにかを知っているのですか?」


「ハク? いくら初対面でも、貴族さまに、王女さまに失礼なこと言いまくってたね」


ハクの言葉を無視した。


「え....っとあれは」


「てかあれが素? あれが素なの? ハク」


「えっとあっと その素です」


そう顔をそらす。そそーと気まずそうな、だが諦めた顔をしていた。


「そっかー ドラゴンとは傲慢ごうまんたるやとは散々聞いたが、本当に傲慢とはな

しかもハクの友人にもその態度はあまりにも目が余るな」


顔には出ていないが、声には凄みがあった。


「あ、あのその マスター 許していただきませんか? ああしたほうが」


「ああしたほうが? ニコリッ なに?」


「友達ができやすいかなって」


「」あれで?..............


「知っているかい? 親しき仲にも礼儀ありと」


「あ、はい 私が本心出しているので礼儀かと!」


「ニコリッ さっき言っていたね

ゲームはみんなで楽しむものだと」


「はい 言いました」


「俺とイリアスは 君と会ってどう想ったと思う?」


「えっとかわいい? とか」


そう先ほど恐怖とは裏腹に冗談めいたとぼけた顔をしているが、頬には冷や汗が流れていた。


「よーし 罰ゲームだな」


ゾクッと全身の鳥肌が逆立った。

ハクは諦めたようにがっくしとうなだれた。


すると窓辺の奥の草むらからがさりとなる。

ふと気になり、クレスは窓辺へと近づく。


草むらから出てきたのは、イリアスだった。


クレスは目をぱちくりとする。


「なにをやっているの イリアス」


「それはお前こそ!! 学園内は侵入禁止だぞ!」


ハク

「それはイリアスも一緒じゃない」


イリアス

「げ ハク!? え、お前ら同衾どうきんしてんの?」


ハク

「そうだったらなんというんですか?いたっ」


ばこんと頭を殴られるハク。


イリアス

「まぁハクはドラゴンだから同衾しても意味ないか....」


ハク

「なにをー」


クレス

「イリアスはどうしたんだ?」


少し周囲を見渡すように、目をくばる。


「クレスと出会ったころに、ぶつかっただろ? そんときにものを落としたかもしれないんだ」


クレス

「なにか落としていたのか? けど明日探せばよかったんではないか?」


イリアス

「そうは言っても、心残りがあれば眠れないだろ」


クレス

「確かに」


イリアス

「クレスはここでなにをしているんだ?」


ハク

「わたしたちはここで住んでいます」


イリアス

「は? え? アルテメリア学園で学寮以外の寝泊まりは禁止じゃ」


クレス

「俺は貴族じゃないからな 寮には住めない」


イリアス

「なら宿だけど、農民だと住めないか」


クレス

「それもあるが、師匠のつてで教室の書斎で寝泊まりの許可を貰ったんだ。」


イリアス

「そうか 推薦の特待生が2人居ると聞いたが君だったのか....」


クレス

「初めて聞いたな それは置いといて、イリアスの落とし物探すの手伝おうか?」


イリアス

「......そうだな そうしてもらえると助かる」


今まで通ってきた道を辿るように歩く一行。

ろうそくを入れたランタンをかざした警備中の兵士を避け、回廊を渡っていく。


今日は運がいいのか空は澄んでおり、月明かりが明るく目の前を照らしていた。


すると簡単に探し物が見つかった。


クレス

「それは....」


イリアスが拾ったそれは、

手にも乗るような小さな手掘りの人形だった。


それはつたなくひどく風化したそれだったが、イリアスは大事そうに抱えていた。


「母の形見だ」


クレス

「そうか....」


ハク

「ではかえりま....―


「       "見つけた"       」


振り返るとだれもいなかった。

だがイリアスの後ろには居た。


それ・・が手をかざす。


ユビキタス発散


なにかが溢れたかのように咽びかえる。

私の体は一瞬で倒れる。

がはっと肺にあった息が喉を殺す勢いで出る。

咳で息ができなかった。

目頭がひどく熱く、目の前をまとも見れなかった。


「お、当たった当たった」


それは男の声だった。


(当たった?)


息ができない。意識がもたない。


よく見たら、イリアスが連れてかれている。

くそ、動かない。

ハクは......。


がはっがはっと腕に力を入れようとしても一切入らずにもう一度地面に伏していたハク。


驚いた。 ハクは毒が効かないはず。


「ま、マスター がはっがはっ

これ毒じゃ....ないです」


全身にも、口を動かすことすらできない。

恐らくはハクすらこれが限界だ。


「がは ふぅう」


息を吸っても、喉が切れるように痛い。


「ま、ほうか...」


「わか...りません そう がはっ としか」


くそ、 い、しきが つづ、かない


まるでアレルギー反応が出たようだった。

全身から水という水が、息という息が出る。

血中にある酸素すら枯渇しそうになるほど、息ができなかった。


ん? アレルギー反応.....


なんとなくだった。


あ、れす燃え盛る


それを手に乗せるように意識する。

すると手が火で燃え盛る。

火傷で死にそうだった。


だが、自然とこのアレルギー・・・・・反応が収まった。


何が原因だったかは分からない。

だがもし花粉症とかの外的要因がいてきよういんなら、燃やせばなんとかなるかと思った。


それをハクの元にかざすと、ハクも自然と収まった。


「はぁ...はぁはぁ ありがとうございます

マスター」


「とりあえず この火傷治してくれないか?」


周囲を見渡すとイリアスの姿が見当たらなかった。

「」。くそっ


「マスター 先ほどのあれは魔法....なんですか? 私毒とか効かないはずなんですが」


「分からない 魔法なんだろ」


「けどどうしてアレス燃え盛るで収まったのでしょうね」


「花粉症って知っているか?

花粉なら燃やせるかと思って....」


「アレルギー反応ですか....けどそれだと相手はアレルギー反応を知っているんですか?」


「知らないはずだ まだ微細胞とかの領域まで足を突っ込んでいないはず」


まだ分からないことが多い。

魔法を師匠と研究しても、聖典のどこに魔法の詠唱文になっているかすら発見出来ていない始末だ。


「確か あいつは ユビキタス と言っていたな。」


「ユビキタスって確か 『どこにでもある、遍在へんざいする』という意を持ちます。

けどそれがどうやって魔法に....」


そう深く考えるハクだが依然体に力入らず、地に倒れていた。


(遍在する.......はっ!?)


たしかハクは変身魔法を扱う際に、細胞の形を覚えていた。

つまりイメージする場合は明確にする必要がある。

"遍在する"ということは魔法の元となるモノがそこらにあるということ。


あまり知識は疎いが、素粒子そりゅうし的なものが魔法に関係しているのか?


だが....


ハク

「はぁ...魔法が見えたら楽なのに」


と自分の震える手を見ていたハク。


(見えたら....目か....)


「ハク 変身魔法に詠唱文はあるか?」


「? いえ、確かつけてなかったです」


(つまり詠唱文は必要がないってことか)


『想像は創造』なら、イメージしろ

目に魔法を見えるようにする。


あ、ダメだ 想像力皆無の自分に、想像は難しい。

なら想像じゃなくて、色を付けてみるか

花粉なら分かりやすいか?

粉っぽさで想像して、黄色だとうーん、ピンクにしたら見えるのでは?


あれ?

目を開けたが、何も見えなかった。

想像はしたが、何も起きなかった。


ハクと私では何かが、違うのか?

なら

詠唱文を付けるか


もう面倒くさいからとりあえず『見える』でいいか


見える。見える。見える。見える。


ダメだな アレスを使う要領で魔法を扱っているが発動しない。


「マスター 私は....アレルギー反応が起こるとは思いませんでした」


「重度のだがな....」


「ですが、あれは現実に起こったとは思えません....」


その言葉に引っかかった。


「起こったとは思えない?」


「あれは妄想です」


「は? 妄想 だがあれは確かに俺たちはやられたぞ」


「なら実際に毒なら私の耐性を無視できるとは思えません。」


「それはお前が竜だからだろ?

現に俺は動けなかった。」


「それは...そうですが、」


「もしアレルギー反応なら涙とか出る...はずなんです...うう」


なんか涙目になっている。


「わかったわかった...」


けど実際、鼻水やら涙は起きなかった。

だけど想像とかあるのか?


想像妊娠そうぞうにんしんもあるんですからあるはずです」


心読むな。バカドラ

てかその知識知らないし、調べたことないんだけど


「マスターの横目で見えた後輩の検索一覧で写ってました。」


あいつ何を調べてるんだ....

『先輩の行動で自分の人生は変わったんです』


と言っていたが、そういう意味か?...


だが、

そう錯覚したとなら、ユビキタス発散という意味が変わる。


"遍在する"と"錯覚させる"に大きく意味が違う。

なら付属効果が"錯覚させる"ならどうだ?


するとだ。

クレスは自身の瞳に魔法を集中させる。

ただ発動させただけだ。

魔法を集束しゅうそくしている感覚が伝わる。


見えるピンク色になる


するとクレスの目の前にピンク色の粉塵が周囲に蔓延まんえんしていた。

ぶわっと鳥肌を感じ、目を閉じた。

がはっと膝を崩すクレスの姿を見たハクは驚く。

よく見ると手に少し血が出ていた。


「マスター!!」


「いや、大丈夫だ」


これが"魔法"なのか?


よく見ると自分が居る位置とさっきの男が居た位置に粉塵が多く見えた。


そして

アレス燃え盛る


そう唱えると周囲にあったピンク色の粉塵が集束していき炎となった。


「なるほど...」


「マスター?」


「さきほど魔法を見えるようになった。」


「え、なにそれ すごい」


ハクは目を輝かせていた。


「そのおかげでさっきアレスで症状を緩和かんわした理由がわかった」


「ほんとうですか!?」


「ああ、ハク とりあえず魔法を込めてユビキタスと唱えてくれ」


「え? けど」


「いいから」


ハクは嫌そうな顔で唱えた。

ユビキタス発散


クレスの目では、ハクを中心にピンク色の粉塵が多く散った。

だがハクには何も起きず、彼女は何も起きなかったことに少し首を傾げていた。


「そりゃそうだ 何もイメージしていないからな」


「?」


「元々ユビキタスとは魔法を自分の周囲にき散らすのが本当の力だ。」


「なら この痛みは?」


「想像に....ん まぁいい ハクの言うとおり これは錯覚だ 幻肢痛げんしつうというものだ」


「ないものがあるかのように感じる痛み、脳が勝手に想像する痛みだ。」


そう横たわっているハクに指をさす。


「え、っと 私はアレルギー反応....」


「ああーうん詳しい所は分からないが、そう"当てはめた"だけだ

恐らくは自分のイメージを乗せた魔法を発散させて、相手に押し付けた と考える。」


ハクはなるほどと頷くが、少し疑問が湧く。


「では、相手はイメージだけであの痛みを?」


「この学園は入ったら問題は少ないが、侵入するまでにあの厳重警備がある。

その警備を抜けたってことは手練れの可能性がある。」


「暗殺者ってことですか?」


「この世界で暗殺者がーとか侵入者かーとかは分からないが、まぁ経験者だとは思う。

じゃないとあんな正確な拒絶きょぜつ反応を想像できない」


それはつまり毒物かなにかを摂取したことがあるということ。

彼はその痛みをしっかりと覚え、相手に"押し付けた"。


「そんなことが....」


「想像が創造ならできることなんだろうな」


「だがそのイメージが乗った魔法をアレスで消した」


「え? 消した?」


「そう魔法を発現する際に魔法が....分かりにくいな」


少し考える。


「魔力でいいか。 周囲にある粉を魔力。

それを発現した現象を魔法にしよう。


魔力が集束して、初めて魔法が発生するんだ それが魔法の発現の仕組みだ」


「なるほど.... つまりはイメージという魔法が乗った魔力がユビキタス発散によって、拡散されたということですね。」


「そしてマスターはアレス燃え盛るで先ほどの魔力を集束させて、魔力を消費し発現させた。

ということですね」


「そういうこと 実際に花粉とかが燃えたわけではないということ」


「ですが....それがわかったとしてイリアスを追いかける方法は分かりませんよ」


「分かっている」


そう解明かいめいしただけで、これで何かが...できる。

いぜん師匠から聖典との語句を解明するため、各国の神話や伝説、叙事詩じょじしを教えてもらったことがあった。

何度目かの発想。


「ラビリンスの糸だ!」


「え?あの迷宮の?」


「ああ、あの男が発散させた魔力で追跡できないか?」


ハクは考える。


「できなくはないですが、残念ながら今魔力が見えてるのがマスターだけです。

私には仕組みがわかりません」


「そ、そうか そうだったな」


少し狼狽えうろた たが、仕組みはわかった。


クレスはイメージする。

だが、それでは発現しなかった。


ラビリンスの糸では意味がなかった。

もう少しイメージが必要だったのか?


「ま、マスター? もし追いかけられたとしても、それがあの男の魔力の糸?と分かるのですか?」


......そうか!? ラビリンスの糸はイメージとしては脱出に繋がってしまう。

問題はここは脱出先を探すのではなく、糸をくくりつけた男までの糸が必要になる。


つまり、 男が居たところの魔力を見ると少し押されたように時間連続体じかんれんぞくたいのような人形ひとがたみぞが出来ていた。

それはまるで方角がわかるように見えた。


クレスはその人形の溝周辺の魔力に触れた。

本来、追跡ついせきと呼べるほど、男の魔力について区別は付けられないが...


またがくりと力が入らなくなり、がはっと口から血がでる。

酷いせきほど喉を痛めるという。

ああ、喉を痛めたのだなとさらに実感する。


そう男のイメージが乗った魔力だと分かれば...


ラビリンスの糸追跡


このイメージは、男の魔力を一本の線だと見立てるだけの仕組みだ。


この時間連続体で追跡できるかな?と思ったが、思ってたよりも見にくいので、その足跡を一本に見えたら見やすいのでは?と考えた。


するとだ。


周囲の魔力、正確には人形の溝周辺にあった魔力が集束し、糸のように並んでいた。


恐らくは発現する際に魔力を消費する形だが、発現しない場合だと集束するだけで済むようだ。

本当に不思議だ。


ハクのほうへと振り向き、言う。


「こっちだ ハク」


「わかりました」


そのハクの顔はどこか険しい顔をしていた。


クレスの顔も凄みが増していた。


――

―――


イリアス

「ん....んn ここは!?」


「ん?起きたか」


フードを深くかぶった男がこちらを見ていた。


「お前は誰だ!」


「誰ってそりゃ....誰だよおれ」


「は!?」


冗談を聞けるような状況ではなかった。

イリアスは状況を見渡すと、湿気染みたこまった匂い、ギイぎいと風で揺らぐ木製のドア、明かりとしては心許ないろうそく、自身は手縄で縛られ吊られていた。


(正体を見えないように対策するためのフードとこの暗がりか....)


「まぁ名前なんて 必要ないよな?

俺は依頼をもらった身でな」


イリアス

「依頼?」


「ああ、そうだ お前を拉致し....

そうそう魔法を授かったんだ その魔法で」


イリアス

「いや依頼内容を最期まで言えよ!」


「まぁいいじゃん どうせ死ぬんだし」


イリアス

(は!? え、なんで? 貴族なら身代金を要求するほうじゃ)


「身代金を求めるっておもった?」


そう顔を近づける男。

フードで隠れていたが狂気を含めた笑顔で見つめていた。

その口はひどく荒れており、歯の何本かが折れ、砕けていた。

まるでその笑顔は壊れた恐怖があった。


「ざぁんねん お前なんかどうでもいいんだよ 辺境伯の死の黒髪」


僕を知っている。

この男は僕が誰か・・を知っている上で、誘拐したんだ。


「かーいいよな その黒髪 黒は不吉の象徴、死の証、 俺たち傭兵に似合う色なんだぜ?」


(傭兵? 暗殺者じゃないのか? 妙に手慣れているな)


ざくりと腹から痛みが生じる。


「なに考えごとしてるんだよ

お悩みごとか? おじさんに相談してみろ

対価としてその黒髪をくれ」


激痛が走る。

痛みの元に目を向けると、ナイフが刺さっていた。

ああ、ダメだな このままナイフ抜けられたら


「うん」


すっとナイフが抜けていた。

よく見ると、ナイフはギザギザ、刃が多く並んでいた。


血に塗れたナイフで楽しそうに頬張る男。


「なんだ 叫びもしないのか面白くない」


「くっ 慣れていてな」


「まぁいいか どうせすぐ死ぬからな」


男はギザギザとした刃を肌に密着させ、撫でる。


ああ、アアアアアアアアアアaaa嗚呼


歯を食いしばる。

ノコギリのように引き裂かれる痛みが走る。


ぎこりぎこりと刃の一つ一つ引き裂ける痛みが走る。


「うーん面白くないなー まぁこれもこれで面白いか いつまで耐えられるか数えてみよっか♪」


(快楽殺人鬼が!? すまんクレス 友達になったばかりなのに)


「いーち」


バタンっと大きく扉が開く。


「へぇ 追いかけてこれたんだ」


「どうやって?」


そう首を傾げる男。


クレス

「お前の魔法を追ってだ」


男は考えるように両目を左に向ける。


クレスとハクはもう血に塗れていたイリアスを見て、奥歯を噛み締めた。


「ちっ もうちっと魔法を詳しく聞いとけばよかった」


「まぁいい ユビキタス発散


クレス

「ハク」


ハク

「はい」


ハクは後ろに一歩さがる。

両者ともに何も起こらないことに、何も驚くこともなく。


「ああ また失敗したか」


そう、彼は『当たった』という発言があった。

それは命中精度ではなく、命中範囲があるということだ。


そのせいかユビキタスと発現した際に、彼を中心にさらなる量の魔力を発散した。


彼を中心に濃くなっ....


「なんてね」


しまった!!。魔力に塗れてよく見えなかった。

ハクすら反応できなかったレベルの俊敏性。


「君、今 この化け物少女に呼びかけたよね? てことは俺の魔法は弓と同じように射程があるってことだよね?」


(こいつ!?)


ハク

「マスター!!」


「ユビキタス」


クレス

「ユビキタス」


それはほぼ同時だった。

クレスの身中に問題は起こらなかった。


予想通り。


魔力同士は衝突しょうとつすると反発する。


「なぁ!? だがこれで彼女も近づけないね」


クレスの首を掴む。

ぐっ苦しい。


「考えたね 同じ魔法を発動することで矢に矢を当てた感じかな? だけど君の魔法に触れても問題ないってことは魔法は強制終了したってことかな?」


「だけど」


すると動けないハクを見ると、


「俺の魔法に警戒しているってことは"発動"はしているってことだねニコリッ」


(この男察しが良すぎる)


イリアス

「クレス、すまない!」


気付くとイリアスは全身の傷が消えていた。

手縄切れていた。


「あれ? さっき魔法を発言していたし、化け物だから魔法も使えるのか

だけど発音がなかった........あの人たちに聞いたらわかるかな?」


クレス

(くそ 手も足も出ない こんなに弱いのか俺は)


『あんたは生まれるべきではなかったのよ』


そんな言葉が脳裏に浮かぶ。


「マスター!!」


気付くとハクは男の魔法領域りょういきに侵入していた。


(ハク!?)


本来、私は恐怖を持つような生き物ではなかった。

恐怖とは、生物が本来持つ生存本能せいぞんほんのうに直結した条件反射だ。

硬直する。逃げる。震える。


それは生きるための行動だ。


そう行動なんだ。


あの時・・・の痛みは初めて怖いと感じた。

初めて、手が震えてしまった。

あれ・・が行き過ぎると、死につながると

そう感じてしまった。


だから私は足が竦んでしまった。

本来なら痛くても耐えられたのに、

いつもなら恐怖すらもたずに


だけど、マスターが死ぬのだけはいやだ!


初めて一緒に戦ってくれた人だ

初めて私に寄り添ってくれた人だ

初めてエリザ様たちを紹介してくれた人だ


なら....なら私は!!


ハクは走り出す。

見えない地雷原を走り抜く。

ハクは男の顔に向けて、回し蹴りをした。


【守りたいモノのために飛んでってやる!】


かはっと笑顔になった。


蹴りを受け止め、男は微笑む。

「やるじゃん バケモノ」


その衝撃でクレスの掴んでいた手を離す。


その瞬間を逃さず、イリアスのもとへと走り抜ける。


イリアス

「形勢逆転ですね」


男は微笑む。

「なに言ってんだクソガキ こんなの戦場では当たり前だよ 多対一? 一般論述べて気持ちよくなんな まだ精通してないだろ?」


クレス

「べらべら喋るな 余裕ふかしてるけど、そのちんけな一本で戦えるほど優勢になれると思うなよ?」


そう眉をひそめるクレス。

相当な怒りをこみ上げていた。


開戦の始まり。

意外にもその足を前に出したのは、イリアスだった。


へぇーと答えるかのようにニヤリと笑う男。


イリアスは、部屋にあったろうそくを掴む。

するとふっと部屋が暗くなるのと同時に男のほうへと投げた。


(暗闇に紛れたか だが)


夜目に慣れていたのか、月明かりのほんの少し反射で見えるハクの白い鱗。

がつりと捕まえ、ハクの腹に膝蹴りを入れる。


がはっ 「みいつけた」


だがその瞬間を狙っていたのか、イリアスは途切れた手縄をもう一度組み直し、男の足元に引っ掛けていた。


イリアスは引っ張るが子供の力では大人を指一本たりとも動くことはなかった。


(判断力はいいが、力不足だったな)


そうすぐさまに捕まえたハクの首元、斜めナイフを入れる。


(首に入れたら全身の力抜けてすぐ死ぬはずだ)


だがよく見ると刺していたのは尻尾だった。

そしてクレスは男の後ろ立っており、気づいた男はハクをクレスのほうへと投げた。


がはっ 「マスター!」


ハクは多少無事だったが、クレスは人にぶつかった衝撃でまともに立つのが難しかった。


「てめぇら妙に連携がいいな だけどいいね 人を殺すことに躊躇しねぇ姿はかっこいいもんだ」


それは褒め言葉だったのだろうか。

ただ今を好機とし、逃げれば勝機はあったのか?


残念だが、この男の速さからは恐らくは逃げられない。

だからヤルしかないのだ。


イリアス

「だからブラフなんだよ」


男は振り向く。

イリアスの声が聞こえた方向へ。


すると何かに引っ張られるように浮く。

首が締まるようだった。


()くそっしめ縄か!? いつのまに


建物の支柱となる天井の支えにつたって、縄が伸びており、その縄先は人外の力を振るうハクだった。


ぐぅう まさか!?


そう思い出したかのように考える男。


彼女の首元に刺そうとした瞬間、尻尾を縄に引っ掛けて投げたのかと。


だが、彼には依然として手元にナイフがあった。

そのナイフで縄を切ろうとした瞬間、


クレスは男の足に触れた。


「ユビキタス」


一瞬の激痛が来る。

慣れていた男ですら耐えられない痛み。


ああ、がはっ くそそれでも


思考はめぐらない。

無心に


「アレス」


足から徐々に別の痛みが生じる。


彼のイメージを乗せた魔法はあくまでも錯覚。

いわば心の神経から生じる痛みだ。

そしてアレスは体の神経から生じる痛み。


二重の経験したことのない痛みがぜんしんへと巡る。


「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼aaaaaaaaaaaあああ」


絶叫が小屋から鳴り止まなかった。


クレス

(アレスで燃えた痛みとお前の痛み、上乗せしといたよ)


「友達を殺そうとしたんだ それぐらいやられて当然だ」


そう冷たくあしらった。


―、

ぱちりぱちりと火花が散っていた。

はぁはぁと息が切れるように倒れる3人。


クレス

「なぁなんでイリアスが襲われたんだ?」


イリアス

「」。あ? わかんないよそんなん

確か依頼されていたとかなんとか。


ハク

「はぁはぁ全く イリアスはおっちょこちょいですね 自己紹介のときの覇気はどうしたんですか?」


イリアスは赤面する。


「あ、あれは てかクレス」


「なんだ?」


真剣な顔で見つめていた。


「お前 人を殺したぞ いいのか?」


「.........」


夜の静けさが妙な怖さを感じた。


呆気なかった。


ただ呆気なく殺した。


自分の手を見ていた。

その血に塗れていない手がどこか震えいるように見えた。


イリアス

「まぁ あの判断はんだんがなければ、俺もお前もハクすら殺されていたもんな」


そう養護するように言う。


ハクは黙っていた。

まるで主人の意志を尊重するかのように。


クレス

「殺さ...ないといけなかった。

あのままだとそう悩む暇なくあの男はイリアスもハクも殺そうとしていた。

..............判断が早かったか?」


殺人は罪だ。

いつの時代でも...―


イリアス

「いや あれが最善だった」


ハク

「そうですね そうせざるおえなかったと思っています。」


そう慰めてくれた。


クレス

「お前たちはよかったのか? 人殺しの俺と関わってていいのか?」


少し沈黙が通る。


イリアス

「まぁ 貴族に闇の一つ二つあっても、仕方ないだろ」


クレス

(いいのかそれは?)


ハク

「マスターはどんなお人だって、ついていきますよ 私」


はぁっとため息が出る。


―ベッドの上で座る幼い頃の倉石くらいし

下着姿の女性が煙草をふかす。


「すぅ はぁ 今回もよかったねたける


「.........」


「やっぱしあんたはさ

あんな母親の元にあんたは生まれるべきではなかったのよ」


「...........」


「ちょっといくらあんたでも言いすぎなところあるよー」


そうもう一人下着姿の女性が野次を飛ばす。


「だけどあんたはあたしたちが居るさ

安心し」


「そうだね 健 私たち一生居てあげるからね」


そう倉石に抱きつき、自身の胸にたぐりよせる女性。


あのときの私はどんな顔をしていたのだろうか?

分からない....けど、


ふっどんな時でも助けてくれた人は居たな。


少し顔を隠すように2人に言う。


「ありがとうな 2人とも」


そう伝えた。

























―――――――――――――――――


「ふむふむ なるほど 倉石健と言うのか」


と何かを読むかのように口上する人物。


「珍しいお名前ですね どこか遠い国の者でしょうね」


とそう続ける。


かつりかつりと人物以外が居ない静寂な広間では響く足音がなる。


そして彼の後ろから歩いて、影から現れる男。

「われわれとは文字体系が違います。

彼は恐らくは別の世界に生まれた者なのでしょう」


とそう推測でさとす。


「別の世界?.....」


と何かをめくるように探し始めた人物。


「これか...確かに別の世界から生まれた御仁らしいのですね

ほうほう」

そう深く読み込む人物。


「ああ、なんと...」


何かを理解したのか、笑うように言う。


「なんと...罪深いお方なのでしょう」


そう言った。


「罪深い....ですか?」


「ええ、とても彼は罪深いお方です。

彼は本来は別の世に居るのにこの世・・・を彷徨う確かな迷い子です。

ですが神の審判から逃れ、本来生まれるべきだったの運命をむさぼり、成り変わるなどあってはいけないことです。」


「それは....確かに罪深いものですね」


それを聞き、男は人物に聞く。


「それではなんと仰っていました?」


「それが....神は彼を導けと仰っているのです。」


何か驚くように互いに静寂が起こる。


「彼を導くことで、我々は神から多大な御恩をもらえるということらしいです。」


「ですがいくら神が導けと仰られても、大罪あるお方なのでしょう? いいのですか?」


「ええ、大罪です。 神の審判から逃れ、人の運命を貪るのは悪魔というほかありません。

ですが彼は悪魔でも堕天使でもなく、人なのです。

では

"隣人を愛せ"と仰った偉大なる羊飼いは生まれながら原罪をもつ我々を導いたように、

我々も大罪あるものを導く定めなのでしょう。」


そう答えられた男は顎をさする。


「なるほど 確かに仰る通り、これも試練のうち一つなのでしょう。」


うんうんと聞いた人物は口を開ける。


「ええ、だからこそ...彼も神の審判を受けている最中なのです。

さすれば我々は羊飼いとして導き、

神のお手伝いをいたしましょう。」


そして言葉を続ける。


「では始めましょう。

本来、彼が受けるべき・・・・・運命シナリオにへと正すのです。」


「仰せのままに」


2人の間に月明かりが建物の隙間からすきとおる。

気付くとまるで2人を祝福してるかのように、扉までに一本の線ができていた。

"導け"とそう言っているかのように...



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